LLMとWikipediaまで汚染するロシアのPortal Combat

暴かれたPravdaネットワーク
アメリカのデジタルフォレンジック・リサーチ・ラボとフィンランドのCheck Firstは、ロシアのデジタル影響工作ネットワークであるPravdaの全貌をレポートし、リアルタイムにその状況を確認できるダッシュボードを公開した。PravdaネットワークはPortal Combatと呼ばれる作戦の一部となっている。
以前の記事でも紹介したように、このネットワークは圧倒的な数のコンテンツを複数のサイトから発信し、LLMグルーミングの効果をあげていた。LLMグルーミングとは多数の露出により、AIがそのコンテンツを信用できる情報源と考えるように仕向けるもので、すでに主要なAIの多くが汚染されており、テーマによってはロシアのプロパガンダを答えるようになってきている。
このネットワークは80以上の地域と国に広がっており、自動でそれぞれの国の言語に翻訳されている。日本語もターゲットになっている。
Russia’s Pravda network in numbers: Introducing the Pravda Dashboard
https://dfrlab.org/2025/04/18/introducing-the-pravda-dashboard/
Russia-linked Pravda network cited on Wikipedia, LLMs, and X
https://dfrlab.org/2025/03/12/pravda-network-wikipedia-llm-x/
Wikipediaも汚染されており、44の言語、1,672ページの1,907のハイパーリンクが162のPravdaネットワークのWEBにつながっていた。2022年2月にロシアがウクライナに軍事侵攻して以来、急増しており、もっとも多いのはロシア語、次いでウクライナ語となっている。
2022年以降、戦略的にウクライナに関するテーマを多く扱うようになっており、ロシア語のWikipediaには922件の記事がPravdaネットワークを参照していた。
より深刻なのはXのコミュニティノートで、2023年後半から2025年前半までの間にPravdaネットワークを情報源とするコミュニティノートが153件あったことを確認している。当然、X上でもPravdaネットワークの情報は拡散しており、コミュニティノートを見てもそれもまたPravdaネットワークという状況が生まれている。コミュニティノートの仕組み上、この攻撃方法を完全に防ぐのはきわめて難しい。MetaやTikTokも同様の仕組みを導入することになっており、全く同じ手法で攻撃されることが予想される。
なお、Pravdaネットワークを含む作戦Portal Combatは2013年から開始されており、すでに12年間活動を続けていることになる。デジタルフォレンジック・リサーチ・ラボのレポートでは2014年からとなっていたので11年だが、Portal Combat作戦は2013年から開始されていた。
Pravdaネットワークの状況をリアルタイムで把握できるダッシュボード
今回、公開されたダッシュボードはPravdaネットワークの状況をリアルタイムで可視化したものとなっている。拡散状況、時系列変化、言語、対象地域などさまざまな角度での分析が可能だ。もちろん日本に絞り込んでの可視化も可能となっており、現時点で日本を対象としたと思われるサイトの記事は4万件以上ある。
ダッシュボード https://portal-kombat.com の可視化の例

常に後手に回り、空回りする対策
今回、デジタルフォレンジック・リサーチ・ラボとCheck Firstが実態を暴き、ダッシュボードを公開したことは素晴らしい功績だが、これによって事態が好転するわけではない。前述のようにPortal Combatは12年前から活動を続けており、その間進化してきている。自動翻訳による多言語展開、LLMグルーミングなどはその代表例だ。コンテンツをAIで生成している可能性も指摘されている。
自動化されてしまった以上、個々のサイトをいくらテイクダウンしても追いつかない。今後、LLMの利用拡大やコミュニティノートタイプのサービスの拡大を考えると、明白に攻撃者有利であり、状況は悪くなる一方と言える。根本的な対策の見直しが必要であった時期はすでにすぎているようだ。すでに、対策なしに攻撃を甘受する時代に入りつつある。