【独自調査】反DEIと気候変動の各国法制度と産業に与える影響 要約編

調査にいたった経緯
トランプ政権下でDEIや気候変動などをターゲットにした言葉狩りや、新しい現実の生成が進んでいる。報道されているように、アメリカ国内の企業に対してDEIプログラムを停止するよう圧力をかけたり、ヨーロッパ企業に対してDEIプログラムの停止を求めたりといった活動が行われている。
すでにアメリカでは企業買収の認可をFCCから得るためにベライゾン社がDEIプログラムを停止したり、小売り大手のTargetはDEIプログラムを推進してきた幹部を解雇するといった動きが出ている。就任前からトランプ政権に近づいていたMetaやAmazonはいち早くDEIの方向転換を行っている。
さらに動きが速かったのは金融界で、アメリカの主要銀行はトランプ就任前に脱炭素を目指す金融機関の国際的枠組み「ネットゼロ・バンキング・アライアンス(NZBA)」から脱退していた。2カ月遅れで邦銀もそれに追随した。
反DEI、反気候変動は政治や文化の規範にかかわる問題であると同時に安全保障の問題でもあり、産業と経営の問題でもある。世界的に反DEIと反気候変動の動きが広がった場合、個別の企業あるいは産業単位でそれに抗うことは不可能である以上、国全体の安全保障問題として取り組む必要がある。今後の日本において、その変化にどのように対応するかが重要な鍵となることは明らかだ。
こうした個別の動きは報道によって知ることができるものの、DEIや気候変動にかかわる活動に動きが世界全体で見た時にどの程度の動きとなっているのかを知るために、公的な情報を集約するOSINTツールを開発、提供しているオシンテック社の協力をあおぎ、「反DEIと気候変動が各国の法制度と産業に与える影響に関する予備調査」を実施し、世界的な動きを整理していただいた。
予備調査の結果では、政治の場面でははっきりした後退は確認できなかったものの、産業界への影響が起きているため、本調査においては調査範囲を広げて取り組む必要がありそうだ。予備調査結果のデータはご要望があれば提供可能なので、お問い合わせください。
以下はオシンテック社の予備調査結果の要約である。追って詳細も公開する。
本件に関するお問い合わせはこちらから
予備調査結果の要約
2025 年 5 月 31 日
株式会社オシンテック
調査担当:小田一枝(RuleWatcherシソーラス責任者)
1. 反DEI関連政策データ
● 反DEIの動きを見せているのは、米国とアルゼンチン政府のみであった。
● 他の政府や国際機関のDEIへの言及は、概ねその政策の進行に関するものと、米国の反DEIの動向に関する懸念であった。
● この予備調査においては、Diversity、 Inclusion, Equolityの各種組み合わせによる抽出を行ったが、反DEIに関するデータを点検したところ、特に「Gender」政策の行き過ぎを指摘しているものが多く、本調査においては、Genderを基本に据えた動向を見る必要がある。
● キーワードの有無や、単純カウントによるデータ整理について生成AIを用いたところその精度に問題は見当たらなかった。
● 同様に、生成AI(Chat GPT 4o/ Chat GPT o4-mini)によってデータ整理後のテキストデータの質的判定(当該文書がUnfairness(不公平)、reverse discrimination(逆差別)としてDEIを批判しているかどうか)を行ったところ、160件程度のレコードが抽出されたが、精読点検してみたところ、条件に適合したものは5件であった。
● 認知戦について、特に煽動的な表現を使用しているデータを抽出したところ、すべて2025年のホワイトハウス発表のデータであった。
● したがって、本調査においては、機械的操作でも不具合のない基礎的な抽出を行ったのち、人間による精読が必要であることが予想される。
2. 反気候変動関連政策データ
● 気候変動(緩和)の政策の多くはエネルギー関連政策であると予想される。
● 米国政府の反気候変動のデータは2019年段階では1件のみであったが、2025年11件と激増している。
● 鉱物などの自国産業保護(例:インドネシア)や、ロシア依存脱却のための過渡期の政策(例:ポーランド)「反気候変動」などのように反気候変動に入るか判定しづらいデータも多い。
● 政策意図として、「気候変動そのものへの懐疑」という立場はほとんどなく、気候変動への「過度な対応がマイナスになる」というスタンスのものが圧倒的多数であった。
● 環境保護を訴えながら、結果として化石資源を重視するといった言説もあった。
● 一部のシンクタンク(例:ハートランドインスティテュート)は徹底した気候変動懐疑派であるが、全体としては希である。
● 反気候変動政策は、そのままの表現は稀であるため、情報抽出には、慎重な抽出条件を設定したのち、判定には高いリテラシーが求められる。