【独自調査】反DEIと気候変動の各国法制度と産業に与える影響 詳細編

本稿は先日、公開した「【独自調査】反DEIと気候変動の各国法制度と産業に与える影響 要約編」の本編にあたる。
調査の実施は、株式会社オシンテック(調査担当:小田一枝、RuleWatcherシソーラス責任者)にお願いした。
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本件予備調査の目的
RuleWatcherのデータベースにある各国政府や国際機関の発出するテキストデータから、関連データを抽出して考察した結果が、下記本調査の目的に適うかを確認する
※本調査の目的:米国の現トランプ政権によって強化された反DEIと反気候変動政策が各国の法制に与えた影響をテキストデータを分析することによって調査し、そのことによる産業への影響について考察する。
予備調査結果
1. 反DEI関連政策データの評価
量的な評価
●RuleWatcherデータベース全体のレコード数:2,449,220件(A)
●キーワードAを含むレコード数:14,749件(B)
●機械的に判定させた反DEIのレコード数:193件(C)
●人間による判定での反DEIへの言及のレコード数:44件(D)
●人間による判定での反DEI政策のレコード数:35件(E)
●(E)のうち米国政府発信のレコード数:34件(F)
●(D)のうち2024年までのレコード数:5件
※(D)と(E)の差分は、米国の政策に対しての考察もしくは批判的な情報
※(E)と(F)の差分は、アルゼンチン政府による発表(省庁スリム化のための女性省閉鎖)
考察
2025年1月20日以降のトランプ政権による公式発表において、反ダイバーシティ・エクイティ・インクルージョン(DEI)政策に関する言及が顕著に含まれている。これらの発表では、DEI政策に対する批判が明確に打ち出されており、以下の要素が主な論点として提示されている。
まず、既存のDEI政策は「不公平であり、逆差別を助長する」ものとされ、公民権保護の精神に反すると主張されている。特に、性別を男性と女性の二つに限定すべきであるという立場が強調されており、ジェンダーに関する多様性を認める政策は伝統的なアメリカの価値観にそぐわないとみなされている。また、DEI政策は本来の実力主義を阻害し、能力や成果に基づく評価を歪めるものと批判されている。さらに、これらの政策は「納税者の利益を損なう無駄遣い」であり、行政や企業の効率を下げる要因であると指摘されている。
米国政府以外の動向では、直接的な反DEI政策を明確に打ち出している国は限定的であった。唯一の例外として、アルゼンチンのミレイ政権が挙げられる。同政権は、公約である公的サービスの徹底的なスリム化の一環として、DEI関連の政策や関連省庁の削減を実施している。ただし、この取り組みは反DEIを直接の目的とするものではなく、財政効率化や行政の簡素化を優先する広範な政策の一環として位置づけられる。
他方、その他の国々の政府発表を調査した結果、DEI政策の削減や廃止を明確に意図した発表は確認されなかった。このことは、反DEIの動きが現時点では米国およびアルゼンチンに特有の傾向であることを示唆している。
国際的な政策文脈では反DEIの動きは限定的であるが、産業における影響については、とくにESG投資の後退による影響が予測される。本調査においては、投資分野を考慮に入れるべきだと思われる。
2. 反気候変動関連政策データの評価
量的な評価
●RuleWatcherデータベース全体のレコード数:2,449,220件(A)
●キーワードBを含むレコード数:43,093件(G)
●質的判定のための機械的前処理(1)のレコード数:28,605件(H)
●質的判定のための機械的前処理(2)のレコード数:3,176件(I)
●質的判定のための機械的前処理(3)のレコード数:615件(J)
●人間による判定での反気候政策のレコード数::51件(K)
●うち、煽動的表現を有するレコード数:17件(L)
考察
気候変動対策、特にその緩和策として打ち出される政策の多くは、エネルギー分野に関連するものであると予想される。これには、再生可能エネルギーの推進やエネルギー効率の向上などが含まれるが、実際の政策意図や効果は国や地域によって大きく異なる。
反気候変動とみなされる政策や動向の中には、単純に気候変動対策に反対するものというよりも、複雑な背景を持つものが多い。例えば、インドネシアのように自国の鉱物産業保護を優先する政策や、ポーランドのようにロシアへのエネルギー依存からの脱却を目的とした過渡期の政策として述べられているものも多い。本調査においては、これらの経済的・地政学的優先事項に基づいたデータを「反気候変動政策」に入れるかどうかの初期の定義が重要だと思われる。
一部のシンクタンク、例えばハートランドインスティテュートなどは、気候変動そのものに対する徹底した懐疑的姿勢を維持しているが、こうした事例は全体の中では少数派である。この組織については圧倒的に煽動的表現が多く、むしろ当該分野における認知戦のサンプルとして有用であるかもしれない(煽動的表現全17件のうち12件を同組織の発信が占めている)。データの意図を詳細に分析すると、「気候変動そのものを否定する」という懐疑的な立場はほとんど見られず、むしろ「気候変動への過剰な対応が経済や社会にマイナスの影響を及ぼす」というスタンスが支配的であった。このような立場は、環境保護を訴えながらも、化石燃料の利用継続を重視するといった、一見矛盾する言説として現れることもある。例えば、環境保護を標榜しつつ、経済的理由から化石資源の活用を優先する政策が見られた。
したがって、本調査には、反気候変動政策分析のための、情報の収集には慎重な抽出条件の設定が求められ、収集したデータの判定には、政策の背景や文脈を正確に理解するための高いリテラシーが不可欠であると考える。
本調査に向けた反DEI、反気候政策共通の考察
本調査にあたっては、「逆差別」ということを使っての訴訟リスクがカギであると思われる。投資の面でも、金融機関がイニシアチブを離れている理由が企業が利益追求義務を果たせないことや、反トラスト法違反のかどで訴えられるといったケースへの対応を調査の対象に含めることが精度を高めることになるのではないだろうか。
予備調査手法
1. 反DEI関連政策データの予備調査手法
以下対象データ(政策関連の非構造化テキストデータ)のうち、抽出キーワードAを含むレコードを抽出し、レコード内descriptionから、生成AIを用いて、当該文書がUnfairness(不公平)、reverse discrimination(逆差別)としてDEIを批判しているもののみに絞り込みを行った。そのうえで人間による精読を行い、目的に沿った抽出であるかどうかを判定した。
対象データ:
● 以下が発表するニュースリリース等のテキストデータのうち、対象の語句(後述)を含むもの:政府(56か国)、議会(18か国)、国連関係機関(30組織)、NGO・研究機関等国際組織(162組織)
● 抽出キーワードA:
Diversity and Inclusion (D&I)
Equity, Diversity, and Inclusion (EDI)
Inclusion and Diversity (I&D)
Diversity, Inclusion, and Belonging (DIB)
Justice, Equity, Diversity, and Inclusion (JEDI)
Equality and Diversity
データ取得方法:
株式会社オシンテックが提供する国際政策情報可視化ツールRuleWatcher を活用した
データに関するお断り:
● 発表組織における偏り:株式会社オシンテックによって剪定されたルール形成に関連する組織となっており、完全なる網羅性はない
● 情報種別による偏り:各組織が比較的高頻度に発表するニュースリリース等を中心に取得されており、各組織が発表したすべてのテキスト情報が対象になっているものではない
● 期間:対象となっている期間は2019年1月1日以降となっている
使用した生成AI:
● Ghat GPT 4o/ Chat GPT o4-mini
● Excel上でgeminも使用したが、目的に沿った動作が見られなかった
質的判定のためのプロンプト
● discriptionを分析し、diversityやequalityやinclusionの施策が、却ってUnfairness(不公平)、やreverse discrimination(逆差別)であるとしている記述があれば、そのレコードのOriginal_IDを示してください
● いまからアップロードするデータは、DEIに言及した各国政府や国際機関のテキストです。Descriptionを分析し、煽動的表現があるかを調査してください
2. 反気候変動関連政策データの予備調査手法
以下対象データ(政策関連の非構造化テキストデータ)のうち、抽出キーワードBを含むレコードを抽出し、レコード内descriptionから、生成AIを用いて、当該文書が政策上、気候政策を後退させると表現されているもののみに絞り込みを行った。そのうえで人間による精読を行い、目的に沿った抽出であるかどうかを判定した。
対象データ:
● 以下が発表するニュースリリース等のテキストデータのうち、対象の語句(後述)を含むもの:政府(104か国)、議会(38か国)、国連関係機関(37組織)、NGO・研究機関等国際組織(789組織)
● 抽出キーワードB:
Climate + energy + policy
データ取得方法:
1. 反DEI関連政策データの予備調査手法と同様
使用した生成AI:
1. 反DEI関連政策データの予備調査手法と同様
質的判定のための機械的前処理(1)処理結果28,605件
以下a. b. におけるAND条件によって気候政策に関連の強い情報に下処理
a. エネルギー関連キーワードのいずれかを含む:
energy policy/ renewable energy/ power sector/ electricity/ energy transition /decarbonization/ climate and energy/ fossil fuel/ green energy/ carbon neutrality
b. 政策関連キーワードのいずれかを含む:
policy/ regulation /guideline/ law/ framework/ strategy/ plan/
質的判定のための機械的前処理(2)処理結果3176件
上記処理を行ったデータのdiscriptionを分析し、以下の語の含まれているレコードを抽出した。
“roll back” / “rollback” 意味:政策や規制の撤廃・緩和
“repeal” / “repealed” 意味:法律や規制の廃止
“withdraw” / “withdrawal” 意味:国際的な合意や協定からの離脱
“weaken” / “weakened” 意味:規制や基準の緩和
“scrap” / “scrapped” 意味:計画や政策の完全な廃止
“dismantle” / “dismantled” 意味:制度や機関の解体
“eliminate” / “eliminated” 意味:完全な削除や廃止
“terminate” / “terminated” 意味:契約やプログラムの終了
“phase out” / “phased out” 意味:段階的な廃止
“suspend” / “suspended” 意味:一時的な停止
質的判定のための機械的前処理(3)処理結果615件
さらに、以下をのロジックで抽出
再生可能エネルギーへの批判を含むもの
renewable_criticism_keywords = [
“unreliable renewables”,
“expensive renewables”,
“renewable energy fails”,
“solar power is inefficient”,
“wind power is unreliable”,
“renewables are not the answer”,
“against solar farms”,
“wind turbine noise”
]
気候変動懐疑論を含むもの
climate_skepticism_keywords = [
“climate change hoax”,
“climate change is natural”,
“climate alarmism”,
“global warming myth”,
“no scientific consensus”,
“doubt climate science”
]
化石燃料を美化する表現
beautification_keywords = [
“beautiful clean coal”,
“energy independence”,
“american energy dominance”,
“unleash american energy”,
“clean-burning”,
“job-creating coal”,
“reliable and affordable energy”,
“energy treasure”,
“freedom gas”,
“molecules of freedom”
]
煽動的表現判断のプロンプト
● いまからアップロードするデータは、DEIに言及した各国政府や国際機関のテキストです。Descriptionを分析し、煽動的表現があるかを調査してください