ワクチン狂想――変面師トランプ流“極限のポピュリズム”

チェーンリアクションが作り上げた新生『予防接種実施諮問委員会メンバー』
2025年6月、ロバート・マローン博士が予防接種実施諮問委員会(ACIP)の新メンバー8人のうちの1人に選ばれた。
予防接種実施諮問委員会はワクチンに関する専門家組織であり、米国疾病予防管理センター(CDC)に対して非常に強い影響力を保持する委員会だ。
新メンバーの1人、ロバート・マローン博士は生粋のコロナワクチン懐疑派として知られる。
例えば、コロナワクチン接種によって癌が急増して1700万人が死亡した、接種によってむしろコロナ感染リスクが高まった、死産が増加したなど、多くの虚偽情報を流布したとされる人物だ。
そんないわくつきの人物を予防接種実施諮問委員会メンバーに選出したのは、米保健福祉省長官であるロバート・F・ケネディ・ジュニアだ。
同氏も同じく、コロナワクチン懐疑派として広く知られている。
この負としか思えないチェーンリアクションのトリガーを引いたのがトランプ大統領だ。
トランプ大統領がロバート・F・ケネディ・ジュニアを米保健福祉省長官に任命したのだ。
かつてトランプは1次政権で国家プログラム(オペレーション・ワープ・スピード)にてコロナワクチン開発を推進し、その早期開発の成果を「奇跡」と称した。
そして自らも接種し、人々に接種を呼びかけた。それは医学界でも功績として受け止められた。
だが、今のトランプはその真逆を疾走している。
言い訳しようがないほど、大きな矛盾を抱えているように見えるトランプの劇的な変化。
その裏には“極限のポピュリズム”がある。
The Myths Promoted by a New CDC Vaccine Advisor NewsGuard
https://www.newsguardrealitycheck.com/p/the-myths-promoted-by-new-cdc-vaccine-advisor-robert-malone
弾かれたコインのように裏と表を行き来するトランプのワクチン観
以下がトランプのワクチンに対する対応の変移である。
・政権発足前(2010年代):ワクチン接種は自閉症と関連していると示唆する懐疑的態度。
・第1次政権(2020年・パンデミック):国家政策としてコロナワクチンを早期開発し、接種を推進。政権の功績として誇示。
・バイデン政権(2021年〜):ワクチンの早期開発の成果を誇示しつつ、接種の義務化に反対。
・第2次政権(2025年〜):ワクチン懐疑派を要職に据え、ワクチンに対する懐疑的立場を明確化。
日替わりランチのように、主張が目まぐるしく変わってはまた戻る。
このスタンスこそがトランプ流のポピュリズム――大衆の感情を最優先する政治だ。
政府への不信から、吊るし上げられたワクチン
バイデン政権では事実上のワクチン接種義務が進み、保守層の間で「政府が強制するものに裏がある」とする不信感が爆発した。それはトランプがワクチン接種を呼びかけた際、彼の支援者の一部からブーイングが飛ぶほどであった(2021年、接種公表時)。その数日後、トランプはこう表明する。
「ワクチンは私が全力で準備した。だが使うかどうかは個人の自由だ。」
この“パフォーマンス”によって、彼は怒れる保守層を再び手中に収める。そして保守層の怒りは、やがてワクチンそのものへの拒否感へと転化していくことになるのだが、政権を奪取したトランプはその兆しも敏感にくみ取った。その結果が、ケネディ氏やマローン博士という“極端な懐疑派”の起用だった。
Trump again publicly defends COVID-19 vaccines, but slams mandates abc NEWS
https://abcnews.go.com/Politics/trump-publicly-defends-covid-19-vaccines-slams-mandates/story?id=81914671
すでに始まっている歪み――懐疑派によって捻じ曲げられた、ありもしない研究結果
2025年6月にケネディ氏が米保健福祉省長官として、予防接種実施諮問委員会へ送ったとされるメモがリークされた。
内容は「妊娠20週前の妊婦がコロナワクチンを接種すると胎児喪失率が高まる」とする研究を根拠にした、妊婦へのコロナワクチン接種推奨の取り下げ要求だった。だが研究者本人が誤解釈であると完全否定をする事態へ発展している。
この件からも現在の米保健福祉省は政治的意図を優先し、科学的根拠を歪めてでもコロナワクチン接種に対する否定的な印象を広めようとしている思惑が見て取れる。
Researchers Say HHS Memo to Congress Twisted Their Work to Back RFK Jr.’s Anti- Vaccine Agenda NewsGuard
https://www.newsguardrealitycheck.com/p/researchers-slam-hhs-memo-for-twisting?open=false#%C2%A7researchers-say-hhs-memo-to-congress-twisted-their-work-to-back-rfk-jrs-anti-vaccine-agenda
合理性より“感情優先”の政治様式
論理性や整合性より、感情を優先――その代表例がワクチンに関する一連の騒動だった。
トランプはかつて政権では、自らが加速させたコロナワクチン開発を誇っていた。しかし今や、その成果を逆転させる政策を堂々と推し進めている。
科学や論理の整合性を求める学者や専門家、それらを重視する市民にとって、その変化は矛盾以外の何物でもないだろう。
だが、トランプの支持層は“心が動かされる政策”を求めている。“怒り”に共鳴し、“自由”を守るリーダー。その期待にトランプは見事に応えている。
“極限のポピュリズム”が描く未来
このような“トランプ流ポピュリズム”は、科学的信頼と合理性を破壊しかねない。しかし、このポピュリズムこそが彼が支持し続けられる“強さ”ともなっている。
・論理よりも、今の感情に忠実
・昨日の自分と今日の自分が真逆でも構わない
・怒りや恐怖、その感情に瞬時に共振してくれる頼れるリーダー
だからこそ、トランプは支持を集め続ける。
現状の極端なワクチン政策も、その一環として捉えられるだろう。
この“極限のポピュリズム”は、この先アメリカ政治をどう導いていくのだろうか。
この問いは、今まさに進行中だ。
ロバート・F・ケネディ・ジュニアの影響力(発言の拡散)は米保健福祉省長官就任後、拡大している。
The Nation’s Top Health Official Is an Even More Dominant Health Hoax Superspreader NewsGuard
https://www.newsguardrealitycheck.com/p/the-nations-top-health-official-is