AIと自律化が変える『新しい戦い方』——CyCon 2026/EUROSATORY 2026 報告〈サイバー防衛研究会7月例会報告〉

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 2026年7月24日に開催されたサイバー防衛研究会では、欧州を代表する二つの国際会議・展示会を現地で取材した報告が行われた。

 第一部は明治大学サイバーセキュリティ研究所・齋藤孝道(筆者)による「CyCon 2026報告」、第二部は株式会社NSDコンサルティング代表取締役・早野禎祐氏(元艦艇開発隊司令、元システム通信隊群司令)による「EUROSATORY 2026報告」である。

 扱う分野こそ異なるものの、両者が示した方向性は共通していた。

 AIと自律化は、もはや研究開発や概念実証の段階ではなく、実戦・実運用で競われる能力となりつつある。そして、その変化の速度に日本が十分追随できていないという現実である。

 講演会データ サイバー防衛研究会7月例会
 第一部「CyCon 2026現地報告―AI時代のサイバー安全保障の最前線」
   講演者/齋藤 孝道(明治大学サイバーセキュリティ研究所所長)

 第二部「EUROSATORY 2026(自律型ドローンが世界の防衛市場を変革する)」
   講演者/早野禎祐(株式会社NSDコンサルティング代表取締役)
 司会/齋藤 孝道 開催日/2026年7月24日(金)

目次

第一部 CyCon 2026——AI時代のサイバー安全保障の最前線(齋藤孝道(筆者))

 CyConは、NATOサイバー防衛協力センター(CCDCOE、エストニア・タリン)が毎年開催する国際会議である。

 CCDCOEは、2007年の対エストニア・サイバー攻撃を契機に2008年に設置され、現在はNATO加盟国とパートナー国を合わせた39か国が参加している。タリン・マニュアルの策定や大規模サイバー演習Locked Shieldsでも知られる。

 今年のCyCon 2026は5月27日から29日にタリンで開かれ、登壇者100名、50か国から約800名が参加した。

 例年CyConのセッションは「規範/ポリシー」、「戦略」と「技術」の三本柱で構成され、最近では、規範、主権、国家責任に関する国際法や宇宙空間の法的課題から、AIや量子技術がもたらす戦略変化、マルウェアや脅威ハンティング手法まで取り扱っている。

 筆者が今回CyCon 2026全体から感じたインサイトは、「サイバー安全保障は議論から運用フェーズへ移行しつつある」という点である。従来の「抑止」「防御」を中心とした議論から、AIやソフトウェアを使って戦場で優位を獲得する方向へ、明確に重心が移っていた。

 そのトレンドは、以下の6点に整理される。

①AIの本格軍事利用
②サイバー戦の実戦化(ウクライナの作戦教訓、各国サイバー司令官パネル)
③ハイブリッド戦・認知戦の拡大(選挙介入等)
④重要インフラ・国家レジリエンス
⑤アトリビューションとCTI(サイバー脅威インテリジェンス)の高度化
⑥法・政策:議論から運用フェーズへ

AIはAPTを「高速化・分業化・エコシステム化」した

 CyCon 2026ではサイバーセキュリティのトレンドに関する講演が行われたが、そのうちの一つの講演によれば、APT(国家系サイバー攻撃グループ)の狙い自体が変わっていたわけではなく、変わったのはその構造だ。

 生成AI登場以前のAPTは少数精鋭・人手中心で、活動主体の推定も現在ほど複雑ではなかった。しかし最近は、次のような傾向がみられた。

  • 国家支援型APTグループと、侵入口を作る「サイバー傭兵(Hack-for-Hire)」との分業化
  • 露・中・北の連携(中国がAI基盤技術やツールを、ロシアが軍事・攻撃インフラを、北朝鮮が潜入活動や資金調達、Fake IT Workerを担うといった役割分担が観測されている)
  • AIによる攻撃支援(初期侵入支援、マルウェア開発、偽の履歴書・面接、AIエージェントによる攻撃プロセスの自動化)

 結果として、低スキル人材までもが「戦力化」され、攻撃は加速・拡大している。AIはAPTの目的を変えたのではない。攻撃の実行を高速化し、役割分担を進め、国家・犯罪組織・Hack-for-Hireを結び付けることで、その実行能力そのものを押し上げたのである。

「抑止だけでは勝てない」——消耗戦とインテリジェンスの必然

 戦略面で印象的だったのは、あるウクライナの大佐の発言だった。

「ロシアのサイバー攻撃を抑止することはできない。ならば彼らを消耗させるしかない」。

 抑止は、相手が損得を計算し思いとどまることを前提とする。

 しかし4年に及ぶ戦争を続けるロシアにその前提は通用しない。だから発想を「攻撃を思いとどまらせる」から「継続的に消耗させる」へ切り替える、というわけだ。

 この「抑止だけでは勝てない」という認識は、別のセッションのテーマのCyber Persistence Theory(CPT)と響き合う。

 平時・危機・戦争を一つの連続体と捉え、「戦争が始まる時点で勝敗の条件は既に形成されている」とし、主導権は平時からの継続的な活動を通じて形成される、という考え方である。

 インシデント発生後に検知・封じ込め・復旧へ対応する従来型の防御だけでは、昨今のサイバー戦・情報戦におけるトレンドからみても、不十分である。

 求められるのは、情報収集・監視・偵察(Cyber ISR)、継戦能力、防御的作戦、そして意思決定に働きかけるサイバー効果(Cyber Effects)を組み合わせた、平時からの継続的なキャンペーンへの対処だ。

 ここで評価の単位が根本から変わる。見るべきは単発の脆弱性(CVE)やIoC、TTP、マルウェアではなく、その背後にある相手の長期目的、攻撃キャンペーン、国家戦略との整合である。

 この議論の核心は、そこから必然的に導かれる「インテリジェンスの必要性」だ。

 日本ではインテリジェンスの必要性が未だ理解されにくい。しかし、目の前のインシデント一つをより大きなキャンペーンの一環として読み解くには、相手が普段どこを、どのように狙うのかという敵側情報の蓄積が不可欠になる。

 国内で頻発するサイバー攻撃事案を一件ずつ処理する「守りの発想」から、攻撃の連なりの意図を見抜く「インテリジェンス主導」へ——個々のインシデントではなく、攻撃キャンペーン全体を理解し意思決定へつなげる「インテリジェンス主導」の防衛こそが、CyCon 2026で一貫して示された方向性である。

前線からの示唆

 筆者はCyConに続き、本講演の直前にシンガポールのRSISなどが共催したハイレベルフォーラム「デジタル・ディフェンス・シンポジウム」にも参加した。軍関係者を中心に、サイバー・情報戦や認知戦に特化した同フォーラムでも、「サイバー・情報戦は軍事作戦と一体化している」という認識はCyConと共通していた。

 二つの会議を通じて受け取った示唆は以下の言葉に集約される。

 武力紛争に至らない「非対称戦」としてのサイバー攻撃は増加の一途をたどり、AIがその意思決定を高速化して脅威を増幅する。

 もはや「守りましょう」という防御一辺倒の姿勢は通用しない。

 サイバー戦の重心が「抑止中心」から「前方防御・継続的関与を組み合わせたアプローチ」へ、分析対象が「インシデント」から「キャンペーン・戦略」へと移りつつある——この転換点に、日本はまだ立てていない可能性がある。

第二部 EUROSATORY 2026——自律型ドローンが世界の防衛市場を変革する(早野禎祐氏)

パリで開催された世界最大級の陸軍系防衛装備展「EUROSATORY 2026」について伝える早野禎祐氏(株式会社NSDコンサルティング代表取締役)

出展2511社、うち約1000社がドローン関連

 EUROSATORY(欧州陸軍装備展示会)は2年に一度パリで開かれる世界最大級の陸軍系防衛装備展である。2026年は6月15日から19日の5日間、シャルル・ド・ゴール空港近くの会場で開催され、2511社が出展、約7万名が来場した。防衛ビジネス従事者しか入場できない厳格なビジネス展示会でありながら、2日目は入場に1時間以上を要したという。

 全体の傾向は二つ。

 第一に、出展2511社のうち約1000社がドローン関連という「ドローン一色」の市場。

 第二に、対ドローン技術が、ジャミング等の電波妨害から、ミサイルや機関砲で物理的に破壊する「キネティック」への回帰である。

 そして最も人を集めたのがウクライナの国家・企業ブースだった。前回は「支援してほしい」という姿勢だったが、今回は戦場の教訓を製品化して売り込み、戦費を自ら稼ぐ姿勢へ一変。ウクライナは防衛技術の供給国としての地位を固めつつある。

主役はインターセプタードローン

 対ドローンの主役は迎撃用(インターセプター)ドローンである。共通する仕組みは、レーダー等で探知した目標を指示して発射し、中間は半自律、機体自身のカメラが目標を捉えた後は、終末誘導を機体自身が自律的に実施して突入するというもの。「どの距離で自己探知できるか」が性能の分かれ目になる。

  • Terra A1(日本のテラドローンがウクライナ現地法人で生産):時速300km、500gのフラグメンテーション弾頭を近接爆発させて撃破。既に1000機の納入契約。自己探知距離は400〜500m
  • スイス企業製ドローン:時速180kmと低速ながら直接衝突で破壊する「ヒット・トゥ・キル」方式。目標指示から1分で完結する正確さを売りにする
  • 独Tytan社(2023年創業、CEOは26歳):探知距離2kmという長い交戦距離が特長
三社のドローンの展示(講演スライド(早野禎祐氏制作)から)

 さらにエストニア企業は「どうせぶつけて壊すならミサイルでよい」と、全長65cmの対ドローン小型ミサイルを出展。時速1000km近くで飛翔し、現行工場で1日100本の量産により「安価なドローンに高価なミサイルは使えない」というコスト問題に正面から答える。

 機関砲側も、30mm(有効射程約3000m)・40mm(同4000〜5000m)のエアバースト弾が一発ごとに初速を計測し起爆位置を電子設定する方式へ進化した。

 平時の警備活動といったシーンでは、空港やスタジアムでドローンを物理的に捕獲するネットガン搭載ドローンが実用化されている。自律的に捕獲・運搬・帰投・充電まで行い、証拠保全と二次被害防止の観点で「撃ち落とす」というアプローチを採用できない「平時」に適した解だ。

巡航ミサイルとの境界が曖昧になる大型無人機

 大型・長距離無人機は、もはや巡航ミサイルとの境界が曖昧になっている。

  • フラミンゴ(FP5)(ウクライナFire Point社):航続距離3000km、搭載重量1トン。ブースには「16.06.2026 モスクワ」と、前日の攻撃実績がすでに掲示されていた。昨日の実戦を今日売る——このスピード感がウクライナの現在地である
  • 英ロトロン社製:航続1200km、弾頭300kg。価格は約30万ポンド(約7000万円)、月産28発。英国はこの種の機体を「ワンウェイ・イフェクター」と呼び始めている
  • X-BAT(米Shield AI社):垂直離着陸(VTOL)の無人戦闘機。航続3500km、上昇限度5万フィートで、空対空・空対地から有人機の伴走までこなす。2026年のVTOL試験を経て2029年量産開始が目標。艦船に積めば「あらゆる船が空母になる」

 AIの用途も操縦制御から作戦立案へ広がる。仏Command AI社の作戦計画AIは、敵味方の兵力と地形から兵力配置・攻防計画を自動立案し、すでに仏・独の指揮幕僚大学で導入、英国への輸出も解禁された。

 ほかにも、車両や兵士の接近を振動と音で検知するセンサー(米海兵隊制式採用)、ヒーター内蔵で赤外線対策まで施したHIMARSデコイ(1300万〜1500万円)、浄化率99.7%・毎時約140Lの手引き式逆浸透膜浄水器、そして「世界で最も使われる軍用車両」トヨタ・ランドクルーザーの防弾仕様車など、戦場のあらゆる局面を支える製品が並んだ。

日本のプレゼンスは「全くない」

 これだけの熱気の中で、日本企業の存在感は「全くない」と評さざるを得なかったとのことであった。

 帝人(欧州法人)、パナソニックコネクト(現地法人)、カシオ(G-SHOCK)など、現地法人・ブランド経由の出展を数えても関連6社にとどまる。

 その中で注目すべきがテラドローンの事業モデルだ。ウクライナに現地法人を設立し、テラワンを現地で生産・販売、今年6月にはウクライナのドローン企業2社を傘下に収めた。

むすび:「速度」への警鐘

 二つの報告に通底するのは「速度」である。

 AIが意思決定を高速化し、昨日の戦訓が今日の製品になり、創業2〜3年の企業が千機単位の納入契約を取る。

 サイバー空間では抑止から前方防御・継続的関与へ、分析対象はインシデントからキャンペーンへ。物理空間では自律型ドローンが装備体系を作り替えつつある。

「新しい戦い方」という言葉ですら、すでに古くなり始めている。

 AIと自律化によって戦い方そのものが絶えず更新される時代に入った以上、日本の防衛力強化も、その変化を前提とした発想へ転換しなければならない。両報告は、その現実を最前線から突きつけるものだった。

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この記事を書いた人

齋藤 孝道のアバター 齋藤 孝道 リサーチフェロー

明治大学理工学部情報科学科・教授、博士(工学)。明治大学サイバーセキュリティ研究所・所長。株式会社新領域安全保障研究所・代表。レンジフォース株式会社・代表取締役。専門は、情報セキュリティ技術全般。特に、デジタル影響工作、Web追跡技術、AI技術応用。著書:マスタリングTCP/IP情報セキュリティ編・第2版(オーム社)、「ネット世論操作とデジタル影響工作:「見えざる手」を可視化する」(原書房)。

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