OSINT、そしてSNSは災害時に活用できるか?②

前回は、SNSが緊急時の状況認識(Situational Awareness)に貢献しうることを実証したViewegら(2010)の研究を出発点に、膨大な投稿から必要な情報を取り出す技術を整理したImranら(2015)、テレビ・ラジオ・ウェブ・SNSを横断的に扱うOSINTの実装を示したBackfriedら(2012)、そして「情報トリアージ」という考え方を国内の消防指令システムに接続しようとした藤代ら(2018)へと至る道筋をたどった。
藤代らの論文は、災害派遣医療チーム(DMAT)をモデルに、SNSの専門知識を持つ第三者的な緊急即応チームを機動的に派遣するという構想を示す一方で、「誰がそのチームを組織し、どのような権限と責任のもとで動かすのか」という問いには踏み込んでいなかった。「誰が情報トリアージを担うのか」——。この問いに対する答えは、単純に一つに収斂するものではない。今回は、海外で先行して積み重ねられてきた実践と研究、国内で近年進む技術的なアプローチ、そして現場が実際に採った選択をたどりながら、情報トリアージの担い手をめぐる論点を掘り下げたい。
前回「OSINT、そしてSNSは災害時に活用できるか?①」はこちら
⑤St. Denis et al.(2012)——「信頼された遠隔ボランティア」 1
2011年初頭、米国ニューメキシコ州で活動していた緊急管理者(emergency manager)のJeff Phillipsは、地域住民による「Community Emergency Response Team(CERT)」の仕組みをオンライン上に応用し、遠隔から公式の危機対応チームを支援するボランティアの構想を考案した。これが後に「Virtual Operations Support Team(VOST)」として広く知られるようになる枠組みの原型である。
同年、米国オレゴン州で発生した山火事への対応にあたって、現場の広報担当官(Public Information Officer, PIO)Kris Eriksenは、SNS対応を補うため、Twitter(現X)を通じて支援を呼びかけた。これに応答した一人であったPhillips本人が中心となり、計8名の遠隔チームを急ぎ編成した。これがVOST構想の最初の実践例となった。
VOSTの特徴は、ボランティアが被災現場に赴くのではなく、遠隔からSNSの監視、偽・誤情報の把握、住民向け広報文案の作成、報道のとりまとめなどを担う点にある。ただし、この事例からすでに、指揮系統への統合についての課題は解決されてはいなかった。論文自身が明記するように、VOSTはEriksenのチームに非公式に組み込まれてはいたが、公式の対応組織に正式に統合されてはいなかった。論文では「この情報の責任は誰が負うのか」「VOSTは対応組織の一部なのか」という論点をすでに未解決の課題として挙げている。
また、この論文が示すのは、VOSTの機能が「信頼(trust)」という、必ずしも制度的に保証されたものではない基盤の上に成り立っていたという点だ。この事例における信頼は、メンバーの多くが過去の訓練等を通じて互いの技能を知っていたことや、緊急管理の実務経験者であったという点など、平時からのつながりや専門性の蓄積によって成立していたものであり、公式な資格や手続きによって保証されたものではなかった。前段で見た「情報の責任は誰が負うのか」「VOSTは対応組織の一部なのか」という未解決の課題も、突き詰めれば、この非制度的な信頼をどう制度の中に位置づけるかという同じ問いに行き着く。
⑥Roth & Prior(2019)——VOSTの国際的な広がりと制度化 2
Phillipsは同じ2011年に、全米緊急事態管理協会(NEMA)の年次大会でもこのVOST構想を発表している。オレゴン州の山火事での実践と、この対外的な発表とが相まって、名称と概念は米国内にとどまらず、欧州やオーストラリアなど各国に広がっていった。Florian RothとTimothy Priorは、国際的なVOSTの連携組織「Virtual Operation Support Group」が把握していた14か国・49チームのうち27チームに16項目の調査票を送付し、11チーム・7か国から回答を得て、その運用実態を比較した。調査は、メンバーの背景、VOST設立の契機となった出来事、招集や人材育成の手続き、他のvirtual teamや災害対応機関との連携関係など、多岐にわたる。
この論文が示すのは、VOSTの仕組みは、国や地域の行政制度、消防・警察組織の文化に応じて多様な形態を取っているという事実である。フランスやスペインでは、基礎自治体レベルで公式な協定を結び、訓練や演習にも組み込まれている例がある一方、多くのチームは公式な防災訓練への参加機会に乏しく、行政側からの実質的な「お墨付き(buy-in)」を得られていないことも、この調査では明らかになっている。それでも、VOSTという枠組みに共通するのは、発災後に一から立ち上げるのではなく、平時からメンバーを組織しておき、要請があった時点で稼働させるという設計思想である。
藤代ら(2018)が指摘した「情報爆発期に機動的に対応する」という課題に対し、VOSTはこの平時からの体制維持によって応えようとしている。もっとも、この論文自身が指摘する通り、実際の制度への統合度には国ごとに大きな差があり、「平時から維持する」という理念と、現場での実装との間にはなお隔たりがある。
⑦Fathi & Fiedrich(2022)——現場でVOSTは何を提供できるか 3
VOSTの効果を実証的に検証した研究として、2021年にドイツ・ヴッパータールで発生した洪水を対象にした論文がある。これは、ドイツ国内で196人、欧州全体では240人以上の死者を出した2021年7月の水害の一部であり、被害情報の把握が急務となった局面だった。Ramian FathiとFrank Fiedrichは、22名のVOST分析者が8つのSNSプラットフォームから収集した投稿を分類し、23の情報カテゴリーに整理した実際の運用データを分析している。
この論文の意義は、VOSTが災害対策本部(Emergency Operations Center)の状況認識の向上や意思決定にいかに貢献できるかを実証し、実際の投稿分類作業に即して示した点にある。単に「SNSを監視する」のではなく、洪水の水位、道路の冠水、孤立した住民の位置、支援要請といった情報を、あらかじめ設計されたカテゴリーに沿って整理し、意思決定者が活用できる形に変換する作業そのものが記録されている。この投稿分類作業は、情報トリアージ、そしてインテリジェンスという営みが、VOSTという体制の中でどう具体的に遂行されるかを示している。
⑧Starbird & Palen(2011)——VOSTが乗り越えようとした緊張関係 4
もちろん、VOSTは決して万能の解決策というわけではない。Kate StarbirdとLeysia Palenは、VOSTという概念が成立する以前の2010年ハイチ地震を対象に、Twitter上で自然発生的に組織化された「voluntweeters」と呼ばれるボランティア群を分析した。論文では、彼らが情報の収集・検証・転送を担いながら独自にネットワークを形成していくが、公式の災害対応組織が体制を整えるにつれて情報やリソースへのアクセスが制限され、ボランティア側が強い無力感や不満を抱くようになったプロセスを記録している。これは、ボランティアの「自発的な草の根の活動」と、公的機関の「統制や手続き」との間に生じる摩擦を象徴している。
こうした両者の関係は、⑤⑥で見たVOSTの制度化によっても自動的に解消するわけではない。フィンランドの緊急対応機関を対象にした別の調査でも、当局はデジタル・ボランティアの可能性を認めながら、信頼と訓練の不足を理由に、実際に任せる役割を極めて限定的なものにとどめていたと報告されている5。⑤で確認した「信頼」の設計は、一度確立すれば終わりではなく、制度化の前後を問わず一貫して問われ続ける課題だ。担い手を外部に置く組織論的な解決策は、常に「外部の専門性」と「内部の指揮権」との間の調整コストを伴う。この調整コストは、発災後、急に埋め合わせられるものではなく、平時に関係構築にどれだけ時間をかけてきたかに反比例して、その大きさがほぼ決まるというのが、筆者の業務でも得た実感である。
⑨森野・藤代・松下(2026)——「誰が」から「どう選別するか」への転換 6
日本国内では、④に続き、2026年1月に発表された森野らによる研究で、2020年7月豪雨関連のツイートデータを対象に、投稿に含まれる画像を中心にクラスタリングを行い、災害状況の把握に資する有用情報とノイズ情報とを分離するシステムが提案されている。
この研究が示す方向性は、⑤〜⑧で見た「誰が担うか」という組織論的な問いに対して、「どう選別するか」という技術的な問いで応えようとする試みだ。論文は、自治体の現場でSNS情報を有効活用した事例においても、大量の情報からデマへの対応や信頼性判断を行うため、専属の職員を多数配備して対応していたことを紹介し、そのうえで人による確認の負担そのものを軽減する仕組みの必要性を説く。人手による最終確認は残しつつ、不要な情報を機械的に除外することで、限られた人員が確認すべき対象を絞り込む——。これは、VOSTのような専門ボランティア組織を持たない、あるいは持てない自治体にとって、より現実的な実装形態になりうるだろう。
もっとも、この技術的アプローチにも限界がある。論文自身も、一部のクラスタに被害情報と無関係な情報が混在し、必要な情報の取りこぼしにつながる懸念や、実験参加者がそのクラスタを除外してしまうケースがあったことを課題として挙げている。また、この評価は単一の災害(2020年7月豪雨)のデータに限られており、異なる災害類型や地域でも同様の傾向が見られるかは、論文自身が今後の検証課題としている。組織論的な解決(VOST)が「信頼できる人間をどう配置するか」という問題であるのに対し、技術的な解決は「機械による絞り込み(除外)をどこまで信頼してよいか」という、別の種類の信頼の問題を提起しているように思える。
⑩秦(2019)——「権限一任による現場判断」 78
令和元年台風19号(2019年)で千曲川の堤防が決壊し甚大な浸水被害が生じた際、長野県の公式Twitterアカウント「長野県防災」(@BosaiNaganoPref)が住民からの救助要請を受け付け、救助部隊への橋渡し役を果たした事例は、「情報トリアージ」が実際に機能した数少ない実例として注目に値する。秦は、この事例を詳細に分析している。
秦はまず、SNSが救助要請の把握に有効だったとする例がむしろ稀であることを、先行研究を引いて確認する。東日本大震災では、被災地の被害状況や支援ニーズの把握に役立ったツイートは全サンプリングデータの1%に満たず、救助ニーズを示すツイートも、九州北部豪雨で7.6%、西日本豪雨で16.5%にとどまっていた。救助要請は依然として119番・110番通報が基本であり、SNSがそれに取って代わる例は稀である。この留保は、⑤〜⑨で見てきた組織論的・技術論的な解決策を評価するうえでも重要だ。
秦が注目するのは、平時からの運用の蓄積である。「長野県防災」は2014年11月の開設以来、2019年1月からは毎日1ツイートを継続し、4月からは防災係6人体制で運用されていた。台風接近前に約6,500人だったフォロワー数は、発災から3日間で2万3千〜2万4千人へと急増し、1か月後には2万5千人、12月には2万6千人を超えた。平時に築いた発信力が、有事に住民の目に留まる基盤になっていたことがうかがえる。
実際の対応は、10月12日の情報提供の呼びかけに始まり、13日に最初の救助要請を確認、同日7時33分には救助要請そのものの呼びかけへと進み、14日19時31分に最後の未救助者の救助完了を確認するまで行われた。最初の救助要請の確認から完了までは約37時間であった。この間、要請の覚知→内容確認(住所・人数・容態等)→ホワイトボードと防災情報システムへの記録→活動調整担当への照会・119/110番通報との照合→ツイート削除による救助完了確認、という一連のフローとして整理されており、情報トリアージの縮図が、実際に運用されていたことになる。
なお、米国の緊急通報システム(Public Safety Answering Point)が輻輳した際に、SNS上の「救助の呼びかけ」を体系的に見つけ出す手法も、米国では学術的に模索されている。Peterson et al.(2019)は2017年のハリケーン・シーズンを踏まえたフレームワークを提案する中で、「誰かが救助された後、その情報をどう反映し対応済みとして扱うか(”closing the loop”)」を課題として挙げているが、長野県はこれを「救助完了者にツイートを削除してもらう」という簡便な運用によって、現場レベルで解決していたことになる9。さらに、筆者が県庁部署担当者にヒアリングしたところ、投稿内容の真偽を確認する追加的手段として、投稿者に眼の前で起きている光景を撮影し、それを送信してもらう手法も取っていたという。これも、情報トリアージの前提となる真偽確認を担保する工夫の一つだったと言えるだろう。
秦の報告は、この対応が事前に想定されたものだったのかという点にも触れている。マニュアルには参考程度の記載しかなく、個別ツイートへの返信も本来想定されていなかった。にもかかわらず、担当職員は命の危険が迫っている救助要請を複数確認した際、あらかじめ情報発信が自身に一任されていた体制を活かし、自らの判断で救助要請の呼びかけに踏み込んでいる。⑤〜⑨で示したように、訓練された外部ボランティア(VOST)に権限を委ねる方法と、機械処理によって判断の負荷そのものを減らす方法——それらのいずれとも異なり、ここで見られるのは、平時から現場に発信の裁量を委ね、実質的な信頼を蓄積しておくことで、有事の判断そのものを現場の職員に委ねてしまうという、第三の解決の姿である。
もっとも、この解決策も無条件に再現可能というわけではない。秦が指摘するように、今回の救助要請は千曲川決壊に伴う浸水域という限定された地理的範囲に集中しており、対応可能な規模にとどまっていたことも成功の一因である。情報量がさらに拡大すれば、同じ即応を同じ人数の職員だけで維持できるとは限らない。
今回取り上げたのは、藤代ら(2018)が残した「誰が情報トリアージを担うのか」という問いに対する、三つの異なる回答である。一つは、米国を中心に発展したVOSTのように、平時から訓練された第三者を公式の指揮系統に組み込む組織論的な解決であり、もう一つは、機械処理によって人の確認負担そのものを軽減する技術論的な解決である。そしてもう一つ、長野県の事例が示すのは、外部の第三者にも機械にも頼らず、平時から現場に蓄積された信頼と権限のグレーゾーンを、担当者自身の判断で埋めるという、いわば属人的な解決である。もちろん、それらは単独では万能ではない。VOSTは信頼構築という継続的なコストを、技術的解決はモデルの限界という別のリスクを、そして長野県のような属人的解決は、規模が拡大した場合の脆弱性と、担当者個人への負荷の集中という危うさを、それぞれ抱えている。
筆者は、実務においてこれら三つの担い手と日ごろから深く関わっている。そこで感じるのは、それぞれが対立したり、競合したりするものではなく、補完し合うべき存在だという点だ。技術が一次選別で情報量を絞り込み、人間が最終的な確認と意思決定を担う。そのうえで、平時から関係機関や住民との信頼関係を築いた専門人材——それが外部のVOSTであれ、長野県のように県庁の職員であれ——が、技術だけでは拾いきれない判断を補う。OSINTやSNSが災害時に真に活用可能になるかどうかは、結局のところ、この人と技術の役割分担をどう設計するか、そしてその役割を担う人をどう平時から育て、権限を与えておくかという、地道な制度設計の積み重ねにかかっているのだ。
注
- 「⑤St. Denis et al.(2012)——「信頼された遠隔ボランティア」」
St. Denis, L. A., Hughes, A. L., & Palen, L. (2012). Trial by Fire: The Deployment of Trusted Digital Volunteers in the 2011 Shadow Lake Fire. Proceedings of the 9th International ISCRAM Conference, Vancouver, Canada.
(火の試練:2011年シャドウ・レイク火災における「信頼できるデジタル・ボランティア」の展開)
http://idl.iscram.org/files/stdenis/2012/207_St.Denis_etal2012.pdf ↩︎ - 「⑥Roth & Prior(2019)——VOSTの国際的な広がりと制度化」
Roth, F., & Prior, T. (2019). Utility of Virtual Operation Support Teams: An International Survey. Australian Journal of Emergency Management, 34(2), 53–59.
(バーチャルオペレーション支援チームの有用性:国際調査)
https://knowledge.aidr.org.au/media/6641/ajem-201904-17-florian-roth-etal-timothy-prior.pdf ↩︎ - 「⑦Fathi & Fiedrich(2022)——現場でVOSTは何を提供できるか」
Fathi, R., & Fiedrich, F. (2022). Social Media Analytics by Virtual Operations Support Teams in disaster management: Situational awareness and actionable information for decision-makers. Frontiers in Earth Science, 10.
(災害管理におけるバーチャルオペレーション支援チームによるソーシャルメディア分析:意思決定者のための状況認識と実践的な情報)
https://www.frontiersin.org/journals/earth-science/articles/10.3389/feart.2022.941803/full ↩︎ - 「⑧Starbird & Palen(2011)——VOSTが乗り越えようとした緊張関係」
Starbird, K., & Palen, L. (2011). “Voluntweeters”: Self-organizing by digital volunteers in times of crisis. Proceedings of the 2011 ACM CHI Conference on Human Factors in Computing Systems.
(「ボランツイーター(Voluntweeters)」:危機的状況下におけるデジタル・ボランティアの自己組織化)
https://dl.acm.org/doi/epdf/10.1145/1978942.1979102 ↩︎ - Ruohonen, H., & Backholm, K. (2023). Matter of trust: How to include digital volunteers in crisis management. Journal of Contingencies and Crisis Management, 31(4), 843–852.
(信頼の問題:危機管理にデジタルボランティアをどう参加させるか)
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1111/1468-5973.12484 ↩︎ - 「⑨森野・藤代・松下(2026)——「誰が」から「どう選別するか」への転換」
森野穣・藤代裕之・松下光範(2026)「災害情報トリアージのためのSNS情報峻別システムの構築」情報処理学会研究報告 Vol.2026-HCI-216 No.37(2026年1月15日)。
https://dl.mtstlab.org/papers/472/paper.pdf ↩︎ - 「⑩秦(2019)——「権限一任による現場判断」」
秦康範(2019)「長野県防災Twitterによる救助要請の実態」日本学術会議公開シンポジウム「令和元年台風第19号に関する緊急報告会」発表資料(日本災害情報学会)、2019年12月24日。
https://janet-dr.com/050_saigaiji/2019/191224/191224_03_02_hata.pdf ↩︎ - 「⑩秦(2019)——「権限一任による現場判断」」
ジチタイワークスWEB「台風時にSNSで住民を励まし迅速かつ無事に約50件救助へ。」2020年6月29日公開。
https://jichitai.works/articles/330 ↩︎ - Peterson, S., Stephens, K. K., Hughes, A., & Purohit, H. (2019). When Official Systems Overload: A Framework for Finding Social Media Calls for Help during Evacuations. Proceedings of the 16th International ISCRAM Conference, Valencia, Spain.
(公式システムが過負荷状態に陥るとき:避難時におけるソーシャルメディア上の救援要請を特定するための枠組み)
http://idl.iscram.org/files/stevepeterson/2019/1928_StevePeterson_etal2019.pdf ↩︎
