OSINT、そしてSNSは災害時に活用できるか?①

筆者の勤務先企業「Spectee」は、防災・危機管理テック企業を標榜し、災害時のSNS投稿などの公開情報をもとに、現場で何が起きているのかを可視化し、企業や国、自治体の危機対応に資する情報提供を行っている。業務として情報分析に携わる筆者にとって、災害時に流れ込む膨大な断片情報の中から、何が本当に重要で、何が誤りで、何がいま意思決定に使えるのかを見極めることは、抽象的な研究関心ではなく、日々の業務そのものに関わる課題だ。
だからこそ「OSINT1、SNSは災害時に活用できるのか」という問いは、単なる技術的可能性の検討にとどまらない。災害の現場では、情報があるというだけでは決定的に不十分であり、必要なのはその情報が早く、正確で、かつ活用可能な形に整えられていることだ。もしOSINTが災害に役立つのだとすれば、それはどのような条件のもとでか。また、その限界はどこにあるのか。災害情報を現実に架橋しようとする立場にとって、この問いはきわめて実務的な意味を持っている。
「SNSは緊急時の状況認識(Situational Awareness)に貢献しうるか」——。2000年代後半から2010年代にかけて、この問いから一つの研究分野が誕生した。地震、洪水、火災といった災害が起きたとき、Twitter(現X)やFacebookに流れてくる大量の投稿のなかには、救命に資するリアルタイムの情報が含まれているのではないか。そうした問題意識を出発点に、今日こうした研究は「クライシス・インフォマティクス(Crisis Informatics)」と呼ばれる学際的研究領域として展開している。
それから研究は技術の進歩とともに積み上がり、SNSデータ処理の自動化や衛星画像による被害評価、偽情報の拡散構造の解明などへと広がっている。他方で、たとえば「偽情報が拡散した場合、誰がどのように訂正するのか」「同じ技術が、軍事や監視といった災害対応以外で用いられた場合、どのような帰結をもたらしうるのか」といった実務的・倫理的問いには、そうした議論や実践はあるものの、なお十分な答えがあるとは言い難い。
本稿では、災害情報を扱う実務家としての視点で、その問いに至るまでの道筋を形作った論文をたどりながら、OSINTと災害の関係を考えてみたい。また、SNSについてはOSINTの一構成要素として位置づけ、分散的な情報をいかに統合し、意思決定に接続するかという観点から議論を進める。
①Vieweg et al.(2010)——SNSが災害時の状況認識に貢献しうることを示した2
2009年春、北米で二つの災害がほぼ同時に発生した。オクラホマ州の草原火災と、米加国境をまたぐレッドリバー流域の洪水である。コロラド大学のSarah Viewegらは、その際に現場周辺の人々がTwitterへ投稿したテキストを丹念に分析した。それは「SNSは緊急時の状況認識(Situational Awareness)に貢献できるか」を検討するためだ。
結論は、当時まだ発展途上にあった知見を実証的に裏づけるものだった。草原火災に関するツイートの4割には位置情報が含まれており、「今どこで何が起きているか」という手がかりが、確かに存在していたのである。洪水では18%と低かったが、これは災害の種類によって情報の構造が異なることを示していた。突発的に拡大する火災では、火の位置、避難、被害、風向きに関する情報が多く、予測可能性の高い洪水では、水位、天候、ボランティア情報が多く投稿されていた。この研究は、SNSが緊急時の状況認識に寄与しうることを示す初期的な実証として、後続研究に広く引用されることになった。
この論文の意義は、筆者の実務から見てもきわめて大きい。災害時にまず求められるのは、その全体像が整う前に「どこで何が起きているのか」を断片的なシグナルから先行的に把握することだからだ。この研究は、その出発点としてSNSが有効たりうることを示した。SNS投稿から、位置情報などの分類・抽出の基盤を提示し、緊急時の状況認識に活用しうる対象として位置づけた点に、この研究の重要性がある。
②Imran et al.(2015)——膨大な情報から必要な情報をどう取り出すか3
SNSが緊急時の状況認識に寄与しうる点が実証された後、問いは次の段階へ進んだ。では、膨大な投稿のなかから必要な情報をどう取り出すのか。この問いに真正面から向き合ったのが、カタール・コンピューティング研究所(QCRI)とMicrosoft Researchの研究者らによるグループである。
この論文の出発点にある問いはきわめて実務的だ。「なぜ、SNSから役立つ情報を取り出すのは難しいのか」。彼らは次の三点を挙げる。短く崩れた文体のメッセージをどう解析するか。大量に押し寄せる投稿のなかから、どのように有用な投稿を見つけるか。そして、どの情報を優先的に扱うべきか。
彼らは、これらの課題を「フィルタリング・分類・ランキング・集約・抽出・要約」という六つの情報処理操作に対応させ、それまでバラバラに蓄積されてきた研究を一つに整理してみせた。①で述べたViewegがこの論文の共著者に名を連ねていることも象徴的だ。①の論文が「有効たりうるか」を明らかにしたとすれば、2015年の論文が問うたのは「どうやって取り出すか」である。この二つの論文は、Crisis Informaticsという分野の知的な歩みそのものを体現している。同時に、この論文が目指していたのは、単にSNS投稿を分類することではない。膨大な投稿のなかから、関係機関や人道支援組織が時間的に切迫した状況でも使える情報を識別・整理し、意思決定に結びつけることであった。
この論文が実践的なのは、災害対応の難しさとして「情報過多」の問題を正面から捉えている点だ。筆者の業務でも画像・動画が一斉に流れ込む状況で、何を優先的に確認し、何をノイズとして退けるかを決めることは極めて難しい。災害時のOSINTにおいて価値を生むのは、単なる収集量ではなく、選別・順位付け・要約の質なのである。
また、論文では、災害時の人間行動に関する誤解にも踏み込んでいる。人間の危機への反応は「パニック」や「混乱」ではない。被災者は手元の情報をもとに素早く合理的に判断し、周囲を助けようとする。SNS投稿が混乱の産物ではなく、意味ある行動の記録であるという視点は、SNSを情報処理の対象として捉えることの前提を支えている。
この論文では、別の研究を紹介する形で、SNS情報を実際の「行動」につなげる試みも紹介している。東日本大震災時、仙台市内からTwitterに投稿された「粉ミルクが売り切れている、在庫のある店を知っていたら教えてほしい」という投稿と、その在庫がある店舗に関する投稿を結びつける手法である。これは、SNSを通じて状況を知るだけでなく、必要な情報を必要な人へ届け、具体的な行動につなげる可能性を示している。
③Backfried et al.(2012)——「OSINT」を災害管理に結びつけた4
オーストリアで開発されたMedia Mining System(MM-System)を災害救援に応用する実装研究が2012年に発表された。MM-Systemは、テレビ・ラジオ・ウェブ・SNSといった多様な公開情報源を横断的に収集し、音声認識、固有表現抽出、トピック検出などを組み合わせて分析者の状況認識と意思決定を支援する統合型OSINTシステムである。
この論文の意義は、OSINTを災害管理の文脈で具体的な情報処理基盤として示した点にある。主にSNS投稿を対象としていた先行研究に比べ、ウェブやテレビ、ラジオを含む多媒体情報を統合的に扱ったうえで意思決定につなげる仕組みとして捉える点で、より広い視野を持っていた。
論文で紹介されているのは、2011年のタイの洪水時、タイ政府の援助受け入れ姿勢についての情報が錯綜したために、米軍が待機させていた空母を撤退させてしまい、一隻の艦船と二機のヘリコプターのみが残留するにとどまったという事例だ。しかし地域の主要ニュースメディアには洪水に関する比較的正確な情報がすでに公開されていた。Backfriedらはこの対比を、適切な情報が意思決定者に届いていれば対応の質が向上しえたことを示す実例として引用している。すなわち、問題は情報の不在ではなく、必要な情報が意思決定者に適切な形・適切なタイミングで届かなかったことにある。これはOSINTの価値を示すと同時に、情報を整理して意思決定者に届ける担い手の不在という構造的問題を示している。
また論文が今後の課題として挙げるのは、異なる指揮系統と手順を持つ救援組織が同一の災害現場でいかに協働するかという技術的・組織的問題である。警察・軍・消防といった組織はそれぞれ独自のプロセスを持ち、それらを横断的につなぐシステム設計は論文の発表から十年以上を経た今もなお解決途上だ。技術の実装に対して組織設計の整備が追いついていないという構図は、この分野を一貫して特徴づけている。
④藤代・松下・小笠原(2018)——「情報トリアージ」を誰がどう担うか5
この論文は、熊本地震(2016年)を事例に、東日本大震災以降の災害時のソーシャルメディア利用を検討するなかで、情報爆発やデマという課題に対して「情報トリアージ」の適用可能性を論じている。SNS上には、被災地から発信される情報、支援情報、不確かな情報が同じタイムライン上に混在する以上、問題は「どの情報をどのような主体が選別し、救助活動につなげるか」にあるというのが、本論文の視点である。
本論文の核心である「情報トリアージ」とは、医療現場で用いられるトリアージ、すなわち限られたリソースのもとで傷病者の緊急度を判断し治療の優先順位を決める手法を応用したものだ。つまり膨大かつ玉石混交な情報が流通し、かつ時間的制約がある状況で、情報の優先度を決める実践である。
研究を通じて明らかになったのは、ソーシャルメディア情報を対象に真偽確認を行うのは非常に困難であり、しかも消防機関が通常時には機能させていた情報トリアージの仕組みが、大規模災害時にはソーシャルメディアを含む膨大な通報の殺到によって機能不全に陥ったという現実だ。そこから見えてくるのは、課題の本質がソーシャルメディア上での真偽確認の困難さにとどまらず、情報を「整序」する仕組みと消防機関の指令システムをいかに接続するかという設計の問題にあることだ。そのうえで、消防機関の指令システムと組み合わせた情報トリアージの体制を構築することで、こうした問題を解決できる可能性を明らかにした。
この設計の問いは、②③の論文が示した問題意識とも通底しており、筆者の実務においても切実な問題として受け止めている。業務において、災害時に価値を持つのは情報の量ではなく、その整理の質だと痛感することが多い。企業のサプライチェーン管理、自治体の住民避難、報道機関の取材判断——それぞれの文脈で必要とされる情報は異なる。同じ投稿が、ある文脈では即時対応を要する緊急情報となり、別の文脈では雑音にしかならないことすらある。
さらに言えば、情報の価値は時間とともに急速に変化する。たとえば発災直後の72時間以内に求められる情報と、数日以上経過した段階で必要な情報は質的にまったく異なる。誰が、どのような基準で、どのタイミングで意思決定につなげるのか——。この問いに答える制度と主体の設計がなければ、どれほど優れた情報収集・分析の仕組みも現場では役に立たないだろう。
他方で論文は、情報トリアージを担う主体について慎重に検討を重ねながらも、適切な担い手を特定できていない。消防機関は現場対応が本務であり情報リテラシーの向上に大きな負荷がかかる。自治体も同様で、中央防災会議PTも行政による情報トリアージは困難と指摘している。報道機関は真偽確認の能力を持つが、被害を伝えるという報道本来の役割があり大きくリソースを割くことは難しい。論文は「現状では、情報トリアージに適した主体は見当たらない」としている。
そのうえで論文は、災害派遣医療チーム(DMAT)をモデルとした構想を提示している。情報爆発のフェーズはおおむね48時間以内に集中する。その期間に機動的に対応するために、ソーシャルメディアの専門的知識を持つ第三者的な緊急即応チームを派遣するという手法があり得るとする。ただしこの構想は、誰がそのチームを組織し、どのような権限と責任のもとで動かすのかという点には踏み込んでいない。これらについては別稿にて筆者の意見を述べたい。
今回扱った以上の研究が示しているのは、OSINTやSNSは災害時に有効な情報源になりうる一方で、その価値は情報そのものにあるのではなく、それをどのような仕組みで処理し、誰がどのように意思決定に結びつけるかに依存するという点である。災害時のOSINTの核心は、公開情報の収集ではなく、それを現場で機能する知識へと変換する運用と制度の設計にある。
注
- OSINT オシント。オープン・ソース・インテリジェンス(Open-Source Intelligence)の略称。公開情報を収集、分析し、利用する手法。収集する情報は、マスメディアの報道や政府や企業の公式発表、SNSの投稿など、多岐にわたる。 ↩︎
- 「①Vieweg et al.(2010)——SNSが災害時の状況認識に貢献しうることを示した」
Viewegらによる論文「Microblogging during two natural hazards events: what twitter may contribute to situational awareness」(2つの自然災害イベントにおけるマイクロブログ:Twitterが状況認識に貢献できるもの)を指す。 ↩︎ - 「②Imran et al.(2015)——膨大な情報から必要な情報をどう取り出すか」
Imranらによる論文「Processing Social Media Messages in Mass Emergency: A Survey」(大規模緊急事案におけるソーシャルメディアメッセージの処理:調査)を指す。 ↩︎ - 「③Backfried et al. (2012)——「OSINT」を災害管理に結びつけた」
Backfriedらによる論文「Open Source Intelligence in Disaster Management」(災害管理におけるオープン・ソース・インテリジェンス)を指す。 ↩︎ - 「④藤代・松下・小笠原(2018)——「情報トリアージ」を誰がどう担うか」
「④藤代 裕之、松下 光範、小笠原 盛浩による論文「大規模災害時におけるソーシャルメディアの活用―情報トリアージの適用可能性」を指す。 ↩︎
