AI搭載の監視カメラを大規模監視に結び付けるのは誰か

AI駆動型の監視デバイスは急速に拡大し、一般化されつつある。それらのツールの利用に関して法執行機関と民間企業の間に引かれていた境界線も、どんどん曖昧になりつつあるのかもしれない。米国の多くの大手小売業者は現在、全国各地に存在する店舗の駐車場にALPRカメラを設置しているが、いま問題視されているのは「そのようなデバイスへ法執行機関が自由にアクセスすること」だ。
電子フロンティア財団(EFF)が入手した公的記録によると、テキサス州ジョンソン郡の保安官事務所は、最大手ホームセンター二社の店舗が所有しているFlock SafetyのALPRカメラへのアクセスを可能としていた。
Flock SafetyのALPRカメラ
ALPR(Automatic License Plate Recognition)は自動的にナンバープレートを認識する技術だ。Flock Safety社のALPRカメラは、この機能を搭載した監視カメラで、監視区域に入ったすべての車両のナンバープレートをスキャンし、記録することができる。
このデバイスを利用しているのは法執行機関だけではない。小売業者や医療関係施設、集合住宅などの民間組織も、監視区域(私有地)に入るすべての車両を記録する目的でFlock Safetyの監視カメラを使用している。
Flockのシステムは「警察が所有/運営するALPRカメラ」をネットワーク化することができる。そしてFlockのデバイスを利用する政府機関には「収集したデータを州レベル、もしくは全米レベルで共有する」というオプションがあるため、全国の法執行機関は多くの場合、令状なしで膨大なデータのリポジトリにアクセスできる。
ホームセンターと法執行機関のシステム融合
今回、EFFが入手した公的記録は、テキサス州ジョンソン郡の保安官事務所が「全米の173か所にあるロウズの店舗に設置されていたFlock Safety社のALPRカメラ」と「テキサス州内にある十数個所のホーム・デポの店舗に設置されていた同カメラ、および銃声検知マイク」にアクセスできることを示していた。
ホーム・デポ(Home Depot)とロウズ(Lowe’s)は、両社とも大型店舗を全国に展開している米国最大規模のホームセンターチェーンである。というより米国のホームセンター市場は、この2社だけでほぼ独占されている。そしてFlock Safety社製のALPRカメラは、それらの店舗の駐車場に入ってくる車両のナンバープレートを常時スキャンし、スナップショットで記録することができる。
つまり全米でホームセンターを利用する市民のほとんどは、ホーム・デポかロウズの少なくともいずれか(あるいは両方)の顧客であるため、買い物へ行くたびにFlock Safety社製のALPRカメラでスナップショットを記録されている(徒歩客は撮影を免れるが、米国のホームセンターへ徒歩で行く顧客は極めて少数派だろう)。
Flock社によると「民間企業の記録した全てのデータがFlock社に集積され、そのネットワークが法執行機関とも共有されている(あるいは両方のネットワークが融合されている)」のではない。民間企業と法執行機関の間でのデータ共有は、あくまでも一対一ベースで行われることであり、各企業と各機関が個別に契約を結ぶ必要があると同社は説明している。また「全米/州でデータを共有する」というオプションは法執行機関だけに許可されており、さらに民間企業は法執行機関のデータにはアクセスできないという。
同社の説明が正しいのであれば、ホーム・デポとロウズは、少なくともいずれかの警察機関と一対一の契約を結んでいる。それは単にデータの共有ではなく、デバイスへのアクセスも伴った一方的な受け渡しの契約だということになる。
このような「監視カメラを運用する一般企業と法執行機関との連携」には裁判所の許可が求められず、あくまでも各々の企業と機関の間で交わされる契約に委ねられているという点も危険だ。それは全米レベルの大規模な共有(=たとえ大手小売店が地元の警察機関だけと契約したのだとしても、彼らには「シェア」のオプションが与えられているため、結果として州を越えた法執行機関間と共有できる)に繋がるのだが、それを企業側が、そして企業の顧客がどこまで把握しているのかは全くの不明だ。
404 Mediaの取材に対し、Flock社は「各社のセキュリティチームが法執行機関と地域レベルで協力することもある」と述べているものの、その協力の具体的な内容については明らかにしていない。
ウィスコンシン州のケース
Flock SafetyのALPRカメラの普及と民間/法執行機関の共有に関するニュースは、つい数日前にも報じられたばかりだった。FOX6 News Milwaukee(FOX系列だがウィスコンシン州の地元密着型メディア)の報道によると、現在ミルウォーキーの8郡地域にある36の主要警察署のうち27か所がFlock SafetyのALPRカメラを利用しており、これらのカメラは法執行機関がアクセスできる全国規模の車両追跡データベースにデータを提供しているという。
この記事は、「Flock SafetyのALPRカメラによって構成される監視のネットワークが、犯罪の捜査にメリットをもたらした具体例」を最初に紹介してはいるものの、誌面の多くは「地域住民のプライバシーの侵害」「監視の範囲と秘密性」に対する強い懸念を示した内容となっており、地元の法執行機関とFlock Safetyの繋がりに関しても批判の目を向けている。
今回FOX6が入手したメールによると、多くの警察署は「Flockの導入準備に数ヶ月から数年をかけて秘密裏に行って」おり、またFlockの担当者は警察に対して、「報道をコントロールする方法」を積極的に指導してきたという。たとえば警察署長の名前入りで「Flockのカメラが犯罪を70%以上削減する」という主張(※検証されていない)が地元のプレスリリースには掲載されている。この状況について、同誌は次のように記した。
「ウィスコンシン州では、公的な透明性と監督が欠如していることが露見している」
AI搭載型の監視カメラの導入、および一般企業と法執行機関の連携が、犯罪の捜査に貢献できるのは間違いないだろう。このようなシステムを利用すれば、法執行機関は令状なしで、自らの所有するFlockのカメラと、契約した民間企業のカメラの両方を使ってデータを取得/照会できる。それが容疑者の素早い逮捕に繋がる可能性は充分に考えられる。
しかし当然、このような監視のインフラは「本来、それぞれの警察組織に与えられているはずの権限」を大きく超え、さらに地理的な管轄も超えて、車両の動きを大規模に捜索できるようにするものだ。それを行う際の障壁は何もない。特定の条件や令状も必要とせず、全米の管轄区域へ自由にのびのびとアクセスできてしまう。そして、この監視インフラの運用に関する国民の同意は得ていない(というよりも認識すらされていない)。
何が問題なのか
とはいえ、どこにでも監視カメラが存在してくれているおかげで安心して暮らせるのだ、少しでも犯罪が減らせるのであれば、犯人の逮捕に繋がるのであれば、このような連携は大歓迎だ、監視カメラを恐れるのは悪人だけだと考える市民もいるだろう。
しかし監視の対象となるのは「全米の店舗や私有地に設置されたカメラの前を通過する全ての車両」だ。それらがキャプチャされ、タイムスタンプが付与され、統制されたデータベースにアップロードされ、警察機関に照会されるという状況が意味するものは大きい。このシステムを利用すれば、全てのドライバーに対する「事実上の大規模監視」が可能になるからだ。なんら後ろ暗いところのない一般市民でも、いつどこに行ったのかが記録される監視社会では、人々の日常の活動に萎縮効果がもたらされる。「1984」のようなデストピアを思い起こす人もいるだろう。
そしてALPRカメラの監視ネットワークの拡大が「1984」より恐ろしいのは、そこにエラーや誤検出の可能性があることだ。効率化を図ったデータ収集型のシステムを利用すれば、まったくの無実の人々が拘留、尋問、起訴などの対象となる可能性が高まる。さらに、これらのデータは一度収集され記録されると回収が困難で取返しがつかない。また何らかの失敗でデータが漏洩した場合(あるいは法執行機関に勤める個人が良からぬことを考えた場合)、それは何の制限もなく悪用されてしまう。
そして現在の米国の置かれている状況を考えるなら、最も恐れるべきなのは「濫用」の可能性だろう。たとえ犯罪捜査を目的としたデータベースであっても、そのデータベースにアクセスできる人間は、あらゆる用途でシステムを活用できる。それは「デモ活動の参加者」「移民」などの監視やリスト化に利用されかねないだけでなく、ごく普通に生活する米国市民であってもデータを照会される可能性がある。
いま三権分立の機能不全が懸念されている真っ最中の国、しかも「景気の動向を報告したデータが気に入らないので、労働省の担当局長の解雇を命じる」などと言い出すような政権下では、お気持ち次第で誰が監視の対象になるのか分かったものではない。
たとえ熱狂的なトランプの支持者であり、かつ米国生まれの白人シス男性であったとしても、「自分は対象にならないから大丈夫だ」ということは決してない。一度確立された監視のシステムは撤回される可能性が低い。それを民主党や別のリーダーが使用する番になったとき、その人物が真っ先に監視や照会の対象となる可能性は充分にあるだろう。
テクノ・オーソリティと企業間の競争
そして「企業と法執行機関の連携により、大規模監視が行われる可能性」は、Flock社のALPRカメラだけに示されているものではない。つい先日にはEFF(電子フロンティア財団)が、家庭用セキュリティカメラ「Amazon Ring」に関する報告を行ったばかりだ。EFFの記事によると、Amazonが所有する家庭用のスマートホームセキュリティ「Amazon Ring」が、米国の一般市民に対する大規模監視を再び推進しているという。
法執行機関がユーザーの同意も捜査令状も得ないまま、特定の人物(たとえば抗議活動の参加者)を監視する目的でRingの映像を入手したという事例は、過去にいくつか報道されてきた。このことにより米国市民の抗議を受け、また規制当局の調査を受けたRingは、プライバシーの保護を目的とした改革を行ってきた。具体的には「法執行機関がRing経由でユーザーの映像を直接的に要求することを可能にしていた提携の終了」「ユーザーの動画に対するエンドツーエンドの暗号化の導入」などだった。
しかし現在、その改革が部分的に撤回されつつあるという。今年(2025年)Axon社と提携したRingは、「警察がRingのカメラの録画映像/ライブ映像の両方へのアクセスを直接ユーザーに要求できるツール」について計画中であるという。さらにRingは「AIファースト」の企業になることを発表しているため、それは顔認識などのより高度な分析への移行を示唆するのではないか、とEFFは懸念している。
EFFは、Ringが実現しようとしているシステムについて「何百万もの一般家庭をオンデマンドの警察監視拠点とするもの」だと表現している。このような流れについてEFFは、法執行機関が犯罪に対処するために起きているものでなく、「警察や防衛関連との有利な契約をめぐるテクノロジー企業同士の競争」によって引き起こされたものだと主張している。
出典
Home Depot and Lowe’s Share Data From Hundreds of AI Cameras With Cops
https://www.404media.co/home-depot-and-lowes-share-data-from-hundreds-of-ai-cameras-with-cops/
Retailers share AI vehicle tracking data with police _ FOX6 Milwaukee
https://www.fox6now.com/news/retailers-ai-vehicle-tracking-data-police
Amazon Ring Cashes in on Techno-Authoritarianism and Mass Surveillance _ Electronic Frontier Foundation
https://www.eff.org/deeplinks/2025/07/amazon-ring-cashes-techno-authoritarianism-and-mass-surveillance
Ring Reveals They Give Videos to Police Without User Consent or a Warrant _ Electronic Frontier Foundation
https://www.eff.org/deeplinks/2022/07/ring-reveals-they-give-videos-police-without-user-consent-or-warrant
