「Sora2」に見るOpenAIのしたたかな戦略とブラックボックス化する「Sora2」

「Sora2」の衝撃
OpenAIが2025年の9月末に動画生成AI「Sora2」を公開した。
その能力の高さに驚いた人は多かったようだ。
「Sora2」は動画にしてほしいことをテキストにして伝えるだけで、動画を音声つきで生成してしまう。
生成された動画に違和感はなく、現実にはあり得ないシーンも映画レベルとはいかずとも高いクオリティで生成する。
たとえば、「赤ちゃんがフリスビーを遠くへ投げる」と入力すると、赤ちゃんがフリスビーを飛ばす動画が簡単にできてしまう。
「Sora2」は公開直後から話題となり、あらゆるものが生成された。
その中には、ドラゴンボール、ワンピース、鬼滅の刃、進撃の巨人――。
日本のアニメのキャラクターたちが、生成者の思う通りに動き喋った。
https://kotaku.com/openai-sora-2-videos-pokemon-spongebob-dragon-ball-2000631137
「Sora2」と著作権
「Sora2」の公開当初、著作権についてオプトアウト方式をとっていた。
著作権は本来、オプトイン方式だ。
オプトインは映像や音楽の権利者に許諾を得てから使用するという方式で、オプトアウト方式はこの逆となる。
映像や音楽など、「Sora2」で生成動画として使用されたくなければ、権利者が申請しなければならない。
申請がない限り、勝手に使いますというのがオプトアウト方式となる。
https://www.reuters.com/technology/openais-new-sora-video-generator-require-copyright-holders-opt-out-wsj-reports-2025-09-29/
公開当初こそオプトアウト方式を採用していた「Sora2」だったが、
業界の反発や報道などを受け、OpenAIのCEOはオプトイン方式への変更を表明している。
その後、映画や日本アニメなどが簡単に生成できることはなくなったようだ。
https://techcrunch.com/2025/10/04/sam-altman-says-sora-will-add-granular-opt-in-copyright-controls/
ディズニーはどうだったのか?
公開当初から、日本のアニメはあらゆるものが生成できた。
あのディズニーはどうだったのか。
ミッキーマウス、ドナルドダック、アリエル、ウッディ、ニモ――。
少し考えるだけでもいくつも出てくる。さらにディズニーはマーベル系も傘下にしている。
アイアンマン、ソー、スパイダーマン、キャプテン・アメリカ――。
さらにはスター・ウォーズ、トイ・ストーリーを作成しているピクサーなどきりがない。
日本のアニメと違い、これらのキャラクターは「Sora2」の公開直後から生成できなかった。
問題が指摘されてから制限のかかった日本のアニメとは大きな隔たりがある。
報道が錯綜し不透明な部分もあるが、いくつかの報道ではOpenAIがディズニーに対してオプトアウト方式について事前説明し、ディズニーがオプトアウト申請を行ったとある。そのため公開当初から生成制限がかかっていたようだ。
https://www.reuters.com/business/media-telecom/openai-launches-new-ai-video-app-spun-copyrighted-content-2025-09-30
日本のアニメはなぜ生成されてしまったのか
公開当初、あらゆるアニメが生成可能だった日本アニメ。
OpenAIが日本アニメの管理者へオプトアウト申請について事前説明を行っていたかは定かでない。
だがやっていたにせよ、その働きかけは極小さなアクションだった可能性が高い。
ディズニーとの大きな差は、訴訟リスクの低さにあると考えられる。
日本アニメは多くの場合、製作委員会方式をとっており、多数の会社が出資しあって作っている。
そのため思惑の違う複数の会社が権利を持っており、意思を統一しにくい状況にある。
ある会社は動画生成されることで知名度が上がると考え、もう一方の会社ではアニメのイメージが落ちると考えたりするからだ。
その状況はOpenAIからすれば、訴訟リスクは低いと見えるだろう。
ディズニーの訴訟リスクと比較するまでもない。
法務が強いと言われる任天堂はどうだったのか
「Sora2」の公開直後、任天堂のキャラクターたち――マリオ、ゼルダ、ピカチュウ、カービィ、サムスはどうだったのか?
こちらもまた、また生成し放題だった。
法務が強いとされる任天堂の訴訟リスクについて、OpenAIは検討しなかったのだろうか。
任天堂には多くの裁判で勝利してきた実績がある。
しかし、生成制限はかけられなかった。
確かに任天堂は多くの裁判で勝利してきたが、ディズニーと決定的に違うものがある。
キャラクターに対する訴訟姿勢だ。
任天堂はキャラクター単体について訴訟を起こすことは稀で、訴訟の多くは技術的なものが多い。
任天堂はあくまでもゲームが基本であり、キャラクターはその構成要素の一つなのだ。
対してディズニーは違う。キャラクター単体でも訴訟し戦う。
それはディズニーにとって、キャラクーこそが価値そのものだからだ。
OpenAIの戦略
「Sora2」は訴訟リスクを天秤にかけながら公開された可能性が高い。
そのため公開直後は著作権意識が突出しているディズニーのみが生成不可となり、リスクが低いと判断された日本アニメなどは生成可能となっていた。
だが公開後、日本アニメや任天堂のキャラクターなどが生成できることが話題となり、メディアでも大きく取り上げられた。
さらには日本政府の要請やハリウッド業界の懸念表明などもあった。https://www.theverge.com/news/799938/japan-government-openai-sora
https://www.eweek.com/news/hollywood-mad-at-openai-again/
「Sora2」のオプトアウト方式は、高い訴訟リスクを抱える戦略だ。
それでもOpenAIがその戦略をとったのは、利用者に動画生成の革命的な体験をさせて、市場を拡大することを優先したからだろう。
オプトイン方式で生成できる動画では、利用者の心を動かす体験は提供できない。
市場拡大するにはリスクを取るべきだと判断した可能性がある。
そしてリスクを取っていることを意識していたからこそ、世間の反応には機敏に反応した。
公開一週間ほどでオプトアウトからオプトインへの変更を表明し、実際に生成できなくなった。
無制限に生成できた期間はたった一週間。
だが「Sora2」は人々に強烈な印象を残した。
すべては解決したのか
現在、日本アニメについては生成制御がかかっている。
俳優についても同様だ。
だが、故人の俳優の制御については微妙なところがある。
「Sora2」の公開当時、故人で俳優のロビン・ウィリアムズの生成された動画が大量に出回った。
娘はその事実にやめてほしいと訴えていた。
https://techcrunch.com/2025/10/07/you-cant-libel-the-dead-but-that-doesnt-mean-you-should-deepfake-them/
ロビン・ウィリアムズについては、現在は生成しようとするとエラーが出て生成不可となっている。
だが、同じ故人でもジェームズ・ディーンやチャップリンは生成可能だ。
ジェームズ・ディーンやチャップリンが歴史上の人物として処理されている可能性もあるが、本当のところはわからない。
故人に関する肖像権は著作権と違い、死亡すると消滅する国が多い。それも関係しているのかもしれない。
さらに日本の故人の俳優についてはもっとひどい状態だ。
三國連太郎や松方弘樹など、日本アニメが生成できなくなった後も自由に生成ができる。
「生成できません」のエラーが出ることはない。
ただ、あまり似ていないのが救いといったところか。
信じられる革命
現在、「Sora2」生成制御はブラックボックス化しており、その制御も右へ左へと目まぐるしく切り替わっている。
動画生成は革命的な一歩であり、我々がその過渡期に立ち会っているのは間違いない。
だからこそ、混乱し右往左往する状態も含めて、制御に関しては明確な透明性を提示をすることが重要なのでないだろうか。
たとえ、やり方に問題があるにせよ、それが透明化された状況での実施だったかどうかで人々の評価は大きく変わるだろう。
ブラックボックスのままでは、動画制御に思想的、政治的なことが入り込んできても使用者は気づけない。
問題が起こった後では、それからクリーン化を主張しても誰も信用しなくなる。
より豊かな未来を人類が享受するためにも、「Sora2」には透明性ある制御を期待している。
