『貧者の薔薇』が消し去る安全地帯と、最前線に漂う『ウェブシューター』

戦場に現れたシャヘド型ドローンとは何か
シャヘド型ドローンとはイランが開発した自爆型ドローンだ。
最初に中東の戦場でその姿を現した。
だが、それが“戦争の形を変える兵器”として覚醒したのは、2022年のウクライナだった。
- シャヘド型ドローン 『Shahed-136』
- 航続距離:約1,500km級
- 巡航速度:時速150~200km
- 飛翔高度:700~2,000m
- 誘導:慣性航法(INS)、衛星測位(GPS/GLONASS等)
- 推進:ピストンエンジン+後部プッシャープロペラ
https://www.rusi.org/explore-our-research/publications/commentary/russias-iranian-made-uavs-technical-profile
シャヘド型ドローンは上記性能を保有し、発射についてはシャヘド型ドローンを搭載したトラックのレール上から複数同時に打ち上げられる。
スペックだけ見れば、これを上回る兵器はすでに存在する。
だが、シャヘド型ドローンはスターリンクに並び、現代戦を変える兵器になりえるものだった。
突出したシャヘド型ドローンのパフォーマンス
シャヘド型ドローンは敵の重要拠点へ飛び、ミサイルとして着弾する兵器だ。
前述のように似たような兵器はすでに存在する。
巡航ミサイルだ。
- 巡航ミサイル(トマホーク)『Tomahawk cruise missile Block IV / Block V』
- 航続距離:約1,600km
- 巡航速度:時速885km級
- 飛翔高度:地上約30m前後の極低空
- 誘導:慣性航法(INS)、地形照合航法(TERCOM)、画像照合航法(DSMAC)、全地球測位システム(GPS)
- 推進:ターボファンエンジン+発射時固体燃料ブースター
https://www.navy.mil/Resources/Fact-Files/Display-FactFiles/Article/2169229/tomahawk-cruise-missile/
https://missilethreat.csis.org/missile/tomahawk/
シャヘド型ドローンより遥かに高性能で着弾精度が高く、レーダー探知が難しくなる超低空を高速で飛翔する。さらに言えば破壊力も桁が違う。
ただし、ひとつだけシャヘド型ドローンにあり、巡航ミサイルにはないものがある。
それはコストパフォーマンスだ。
巡航ミサイルは一発あたり、数億円と言われる。
一方、シャヘド型ドローンは一発あたり、数百万円。
乗用車一台分程度の値段しかしないのだ。
その価格差は、なんと最大で百倍近くになる。
この圧倒的なコスト差は、未来の戦場にすさまじい変化を引き起こす可能性がある。
そして事実、それはウクライナ戦争において証明された。
https://www.csis.org/analysis/calculating-cost-effectiveness-russias-drone-strikes
シャヘド型ドローンのコスト非対称が生み出す戦略的効果
ウクライナ戦争において、ロシア軍がシャヘド型ドローンを使用して標的にしたものは多岐にわたる。
発電所、変電所、送電設備のインフラ設備。
さらに都市部の住宅や商業施設も狙われた。
これらの攻撃は生活そのものを破壊し、日常を奪うことで精神的に追い詰めるものだった。
一方でウクライナ軍はシャヘド型ドローンを打ち落とすために、迎撃ミサイルや機関砲などで対処した。
迎撃ミサイルもまた、巡航ミサイルに負けず劣らずの高価な兵器だ。
『パトリオット』、『AMRAAM』――。
『パトリオット』は一発あたり数億円、『AMRAAM』も一億を優に超える。
これらの高価な迎撃ミサイルがシャヘド型ドローンを撃ち落とすたびに、大金が光の瞬きとなって消えていく。
乗用車一台分の価格しかしないシャヘド型ドローンを一発打ち落とすたびに、最大数億円が消えるのだ。
そのコスト差はすさまじく、攻撃が繰り返さればされるほどウクライナ軍は疲弊していく構造となった。
シャヘド型ドローンは巡航ミサイルと比べて威力や精度は弱いが、その圧倒的なコストパフォーマンスを武器に大量に作ることができる。
そのため一回の作戦で数十発ものシャヘド型ドローンを同時発射し、防空網を飽和させる攻撃が可能なのだ。
一発でもかいくぐればいい。
あるいはかいくぐれなくてもいい。
ウクライナ軍は迎撃ミサイルという高価な兵器を消費していくからだ。
命中精度もそこそこでよかった。
最初から全弾命中が目的の運用ではない。
数十発放たれたシャヘド型ドローンのうち、いくつかが着弾すれば目的は達せられる。
すべては数で押し切る。
それがコストパフォーマンスに優れるシャヘド型ドローンの戦術だった。
シャヘド型ドローンが消失させる安全地帯
シャヘド型ドローンの出現により、戦争はどう変わっていくのだろうか。
従来、長距離打撃は、巡航ミサイル、戦闘機といった国家戦略レベルの資産に限られていた。
それがシャヘド型の登場により、より低コストでの大量生産が可能となり、運用ハードルが低下した。
それは国家戦略として、ここぞという局面でピンポイントにしか使用されなかった兵器が、軍単位で、かつ面単位で大量に使用できるようになったということだ。
発射コストがこれまでよりもワンランク低くなった事実は、戦場から1,000キロ先にある都市部への攻撃ハードルも押し下げる。
それは1,000キロ先も戦場ということであり、後方の安全地帯が消えてしまったことを意味している。
https://www.csis.org/analysis/drone-saturation-russias-shahed-campaign
現代に現れた『貧者の薔薇』
漫画『HUNTER×HUNTER』において『貧者の薔薇』という兵器が登場する。
超小型、低コストでありながら、核爆弾と同等の威力を持つと設定された兵器だ。
ここまで飛び抜けた兵器ではないが、シャヘド型ドローンにはその片鱗がある。
低コストで長距離打撃が可能になるということは、使用できるのが国家だけではないことを示しているからだ。
準国家、民兵組織、傭兵会社――。
さらには資金力を持つテロリストグループも保有し使用しうる可能性がある。
それは戦争へのハードルがこれまで以上に低くなっていくことを示している。
同時に出現する白い最前線
シャヘド型ドローンにより戦場が拡大していく一方、最前線では短距離操縦型のドローンは使えなくなってしまう可能性がある。
最前線では幾重にもジャミングが重ねられ、通信がほぼ使えないブラックアウト空間が出現することもあるからだ。
そこに登場するのが光ファイバーだ。
細く白く輝く有線光ファイバーを通じて、リアルタイム通信で兵士がドローンを操縦して攻撃を仕掛ける。
戦場の最前線では技術は原始化し、有線操縦が確実な手段となっていくだろう。
昭和の時代にあった有線のリモコン戦車。
あの現代版が最前線の戦場に蘇るのだ。
無線通信を潰すジャミングは、有線である光ファイバー通信には効果がない。
最前線の戦場には、スパイダーマンが放つ『ウェブシューター』のような白く細い糸が、あらゆるところで漂うことになるだろう。
変質していく戦争
戦場は私たちの想像から変化しつつある。
最前線では幻想的な戦場が展開され、後方は1,000キロにも及ぶ地帯が、自爆型ドローンの飛来エリアと化す。
シャヘド型ドローンはセンセーショナルな兵器だ。
だが、ウクライナ軍も対抗し似た兵器を作り始めている。
互いに危険だけが広がっていくだろう。
一般市民が暮らす場も常に危険にさらされる新しい戦争。
そんな地獄が目の前まで迫りつつあるのかもしれない。
