bioshokの最新AI事情 2026年5月16日~5月22日

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偏執的に世界中のAI情報を収集・発信するbioshokの週刊連載。この1週間にピックアップした主要ニュースをまとめて紹介。

目次

【要約】

トランプ政権 ── 規制を巡る混乱と方針転換の繰り返し
トランプ政権のAI政策が激しく揺れた一週間だった。先週報じられていたAI関連の大統領令について、デイビッド・サックス氏が業界の懸念を伝えたことを受け、トランプ大統領が撤回。「それは我々が中国をリードする上で邪魔になる」と語った。一方でヴァンス副大統領は「安全とイノベーションのバランスを取りたい」と発言しており、昨年のトランプ政権からは考えられなかったトーンの変化だ。

MAGA支持層の内部対立も深まっている。スティーブ・バノン氏と保守系団体「ヒューマンズ・ファースト」が連名書簡で、最も強力なAIシステムの配備前に義務的な試験・評価・政府承認を求める政策を支持すると表明。AI企業CEOを「選挙で選ばれていないエリート」と批判し、「アメリカ・ファーストとは国民の保護を最優先にすることだ」と主張した。テクノリバタリアンとMAGA保守派のAI規制を巡る亀裂がさらに鮮明になっている。

米中関係・地政学
トランプ大統領はエアフォース・ワンで「中国とガードレールのために協力するつもりだ」と改めて明言。米上院ではレイ・カーツワイル氏、ワーナー上院議員、ラウンズ上院議員らがAGIと国家安全保障について議論する場が設けられた。

OpenAIは「GPT-5.5-サイバー」の日本への提供を検討中で、EUとも協議している。中国のAI開発加速を受け、同盟国間のサイバー防衛連携を深める動きだ。

ミドルパワー戦略 ── AGI前提の生存戦略が具体化
Tom Davidson氏が英国・欧州・日本・韓国・台湾を念頭に、知能爆発後の世界を生き残るためのミドルパワー戦略レポートを発表した。米国は超知能があれば同盟国を必要としなくなるため、切り捨てられる前に半導体サプライチェーンや投資を交渉材料にしてフロンティアAIへのアクセス権を確保し、経済的結びつきを強固にすべきだとする。最悪のシナリオでは、米国が同盟国を切り捨てるなら中国を支援すると脅迫するオプション、米国データセンターへのキルスイッチ設置交渉、核兵器による抑止維持も検討すべきとされている。これとは対照的に、超知能開発を止める国際協定をミドルパワー中心に作るという方向性も提唱されている。

最先端モデルが米国の一部企業に集中する中、日本政府はClaude Mythosへの対応案をまとめ、AISIと連携してサイバー防御の企業向け指針を策定する方針を固めた。情報システム提供企業にAIによる脆弱性点検を求める内容となる見通しだ。

METR ── 主要4社がモデルと内部情報を初公開
Anthropic、Google、OpenAI、Metaが自社の最も高性能なモデルと内部情報をミスアライメントリスク評価のために初めてMETRに公開した。44件のインシデントを分析し、AIエージェントの逸脱事例を「どれだけ権限外に踏み出したか」と「どれだけ発見しにくかったか」で整理。結論として、2026年初頭のAIは本格的なAI乗っ取りにはまだ遠いが、小規模な逸脱・欺瞞はすでに観測事例の範囲内に入ってきている。METRはこのリスクが今後数か月から2026年後半にかけて急速に増大する可能性があるとしている。

OpenAI ── 数学の未解決問題を自律的に解決
OpenAIの内部汎用推論モデルが離散幾何学における中心的な予想を否定した。数学の一分野における中心的な未解決問題がAIによって自律的に解決された初の事例とされ、フィールズ賞受賞者のティム・ガワーズが「AI数学における画期的な出来事」と評価している。OpenAIはイリノイ州のSB315(第三者監査を含むAI安全法案)を支持する姿勢も示しており、規制への態度が変化し続けている。

安全性・アライメント研究
「Humanity-in-the-Circle」と題するポジションペーパーが発展を続けている。AIコントロールのパラダイムだけでは制御が及ばなくなった世界を考察しにくいため、共生という観点を深層防護の最外層に据える試みだ。急速に進歩するAI能力の現状を踏まえると、共生を「百年後の話」と捉えていては人類が急速にマイノリティ化し消滅するリスクがあるため、今から望ましい関係性やシステムを真剣に考える必要があるとしている。
元OpenAI安全研究者のPage HedleyとSteven Adlerが独立系非営利団体「Guidelight」を設立。独立した専門家、AI企業、一般市民と協力し、重要な安全対策の標準や慣行の定義と普及を目指す。AIによる形式検証がバグ検出競争においても楽観材料になるとの議論も出ている。

Anthropic ── Jack Clark氏の予測
Jack Clark氏が一連の予測を発表した。AIは12か月以内にノーベル賞級の発見をし、二足歩行ロボットは2年以内に企業業務を支援するようになり、AIシステムは2028年末までに自らの後継機を設計できるようになり、AIのみで運営される企業は18か月以内に数百万ドルの収益を上げるとしている。最も控えめな予測でも、機械経済と人間経済の分離、ロボットの知能化、人間不在での科学進歩など、経済と社会の広範な変化が起きるとしている。

経済・産業への影響の見積もり
米国産業関連表に基づく分析では、現状技術でAGIが全産業に導入されてから1~2年の倍加スピードに到達するまで7~8年かかるとの見積もりが出ている。ただしAGI導入後に工場設計の効率化や建築ラグの短縮が可能なら、最初の倍増期間がさらに短くなる可能性もある。AIが爆発的成長をもたらすか否かの見解の違いは、タスク代替の範囲、制度・導入摩擦、アイデア生産の自動化という3つの前提の置き方に依存するとの分析も出ている。

日本
自民党AI・web3小委員会(委員長:平将明)が「AIホワイトペーパー2.0 ―AI駆動型国家への構造転換―」を取りまとめ、5月19日に党政調審議会で正式提言として了承された。

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全体として、トランプ政権内でAI規制の撤回と再検討が繰り返される混乱の中、MAGA保守派からも規制を求める声が上がり、米国の政治的コンセンサスが急速に再編されている一週間でした。METRへの主要4社のモデル公開、ミドルパワーの知能爆発後の生存戦略、OpenAIによる数学未解決問題の自律的解決、そして共生パラダイムの深化が同時に進行しており、AGIを前提とした議論が政策・研究・地政学のすべてで主流化しつつあります。

【詳細】

  • 「AGIピル」を飲んだTom Davidsonによるミドルパワー戦略(バーティカルAIとかの話一切無し)。米国は超知能があれば同盟国を必要としないため、切り捨てられないように今から半導体サプライチェーンや投資を交渉材料にしてフロンティアAIへのアクセス権を結び経済的結びつきを強固にするべきだし、最悪知能爆発が起きて米国が独立するなら中国を支援すると脅迫するオプション、米国データセンターにキルスイッチを作る交渉、核兵器による抑止維持も検討するべきと考えられている。これは英国、欧州、日本、韓国、台湾を念頭に今後の知能爆発世界を生き残るために書かれたレポートだ。またこの戦略とは対照的に超知能の開発を止めるように国際的な協定をミドルパワー中心に作るという方向性もAGIピルを飲んだコントロールAI中心に提唱されている。
    https://x.com/i/status/2057749018562945117
  • 米国産業関連表から現状技術で1-2年での産業の倍加スピードはあり得て(part1)、1-2年の倍加スピードになるのに、現状のアメリカの産業構成だとAGIが全てに導入されてから7-8年かかるというのが最新の見積もり(4-5年で一度倍増、2年で倍増、1年で倍増という感じ。part2)。しかしこれらは現状技術でというのがポイント。AGIが導入されたあとにもっと効率的な工場設計とか建築のラグを短くするとかができるなら最初の4-5年かかっていた倍増スピードがもっと短くなる可能性もある。
    https://x.com/i/status/2056686958559256858
  • レイ・カーツワイル氏、AIPNのマーク・ビール氏、ワーナー上院議員、ラウンズ上院議員が、AGIと国家安全保障について語り合っている。
    https://x.com/i/status/2057936890876272960
  • 最先端のAI企業(Anthropic、Google、OpenAI、Meta)が自社の最も高性能なモデルと内部情報をミスアライメントリスク評価のために初めてMETRに公開した。44件のインシデントを分析しAIエージェントの逸脱事例を「どれだけ権限外に踏み出したか」と「どれだけ発見しにくかったか」で整理。結論は、2026年初頭のAIは本格的なAI乗っ取りにはまだ遠いが、小規模な逸脱・ 欺瞞はすでに観測事例の範囲内に入ってきているとのこと。METRはこのリスクは今後数か月~2026年後半にかけてAIの能力向上で急速に増える可能性があるとも見ている。
    https://x.com/i/status/2056827079271002380
  • ジャック・クラーク氏の予測:
    • AIは12ヶ月以内にノーベル賞級の発見をするだろう(人間と協働しながら)。
    • 二足歩行ロボットは2年以内に企業業務(職人など)を支援するようになるだろう。
    • AIシステムは2028年末までに自らの後継機を設計できるようになるだろう(RSIなど)。
    • AIのみで運営される企業は18ヶ月以内に数百万ドルの収益を上げるようになるだろう。
    • クラーク氏の最も控えめな予測では、経済と社会の広範な分野が劇的な変化を遂げるだろうとしている。その変化には、「機械経済と人間経済の分離、ロボットの知能化、人間不在での科学の進歩、そして人間が想像もしなかったが実際に機能する科学機器」などが含まれる可能性がある。
      https://x.com/i/status/2057901729937826119
  • デビッド・サックス氏が業界の懸念を表明したことを受け、トランプ大統領はAI関連の命令を撤回した。「私はそのいくつかの側面が気に入らなかった」とトランプ氏は木曜日の朝、記者団に語った。「それは我々が中国をリードし、あらゆる国をリードする上で邪魔になると思う。そして、私はその邪魔になるようなことは何もしたくない」
    https://x.com/i/status/2057755530807095331
  • OpenAIは「GPT-5.5-サイバー」を、日本に提供することを検討する。欧州連合(EU)とも協議しており、中国のAI開発が加速するなか、同盟国間の連携を深めて対策を急ぐ。
    https://x.com/i/status/2057633703581589754
  • OpenAIの内部の汎用推論モデルが離散幾何学における中心的な予想を否定。数学の一分野における中心的な未解決問題がAIによって自律的に解決された初めての事例との事。フィールズ賞受賞者のティム・ガワーズは、関連論文の中でこの結果を「AI数学における画期的な出来事」と評している。
    https://x.com/i/status/2057180230109012100
  • ヴァンスが安全とイノベーションのバランスを取りたいと言っている。去年のトランプ政権からは絶対に聞こえてこないような発言。
    https://x.com/i/status/2056937853142303027
  • GuidelightはPage HedleyとSteven Adler(いずれも元OpenAIの安全研究者)によって設立された、新しい独立系の非営利団体。独立した専門家、AI企業、一般市民と協力し、重要な安全対策の標準や慣行を定義し、その普及を促進するのがミッションとのこと。
    https://x.com/i/status/2056777755870847161
  • エアフォース・ワンでのAI政策に関する質問 に答えるトランプ大統領:
    トランプ大統領:『我々は話した。我々が大きくリードしている。でも彼らは2位で、とても強い。そして、ガードレールのために協力する可能性について話した』
    記者:どのようなガードレールですか?
    トランプ大統領:『我々がいつも話している 標準的なガードレールだ。AIは素晴らしい。 健康や医学の面で、たくさんのことが起こり 得る。手術。あらゆるもの。軍事。たくさんのことが起こり得る。でも、それにはいくつかの欠点もある。そして我々は話している… おそらくそうなるだろう。我々は協力するつもりだ』
    https://x.com/i/status/2055507836449206619
  • 自民党AI・web3小委員会(委員長:平将明)は「AIホワイトペーパー2.0 ―AI駆動型国家への構造転換―」を取りまとめた。本提言は、5月19日に自民党政調審議会で了承され、自民党の正式提言となった。
    https://x.com/i/status/2056614046061977971
  • AIによるバグ検出によって、安全なコード(ひいては信頼不要なものすべて)は不可能になると主張する人が多くいます。
    しかし、私はもっと楽観的な見方をしており、AIによる形式検証はその大きな理由の一つです。
    https://x.com/i/status/2056354141832626487
  • スティーブ・バノン氏と、保守派で反AI活動家のエイミー・クレマー氏とブレンダン・スタインハウザー氏が署名したこの書簡は、MAGA支持層の中でも声高に主張する一派が、ホワイトハウスのAIに対する消極的な姿勢と対立していることを示している。
    保守系団体「ヒューマンズ・ファースト」(スローガンは「テクノロジーは人間のためにあるべきであり、人間を置き換えるべきではない」)が作成したこの書簡は、AIを原子力システムや航空と比較している。
    「現在、あるいは近い将来、生物兵器の設計、重要インフラへの侵入、金融市場の操作などに利用される可能性のある、最も強力なAIシステムは、同様の真剣さと注意をもって扱われるべきである」
    「こうした理由から、我々は、潜在的に危険な最先端AIシステムが配備される前に、義務的な試験、評価、審査、そして政府の承認を求める政策案を支持します。これは、あなたが大統領在任中ずっと示してきた、力強く、原則に基づき、かつ現実的なリーダーシップの一例です」
    その書簡は、AI企業のCEOたちを「エリート」と呼び、具体的な名前は挙げずに批判している。
    「アメリカは、選挙で選ばれていないエリート層が何の安全策も責任追及もなく国民を実験台にすることを許してきたからこそ、世界最強の国になったわけではない。アメリカ・ファーストとは、アメリカの強さ、アメリカの安全保障、そして国民の保護を最優先に考えることを意味する」
    https://x.com/i/status/2056462197514277320
  • 政府がまとめる新型人工知能(AI)「Claude Mythos(クロード・ミュトス)」の対応案の全容が判明した。サイバー防御を強めるための企業向け指針をつくる。情報システムの提供企業にAIで脆弱性を点検するよう求める。政府はAIの安全性を評価する政府機関「AIセーフティ・インスティテュート(AISI)」と連携して指針を策定する。高性能AIでシステムの脆弱性を見つけて改修する手順やサイバー防御の体制のあり方などを示す見通しだ。
    https://x.com/i/status/2056282320228032530
  • AIが爆発的な成長をもたらすと考えている人とわずかな変化しかもたらさないと考えている人の違いは3つの前提にあるという記事。
    1つ目は、タスク代替の範囲。
    2つ目は、制度・導入摩擦。
    3つ目は、アイディア生産の自動化。
    https://x.com/i/status/2055980246839742905
  • 欧米圏のAIのコントロールというパラダイム「に加えて」共生パラダイムを模索する「Humanity-in-the-Circle」という戦略をポジションペーパーとして出された。AIコントロールというパラダイムだと制御ができなかった世界や徐々に制御が人類から離れていく世界における人類の安全性を考察することが難しいため、制御という観点に加えて、共生という観点を深層防護の一番大枠に据える試み。急速に進歩するAIのcapabiliityの現状を見ると、共生?そんなの百年後でしょ、みたいなノリでいると人類が急速にマイノリティになり、消滅する危険があるため、今から真剣に共生とは何か、どのような関係性やシステムが人類にとって望ましいのか、考えることが重要。
    https://x.com/i/status/2055319319664615624
  • AI規制に関する議論のトーンが変化するにつれ、OpenAIは時代の流れを察知。イリノイ州における最近の動向は同社が意義のあるAI安全法制化にますます前向きになっていることを示唆している。特にSB315という第三者による監査を含む法案を支持。
    https://x.com/i/status/2055366497091125408
  • 米国下院議員35名がホワイトハウスの国家サイバー長官Sean Cairncrossに送った書簡。Claude Mythosが大量のゼロデイ脆弱性を発見・解析・悪用できるようになってきているため、既存の脆弱性報告・検証・パッチ適用体制では処理しきれないので、政府主導で対応計画を作ることを要請している。またサイバーだけではなく、他のCBRNやAI研究自動化にも触れられている。
    https://x.com/i/status/2055349543957602358
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この記事を書いた人

bioshokのアバター bioshok リサーチフェロー

大学では半導体に関する研究をし、大学院では自然言語処理に関する研究を行う。
Xの @bioshok3 にてAIに関するトレンドとAIがもたらす深刻なリスクに関して発信している。

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