ドローン戦争に日本は間に合うか――ウクライナと組み始めた防衛産業の現在地

日本企業も噛んでいる迎撃ドローン『Terra A1』
現在、ウクライナを中心として各国の軍事ドローン開発が活発化している。
ウクライナ戦争でドローンの兵器としての価値がつまびらかになったからだ。
日本では軍事ドローン開発について話を聞く機会は少ないが、動きがまったくないわけではない。
『Terra A1』という迎撃ドローンがある。
これは日本企業のテラドローン社が、ウクライナのドローン企業Amazing Dronesに出資して共同開発したとされる小型迎撃ドローンだ。
『Terra A1』
この迎撃ドローンは、公開されている情報では、最高速度は300km/h、最大射程は32km、飛行時間は15分、最大運用高度は5000mとされている。
発射後10秒以内に200km/hまで加速できるのが特徴だ。

時速300kmで飛翔する『Terra A1』のサイズは、高さ470mm、幅270mm、長さ270mmとかなり小型だ。
外観はずんぐりとした小型爆弾のようで、サイズ感は少し大きめのリュックサックといったところだろうか。
この『Terra A1』の小ささと飛翔速度では、トマホークのような亜音速(時速約900キロ)で高速飛翔する巨大な巡航ミサイルを打ち落とすことはとてもできないだろう。
だが、『Terra A1』が想定する相手は、巡航ミサイルではない。
以前の記事で紹介した『シャヘド型ドローン』だ。
『Shahed-136』
イランのShahed Aviation Industries系が開発したとされる長距離攻撃ドローンで、都市部やインフラへの長距離攻撃に用いられている。

https://inods.co.jp/topics/news/9411/
安価ゆえに数で押してくる『シャヘド型ドローン』は時速150~200kmで飛んでくる。
それを時速300kmで飛翔する『Terra A1』が迎撃する。
『Terra A1』の存在意義は対ドローンだ。
安価な攻撃ドローンの脅威に対し、安価な迎撃ドローンで対応する。
この新しい防空モデルにある。
高価な迎撃ミサイルで、安価なドローンを撃ち落とすコスト非対称な時代はすでに終わった。
『Terra A1』は、その転換を示す機体の一つと言えるだろう。
『Terra A2』への出資
またテラドローン社は、ウクライナ企業Amazing Dronesとは別の会社にも出資している。
同じくウクライナ企業であるWinnyLab LLCで開発されたのが『Terra A2』だ。
『Terra A2』
このドローンは『シャヘド型ドローン』のような長距離攻撃用ドローンに対し、早期迎撃や広域防空を目的とした固定翼型迎撃ドローンだ。
公開情報ベースでは、最高速度は時速312km、最大射程は75km、飛行時間は40分、最大運用高度は5000mとされている。

『Terra A2』は翼幅が1メートル超で、両手で抱えられる程度のラジコン飛行機くらいのサイズとなる。
『Terra A1』より一回り大きく、フォルムは主翼と尾翼を備えた有人航空機に似ている。
最大飛行時間40分、最大航続距離75kmと『Terra A1』よりも長く、レーダーシステムとの連携能力も備える。
だが、『Terra A2』は『Terra A1』の後継機という位置づけではない。
以下のような連携が可能なためだ。
①『シャヘド型ドローン』の接近感知。
②『Terra A2』を飛ばし、目標地点から離れた場所で迎撃。
③『Terra A2』で撃墜し損ねた残りを『Terra A1』が迎撃。
このようなレイヤードな迎撃態勢が構築できる。
テラドローン社とは
民間発の上場ドローン企業であり、日本政府系企業ではない。
ただし、上場時の株主には官民ファンドである『JOIN』、政府の影響が強い『INPEX』も含まれている。
そこから見るに完全な民間資本のみで構成された企業というより、民間主導ながら政府系資本とも接点を持つ企業と言えるだろう。
テラドローン社のウクライナ企業への出資目的
テラドローン社は、「測量・点検・農業向けドローン、無人機運航管理システム」などの開発・提供を事業としている会社だ。
先に紹介した『Terra A1』は、オランダの子会社を通じてウクライナのドローン企業に出資し共同開発されている。
出資先のウクライナ企業Amazing Dronesについては、
「ウクライナの実戦環境、電子戦・通信妨害下で迅速かつ低コストに展開できる迎撃ドローンを開発している企業」と説明している。
そしてAmazing Dronesへの出資には、その技術・運用ノウハウを自社へ取り込む狙いがあるとしている。
支援を呼びかけるウクライナから、協業を望まれるウクライナへ
小国であるウクライナが、大国ロシアと戦い続けられているのは、各国の支援だけでない。
ブラッシュアップし続けているドローンの開発、運用、制度も大きな理由となっている。
それらが圧倒的に数が劣る人員と兵力を補ってきた。
結果、ウクライナは一方的に兵器支援を受けるだけの国ではなくなった。
ドローン、電子戦、AI、対無人機技術において、実戦で検証された知見を持つ国として注目される国となった。
西欧を中心とした約20カ国が、ウクライナとのドローン協業に関心を示し、EUは1億ユーロ規模のBraveTech EUを立ち上げている。
各国はウクライナを支援しているだけでなく、ウクライナから学ぼうとしている。
日本のテラドローン社もその動きの一つと言えるだろう。
https://cepa.org/comprehensive-reports/unleashing-defense-innovation/
ドローンを通じて世界とやりとりするウクライナ
ウクライナと他国政府や他国企業が協業する仕組みは数多く立ち上がっている。
中でも大きな入口となっているのが『Drone Deal』と『Test in Ukraine』だ。
『Drone Deal』
ウクライナが各国と進めるドローン協力の外交パッケージだ。
共同生産、資金支援、技術共有、対ドローン、電子戦、防空協力などを、相手国ごとに組み合わせ、ここを窓口にして具体的な枠組みを決めていく。
『Test in Ukraine』
外国企業のドローンなどの性能を、ウクライナの実戦環境で試すための窓口。
対象は飛行ドローンに限らず、地上ドローン、海上ドローン、電子戦、通信、AI、対ドローン技術などにも広がっている。
企業にとっては、自社技術が実戦で通用するかを確認できる稀有な場であり、ウクライナにとっては国外の技術を選別し、軍のニーズに合うものを取り込むための仕組みである。
『Drone Deal』が国家間の協力パッケージだとすれば、『Test in Ukraine』は企業や技術を実戦フィードバックへ接続するゲートウェイといえる。
『Drone Deal』から発展した実務的な枠組みとして代表的なものは以下がある。
『BraveTech EU』
EUとウクライナによる防衛テック協力の大型枠組みだ。
EUとウクライナがそれぞれ5000万ユーロを拠出し、総額1億ユーロ規模で、ドローン、AI、電子戦、対ドローン技術などの共同研究・試験・配備を進める。
ウクライナの実戦知見を、EUの産業基盤や研究開発力に接続する制度であり、具体的な実行段階の枠組みといえる。
https://www.euronews.com/my-europe/2025/07/11/ukraine-and-eu-launch-100-million-military-innovation-partnership-officials-in-rome-say
『Brave Germany』
ウクライナとドイツによる防衛技術開発プログラムだ。
対象はドローン、AI、レーザー技術、次世代通信、ミサイル技術などに広がり、両国の防衛スタートアップ支援や共同開発を進めるとしている。
予算について公開情報からは確認できないが、別枠でドイツとウクライナは総額40億ユーロ規模の防衛協力合意パッケージを発表している。
Brave Germanyについても相応の規模があると予想される。
https://mod.gov.ua/en/news/ukraine-and-germany-launch-brave-germany-a-joint-programme-for-defence-technology-development
その他ウクライナは、カナダやオランダともドローン協力の枠組みを公表している。
ドローン技術獲得における日本
日本はどのような動きをとっているのだろうか。
日本政府が主体的に動いているプロジェクトは現在のところ確認できない。
民間ではテラドローン社以外では、ACSL社がある。
『ACSL社』
日本発の産業用ドローンメーカーで、自律制御技術を核に、インフラ点検、物流、防災などの公共・産業用途で国産ドローンの開発を進めてきた企業だ。
こちらも政府系企業というわけではないが、防衛省・防衛装備庁への納入実績がある。
同社の小型空撮ドローン「SOTEN」については、政府調達や公共分野での利用を強く意識して開発された機体とされている。
https://www.acsl.co.jp/drone-soten/
ACSL社は『在日ウクライナ商工会議所』で設立予定の『日本ウクライナドローンクラスター』への参加が承認されたとしている。
『日本ウクライナドローンクラスター』を通じて、ウクライナのドローンに関する知見の獲得を目指していると考えられる。
『在日ウクライナ商工会議所』
2024年に日本とウクライナの経済交流を促進するために設立された民間系の経済交流団体であり、戦時下・復興期のウクライナと日本企業を結びつける経済連携の窓口となる。
ウクライナ企業にとっては日本市場への入口となり、日本企業にとっては復興需要や先端技術分野への参入窓口となると考えられる。
https://www.acsl.co.jp/news-release/press-release/4654/
『楽天グループ』
それ以外の動きとしては楽天グループがある。
楽天グループは、ウクライナ政府系の防衛技術クラスターBrave1と連携し、ウクライナの防衛テック・スタートアップの日本展開を支援している。
具体的には、2025年5月のDSEI Japanで「Brave1 Powered by Rakuten」としてウクライナのドローン企業が出展する場を作った。
楽天グループはドローンメーカーとして参入しているわけではないが、日本市場、日本政府、防衛産業との接点を作る“橋渡し役”を担っているといえる。
前に出られない日本政府のジレンマ
欧州各国は、ウクライナを単なる支援対象ではなく、実戦で鍛えられた防衛技術を保有するパートナーとして認識し協業を始めている。
共同生産、技術共有、スタートアップ支援、実戦環境での試験。
ウクライナとの協業は、軍事支援であると同時に、自国の防衛産業を強化する政策にもなっている。
一方、日本政府は同じようには動けない。
理由は大きく二つある。
『防衛装備移転三原則』
『防衛装備移転三原則』とは、日本の武器や防衛技術の海外移転を厳格に管理するための政府方針である。
法律そのものではないが、外為法などの輸出管理制度と結びつき、日本企業が防衛装備や軍事転用可能な技術を海外へ出す際の実質的な判断基準となっている。
この『防衛装備移転三原則』はウクライナとのドローン協業そのものを禁じているものではない。
問題は協業して実質的な共同開発や共同生産に進むほど、日本由来の部品、設計情報、制御ソフト、製造ノウハウなどをウクライナ側へ提供する必要性が出てきた時にある。
『防衛装備移転三原則』と外為法上の輸出管理がかかり、日本政府や日本企業がストレートに戦時下のウクライナと軍事ドローン開発を進めることは難しい。
『憲法9条と専守防衛』
日本には憲法9条と専守防衛をめぐる政治的な慎重さがある。
日本はウクライナ支援を行ってきたが、その中心は財政支援、人道支援、復旧復興支援、非殺傷装備の提供だった。
欧州のように、政府が軍用ドローンの共同開発や共同生産を打ち出すには、国内世論への説明が難しい。
実際、2022年に日本がウクライナへ防弾チョッキなどを提供するため運用指針を改定した際も、政府はあくまでも「非殺傷の装備品に限られている」と説明している。
この事例から見ても、ドローン共同開発は難しいと考えられる。
https://www.cas.go.jp/jp/gaiyou/jimu/bouei.html
https://www.mod.go.jp/j/publication/wp/wp2021/html/n210201000.html
https://www.youtube.com/watch?v=UG39VBQNbyk
片翼で戦うことになるかもしれない未来の日本
ドローンによって戦争は変わりつつある。
事実、ウクライナはドローンなどの無人機を、独立した軍種である『無人システム軍』として整備し、運用を始めた。
ウクライナと欧州のプロジェクトを見ても、この潮流は大国にも波及する可能性がある。
このまま世界の戦争がドローンを基軸の一つとして進み、日本が取り残されれば、日本は大きな柱を失った状態で防衛することになる。
例えるなら、陸海空のいずれか一つを失った状態で防衛するようなものだ。
それは片翼をもがれた鳥に等しい。
ドローンはそれほどの大きな可能性を秘めており、それを扱えなければ、脆弱な状態で防衛を強いられることになる。
日本はどうすべきか
日本が取るべき道は、欧州のように政府が前面に出て軍用ドローンを共同生産することではなく、現実的でもないだろう。
活路はある。
ドローン技術は軍事だけではない。
防災、インフラ点検、重要施設警備、離島・沿岸監視、災害時通信。
ドローンはそういったものにも必要とされている。
それらに積極的に資金を投じ、国産ドローンの技術基盤と量産基盤を育てていく。
当然ながら、それだけではドローンの軍事的知見を得ることはできない。
例えば、以下だ。
- 電子戦環境で何が壊れるのか
- GPSが妨害されたとき何が必要か
- 通信が切れたときどう帰還・継続するのか
- 現場が本当に必要とする操作性は何か
- 安価な機体をどう短期間で改良するのか
- 部品調達をどう分散するのか
- 敵ドローンをどう探知・識別するのか
- 大量運用時の整備・教育・補給をどう回すのか
これらは別途、知見を得なければならない。
そこは民間企業や産業クラスターを通じて、ウクライナが実戦環境で蓄積してきた知見を吸収する必要がある。
テラドローン社やACSL社はその先陣を切っていると言えるだろう。
それぞれの国にそれぞれの事情があるように、日本にも事情がある。
それでもうまく乗りこなしながら、日本も新しい時代の防衛を構築していく必要があるだろう。
