bioshokの最新AI事情 2026年5月23日~5月29日

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偏執的に世界中のAI情報を収集・発信するbioshokの週刊連載。この1週間にピックアップした主要ニュースをまとめて紹介。

目次

【要約】

世論の急速な悪化 ── AIへの不安が社会現象に
今週最も注目すべきは、AIに対する世論の急激な悪化だ。複数の世論調査で回答者の圧倒的多数がAIに懸念を示し、スタンフォード大学とUCバークレーの共同調査では、AIイノベーションを最大限加速すべきと答えた民主党支持者は約30%、共和党支持者でも約50%にとどまった(テック系創業者は77%)。エネルギー価格上昇、大規模な人員削減への恐怖、子どもへの影響への不安が背景にあり、抗議活動や散発的な暴力、選挙への影響も出始めている。アリゾナ大学の卒業式でエリック・シュミット氏がAIの技術的変革について語った際にはブーイングの嵐を浴びた。世論調査の専門家はこれほど急速な世論悪化は「前例がない」としている。

国土安全保障省・FBI・情報融合センターは、今後5年でAI技術の急速な普及が大規模抗議活動を引き起こし、「反テクノロジー暴力的過激主義」につながる可能性を内部資料で警告した。この分類表現自体が新しく、広い思想や活動をひとまとめにするものだとWIREDは指摘している。

ローマ教皇の回勅 ── 歓迎と失望が交錯
ローマ教皇レオ14世が就任後初の回勅を発表し、AIがもたらす課題について教会の指針を示した。「AIの時代に人間の尊厳が新たな形で脅かされている」と警鐘を鳴らし、Anthropic共同創設者のクリストファー・オラー氏は「インセンティブに左右されない倫理的な声が必要だ」と歓迎した。

一方で、AIガバナンス専門家のDean Ball氏やAI政策メディアTransformerのシャキール氏は失望を表明。回勅がアルゴリズムの偏りやデータ主権といった2022年型のAI倫理の枠組みにとどまり、AGIにも破局的リスクにも触れていないと批判した。Ball氏は「人類より賢い存在とどう共存するかを考えるべきだ」と述べ、シャキール氏は「地球上で最も賢い存在としての地位を失った人間がどうすべきか」について熟考すべきだったとしている。

米国規制 ── イリノイ州の画期的法案とホワイトハウスの三つ巴
イリノイ州下院がSB 315法案を可決した。独立した第三者機関による年次監査、公共安全計画の義務付け、AI企業従業員への内部告発者保護を定めるもので、米国のAI関連法案として第三者監査を義務化するのは初となる。知事が署名すれば、米国のAI規制の新基準となる。

ホワイトハウス内ではAI政策を巡り3つの陣営が鮮明になっている。規制をほぼ設けたくないサックス氏、Mythos級モデルへの障壁を増やしたいヘグセス国防長官とマイケル氏、そして米国政府に自主的な先行検討を認める中間派のワイルズ首席補佐官とベッセント財務長官だ。

OpenAI ── 生物兵器対策プログラム開始
OpenAIがGPT-Rosalindを活用した生物兵器対策プログラム「Rosalindバイオディフェンスプログラム」を開始。「信頼できる開発者」にモデルを提供し、疫学モデリング、早期発見、スクリーニング、公衆衛生対策の導入を支援する。ホワイトハウスと複数の連邦機関に説明を行い、一部の米国政府機関および同盟国パートナー向けにアクセスを拡大中。サイバー防衛に続き、バイオ領域でも「段階的アクセス」の枠組みが動き出した。

Anthropic ── Opus 4.8リリース
AnthropicがOpus 4.8を発表。ほぼすべてのベンチマークでOpus 4.7を上回り、多くのアライメント指標でも改善を示した。Mythos Previewには劣るが、Anthropicの「最もアラインされたモデル」であるMythosに近いプロファイルを持つとされている。能力とアライメントの両方を段階的に引き上げていく戦略が継続している。

中国 ── AI人材の囲い込み
中国政府がアリババやDeepSeekなどの民間企業に所属するトップレベルのAI専門家の海外渡航を制限し始めた。高度なAI開発に携わり国家にとって戦略的に重要と判断された個人は、海外渡航前に当局の承認が必要になるという。自国の技術を守り、米国に追いつくための措置の一環だ。

労働・経済政策 ── カリフォルニア州が先行
カリフォルニア州のニューサム知事がAIによる大規模解雇の可能性に備え、労働政策を抜本的に見直す行政命令を発出。AI導入を進めつつ雇用を維持する企業への助成金に加え、AIが生み出す富を全市民が株主として利益分配を受ける「ユニバーサル・ベーシック・キャピタル」も検討されている。税金による再分配ではAIによる富の集中に追いつかないとの認識が背景にある。

安全性 ── METR創業者の警告
METR創業者が「人類の絶滅または永続的な無力化を引き起こす能力を持つAIシステムを開発する軌道に乗っている可能性が高く、おそらく今後数年以内にそうなるだろう」と発言。主要な安全性研究機関の創設者による、これまでで最も直接的な警告の一つだ。

―――

全体として、AIに対する世論の急速な悪化と「反テクノロジー過激主義」への警戒、ローマ教皇の回勅を巡るAGI認識の温度差、イリノイ州の画期的な第三者監査法案、そしてMETR創業者による存亡リスクの直接的な警告が重なった一週間でした。カリフォルニア州のユニバーサル・ベーシック・キャピタル検討や中国のAI人材渡航制限など、AI後の社会秩序を巡る具体的な政策が各国で動き始めています。

【詳細】

  • ローマ教皇レオ14世は25日、就任後初となる重要文書、回勅を発表し、AIがもたらす課題に関して教会の指針を示した。
    レオ14世は回勅の冒頭で、「神がその偉大さのうちに創造した人類は、いま重大な選択に直面している」と言及。「AIの時代に、人間の尊厳が新たな形で脅かされるなか、人間性を守り抜くことが私たちの差し迫った責務だ」と警鐘を鳴らした。
    アンソロピック社の共同創設者であるクリストファー・オラー氏は、レオ氏の批判と懸念を歓迎した。同氏は、AIとその研究者に対するこうした外部からの検証は、人類にとってこの技術が「うまく機能する」ために不可欠だと述べた。なぜなら、AIが人間の労働を大規模に代替する可能性が非常に高いからである。
    「宗教団体、市民社会、学者、政府など、世界中のより多くの人々が、法王がここでなさったように、この問題を真剣に受け止め、注意深く観察し、事態をより良い方向へ導く必要がある」とオラー氏は述べた。「我々には、研究所が失敗しているときにそれを指摘してくれる、情報に基づいた批判者が必要だ。インセンティブに左右されない、倫理的な声が必要なのだ」
    https://x.com/i/status/2058889833666506841
  • バチカンの回勅は全然AGIピルを飲めてなくて失望したというAIガバナンス専門家のdean ballのツイート連投。従来的なヨーロッパ型のELSI的なフレームで捉えるべきではなく、人類より賢い存在と我々はどう共存するべきかを考えるべきと言っている。
    https://x.com/i/status/2059178743709708578
  • AI政策メディアのTransformerのシャキール氏も落胆。レオ教皇の回勅は全体としてひどく時代遅れで、アルゴリズムの偏り、水の使用、データ主権といった問題に焦点を当てた、2022年のAI倫理に関する論文のように感じられる。AGIにも破局的リスクにも触れられてない。「地球上で最も賢い存在としての地位を失った人間がどうすべきか」について、彼は熟考すべきだった。
    https://x.com/i/status/2059774717729571010
  • OpenAIが生物兵器対策プログラム開始。
    ・今回のニュースの焦点は、 OpenAIの新しいRosalindバイオディフェンスプログラムが、生命科学研究向けのGPT-Rosalindモデルを、バイオディフェンスツールを実用化する「信頼できる開発者」に提供するという点。
    ・同社は、このツールへのアクセスを後援し、疫学モデリング、早期発見、スクリーニング、準備、非医薬品介入、その他の公衆衛生活動のための導入支援を提供する。
    ・OpenAIは、生物学的脅威のライフサイクル全体にわたる組織を支援していると述べており、「予防と早期発見から、社会の回復力と医療対策の開発まで」を網羅している。
    ・OpenAIは、ホワイトハウスと複数の連邦機関に自社のアプローチについて説明を行い、公衆衛生に重点を置く連邦機関との連携を進めていると述べた。
    ・同社はまた、公衆衛生および生物兵器対策任務を支援するため、一部の米国政府機関および同盟国パートナー向けにGPT-Rosalindへのアクセスを拡大している。
    https://x.com/i/status/2060350555344806118
  • Anthropic Opus 4.8発表。ほぼ全てのベンチマークで4.7より優れ、Mythos Previewより劣る。多くのアライメント指標で Opus 4.7より改善し、Anthropicの「最もアラインされたモデル」である Mythos Previewに近いプロファイルを示す。
    https://x.com/i/status/2060053241078112563
  • イリノイ州下院は水曜日、JB・プリツカー州知事が署名すれば、アメリカの大手AI企業を規制するための新たな基準となる画期的な法案を可決した。
    ・SB 315法案は独立した第三者機関による監査と公共安全計画の義務付けに加え、AI企業の従業員に対する内部告発者保護と通報手続きを定める。
    ・この法案は、AI企業に対する安全性の問題に関する独立した第三者機関による年次監査を義務付けるものであり、これは米国のAI関連法案としては初めてのこととなる。
    https://x.com/i/status/2060054415076467156
  • AI技術の急速な普及によって今後5年で大規模な抗議活動が起き、都市部で社会不安や「反テクノロジー暴力的過激主義」につながる可能性があることがアメリカ国土安全保障省、FBI、情報融合センターが作成した資料内で警告されている。WIREDは「反テクノロジー暴力的過激主義」という表現が記事作成時点で公開されている国土安全保障省やFBIの国内過激主義関連資料に見当たらず、広い思想や活動をひとまとめにする新しい分類だと指摘。
    https://x.com/i/status/2059789237458026804
  • ホワイトハウスにはAIに関して大きく分けて3つの陣営が存在する。
    • デイビッド・サックス氏は規制をほとんど、あるいは全く設けないことを望んでいる。
    • ピート・ヘグセス氏とエミル・マイケル氏は、mythosAIモデルに対する障壁を増やすことを望んでいる。
    • スージー・ワイルズ氏とスコット・ベッセント氏は中間的な立場(米国政府に自主的な先行検討を認める)を取っている。
      https://x.com/i/status/2059762398488326434
  • 中国は、アリババグループホールディングスやディープシークなどの民間企業に所属するトップレベルのAI専門家の海外渡航を制限しており、これは自国の技術を守り、重要な分野で米国に追いつくための措置を強化していることを示唆している。
    政府機関は、高度なAI開発に携わり、国家にとって戦略的に重要とみなされる個人に対し、渡航制限を課し始めていると、事情に詳しい関係者が明らかにした。関係者によると、これは海外渡航前に関係当局の承認が必要になることを意味するという。関係者らは、機密性の高い問題について話すため、匿名を条件に語った。
    https://x.com/i/status/2059295097838243942
  • カリフォルニア州のニューサム知事は21日、AIが大規模な解雇を招く可能性があるとして、労働政策を抜本的に見直す行政命令を出した。
    AI導入を進めても雇用を維持する企業へ助成金を出す案などが話し合われ、AIが生み出す富を一部の企業が独占するのではなく、全市民がその株主として利益分配を受けるユニバーサル・ベーシック・キャピタルも検討。
    税金で社会に利益を再分配する現在の方法ではAIによる富の集中に追いつかないため。
    https://x.com/i/status/2058727086421148023
  • ここ数週間の世論調査では、回答者の圧倒的多数がAIに懸念を示すという結果が相次いでいる。
    ・消費者は、データセンターの普及によって悪化したエネルギー価格上昇に不満を抱いている。労働者は大規模な人員削減を恐れている。親たちは、AIが教育を損ない、子どもの心の健康を害するのではないかと心配している。ここ数カ月、こうした怒りの波が抗議活動を引き起こし、選挙結果を左右し、散発的な暴力行為を誘発している。
    ・米アリゾナ大学の卒業式でスピーチしたシュミット氏は、AIがもたらす「技術的変革」は「これまでのものよりも大規模で速く、より大きな影響をもたらすだろう」と語った。AIに言及した他の登壇者と同様、シュミット氏もブーイングの嵐を浴びた。
    ・世論調査担当者や歴史家によると、世論がこれほどの速さで悪化したことは、ほぼ前例がない。米スタンフォード大学と米カリフォルニア大学バークレー校の研究者と共同で世論調査を最近実施したグレゴリー・フェレンスタイン氏は、そうした事例は「見たことがない」と話す。
    ・この調査では、米国はAIイノベーションを最大限加速させるべきだと回答した民主党支持者は約30%にとどまった。共和党支持者は約50%、テック系創業者は77%だった。
    https://x.com/i/status/2058620290536714563

    METR創業者「私たちは、人類の絶滅/永続的な無力化を 引き起こす能力を持つAIシステムを開発する 軌道に乗っている可能性が高く、おそらく今 後数年以内にそうなるでしょう」
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この記事を書いた人

bioshokのアバター bioshok リサーチフェロー

大学では半導体に関する研究をし、大学院では自然言語処理に関する研究を行う。
Xの @bioshok3 にてAIに関するトレンドとAIがもたらす深刻なリスクに関して発信している。

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