データセンター批判で「過激派」認定? 米国の反AI監視

WIREDが伝えた「全米規模の反AI監視」
WIREDは2026年5月26日、「米国の法執行機関が、AIに批判的な人々を『反テクノロジーの過激主義者』として監視しはじめている」という内容の記事を公開した。この記事は計1000ページを超える内部文書を元に記されたもので、DHSやFBIが「反テクノロジーの暴力的過激主義(anti-tech violent extremism)」という脅威のカテゴリを新たに作成し、AIやデータセンターに否定的な考えを持った米国人の活動を全国規模で監視しはじめた、という国家の方向転換を伝えている。
こうした方向転換の背景には、データセンターやAI企業の幹部を批判する過激なオンラインの言動の増加がある。この流れはオンラインだけに留まらず、先日にはサム・アルトマンの自宅に火炎瓶が投げ込まれるという事件も発生しているため、危険な兆候だと考えるのも無理はない。しかし一方で、WIREDの記事は「国家による警戒の対象があまりにも広範になりすぎる可能性」を懸念している。たとえばデータセンターの建設に対して平和的に抗議している人々、あるいはAIに懐疑的な考えを示しただけの人々まで、「過激主義者」と見なされる可能性があるという指摘だ。この記事は日本語のWIREDにも翻訳版が掲載されているので、興味を持たれた方には読んでみていただきたい。
The Interceptが公開した「フィラデルフィアの機密文書」
しかし実際のところ、いま米国で「反テクノロジー過激主義者」として警戒されているのは具体的にどのような人々なのだろうか。そして彼らはどの程度の深刻さで警戒されているのだろうか。これらの点については、The Interceptが興味深いスクープ記事を公開している。こちらは連邦規模の監視を伝えたものではなく、あくまでも「フィラデルフィア警察のフュージョンセンターが作成した一つの機密文書」のみに注目した記事なのだが、ここでは合法的な抗議活動、あるいはAIに対する批判そのものが「テロの前兆」として警察の監視下に置かれている様子をうかがうことができる。
フュージョンセンター「DVIC」とは?
この「Philly Cops Admit That They’re Tracking “First Amendment Activity” Critical of AI」と題されたThe Interceptのスクープを紹介する前に、まずは「フュージョンセンターとは何か」というところから説明したい。
フュージョンセンターは、「複数の組織がリソースや知識を持ち寄り、情報を一か所に集めて分析/共有し、意思決定や対策を行うためのハブ」という意味で利用される言葉だが、その実態は文脈によって少々異なる。今回の記事におけるフュージョンセンターとは、「9.11以降の米国全土で、深刻なテロや犯罪を防止するという名目で設立されてきた情報ハブ」のことを指している。それらは連邦・州・地方のそれぞれの法執行機関が情報を持ち寄って運営しており、現在全米に79カ所あると伝えられている。
そして今回のThe Interceptが注目したDelaware Valley Intelligence Center(以下DVIC)は、米フィラデルフィアを拠点とするフュージョンセンターだ。2013年に総工費2000万ドルで開設されたDVICは、フィラデルフィア警察の内部組織にあたる情報共有機関なのだが、その運営費用の半分以上は連邦の資金に支えられており、ペンシルベニア、ニュージャージー、メリーランド、デラウェアの4つの州をカバーするフュージョンセンターとして稼働している。つまりDVICを運営しているのは「一地方警察」だが、実質的には連邦の法執行機関を束ねたネットワークの一部ともなっている。
このDVICは設立当初から現在に至るまで、「テロ防止にはほとんど貢献していない」「パイプライン反対派の市民、BLMの抗議デモに参加した市民など、合法的に批判する人々に疑いの目を向けて監視する傾向が強すぎる」などの批判を受けてきたことでも知られている。
DVICが警告した投稿の内容
そして今回The Interceptが入手した機密文書によると、DVICは2025年12月に「AIデータセンターを批判したSNSの投稿を収集分析した警告レポート」を作成しており、それを全米のフュージョンセンターのネットワーク(=連邦・州・地方の法執行機関が情報共有できるネットワーク)に配信していた。そこには次のように記されている。
「米国内の暴力的な過激派(DVE:Domestic violent extremists)はAIデータセンターを狙うことに関心を抱いている可能性が高く、彼らはフィラデルフィア地域のインフラに物理的な脅威、およびサイバー上の脅威をもたらしている」
「フィラデルフィア地域で新たに(建設が)計画されている3つのAIデータセンターに対し、大きな反発が起こる可能性がある。短期的には、AIデータセンターに反対する憲法修正第1条に基づく活動の激化、軽微な器物損壊、フィラデルフィア地域のAIデータセンターに対するボイコットや抗議活動を推奨するオンライン上の呼びかけ、AIデータセンターによる光熱費高騰への広範な批判などが、脅威増大の兆候として考えられる」
この警告レポートが格別に面白いのは、「反AI的な書き込み」の具体例も掲載している点だ。The Interceptは、そこに言及した部分(13ページの文書のうち3ページ)をそのまま公開している。
デューンの世界
そのページには、SNSやブログに投稿された書き込み、Facebookに投稿されたミームなどが転載されている。たとえば一つのブログ記事に関して、DVICは次のような説明をしている。
「フィラデルフィアを拠点とする反資本主義のブログ(アナーキストの過激派の間で人気が高い)の2025年8月の投稿は、AIデータセンターへの物理的な攻撃を奨励しており、『我々を洗脳して服従させるスクリーンを打ち砕けるのは、我々だけである。いま、その時が来たのだ。攻撃せよ! 攻撃せよ! 攻撃せよ!』と述べている」
ここで紹介されているブログの投稿について、少し詳しく説明したい。
DVEが「アナーキストの過激派の間で人気の高い反資本主義ブログの記事」だと紹介したのは、Philly Anti-Capitalistというブログの「Butlerian Jihad Against AI」と題された投稿である。文脈から考えれば、その記事のタイトルが、SF小説『デューン』の『ビュトレリアン・ジハード』を拝借したものであることは明らかだ。
フランク・ハーバートが1965年に発表した『デューン』は、「思考する機械によって完全に支配されかけた人類が、100年間に及ぶ反乱を起こす」という背景で描かれたSF小説で、その反乱はビュトレリアン・ジハード(Butlerian Jihad)と呼ばれている。つまりそれは、著名なSF小説の中に出てくる歴史的事件を表した固有名詞である。
このブログ記事の現物を見てみると、DVICが転載した「攻撃せよ!」の文言は、ポスター風の画像の中に記されていることが分かる。そこには、やや古めかしいデスクトップPCに矢が刺さっている絵──きわめてシンプルで牧歌的にも見えるイラスト──があるのだが、どのデータセンターを標的として、どんな攻撃を仕掛けようといった具体的な提言は何ひとつ記されていない。それでもDVICは、この投稿を『AIデータセンターへの物理的攻撃を奨励する投稿』だと見なしたようだ1。
その他の「危険な投稿」
つまりDVICは、特定のデータセンターを狙ったテロの具体的な計画を語り合っているコミュニティを報告しているのではない。また、過激な反AIの思想を広めるための組織的な活動を見つけたわけでもない。単に「デューンに出てきた固有名詞をそのまま流用しながら、パソコンのモニタに矢が刺さった絵とともに『攻撃せよ!』と記しているブログ記事」を脅威増大の兆候として深刻に受け止め、それを全米の法執行機関と共有したということになる。
暴力的な過激派の投稿として、他に報告されている例も似たり寄ったりだ。ある者はFacebookに反AIのミームらしきものを投稿し、ある者はSNSで「データセンターを焼き払いたい」と表明し、ある者は「データセンターを無力化するにはどうすればいいだろう?」と掲示板で尋ねている。それらはいずれもオープンな場所で(多くは匿名のまま)雑に語られている言説だ。この様子では、「ウルトラハッピーディストピアジャパン 人工知能ハビタのやさしい侵略」のような小説を書いている日本人作家など、米国に行けば立派な危険因子と見なされることだろう。
警戒される対象と、米国の市民感情
とはいえ、もちろん「データセンターへの物理的な攻撃を恐れるとは、とんだ杞憂だ」という話ではない。AIやデータセンターに対する批判的な意見は明らかに増加しており、言説も過激になりつつある。そして冒頭でもお伝えしたように、2026年4月にはアルトマンの自宅に火炎瓶が投げ込まれた。さらに2025年8月には、ポートランドで行われていたAIイベントに対する物理的な妨害行為も発生している。このときは駐車していた車両のタイヤがパンクさせられるなどの被害が出た。
しかし「特定のデータセンター」を狙った実際の暴力的行為は、現在のところ報告されていない。それは将来に発生しうるリスクのひとつとして認識されるものだろう。オンラインにおいても「具体的な(データセンター攻撃に関する)脅威は何も見つかっていない」ことは、DVICの報告書自体に明記されている。この状況で、「Butlerian Jihad Against AI」程度のブログの書き込みを危険視し、その情報を全米の法執行機関でシェアし、「国家レベルの警戒の対象」とするべきなのかどうかは評価が分かれるところだろう。
もう一つ指摘したいことがある。これまでにもDVICは「テロや事件を未然に防ぐという名目で、BLMデモの参加者やパイプライン反対活動の参加者を監視した」ことで批判されてきた。しかし今回の彼らが危険視し、監視しようとしている対象は「社会運動に参加している人物」ではなく、「AIデータセンターに反発する人物」だ。先にも記したとおり、DVICの報告書は、『AIデータセンターに対するボイコットや抗議活動を推奨するオンライン上の呼びかけ』『AIデータセンターによる光熱費高騰への広範な批判』をも脅威増大の兆候として危険視している。それらはBLMのデモに参加する人権活動や、パイプライン反対のデモに参加する環境保護活動とは異なり、「ただ特定企業のインフラ建設に抗議している市民の声」に過ぎない、と考えることもできる。
そしてThe Interceptも指摘しているとおり、こうした声は「いま多くの米国人が抱いている一般的な不満」と大きく重なっているものだ。より具体的に記すと、米国の世論調査・コンサルタント企業Gallupによる意識調査では「地元にデータセンターが建設されること」に不満を示した米国人が全体の七割にものぼっている。そのような反感を市民に持たせている「特定の民間企業のインフラ」を守るために、公的な法執行機関が連携して市民を監視しようとする行為は、果たして適切なのだろうか?
注釈
- ただし、このブログで「Butlerian Jihad Against AI」という言葉が使われていることに関しては、かなり気になる話がある。先述の「ポートランドのAIイベントの妨害行為(2025年8月発生)」でも、この言葉を印刷したビラが現場に残されていたと地元のメディアが報じているのだ。つまりデューンの世界から流用された「Butlerian Jihad Against AI」は、反AIのスローガンとして他の場所でも使われており、それが現実の暴力活動に結びついたという可能性は高い。
ここで不可解なのは、2025年12月に書かれたDVICのレポートが「フィラデルフィア発のブログと、ポートランドで起きた事件」を少しも結びつけようとしていない点だ。同じフレーズが現実の破壊行為でも用いられたことを記せば、「このブログは危険だ」という話にも一気に説得力が増しただろう。なぜ、それを記さなかったのか? ただ単に気が付かなかっただけという可能性もある。しかし、ひょっとすると「フィラデルフィア発の報告書の中で『ポートランドの事件I』に言及すれば、DVICの管轄では何ひとつ事件が起きていない事実が強調されてしまう」という考えがあったのかもしれない。
↩︎
出典
US Law Enforcement Warns of ‘Anti-Tech Extremism’ as AI Hatred Grows _ WIRED
https://www.wired.com/story/us-law-enforcement-warns-of-anti-tech-extremism/
(日本語版WIREDに掲載された翻訳記事)
https://wired.jp/article/us-law-enforcement-warns-of-anti-tech-extremism/
Philly Cops Admit That They’re Tracking “First Amendment Activity” Critical of AI
https://theintercept.com/2026/06/01/ai-data-center-protest-police-surveillance/
The Interceptが公開した3ページ分の機密文書
https://www.documentcloud.org/documents/28173431-dvic-data-centers-bulletin/
Delaware Valley Intelligence Center – Professional Systems Engineering(DVICの公式サイト)
https://www.profsyseng.com/projects/delaware-valley-intelligence-center/
Philly Anti-Capitalist _ poster_pasteup_ butlerian jihad against ai(報告書の中で危険視されていたブログ記事の本体。「PCに矢」のイラストも見ることができる)
https://phlanticap.noblogs.org/poster-pasteup-butlerian-jihad-against-ai/
Americans Oppose AI Data Centers in Their Area(Gallupによる調査)
https://news.gallup.com/poll/709772/americans-oppose-data-centers-area.aspx
