ロシアのオペレーション・オーバーロード 第3の報告書

Operation Overload: An AI fuelled escalation of the Kremlin-linked propaganda effort
https://checkfirst.network/operation-overload-an-ai-fuelled-escalation-of-the-kremlin-linked-propaganda-effort/
今回、公開されたオペレーション・オーバーロードの報告書は、3つ目にあたり、この作戦が進化し、拡大していることを示している。
ファクトチェックとメディアを誤・偽情報拡散に利用した「オペレーション・オーバーロード」の成功
https://note.com/ichi_twnovel/n/nedebd72a73bf
ファクトチェック団体とメディアをターゲットにした「オペレーション・オーバーロード」のアップデート
https://inods.co.jp/topics/3912/
今回、明らかになった特徴
・規模の拡大。当初は245以上のメディアやファクトチェック団体にメール送っていたのが、現在では1,000を超えるようになった。2024年1月1日から2025年5月31日までに確認されたメール993件のうち、704件は2024年9月1日以降に送信されていた。特にメールの増加が見られたのはパリ・オリンピックなどのイベントのタイミングだった。コンテンツの生産能力もおよそ600と昨年と比較して1.5倍になっている。そして、プラットフォームもTelegram、X、Bluesky、TikTokと広がっている。
・手口の多様化、巧妙化。古い映像やディープフェイクを利用して著名人に偽装している。
・主たるターゲット国は、フランス、ドイツ、モルドバ、ポーランド、ウクライナ、アメリカ。
・ウクライナに関する言葉は作戦開始以来、最も頻繁に使用されている。注目すべきは、モルドバおよび親EU派の大統領をターゲットとしていることである。
・従来のXに加えて、Blueskyでは2025年1月、TikTokでは2025年5月末以降、この作戦が行われている。Xがもっとも規模が大きく、アカウント数は244とBlueskyの283より少ないものの、投稿数は3,900とBleuskyの530よりも多い。また、プラットフォームによるアカウント停止の割合はXは10%と少なく、Blueskyは65%となっている。BlueskyとTikTokではジャーナリストになりすまして投稿するなどの活動が見られた。
・Telegramはこの作戦の中心となるプラットフォーム。600以上のチャンネルで偽情報を発信しており、550のチャンネルで管理者が重複しており、少数による管理が行われているとみられる。メールのリンク先の約70%がTelegramとなっている。
提言
今回のレポートでは4つの推奨事項があげられている。
・Xは明らかにDSAに定められた義務を履行していないため、早急に履行するべきである。
・なりすましへの対処の強化が必要である。
・一部のファクトチェック団体やメディアは影響の少ないコンテンツを報道することで拡散を助けている。注意が必要である。
・ファクトチェック団体やメディアはこの作戦などの記事を控え、掲載する場合には明確な文脈(記事化による拡散を狙っている可能性)を付け加えるべきである。
その他
本レポートは137ページで、それぞれの項目について、突っ込んだ分析と事例が取り上げられている。関係者によっては貴重な情報源となるだろう。
個人的には今回の提言に書かれていた後半の2つが気になった。ファクトチェック団体やメディアが偽・誤情報を拡散することは日本では発生しており、悪影響を与えている可能性が高い。近年、日本政府が積極的に対策に乗り出し、メディアもこの問題をよく取り上げることになった。しかし、多くはこのレポートで指摘されたように文脈を欠いた理解で説明も不十分だ。偽・誤情報、認知戦、デジタル影響工作のリスクを語りながら、そのリスクの拡大、顕在化を助長している自覚はない。