ドイツ選挙における海外からの干渉について ISD報告書

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ISDによる報告書

ISDは2025年7月10日に2025年の選挙への海外からの干渉を分析したレポートを公開した。

Country Report: Assessment of Foreign Information Manipulation and Interference (FIMI) in the 2025 German Federal Election
https://www.isdglobal.org/isd-publications/country-report-assessment-of-foreign-information-manipulation-and-interference-fimi-in-the-2025-german-federal-election/

このレポートは海外からの干渉に関する公開レポート100件のシステマティック・レビューを行い、これに基づきインシデント98件を特定、その内容を分析したものになっている。広範かつ体系的にまとめられている。この種のレポートの多くは海外からの干渉の事例研究に終わっているものがほとんどであるが、このレポートは国内のアクターとの関わりや国内問題との関係など、包括的に取り上げている点が異なる
最近のISDの報告書は国内外の情勢の分析と情報エコシステムを踏まえており、いまだに特定の事例の分析結果の解釈に終わっている日米に先んじている。

主な内容

このレポートでは国内外のアクターがドイツ国内に存在する移民、反体制、不正選挙、経済・エネルギー不安、ウクライナ支援などの社会的分断を利用し、サイバー空間上で問題となる活動を行ったとしている。この5つのテーマはロシアの干渉で繰り返し、用いられているもので、他にジェンダー、政治家のスキャンダルなどもある。
脅威アクターの手法と組織は進化しており、その中心にあるのは国外ではロシア、国内ではAfDである。

・海外からの干渉の中心はロシア
海外からの干渉では、ロシアのドッペルゲンガー、オペレーション・オーバーロード、Storm-1516の活動が確認され、国内のロシア人コミュニティ(ディアスポラ)に禁止されているはずのロシアのプロパガンダメディアRT DEなどがリーチしていた。
AIを利用した動画や音声、メディアあるいは学術機関へのなりすましなどがおこなわれていた。
ドッペルゲンガー、オペレーション・オーバーロード、Storm-1516の活動では、ボットやインフルエンサーによる増幅が観測された。エンゲージメントの数値は人為的に高められていた。
一方、こうした活動に対してプラットフォームは適切な対処を行っていなかった。

・国内の問題
ドイツの若者はTikTokなどで親露あるいは親中の偽情報や陰謀論に影響を受けやすくなっている。その背景にはドイツの民主主義への不信感がある。特に東ドイツ地区は脆弱である。
ロシアはウクライナへの軍事侵攻に際してZブロガーと呼ばれる紛争に関するインフルエンサーを経済的に支援してきており、ロシアからの資金目当てに活動しているインフルエンサーが今も存在している。
AfDに関する話題も分断を広げる要素になっており、これに関してはイーロン・マスクの影響が大きかった。ISDは2025年2月20日の段階で「マスク効果」に関する報告書を公開している。

The Musk Effect: Assessing X’s impact on Germany’s election discourse
https://dfrlab.org/2025/02/20/the-musk-effect-xs-impact-on-germanys-election/

規制当局の資源不足と透明性の欠如により、効果的な対策の立案が難しい状況に陥っている。

ドイツの問題は日本の問題でもある

日本でも選挙を前にロシアからの干渉が話題になった。しかし、複数の話題が散発的に発生し、きちんとした検証も議論はおこなわれておらず、政府からの発表も海外からの干渉を認めながら具体的な内容には触れないあいまいなものとなっている。
こうした状況は好ましくないのはもちろんだが、海外のアクターの関与も検証されていない状態でここまで騒ぎが拡大するのはとても好都合だ。日本の脆弱性が露呈したといってもよいだろう。
この脆弱性の背景には政府や制度、メディアへの不信がある可能性が高く、放置しておくと勝手に騒ぎが起きて広がりかねない。この場合おこなうべきは、騒ぎに関係しているアカウントや個人、団体の活動を阻止する対症療法ではなく、不信をなくすための活動=透明性の向上や情報の開示などである。
対症療法を続けていた欧米がどうなっているかはよくわかっているはずなので、方向転換をするなら早い方がいい。すでにいくつかの国は方向転換を始めている。

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この記事を書いた人

複数のIT企業の経営にたずさわった後、2011年にカナダの永住権を取得しバンクーバーに移住。同時に小説家としてデビュー。リアルに起こり得るサイバー犯罪をテーマにした小説とネット世論操作に関する著作や評論を多数発表。代表作として『原発サイバートラップ』(集英社)、『天才ハッカー安部響子と五分間の相棒』(集英社)、『フェイクニュース 新しい戦略的戦争兵器』(角川新書)、『ネット世論操作とデジタル影響工作』(原書房)など。
10年間の執筆活動で40タイトル刊行した後、デジタル影響工作、認知戦などに関わる調査を行うようになる。
プロフィール https://ichida-kazuki.com
ニューズウィーク日本版コラム https://www.newsweekjapan.jp/ichida/
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