「文化が変われば政治が変わる」――白人ナショナリストの20年戦略

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目次

1. はじめに

極右思想は、街頭の暴力やテロだけで広がるわけではない。出版、講演、ポッドキャストといった文化的チャネルを通じて、長期的に支持基盤を育てる戦略もある。こうした浸透は暴力より可視化しにくく、対策も立てにくい。

今回は、ヘイトと過激主義の監視団体GPAHE(Global Project Against Hate and Extremism)が2026年4月1日に公開した記事「Greg Johnson’s War for the Metapolitical Soul of the Far Right」https://globalextremism.org/post/greg-johnsons-war/ )を紹介する。記事が追うのは、白人ナショナリスト出版プラットフォームCounter-Currentsの創設者グレッグ・ジョンソンが、約20年にわたり極右運動の「知的基盤」を築こうとしてきた過程である。

2. グレッグ・ジョンソンとは誰か

ジョンソンは哲学の博士号を持つ元大学教員である。1994年から1997年にかけて、ジョージア州の歴史的黒人大学(米国で黒人学生のために設立された高等教育機関)モアハウス・カレッジで非常勤講師を務めた。2001年にカトリック大学で博士号を取得した後は、複数のペンネームで白人ナショナリズムに関する論考を発表していた。

2010年、ジョンソンは白人ナショナリストのマイケル・ポリニャーノとともにCounter-Currentshttps://counter-currents.com/ )を設立した。記事によれば、同サイトは数千本の論考と多数の音声コンテンツを抱える出版・メディア拠点であり、極右にとっての文化的・知的なホームを目指して運営されてきた。

Counter-Currentsは、一見すると一般的なオンラインメディアと大きく変わらない外観を持っている。サムネイルとタイトル、概要文が並ぶシンプルなレイアウトで、記事は頻繁に更新され、メール購読のポップアップも表示される。検索エンジンでも上位に表示されており、白人至上主義の主張を掲げるサイトだと知らなければ、一般的なオンラインメディアと見分けがつかない。この「普通のメディアらしさ」こそが、ジョンソンのメタポリティクス戦略の一部である。

ジョンソンの特徴は、白人至上主義的な暴力を表向きには「非生産的」と退けながら、犯人の動機には繰り返し理解を示してきた点にある。2015年にサウスカロライナ州チャールストンの黒人教会で9人を殺害したディラン・ルーフについては、彼の思想形成を「我々の多くが経た知的旅路」と重ねて語った。Counter-Currentsはルーフのマニフェストを転載し、編集者注でその世界観は「無知」や「偏見」ではなく「検証可能な事実」に基づくと記している。

2019年のクライストチャーチのモスク銃撃(51名が死亡)についても、ジョンソンは暴力を非難しつつ、「白人の人種的置換への恐怖」自体は不合理でも狂気でもないと書いた。暴力と思想を切り分け、後者には正当性を与えるこの二重の姿勢が、彼の活動の特徴である。

3. メタポリティクス――「文化は政治の上流にある」

ジョンソンの戦略の核にあるのが「メタポリティクス」である。これは選挙や政党活動ではなく、文化・思想・言論を通じて社会の前提を変え、間接的に政治を動かすという発想である。ジョンソン自身は2023年、これを「政治的変化の根底にある原因と条件を扱うもの」と定義し、知的次元と組織的次元の二つで作用すると説明した。

なお、「メタポリティクス」という語自体は、もともとフランスの哲学者アラン・バディウらが1990年代に用いた学術的概念であり、政治そのものを対象として再考する知的営みを意味していた。ジョンソンの用法はこれとは大きく異なる。彼は2023年の論考「Metapolitics & Occult Warfare」で、メタポリティクスをイタリアのファシスト哲学者エヴォラが論じた「オカルト戦争(occult warfare)」――目に見えない思想的・文化的な力が歴史を動かすという発想――と本質的に同一のものとして論じている。そこでは、歴史は黄金時代から暗黒時代へと循環するという伝統主義的歴史観が前提にあり、反ユダヤ主義的な陰謀論とも明示的に結びつけられている。学術的なメタポリティクスが政治概念の再定義を目指すのに対し、ジョンソンのそれは白人ナショナリズムの文化的覇権を確立するための運動戦略であり、「知的」な語彙に包まれた実践的な運動論である。

この発想の源流にあるのが、フランスの「新右翼(Nouvelle Droite)」である。1968年に研究教育団体GRECEを設立したアラン・ド・ブノワは、露骨な生物学的人種主義ではなく、「文化的差異の権利」という語彙で白人ナショナリズムを再構成した。ジョンソンはこの欧州新右翼の思想を受け入れ、Counter-Currentsを通じて北米版の知的空間を築こうとしている。

その思想的系譜は、Counter-Currentsが扱う書籍群にも表れている。サイトには、イタリアのファシスト哲学者ユリウス・エヴォラ、秘教的ヒトラー主義(ヒトラーを神的存在として崇拝する神秘主義的な極右思想)の理論的創始者サヴィトリ・デーヴィー、ホロコースト否認論者フランシス・パーカー・ヨッキーらの著作が並ぶ。ジョンソン自身の著作も、白人アイデンティティ政治、運動の構築、ホロコーストをめぐる歴史修正主義を主題としている。

記事によれば、Counter-Currentsは他の白人至上主義サイトより学術的な文体を採り、露骨な暴力の扇動を避ける。しかし目標は明快である。ジョンソンは2017年、同サイトの目的を「反白人思想の覇権を解体し、白人が自らの運命を取り戻すために必要な代替的・親白人思想を構築し広めること」だと記している。

4. ネットワーク構築――会議・人脈・メディア

Counter-Currentsが知的基盤の構築を担うとすれば、ジョンソンのサイト外での活動は極右運動の組織面を支えている。彼は米国内外の会議に繰り返し登壇し、講演と人脈形成を続けてきた。

米国内では、American Renaissance(白人の人種的利益の擁護を掲げる雑誌・ウェブメディア)を創刊したジャレッド・テイラーの年次会議に登壇している。2025年11月の会議では、「白人の消滅はより良い政治的決定によって止められる」と述べ、トランプ政権の国境閉鎖や強制送還政策を称賛した。

ポッドキャストもネットワーク形成の場である。2026年1月には、2024年に連邦暴動共謀罪で有罪判決を受けたActive Clubs(格闘技トレーニングを軸とした分散型の白人至上主義ネットワーク)創設者ロバート・ルンドーを招き、分裂しがちな白人至上主義運動をどう橋渡しするかを議論した。ほかにも、反移民メディアVDareの創設者ピーター・ブリムロー、ホロコースト否認団体Institute for Historical Reviewの所長マーク・ウェーバー、英国の極右系配信者コリン・ロバートソン(Millennial Woes)らが番組に登場している。

国際的には、北欧の招待制会議Scandza Forumに2017年から2019年、さらに2023年にも参加した。2019年には、2011年のノルウェー連続テロ犯アンネシュ・ベーリング・ブレイビクをめぐる過去の発言が問題視され、ノルウェーで逮捕・国外退去となっている。ジョンソンはブレイビクの暴力を非難しつつも、非白人移民を民族的ノルウェー人に対する「一種のジェノサイド」と表現していた。

さらに、Counter-Currentsは半年ごとの合宿(retreat)も開催している。2025年10月にテキサスで開かれた集会の参加者は、XのようなSNSで白人ナショナリストの主張が以前より広く届き、共和党にも浸透が進んでいるとして、運動の前進に強い楽観を示していた。

5. 「グレート・リプレイスメント」の主流化――トランプ政権との接点

ジョンソンが近年最も手応えを感じているのが、トランプ政権下での極右思想の主流化である。記事の中で繰り返し登場するのが、「グレート・リプレイスメント(Great Replacement)」理論だ。これは白人人口が移民によって意図的に置き換えられているとする陰謀論で、フランスの作家ルノー・カミュが2011年に提唱し、その後はクライストチャーチ銃撃など複数のテロ事件の犯行声明でも引用されてきた。

2025年の感謝祭の日、ワシントンD.C.でアフガニスタン国籍の人物が米軍州兵を殺傷する事件が起きた後、トランプ大統領はSNSで「reverse migration(逆移民)」を約束する投稿を行った。ジョンソンは同年12月の記事でこれを「メタポリティクスの勝利」と呼び、「逆移民(remigration)」という概念が白人ナショナリスト運動の周縁から合衆国大統領の言葉へ移動したと歓迎した。

「逆移民」とは、非ヨーロッパ系の移民とその子孫を、市民権の有無を問わず大規模に送還すべきだとする極右の政策概念である。実質的には民族浄化に近い内容を含むこの語が、大統領の口から発せられたことを、ジョンソンは20年来のメタポリティクス戦略の成果とみなしている。文化を変え、使われる言葉を変え、その先で政治を動かす。記事が描くのは、そうした長期戦略の到達点である。

6. 筆者の私見

本記事を読んで、2つの点が気になった。

第一に、ジョンソンの戦略は「暴力の否定」が正当性を調達する構造を持っている点である。彼はテロを一貫して非難するが、テロ犯の動機には理解を示し、マニフェストを転載し、その世界観を「検証可能な事実」に基づくものとして紹介する。暴力を退ける身振りが、思想そのものの危険性を覆い隠す緩衝材として機能している。こうした傾向はジョンソンに限らない。本記事にも登場するActive Clubsは、公式の投稿ではフィットネスや自己鍛錬といった無害なテーマを強調する一方で、個々のメンバーは個人のXアカウントで明示的な暴力の呼びかけを行っていたことがISD(Institute for Strategic Dialogue)の調査( https://www.isdglobal.org/digital-dispatch/analyzing-violent-rhetoric-active-club-members-x/ )で明らかになっている。公的なイメージの「消毒」は、白人至上主義運動に共通する近年の傾向といえる。

第二に、メタポリティクスという戦略は、認知戦や情報戦の文脈でも考える価値がある。文化的言説を通じて社会の前提を書き換え、政治的変化を可能にするという発想は、白人ナショナリズムに固有のものではない。池内恵は『「世界を動かす宗教」講義』(SB新書)のまえがきで、宗教が国家を超えた非国家主体として国際政治に影響を及ぼす構造を論じ、「国境を超えた人と組織のつながりを、宗教ほど有効につくり出せる主体は、ほかにそう多くない」と書いている。池内が宗教について述べたこの機能――国境を超えて帰属意識を共有させ、既存の政治秩序の外に代替的な正統性を構築する力――は、ジョンソンが文化とイデオロギーを通じて実現しようとしているものと構造的に重なる。国家や政治運動が、言葉の選び方や議題設定を通じて何を「常識」に変えようとしているのかを見るうえでも示唆的である。

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この記事を書いた人

大学で哲学を専攻。偽情報や陰謀論がなぜ広まり信じられるのかに関心を持っている。サイバーセキュリティや認知戦にも興味がある。

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