全米に広がるデータセンターの忌避

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目次

1 はじめに

AI開発の拡大に伴い、アメリカでは大規模データセンターの建設が急増している。一方で近年、地域住民による反発や建設阻止運動も全米各地で広がっている。本稿では、下に挙げる複数のレポートをもとに、データセンター忌避の現状と背景、各州・自治体による規制対応、さらに今後の課題について整理する。特に、水資源や電力消費などの環境負荷、不透明な意思決定、地域社会内部の対立、連邦政府と州政府の規制権限をめぐる対立などが、主要な争点として浮上していることを示す。

なお、AIの開発は短期間に拡大しているため、記事公開時は執筆時と状況が大きく変化している可能性もあります。ご留意ください。

2 忌避の現状

AIブームの拡大に伴い、アメリカでは大規模データセンターの建設が急速に進められている。しかし近年、それに対する地域住民の反発も全米で広がっている。反データセンター立法の事例を整理したMatthew Gaultのレポート「An Incomplete List of Successful Anti-Data Center Legislation」( https://www.404media.co/an-incomplete-list-of-successful-anti-data-center-legislation/ )によれば、データセンターは「騒音が激しく、電力と水を大量に消費する建物」として認識されており、メイン州からカリフォルニア州まで、建設停止措置や規制強化を導入する州・自治体が増加している。

こうした動きは一部地域に限られたものではない。同レポートでは、ミシガン州、サウスカロライナ州、ジョージア州、メリーランド州、オクラホマ州、バージニア州などで、データセンター建設のモラトリアム(一時停止措置)や規制案が検討されていることが紹介されている。例えば、サウスカロライナ州コレトン郡では、湿地帯を含む320万平方メートル規模のデータセンター計画に対し、6か月間の建設停止措置が可決された。また、ミシガン州ワシントン・タウンシップでは、住民の反対運動を受けて開発事業者が申請を取り下げ、自治体側も一時的モラトリアム導入を進めている。

また、Sanya Mansoorのレポート「In first, California city overwhelmingly votes to permanently ban datacenters」( https://www.theguardian.com/us-news/2026/jun/03/california-monterey-park-datacenters-ban )によれば、カリフォルニア州モントレーパークでは、住民投票によって全米初となる「データセンターの恒久禁止」が決定された。記事によれば、住民投票では86.3%が禁止に賛成し、市全域でのデータセンター建設を禁止する措置が可決された。住民側は、大気質や飲料水資源、公衆衛生への影響、電気料金や水道料金の上昇を懸念していたという。また、市議会議員のホセ・サンチェスは、この措置について「住民がデータセンターを望んでいないことを明白に示した」と述べている。

一方、同氏の別のレポート「Maine Is Close to Passing a Moratorium on New Datacenters」( https://www.404media.co/maine-datacenter-construction-bill-ld-307/ )によれば、メイン州では2027年まで新規データセンター建設を停止する法案LD307が州議会で可決され、全米初となる州レベルの包括的モラトリアムとして注目を集めた。この法案は20メガワット以上のデータセンターを対象としており、環境負荷や電気料金上昇の調査を目的とした「メイン州データセンター調整協議会」の設置も盛り込まれている。

また、Phil Mandelbaumのレポート「Trump’s AI National Policy Framework: An Attack on States’ Rights?」( https://unicornriot.ninja/2026/trumps-ai-national-policy-framework-an-attack-on-states-rights/ )によれば、オクラホマシティでは地域社会からの圧力を受け、AIデータセンター開発を年末まで禁止する措置が導入された。さらに同氏は、Visual Capitalistの集計を引用し、少なくとも11州がAIデータセンター建設に対する一時停止措置や規制を導入していると紹介している。その結果、2026年に計画されていたAIデータセンターのほぼ半数が延期または中止されているという。

さらに、住民説明会では賛成派と反対派が衝突し、職員や議員への脅迫・中傷、さらにはインディアナポリスでの銃撃事件など、対立の激化を示す事例も報告されている。Ece Yildirimnのレポート「Americans Have Grown Dramatically Anti-Data Center in Just Months, Survey Finds」( https://gizmodo.com/americans-are-starting-to-really-hate-data-centers-and-its-making-the-tech-industry-nervous-2000767088 )によれば、Heatmap Proが2026年に実施した世論調査では、自宅近くでのデータセンター建設に反対すると回答した人は71%に達し、わずか9か月で世論が大きく反対方向へ傾いたことが示されている。データセンター問題は、地域レベルの土地利用問題にとどまらず、全米的な政治課題として認識されつつある。

このように、データセンター建設をめぐる対立は、環境問題や土地利用をめぐる利害対立にとどまらず、地域共同体内部の分断や政治的不信にもつながっている。Gaultは、データセンターをめぐる対立が「今後数年にわたってアメリカの政治を形作る」問題として認識され始めていると指摘している。

3 忌避の背景

3.1 環境負荷への懸念

データセンターへの反発が広がる背景の一つには、地域社会が負担する環境的・社会的コストへの懸念がある。Gaultによれば、データセンターは大量の電力と水を消費し、周辺地域に騒音問題をもたらす施設として認識されている。実際に各地では、水資源の枯渇や電力需要への逼迫に対する懸念が生じている。同レポートでは、ミシガン州イプシランティ・タウンシップで、新規データセンターへの給水が6か月間停止された事例が紹介されている。また、テキサス州では2400万平方メートル規模のデータセンター計画が、枯渇しつつある帯水層から大量の水を使用することへの懸念を引き起こしている。

加えて、住民側はデータセンターによる負担が地域社会へ集中していると認識している。Gaultは、データセンターが周辺地域の電気料金を押し上げ、水質や騒音環境にも悪影響を及ぼしているとの指摘を紹介している。

3.2 不透明な意思決定への不信

計画決定過程への不信感も反発を強めている。Gaultによれば、メイン州ルイストンでは、市議会議員が3億ドル規模のデータセンター計画を知ったのは採決のわずか6日前だった。さらにメイン州ウィスカセットでは、自治体が開発業者と秘密保持契約(NDA)を結んでいたことが住民の反発を招き、計画自体が中止された。

また、サリーン・タウンシップの事例を扱った同氏の別のレポート「Township Leader Resigns in Tears Over OpenAI Data Center Death Threats」( https://www.404media.co/township-leader-resigns-in-tears-over-openai-data-center-death-threats/ )によれば、ミシガン州サリーン・タウンシップでは、「理事会が秘密保持契約を結んでいる」「開発側から金銭を受け取っている」といった疑惑が住民の間で広がっていた。理事会側はこれらを否定したものの、説明不足や交渉過程の不透明さへの不信感が地域対立をさらに深刻化させていたという。

さらに、Nico Schmidt and Ella Joynerのレポート「How Big Tech wrote secrecy into EU law to hide data centres’ environmental toll」( https://euobserver.com/211609/how-big-tech-wrote-secrecy-into-eu-law-to-hide-data-centres-environmental-toll/ )によれば、EUではMicrosoftやDigitalEuropeの働きかけにより、個別データセンターのエネルギー使用量や水消費量などが「商業上の機密情報」と位置づけられた。その結果、地域住民や研究者による検証が困難になっていると指摘されている。

4 対策の現状

4.1 州・自治体による規制強化

データセンター建設への反発が広がるなか、各州・自治体ではモラトリアムや規制強化を通じた対応が進められている。

Gaultが整理した反データセンター立法の事例によれば、ジョージア州では2027年まで自治体によるデータセンター許可を停止する法案が検討されており、メリーランド州では電力供給体制が整うまで建設を停止する法案が審議されている。また、オクラホマ州でも、水資源や公共料金への影響調査が完了するまで、2029年まで建設を停止する法案が検討されている。さらに、メイン州でもLD307が州議会を通過した。同法案には、環境負荷や電気料金への影響を調査する「メイン州データセンター調整協議会」の設置も盛り込まれている。

このように、一部の州ではデータセンター建設を一時停止した上で、その影響を再評価しようとする動きが広がっている。

4.2 住民参加型の対応

地域レベルでは、住民投票や用途規制を通じて建設計画の是非を判断しようとする動きもみられる。

ウィスコンシン州ポート・ワシントンでは、OpenAIの「スターゲート」データセンター計画をめぐる住民投票が実施された。また同様の住民投票案は、カリフォルニア州モントレー・パーク、ミシガン州オーガスタ・タウンシップ、ウィスコンシン州ジェーンズビルでも検討されている。さらに、ウィスコンシン州カレドニアでは土地用途変更への反対署名運動が展開され、その結果としてMicrosoftが計画を中止した。

こうした事例は、データセンター建設をめぐる意思決定に住民が直接関与しようとする動きが広がっていることを示している。

4.3 連邦政府・EUの対応

一方で、データセンターをめぐる対応は地方レベルにとどまらない。

Mandelbaumによれば、トランプ政権は2026年、新たなAI国家政策枠組みを公表した。この枠組みには、州政府による独自のAI規制を制限する方針が盛り込まれており、AI開発を優先する連邦政府と、地域への影響を重視する州・自治体との間で緊張が生じている。また、Schmidt and Joynerによれば、EUではデータセンター事業者に対し、エネルギー使用量や水消費量などの報告を義務づける制度が導入されている一方で、個別施設の詳細データは「商業上の機密情報」として扱われることとなった。

このように、データセンターをめぐっては規制や監督の枠組みが整備されつつある一方で、規制権限の所在や情報公開の範囲をめぐる議論も続いている。

5 今後の課題

以上のように、データセンターをめぐる問題は、単なる施設建設の是非を超え、環境負荷、情報公開、規制権限、地域社会のあり方など複数の争点を含む問題へと発展している。

第一に、AI開発の拡大に伴うインフラ需要と、地域社会が負担するコストをどのように調整するのかが課題となっている。各地では、水資源の消費や電力需要の増加、騒音問題などを理由として反発が広がっており、今後もAI向けデータセンターの建設が続けば、同様の問題はさらに増加する可能性がある。

第二に、情報公開と透明性の確保である。メイン州では自治体と事業者との秘密保持契約が問題となり、EUでは個別施設の環境負荷データが「商業上の機密情報」として扱われるようになった。データセンターが地域社会へ与える影響を評価するうえで、どこまで情報を公開するべきかは引き続き争点となるだろう。

第三に、規制権限をめぐる問題がある。州や自治体ではモラトリアムや規制強化が進められている一方で、トランプ政権はAI開発促進の観点から州による独自規制を制限する方針を示している。データセンター建設をめぐる意思決定を、連邦政府・州政府・自治体のどのレベルで行うべきかをめぐる議論は今後も続くとみられる。

さらに、地域社会内部の分断への対応も課題となっている。ミシガン州サリーン・タウンシップでは住民同士の対立が激化し、行政関係者への脅迫や中傷も発生した。インディアナポリスでは建設を支持した議員宅への脅迫事件も報告されている。データセンターをめぐる問題は、地域経済や土地利用をめぐる利害対立だけでなく、地域共同体そのものに影響を及ぼし始めている。

加えて、データセンター建設をめぐる世論形成のあり方そのものも新たな論点となりつつある。Alex Isenstadtのレポート「China fueling U.S. data center resistance, AI groups claim」( https://www.axios.com/2026/06/05/china-fueling-us-data-center-resistance-ai-groups-claim )によれば、AI業界団体の一部は、中国やその関連勢力がソーシャルメディア上で反データセンター感情を煽っていると主張しているという。一方で、環境団体や住民運動側は、反対運動は地域社会から自然発生的に生じたものであり、業界側が正当な批判を矮小化しようとしていると反論している。こうした議論は、データセンター問題が単なる土地利用や環境問題にとどまらず、情報空間における世論形成や外国による影響工作をめぐる問題とも結びつき始めていることを示している。

データセンターはAI社会を支える重要なインフラとして位置づけられている。しかし、その建設をめぐっては、環境負荷への懸念や意思決定過程への不信、さらには規制権限をめぐる政治的対立が各地で表面化している。今後の議論では、AI開発の推進と地域社会の受容可能性をどのように両立させるのかが問われることになるだろう。

6 参考レポート

・Maine Is Close to Passing a Moratorium on New Datacenters
Matthew Gault
2026年4月7日
https://www.404media.co/maine-datacenter-construction-bill-ld-307/

・How Big Tech wrote secrecy into EU law to hide data centres’ environmental toll
Nico Schmidt and Ella Joyner, Berlin/Brussels/London,
2026年4月17日
https://euobserver.com/211609/how-big-tech-wrote-secrecy-into-eu-law-to-hide-data-centres-environmental-toll/

・Trump’s AI National Policy Framework: An Attack on States’ Rights?
2026年4月24日
Phil Mandelbaum, Contributor
https://unicornriot.ninja/2026/trumps-ai-national-policy-framework-an-attack-on-states-rights/

・Township Leader Resigns in Tears Over OpenAI Data Center Death Threats
2026年5月20日
Matthew Gault
https://www.404media.co/township-leader-resigns-in-tears-over-openai-data-center-death-threats/

・An Incomplete List of Successful Anti-Data Center Legislation
2026年5月25日
Matthew Gault
https://www.404media.co/an-incomplete-list-of-successful-anti-data-center-legislation/

・AI Grifters Are Making Anti-Data Center Slop With AI
2026年6月1日
Matthew Gault
https://www.404media.co/ai-grifters-are-making-anti-data-center-slop-with-ai/

・Americans Have Grown Dramatically Anti-Data Center in Just Months, Survey Finds
2026年6月3日
Ece Yildirim
https://gizmodo.com/americans-are-starting-to-really-hate-data-centers-and-its-making-the-tech-industry-nervous-2000767088

・In first, California city overwhelmingly votes to permanently ban datacenters
2026年6月3日
Sanya Mansoor
https://www.theguardian.com/us-news/2026/jun/03/california-monterey-park-datacenters-ban

・China fueling U.S. data center resistance, AI groups claim
2026年6月5日
Alex Isenstadt
https://www.axios.com/2026/06/05/china-fueling-us-data-center-resistance-ai-groups-claim

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この記事を書いた人

2004年生まれ、新潟県出身。大学で政治外交史を専攻している。安全保障体制に興味があり、台湾情勢をめぐる米中の言動に注目している。

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