なぜ対テロ戦略は女性への憎悪を見落とすのか。白人至上主義テロとミソジニーの結合

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1. はじめに

2026年5月、米カリフォルニア州サンディエゴのモスク、サンディエゴ・イスラミックセンターが襲撃された。10代の容疑者二人によるとされる75ページに及ぶ文書と、襲撃の様子を映したライブ配信動画は、極右やネオナチの思考に深く根ざしていた。対テロや過激主義の専門家にとって、この暴力のイデオロギーと「手口の型」は、あまりに見慣れたものだった。

だが、この襲撃の背後にあるイデオロギーのうち、ひとつの側面が、これまでの多くの主流報道からこぼれ落ちている。あからさまなミソジニー(女性嫌悪)である。

本稿では、この見落とされた側面を入り口に、白人至上主義テロとミソジニーがどう結びつき、それがなぜ国家安全保障の問題になるのかを解説する。手がかりとするのは、ジャーナリストのOdette Yousefによる報道『For far-right extremists, the rise of a new enemy: Women』(NPR、2026年5月27日、 https://www.npr.org/2026/05/27/nx-s1-5835586/san-diego-mosque-anti-women )と、男性至上主義(male supremacism)を専門に研究する機関、男性至上主義研究所(Institute for Research on Male Supremacism、以下IRMS)が公表した報告『IMPACT REPORT 2019?2025』(2025年、 https://static1.squarespace.com/static/63641c2cb45d131cdacdf497/t/6903af975ac3ec7b78000542/1761849239367/IRMS+Impact+Report+%281%29.pdf )である。

2. 消えていない極右テロ

サンディエゴの襲撃をめぐっては、一部の保守的な声がSNS上で「やらせ(staged)だ」と虚偽の主張を流した。しかし、これまでに出ている証拠はむしろ逆で、この襲撃は近年起きたなかでも思想的に最も明白な部類に入ることを示している。

ノルウェーに拠点を置きオンライン上の脅威を監視する企業Revontuletの最高財務責任者で研究者のElliot Chandlerは、「ブレントン・タラント型の、正真正銘の白人ナショナリスト襲撃を目にするのは久しぶりだ」と言う。タラントは2019年、ニュージーランドのクライストチャーチにある二つのモスクを襲撃し、死者を出したテロリストで、その後の数多くの白人至上主義的な暴力の手本となった。

デジタル過激主義対策研究所(Institute for Countering Digital Extremism)の事務局長Matthew Krinerは、容疑者たちが「過去の加速主義的な襲撃者と同じ台本で、自らの行動を撮影した」と指摘する。加速主義(accelerationism)とは、人種戦争を煽り社会の崩壊をもたらすためにテロやサボタージュを推し進め、最終的に社会を父権的な白人だけの国家へ作り変えようとする、極右の白人至上主義者やネオナチの一部が掲げる戦術である。タラントは自らを「文化的な台本」として差し出し、思想の実現のために暴力をふるった者を称えて崇める「聖人文化(Saints culture)」のなかで、「聖人襲撃者」のモデルになった。サンディエゴの容疑者は、彼らのものとされる文書のなかで自らを「タラントの息子たち(Sons of Tarrant)」と称したほか、襲撃時の服装、武器に書きつけた白い文字、衣服に掲げた「ゾンネンラート(Sonnenrad)」の象徴など、クライストチャーチ襲撃の特徴をなぞっていた。

この暴力の連鎖は、国境を越えて広がっている。クライストチャーチに触発された米国内の襲撃だけでも、2019年テキサス州エルパソのウォルマート、2022年ニューヨーク州バッファローでアフリカ系住民が多く暮らす地区のスーパーTops、同じ2022年コロラドスプリングスのゲイバー、2023年フロリダ州ジャクソンビルでアフリカ系住民を狙ったDollar Generalの店舗と続く。憎悪と過激主義に立ち向かう団体Global Project Against Hate and Extremism(GPAHE)の共同創設者で、数十年にわたり極右過激主義を追ってきたHeidi Beirichは、こう語る。「同じ思想に動機づけられた殺害が、複数の国で起きている。ドイツ、ノルウェー、米国、ニュージーランド、最近のセルビア、そしてスロバキアのブラチスラバで」。

3. ミソジニーという新たな結合組織

白人至上主義の界隈でミソジニーが前景に出てきたのは、そう古いことではない。GPAHEのBeirichは、「こうした種類のミソジニーは、たとえば10年から15年前には、白人至上主義の界隈に存在しなかった」と指摘する。その兆候として彼女が挙げるのが、ゲーム業界にはびこっていた性的なトローリングと嫌がらせの文化を白日のもとにさらした2014年の「ゲーマーゲート(Gamergate)」騒動と、かつてネオナチの主要な掲示板だったThe Daily Stormerで育まれた暴力的で反女性的なレトリックである。Beirichは、ミソジニーの広がりは際立っていると言う。「それは白人至上主義の領域を完全に感染させた。いまやミソジニーは、こうした思想を売り買いし、こうした文化のなかで生きる人々にとって、人種主義やネオナチズムと同じくらい重要だと私は考える」。

サンディエゴの襲撃文書にも、それは表れている。IRMSの事務局長で共同創設者のAlex DiBrancoによれば、容疑者の一人は文書のなかで、まずユダヤ人を一番の敵として挙げ、続く節で「そしてユダヤ人のすぐ次に、女性が一番の敵だ」と書いている。ネオナチや白人ナショナリストの殺人者がユダヤ人への侮蔑語を使うのと同じように、この文書は「female humanoid organism(女性の人型有機体)」という句を縮めた非人間化の言葉を使っていた。DiBrancoは、これがインセル(incel、involuntary celibate=「不本意の禁欲者」。過激なミソジニーを育み、女性の殺害にも結びつけられてきたオンライン空間)の界隈で好まれる言い回しであり、女性は人間ではない「ヒューマノイド」だと示すための語だと説明する。にもかかわらず、こうした反女性の陰謀論に部分的に根ざした暴力について、学術研究も報道も、その危険な信念の広がりに追いつけずにいる。

4. 反フェミニスト陰謀論、反ユダヤ主義と並ぶ土台

DiBrancoは、この種の語りに「反フェミニスト陰謀論(anti-feminist conspiracies)」という枠組みづくりに携わってきた。彼女の見立てでは、ミソジニーは反ユダヤ主義に匹敵する。反ユダヤ主義は、陰謀論に根ざし、白人ナショナリズムの思考を下から支える土台である。実際、反ユダヤ主義は、モスク、アフリカ系やラテン系の住民が利用する小売店、ゲイバー、学校を狙った白人至上主義の襲撃の背後で、欠かせない思想的な部品であり続けてきた。「女性が舞台裏で糸を引いている」という、それとよく似た陰謀論的な発想が、女性についても見られるとDiBrancoは言う。

その最も分かりやすい例の一つとして彼女が挙げるのが、2011年にノルウェーで起きたネオナチによる襲撃である。ある男が、夏のキャンプにいた数十人の10代を含む77人を殺害した。その人物もまた、自らの信念を書き残していた。DiBrancoによれば、彼はフェミニズムと女性を、西洋とヨーロッパの「女性化(feminization)」の元凶と見なし、彼の言う「ムスリムの侵略」の責任者と見なしていた。彼は「文化的マルクス主義(cultural Marxism)」と呼ばれる別の陰謀論を信奉し、「政治的な正しさ」への反発を語った。そして、それらすべての元凶を、西洋の女性のフェミニズムに帰していた。

この「女性化」への恐怖は、性をめぐる退廃という発想と結びつく。Revontuletの研究者Chandlerは、白人至上主義を「『文化的退廃』とその源泉という発想に深く入れ込んだイデオロギー」と呼び、女性性とその過剰な表れを退廃の中核と見るのは「いかにもナチスらしい」考え方だと述べる。DiBrancoは、社会の「女性化」へのこの恐慌が、LGBTQ+の人々や、包摂を進める取り組みへの極端な敵意にも作用していると指摘する。核心にある賭け金は、と彼女は言う。「彼らは、シスジェンダーの白人男性が至高で、揺るぎない支配権を握っていた体制があったと感じている。そして今、彼らが『文化的退廃』と呼ぶ別の力が、その支配を掘り崩している」。

ここで、ひとつの調査機関の見方が、この個別の観察を、より大きな構図のなかに置く。IRMSの報告は、男性至上主義を「孤立した、あるいは周縁的な現象」ではないとする。それは「権威主義、極右運動、そして世界中の日常的な暴力と差別を駆動する、土台となるイデオロギー」だというのである。

5. なぜ国家安全保障の問題なのか

サンディエゴの襲撃は、白人至上主義テロという長年の問題が消えていないという明白な警告だと、Beirichをはじめとする専門家は言う。そしてそれは、トランプ政権が国内外で暴力的な極右過激主義への対処から軸足を移したことへの懸念を、改めて呼び起こした。

2026年5月、ホワイトハウスは、国土を守るための優先順位と方針を示す「2025年米国対テロ戦略(2025 United States Counterterrorism Strategy)」と題する文書を公表した。文書は、米国にとっての三大テロ脅威として、麻薬テロリスト、イスラム主義テロリスト、暴力的な左翼過激主義者を挙げる。だが、極右、ネオナチ、白人至上主義の脅威については、どこにも触れていない。

「極右テロは健在だが、この文書を読んでもそうとは分からない」と、世界の安全保障を専門とする非営利団体ソウファン・センターの事務局長Colin Clarkeは言う。「これは、死活的に真剣な主題について、真剣でない人々が書いた、真剣でない文書だ」。文書はまた、「過激にトランスジェンダーを擁護する」「暴力的で世俗的な政治集団」や、ムスリム同胞団のような政治運動に言及しており、それも驚きをもって受け止められた。「なぜジェンダーが対テロ戦略に入り込むのか私には分からないが、現にそうなっている」とClarkeは言う。

党派性を排すると冒頭で掲げながら、文書には党派性が強く臭うとClarkeらは見る。彼の指摘では、前大統領ジョー・バイデンの名は文書中に7回登場する。一方、レバノンのヒズボラ、すなわち米国が交戦するイラン政府の代理勢力への言及は2回にとどまる。元国務省の対テロ当局者で、バージニア州第8選挙区の候補者でもあるMichael Duffinは、こう述べる。自分や家族がコンサートやパレード、ショッピングモールに出かけるとき、誰が危害を加えてくるのかを考えたい、と。「それは、ムスリム同胞団の構成員ではない。極左の構成員でもない。白人至上主義者だ。ISISに触発された者たちだ。この国家安全保障戦略が焦点を当てるべきなのは、そうした主体だ」。Clarkeは、この戦略を「かなり危険だ」とも評する。政権が何に焦点を当て、何に当てていないかを、どこに資源を割き、どこに割かないかを示してしまうために、「国をより危険にする」のだという。

この脱落を、IRMSの報告は別の角度から照らす。報告は、男性至上主義の重要性が「見過ごされ、右翼と権威主義の中核的な学術上の定義から取りこぼされてきた」と述べ、それが「不正義と暴力に対する、政策と文化の両面での効果的な対応の可能性を損なっている」と指摘する。2020年にIRMSの基調講演者を務めた、『How to Be Less Stupid About Race』の著者Crystal Flemingは、白人至上主義がネオナチやクー・クラックス・クラン(KKK)のような周縁にだけ存在するという思い込み、すなわち「KKKの誤謬」に警鐘を鳴らした。実際にはそれは、米国の制度、文化的な規範、経済の仕組みに深く埋め込まれた、構造的な権力のシステムだと彼女は強調した。

6. 私見

ここからは原文を離れた筆者の見解である。

二つの原典を重ねると、ひとつの厄介な符合が見えてくる。男性至上主義というテーマが、学術の定義からも、国家の安全保障戦略からも、同じように抜け落ちているのだ。

もっとも、抜け落ち方の機序は同じではない。IRMSの報告が記録するのは、学術が男性至上主義を右翼や権威主義の定義から取りこぼしてきたという、認識の上での死角である。一方、2025年の対テロ戦略が白人至上主義やネオナチのテロを脅威の一覧から落とすのは、Clarkeらが「党派性が臭う」と評したように、むしろ政治的な選択に近い。それでも両者は同じ一点に行き着く。重要なものを「周縁的だ」と見なし、ジェンダーや女性への憎悪を脅威の地図から消してしまうことだ。Flemingの言う「KKKの誤謬」、すなわち白人至上主義を周縁の出来事と取り違える発想は、学界の不作為としても、政策上の選択としても、同じ死角を生む。

しかも対テロ戦略の場合、話はそこからさらに進む。脅威の一覧から白人至上主義やネオナチのテロが抜ける一方で、文書は「過激にトランスジェンダーを擁護する」「暴力的で世俗的な政治集団」のほうに言及している。その脱落によって、白人至上主義テロと結びつく女性への憎悪もまた、脅威の地図から抜け落ちる。だが、ジェンダーは、向きを変えて戦略のなかに書き込まれている。「なぜジェンダーが対テロ戦略に入るのか分からない」というClarkeの当惑は、このねじれを言い当てている。

もうひとつ、日本の読者に引きつけて考えておきたい点がある。ここまで見てきたのは白人至上主義テロという暴力の話だが、その底にある反フェミニズムやミソジニーは、より広い政治的な潮流ともつながっている。IRMSのフェローJudith Goetzが共同編集に加わった書籍『Global Perspectives on Anti-Feminism(反フェミニズムへのグローバルな視座)』の紹介文は、もともとバチカンが始めた「反ジェンダー」の運動が世俗の極右に引き継がれ、性と生殖の権利、ジェンダーの平等、性の多様性に反対するキャンペーンが「ロシアから米国へ、ラテンアメリカから日本へ」と広がった、と記している。これは一次的な調査ではなく書籍の紹介文の一節であり、日本でこの潮流がどこまで根を張っているかは、本稿の手元の資料からは測れない。それでも、女性への憎悪を「文化戦争の脇道」と眺める視線そのものが、ここで論じてきた盲点のささやかな反復になりうる、とは言えるだろう。

ただし、留保もいる。ここで紹介してきたのは、体系的な計測ではなく、現場を追う専門家たちの観察が重なったものである。Beirich自身が、この種のミソジニーは「10年から15年前には存在しなかった」と時期を限っているように、これはあくまで近年の変化として描かれている。ミソジニーが前景に出ない白人至上主義テロも依然あるだろうし、それがあらゆる事件の中核だと一般化できるかは、慎重に見るべきだ。それでも、サンディエゴの一件が映し出すのは、女性への憎悪がもはや文化をめぐる論争の片隅の話ではなく、国境を越えて人を殺すテロの、確かな構成部材になっているという事実である。

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この記事を書いた人

大学で哲学を専攻。偽情報や陰謀論がなぜ広まり信じられるのかに関心を持っている。サイバーセキュリティや認知戦にも興味がある。

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