それでも英国は、難民の年齢をAIで推定したい

英国政府は現在、亡命申請者の年齢を判定するために「AIの顔年齢推定技術」を導入しようとしている。しかし先日WIRED、Lighthouse Reports、The Independentの三誌が同時に発表した共同調査報道により、この計画に関する数多くの問題点が暴露された。
この調査報道は、英国の内務省からリークした文書をもとに行われたものだ。彼らが入手したリーク文書には何が書かれていたのか、そして彼らが指摘した問題点とは何だったのかを、少し詳しくお伝えしたい。
2025年に発表されていた「FAE導入計画」
まず最初にお断りしておくと、この技術の導入計画そのものは新しい話題ではない。
「亡命申請者の年齢を推定するため、AIの顔年齢推定(FAE:Facial Age Estimation)の技術を利用する」というプランを、英法務省が書面で公表したのは2025年7月のことだ。
このFAE導入計画が発表されたとき、当時の国境安全保障亡命担当国務大臣だったAngela Eagleは「顔年齢推定の技術こそ最もコストパフォーマンスの高い選択肢である」と述べており、「それは数百万枚の写真を学習させたAIの技術により、年齢が分からない個人(または疑わしい個人)の年齢を一定の精度で推定するものだ」と説明していた。
英国では、亡命申請者の年齢が「18歳未満かどうか」が重要な境界線となっている。もしも18歳未満であれば、未成年として地方自治体の保護下に置かれ、法的な保護が与えられることになる。しかし遠い国から小型船に乗って英国に辿りつくような難民は、自らの身分を証明できる書類を持っていないことが多い。そんな彼らが未成年なのか成人なのかを効率よく判定するため、英国はAIを導入して効率化を図りたいと考えたようだ。
当然ながら、この計画は発表当初から賛否の声を集めた。もしも18歳未満の亡命申請者が誤って成人だと判断された場合には、「子供」としての法的な保護を受けることができず、成人用の施設に収容されてしまうことになるだろう。「そのような判断をAIに頼ることは人道的に許されるのか?」という意見が上がった一方、「ただでさえ現在の内務省が杜撰すぎるせいで、すでに多くの問題が発生しているじゃないか」という指摘もあった1。
そして最初の発表から二か月が経過した2025年9月には、英内務省が『年齢を正確に推定できるアルゴリズム』の入札を開始したことが報じられた。この入札を報じたThe Registerの記事によると、アルゴリズムの契約期間は2026年1月19日から3年間、予算は130万ポンド(約約2億8000万円)で、入札仕様書の用途例には『書類を持たない人物の年齢判定の補助』が挙げられていたという。
このときThe Registerは、内務省が犯罪やテロ対策、薬物の取り締まりなども管轄しているという点を指摘した。つまり『年齢を正確に推定できるアルゴリズム(そんなものが実在するのかはさておき)』の導入が、「身分証明の書類を持たずに小型船で英国へ辿りついた若い亡命申請者」への利用に留まらず、用途を拡大して利用されるのではないかというリスクを示唆していた。
(この用途拡大への懸念も深刻なトピックなのだが、話が脱線してしまうので、ここでは脇に置いておくことにする。ちなみに同誌は、より具体的なアルゴリズムの使用に関して内務省へ問い合わせをしたが回答は得られていない)
三誌の調査で明かされた「FAEの性能評価」
そして2026年6月18日、WIRED・Lighthouse Reports・The Independentの三誌が、内務省からリークした文書を共同調査したうえで、この計画における数々の問題点を指摘した。彼らが入手した文書とは「内務省の生体認証プログラム担当の職員が、FAEの性能をテストして結果をまとめた内部文書」として2025年4月に作成されていたものだ。
Lighthouse Reportsは英国の情報公開法(Freedom of Information Act 2000)に基づき、この文書の開示を以前から要請していたのだが、内務省からは開示を拒否されていた。しかしリークが発生したことにより、彼らは念願の文書を入手することができた。
問題の内部評価書は「250万枚以上の顔写真を用いて、7種類のアルゴリズムの動作をテストした結果」を詳述したものだった。ここで指摘されているFAEの技術的な問題点は、主に以下のとおりとなる。
・FAEの性能は、判定対象者の「人種」によって大きな違いが見られた。7種類のアルゴリズムの中で最も高精度と評価されたものでも、サブサハラやアフリカ出身者の年齢を判定させると、実年齢との誤差が著しく広がった。
・年齢が「17歳」の人物の場合は、平均的に「18歳以上」と判定されてしまう傾向が見られた。さらに女性の判定では、全般的に精度が低下することも確認された。
・「サブサハラやアフリカ出身の女性」の場合は、平均で4.6年分もの誤差が生じた。
(これは、14歳の少女ですら成人に判定されてしまう可能性が充分にあることを示唆している)
・この内部文書の筆者は、「英国に流れ着くまでの長旅、トラウマ、栄養失調などの要因により、難民は実際の年齢よりも年上に見える可能性がある。それがFAEの精度をさらに悪化させうる」と指摘しており、「ただし体系的な検証は行うことができなかった」とも認めている2。
ここで挙げられている数々の問題点は、極めて深刻である。なぜなら現在、英国に小型船で到着する亡命申請者は、「サブサハラやアフリカの出身者」が最も多いからだ。つまりFAEは、英国の担当者がいちばん頻繁に使いたい相手(未成年かどうかの判断に迷う年齢層のアフリカ系出身者で、精神的にも肉体的にも疲れ果てている若者)の年齢推定が最も苦手だということになる。つまるところ「その仕事には不向きな技術」と言ってもいいだろう。
このような評価が報告されていたにも関わらず、英内務省は2026年5月、「英国の国境の入国審査官は2027年から顔年齢推定(FAE)技術を導入する」と発表した。
アルゴリズムの分析と当事者のコメント
今回リークした内部評価書の中には、どのアルゴリズムが最終的に英政府と契約を結んだのかが記載されていない。しかしThe Independentの報告によると、すでに英国は32万2000ポンド(約7000万円)でAkhter Computers社に発注を行っており、ここで導入されるのはドイツのCognitec Systems(以下Cognitec)のアルゴリズムであるという。
WIREDとLighthouse Reportsの記事は、このCognitecのアルゴリズムに関する追加の分析結果を掲載している。米国の国立標準技術研究所(NIST)が2024年に公開していたテスト結果のデータから分析したところ、Cognitecのアルゴリズムは「国境を通過する際の低品質の写真でテストしたとき、16歳の3分の2以上を成人と誤判定する」ことが分かった。
この問題について、WIREDとLighthouse Reportsから質問を受けたCognitecは、直接的なコメントを避けつつも、「人口統計の差異は、あらゆるベンダーに影響する複雑な問題であり、多くの場合は画像の品質が原因だ」と述べている。
一方、今回の調査報道を受けた英内務省は、FAEの技術が「補助的なツール」だと述べており、「個人の年齢確認には厳格な手順が設けられている。我々は迅速で効果的な顔年齢推定技術のテストを通し、この手順の近代化に取り組んでいる」とコメントした。
要するに「AIが人間に成り代わるわけではない、効率化を図るために補助的な使い方をするだけだ、AIに全ての判断を委ねているわけではない」という主張だろう。しかし彼らが使おうとしているのは、もともと大して高性能でもないうえ、「英国へ亡命を申請するタイプの若者を特に苦手としている年齢推定ツール」だ。それを効率化のために導入することで、最終的な判断をする人間に影響を与える可能性は高いだろう。
ただでさえ世界中の多くの政府が、国民の反移民の感情を政治に利用している現在、「AIも成人だと推定していることだし」というのは、難民の保護を蔑ろにするための恰好のエクスキューズとも成りえるだろう。過酷な環境から逃げ延びてきた、とりわけ弱い立場にある未成年が、AIの判断ひとつで大きく運命を左右させられてしまうかもしれない。
顔年齢推定(FAE)技術とは?
ところで、そもそもAIによる年齢推定技術(FAE)とはどのようなものなのだろうか。最初からそれが気になっていたという方もいるだろう。ここではNISTが2024年に発表していたFAEの技術評価報告書「FATE: Age Estimation and Verification」を参照しながら大まかに説明したい。
(ちなみに、先述の「二誌によるCognitecのアルゴリズム分析」には、この技術評価報告書に記されたデータが使われている)
NISTの解説によれば、FAEは顔認識(あるいは顔認証)の技術とは根本的に異なっている。顔認識は画像を元に「この人物は誰なのか」を特定するための技術だが、FAEは単に一枚の写真から「この人物は何歳なのか」を推定するだけの技術である。その精度については、「最も高精度なアルゴリズムを利用した場合でも平均で約3年の誤差が見られる。これは平均の値であるため、(実年齢から)大きく外れるケースも相当数ある」とも記されている。
それでは、いったい誰が何のために「平均で約3年の誤差を示す年齢判定の技術」を利用しているのだろうか? 三誌の調査報道でも指摘されているとおり、FAEの技術は主に「年齢制限つきのサービス」向けの技術として普及してきたものだ。より具体的に言えば、主な目的はアルコールや煙草、あるいはアダルト向けのコンテンツなどに未成年者がアクセスできないようにすることである。
ただしNISTの報告書は「それ以外」に想定される用途もリスト化している。たとえば特定の年齢を超えた人物を弾くため(未成年限定のチャットルームへのアクセスなど)、あるいは映画館などの施設が訪問客の年齢別の統計を作成するため、もしくは年齢層に合わせた広告を表示するためなどだ。
このリストの最後には「難民や亡命希望者、その他の不法滞在者の年齢を推定するため」との記述がある。しかし、これはあくまでも「どんな用途で利用されうるのか」を示したもので、実際に導入された事例のリストではない。そして現在のところ、移民の審査のためにFAEが使われた実例はないと考えられている。
言い方を変えるなら、それは主に、大人向けのサービスの提供者が顧客の年齢を推定するために用いてきた技術だった。しかしNISTは2024年の報告書で、より広範な用途を想定していた。そして英当局は現在、ビールや煙草を購入する消費者に対してではなく、「祖国を逃れて英国に亡命してきた若者」の審査にFAEを転用しようとしている。
「AIの顔年齢推定」に突き進む英国と、人権団体の反応
今回の調査報道では、もう一つの興味深い事実が報告されている。英国の内務省は2025年、AI導入計画を発表する直前に、亡命申請者の年齢審査に携わるはずの諮問委員会を解散していた。
この「Age Estimation Science Advisory Committee(AESAC:直訳すると「年齢推定科学諮問委員会」)」は、より広範な年齢推定の方法について助言するために設置された委員会だった。それを解散した理由について、内務省は「異なる専門分野の知見が必要だったため」と説明している。
一方、FAEの技術を「とんでもなく不正確」だと批判している委員会の元会員で、UCL Institute of Child Healthの名誉教授でもあるTim Cole氏は次のように語っている。「我々は『顔年齢推定の不備』を指摘するつもりだったのだが、その機会は得られなかった。この委員会が解散させられたのは、我々が批判的になることを懸念したためだろう」
解散理由の真相はともあれ、英国が確固たる意志を持って「AIを利用した亡命者の審査」に突き進んでいることは間違いなさそうだ。なにしろ彼らは専門家たちによる諮問委員会を事前に解散しただけでなく、情報公開法に基づいた内部評価書の開示請求にも応じなかった。彼らが開示を拒否したのは、250万枚もの顔写真を使って行われたアルゴリズムの内部評価で、それは数々の深刻な問題点を挙げていたにも関わらず、内務省は当初の計画どおりの導入を決定した。この一連の動きを強行的だと見なす人は多いだろう。
WIRED、Lighthouse Reports、The Independentの三誌が一斉に調査報道を配信したのは2026年6月18日だった。その翌日の6月19日には、アムネスティ・インターナショナル、ヒューマン・ライツ・ウォッチ、EFF、Libertyなど62の団体が内務省へ公開書簡を送付し、FAE導入計画の中止を要請した。この書簡は「16歳から18歳という最も重要な領域において、FAEは最も不正確だ」と指摘し、また「根本的な失敗と差別が組み込まれたシステムだ」とも批判している。
この62団体による書簡を取りまとめたのは、英国の非営利団体「Foxglove」だった。Foxgloveの共同代表者のMartha Dark氏は、The Independentの取材に対して「(FAEは)根本的な不正確さと人種差別的なバイアスが組み込まれた実験的の技術であり、子供たちを被験者にするべきではない」と述べた。
一方、ヒューマン・ライツ・ウォッチのシニアリサーチャーAnna Bacciarelli氏は、以下のようにコメントした。「時間が経つにつれて、それが定着してしまう危険性が充分にある。このシステムのあらゆる要素に、これほど多くのリスクがある中、ただAIを使って移民問題に取り組んでいると言うために、それを続ける価値は少しもない」
このコメントはFAEの技術的な問題点だけではなく、「それを導入したがる政府」も皮肉交じりに批判したものだ。「そもそも内務省は、FAEの効率や精度など重視していないのではないか? ただ国民に対して『私たちは最先端の技術を使っています』とアピールするためだけに、甚大なリスクを冒しているのではないのか?」と暗に指摘している。ここまでの内務省の前のめりな態度を鑑みると、Bacciarelli氏による指摘は多かれ少なかれ当たっているのかもしれない。
脚注
- 英国境・移民監察官のDavid Boltは2025年7月の時点で「内務省における年齢判定プロセスの杜撰さ」に関する報告書を発表している。彼の報告書『An inspection of the Home Office’s use of age assessments』は、まず年齢判定の基準が「身体的外見、態度や物腰」のみを根拠としており、「どう見ても18歳以上かどうか」を主観的に見た雑な判断だと指摘した。内務省の記録には「喉仏」「広い肩」「太い手」という同じフレーズばかりが繰り返し使われており、申請者たちの文化的・人種的な背景や、人生経験の影響は考慮されていない可能性が高い。さらに「施設の環境の劣悪さが正確な年齢推定をますます困難に」しており(若い申請者たちは長旅のあと木製のベンチで一夜を過ごし、翌朝に疲弊した状態で判定を受けるという)、「彼らの精神的な健康状態にも深刻な悪影響が出ていた」という。そして18か月の間に、少なくとも1300人以上の未成年者が「成人」と誤って判断されていたも記されている。
これならば、まだAIの年齢判定のほうがマシではないかと考えた人も少なくなかっただろう。しかし皮肉なことに、内務省がテストしたアルゴリズムの問題点は、過去にBoltが挙げていた「内務省の年齢判定プロセスの問題点(たとえば、亡命者は一般の人より老けて見えやすいことが考慮されていないなど)と大きく重なっている。
↩︎ - 実は、このテストで利用された250万枚の画像の多くは亡命申請者の写真ではなく、ビザや在留許可の申請者の写真だったと報告されている。「本来の目的を考えた場合、最も肝心となる条件でのテスト」が不充分となり、体系的な検証も行えなかったということになるだろう。さらに「国境で撮影された写真は、一貫して品質が悪かった」とも報告されている。つまり英国の国境における亡命申請者の年齢推定は、FAEにとって「サブサハラやアフリカ系」「十八歳前後の若者」「低クオリティの写真」という三つの苦手要素をすべて網羅した業務である。
↩︎
出典、参照URL
・共同調査報道を行った三媒体
Lighthouse Reports「Asylum by Algorithm」
https://www.lighthousereports.com/investigation/asylum-by-algorithm/
The Independent「Home Office knew AI age checks for migrant children were flawed – but rolled it out anyway」
https://www.independent.co.uk/news/uk/home-news/ai-migrant-border-age-technology-home-office-b2994568.html
WIRED「The UK Will Scan Asylum-Seekers’ Faces for Age Checks—Despite Knowing the Tech Is Flawed」
https://www.wired.com/story/facial-age-estimate-uk-asylum-seekers/
・その他
UK border officials to use AI to verify ages of child asylum seekers _ Immigration and asylum _ The Guardian
https://www.theguardian.com/uk-news/2025/jul/22/uk-border-officials-to-use-ai-to-verify-ages-of-child-asylum-seekers
Home Office to spend £1.3M on age-determining algorithm (The Register)
https://www.theregister.com/2025/09/09/home_office_age_algorithm/
NIST IR 8525「Face Analysis Technology Evaluation: Age Estimation and Verification(米国立標準技術研究所が2024年に公開したFAEの技術評価報告書、PDFファイル)
https://nvlpubs.nist.gov/nistpubs/ir/2024/NIST.IR.8525.pdf
UK Home Office to use AI age estimation on asylum seekers – how accurate is the technology? -The Conversation
https://theconversation.com/uk-home-office-to-use-ai-age-estimation-on-asylum-seekers-how-accurate-is-the-technology-284125
Rights groups brand Home Office’s AI age guesser for asylum-seekers as biased and inaccurate – The Register
https://www.theregister.com/security/2026/06/19/rights-groups-brand-home-offices-ai-age-guesser-for-asylum-seekers-as-biased-and-inaccurate/5258892
An_inspection_of_the_Home_Office_s_use_of_age_assessments__July_2024___February_2025_(David Boltによる報告書、PDFファイル)
https://assets.publishing.service.gov.uk/media/687f6f9dfdc190fb6b84685e/An_inspection_of_the_Home_Office_s_use_of_age_assessments__July_2024___February_2025_.pdf
