認知戦レポート作成のためのチェックリスト

本稿、「認知戦レポート作成のためのチェックリスト 認知戦、FIMI、デジタル影響工作、CIB等レポート比較試論」はクマモトが執筆したものを一田とClaude Sonnet4.6、Claude Opus4.7が加筆修正した。
はじめに
認知戦・FIMI・デジタル影響工作・CIBに関するレポートは数多く存在するが、領域横断的な性質ゆえに内容は多様で、レポートの目的と実際の内容がかみ合わないケースも少なくない。たとえば、SNS上の活動分析のみをもって「脅威分析」と称するレポートもある。また、発注側も具体的な仕様を提示できないことが多く、結果としてレポートと目的の間に齟齬が生じやすい。
本稿は、こうした問題意識から行われた試みである。「安全保障」の視点でチェック項目を設定し、異なる目的で作られた5つのレポートを並べることで、同じ分野のレポートでも詳述される項目と記載のない項目が大きく異なることを示した。安全保障上の根拠として使えるレポートとそうでないレポートを、理由とともに明示している。レポートの優劣を評価したものではなく、視点が変われば使えるレポートも変わってくる。
チェック項目の設定は限られた知見によるものであり、より専門的な視点からの改訂を想定している。本稿はあくまでこの領域のレポートのチェックリスト作りのための試みであることをあらかじめご承知いただきたい。
以上のような経緯であるため、本稿は通常の記事や論考とは異なる性格のものになっていることをあらかじめおふくみおきいただきたい。記事やレポートというよりもチェックリストあるいはチェックのためのガイドに近いものとなっている。
なお、本記事に関する無料ウェビナーを2026年5月13日に行う。参加登録はこちら。
本稿の目的
前項に記したように領域横断的な比較を通じて各領域の特質を浮き彫りにすることを目的としており、批判的な検証と、より優れた後続分析につながることを祈念している。
今回、とりあげたレポートはMeta、Digital Forensic Research Lab(以下、DFRLab)、Institute for Strategic DialogueI(以下、ISD)、読売新聞、新領域安全保障研究所(以下、INODS)の5つ。
Metaのレポートおよび読売新聞の記事は安全保障レポートとして設計されたものではないため、本比較では噛み合わない箇所がある。端的に言えば安全保障の根拠としては使いにくい。それでもあえて取り上げたのは、これらに類似した内容が官公庁や企業向けの脅威レポートとして提供される事例があるためで、発注者・受託者双方に何が不足しているかを把握する一助になればと考えたためである。
各種新聞がある中から読売新聞の記事を選んだ理由は、他の国内記事の多くが欧米あるいはイスラエル製ツールを使用しており、対象が異なるだけで欧米レポートと項目が大差ないのに対し、読売新聞はSakana AIとの共同調査という独自のアプローチをとっていたためである。
各レポートの位置づけ(文字に色がついているのは視認性を高めるためで他意はない)
Meta FIRST QUARTER Adversarial Threat Report 2024年5月https://transparency.meta.com/sr/Q1-2024-Adversarial-threat-report
DFRLab Foreign and domestic: Information manipulation during elections in Georgia, Moldova, Armenia, and Azerbaijan 2026年3月
https://dfrlab.org/2026/03/31/foreign-and-domestic-information-manipulation-report/
ISD Foreign actors and foreign influence: An exploratory analysis of international state actors targeting Ireland in 2025 2026年4月
https://www.isdglobal.org/digital-dispatch/foreign-actors-and-foreign-influence-an-exploratory-analysis-of-international-state-and-son-state-sctors-targeting-ireland-in-2025
読売新聞 2つの記事をひとつのレポートとして扱った。いずれも2026年3月。
https://www.yomiuri.co.jp/politics/20260328-GYT1T00350
https://www.yomiuri.co.jp/politics/20260322-GYT1T00263
INODS 【緊急報告】イラン戦争に伴うホルムズ海峡封鎖下で展開された対日デジタル影響工作の分析 2026年4月
https://inods.co.jp/topics/experts/9281/
上記のうち、比較的似ているのは、安全保障関係のシンクタンクのレポートであるDFRLabとISDのレポートである。以下、簡単にそれぞれのレポートの特徴を記した。
Meta: Metaの四半期1回の情報公開の一環として行われているMeta自身が検知、対処した脅威に関するレポート。透明性レポートの一種とも言える。安全保障や民主主義の防衛を目的とした活動ではない(結果的にそうなっているが)。
DFRLab: アメリカのシンクタンク大西洋評議会の一部門。国家安全保障に強いシンクタンクの活動のひとつとしてのレポート。
ISD: 国家安全保障に強いイギリスのシンクタンクとしてのレポート。
読売新聞: 調査報道による新聞記事で、SakanaAIとの共同調査。
INODS: サイバーセキュリティを専門とする大学教授が執筆したレポート。
まとめ:各レポートの特徴
Meta
透明性レポートとしての完成度は高く、CIBの検知・対処という点では他の追随を許さない。CIBはプラットフォームの利用規約に明確に反する行為であり、許容水準を超えていることの確認が5レポートのなかで最も明確である。自社プラットフォームデータに基づく技術的証拠の明示、AIを含む新技術リスクへの言及、パーセプション・ハッキングの指摘など、プラットフォーム事業者ならではの視点が強みである。一方、安全保障レポートとしては地政学的文脈が浅く、受け手側への影響評価や国家の意図の分析がほぼない。あくまで「自社プラットフォーム上で何が起きたか」を記録するものであり、認知戦全体の構造を理解するためのレポートではない。
DFRLab
5つのなかで安全保障レポートとして最もバランスが取れている。背景分析の深さ、国内アクターとの連動構造の解明、アトリビューションの慎重さ、オフラインとの連動への言及など、認知戦を国家安全保障の問題として体系的に捉えている。許容水準の観点では、票買い工作(法律違反)や偽ニュースサイト(隠蔽)といった明確に問題となる活動と、グレーゾーンにある活動を混在させつつ、後者については断定を避けた誠実な姿勢が見られる。弱みは、政策提言がレポート本体に含まれない点と、ナラティブの時系列推移分析が薄い点である。
ISD
FIMIという概念の定義と適用において丁寧な姿勢を示しており、Pravdaネットワークによる制裁違反の分析など許容水準を超えることが明確な活動の特定は詳細である。しかしレポート全体として、許容水準を超えているかどうか確認できていない活動(国家系メディアによる発信、RTに雇用された人物の意見発信など)が混在しており、ISD自身がFIMIの基準を満たさない活動を含むと認めている。全体的に「探索的分析」の域を出ず、非難の根拠として使える部分と使えない部分が混在している状態である。
読売新聞
ナラティブの時系列推移をAIで定量的に分析した手法は独自性が高く、この点は5レポートのなかで突出している。しかし安全保障レポートとして最も深刻な問題は、報告されている活動の大半が許容水準を超えているかどうか確認されていない点にある。ボット検出がなくCIBの確認ができていないため、在日中国大使館のXへの投稿、官製メディアの報道、外交官の発言など、通常の外交・国家PRの範疇に収まる可能性のある活動が「認知戦」として一括して報告されている。ナラティブの変化を詳細に示しても、その拡散手段が通常の発信活動なのかボットやCIBによる工作なのかが確認されなければ、非難の根拠としては成立しない。
INODS
許容水準超過の確認という観点でMetaと並んで最も丁寧である。ボット検出により利用規約違反を確認し、事実無根の虚偽情報の投入という内容面での問題も示し、位置情報推定により組織的な工作の可能性を示している。また、意図せず工作に利用されたインフルエンサーと工作主体を明確に区別している点も評価できる。軍事行動と情報工作の連動という視点、受け手側の社会への実影響評価まで踏み込んでいる点も際立っている。弱みは過去事例との比較が薄い点と、分析対象がXのみに限定されている点、1件の事案を緊急報告として扱っているため継続的なモニタリングとの比較ができない点である。
チェック項目とその結果
チェック項目
チェックしたのは以下の7項目(大項目)。
- 背景もしくは戦略的文脈
◦ 背景
◦ 調査対象の定義
◦ 認知戦を仕掛けられた理由とトリガー
◦ 相手の目的
◦ パーセプション・ハッキングやLLMグルーミングの可能性 - 分析内容
◦ 分析手法・アプローチ
◦ 過去の事例との比較
◦ 国内アクター
◦ 対象としたネット上の情報
◦ キネティック(物理的・現実的)との連動
◦ ボットの検出 - 調査対象
◦ 攻撃側
◦ 受け手側
◦ 同調者
◦ プロキシ(認知戦代行会社など) - ナラティブ
- アトリビューション
- 対策、課題
- 許容水準超過の確認
チェックした結果

許容水準の検討について
本稿では各レポートが問題視している活動が、国として非難するに足る水準を超えているかどうかを検討の軸として加えた。この視点は安全保障レポートとして特に重要である。外交官や政府関係者が公式に発言することや、国家が自国に有利な情報を発信することは一般的な外交・国家PRの範疇であり、それだけでは認知戦として非難できない。問題視すべき活動とは、プラットフォームの利用規約に反するCIB(偽アカウントを使った協調的操作)、票買いや選挙妨害などの法律違反、活動の主体を隠蔽する工作、事実無根の虚偽情報の意図的な投入、制裁に違反したコンテンツの迂回配信などに限られる。
各レポートの記載内容
背景もしくは戦略的文脈
背景
5つのレポート全てに背景についての記載があった。背景についてもっとも詳しい分析があったのはDFRLabであり、対象国の構造的脆弱性や大国間の勢力圏の重複などを詳細に描いている。一方で、他のレポートの背景記載にはそれぞれ偏りや不明瞭な点も見られた。
Meta: 1企業の脅威レポート(透明性レポート)という性格上、背後にある地政学的な戦略的文脈にはほとんど触れられていない。各国の選挙やイスラエル・ハマスなどの紛争がトリガーとなっていることに簡潔に言及するのみで、深い背景分析はない。
DFRLab: 対象国の構造的脆弱性や大国間の勢力圏の重複などを詳細に描いている。4カ国それぞれの歴史的経緯や未解決の領土紛争が情報環境に与える影響まで体系的に分析しており、他のレポートと一線を画す。
ISD: アイルランドのEU議長国就任や、移民問題に対する国内での暴動発生といった社会的・政治的な背景が詳細に記載されている。しかし、意図の証明が難しいため「FIMI(外国からの情報操作・干渉)の基準を満たしていないものも含まれる」としており、背景と工作の結びつきの断定においては歯切れの悪さが残る。
読売新聞: 高市首相の国会答弁や衆院選といった政治的イベントに加え、中国国内の強硬なネット世論や王毅外相らの進言など、習近平政権内部の意思決定プロセスという深い戦略的文脈にまで踏み込んで記載されている。ただし、「関係筋」「関係者」といった匿名の情報源を元にしており、安全保障レポートの基準では信憑性や妥当性の独立した検証が困難である。新聞報道としては通常の手法であるが、安全保障レポートとして評価する場合には情報源の検証可能性に課題が残る。
INODS: 米国・イスラエルによる軍事作戦と、それに伴うイランのホルムズ海峡封鎖宣言によるエネルギー供給不安など、現実の軍事衝突や危機が背景として詳細に記載されている。
調査対象の定義
DFRLabと読売新聞には調査対象の明示的な定義がなかった。
Meta: 主たる対象はCIB(協調的で不誠実な行動)。定義はレポート冒頭の本文中に明記されており、「戦略的目標のために公開討論を操作する協調的な取り組みであり、偽アカウントが工作の中心をなすもの」とされている。CIBはプラットフォームの利用規約に明確に反する行為であり、対象とする活動の性質が定義上すでに許容水準を超えている。
DFRLab: 影響工作(influence operation)を主たる対象としているが、明示的な定義はない。何をもって影響工作とみなすかの操作的定義は示されていない。定義がないことは許容水準の判断を難しくしており、それがアトリビューションの慎重さにも反映されている。
ISD: FIMIの定義について、EUおよびNATOの公式定義を参照したうえで、ISD独自の定義を記している。ただし、報告している活動の一部はFIMIの基準を満たしていないと自ら認めており、許容水準を超えていない可能性も認めている。
読売新聞: 「認知戦」の用語解説はあるが、調査分析のための操作的定義の記載はなく、先行研究にも触れていない。定義がないため、報告されている活動が通常の外交・国家PRと何が違うのかを判断する基準がない。在日中国大使館のXへの投稿や官製メディアの発信など、許容範囲内の活動も問題として列挙されている可能性が排除できない。
INODS: デジタル影響工作についての定義が記載されており、通常の情報発信との区別が明示されている。
認知戦を仕掛けられた理由とトリガー
それぞれのレポートで、現実社会の出来事がトリガーとして分析されている。
Meta: 各国における国内選挙や、イスラエル・ハマスなどの紛争がトリガーとなっている。複数の事例を扱うため個別の深掘りは限られている。
DFRLab: ジョージア等での選挙や、未解決の領土紛争が引き金となっている。各国の構造的脆弱性と選挙サイクルの重なりが詳細に分析されている。
ISD: アイルランドにおける移民問題に関する暴動や、2025年の大統領選挙がトリガーとして利用された。
読売新聞: 主たるトリガーは高市首相の台湾有事(存立危機事態)に関する11月7日の国会答弁である。駐大阪総領事の「首斬り投稿」(11月8日)は、中国側の意思決定を加速させた副次的要因として位置づけられている。この経緯の根拠は匿名取材に依拠しており、独立した検証は困難である。2月の衆議院選挙については、AIによる投稿分析データに基づき認知戦が継続・拡大された契機として分析されている。
INODS: ホルムズ海峡封鎖の宣言やエネルギー供給不安など、現実の軍事衝突や危機がトリガーとなった。軍事行動と情報工作の連動という視点が明確に示されている。
相手の目的
Metaを除く4つのレポートに明確な記載があった。Metaについては、Doppelgangerのみウクライナ支援の弱体化という目的への言及があるが、他のCIBネットワークに関しては目的の記述がなく不十分である。
Meta: Doppelgangerについてはウクライナへの国際的支持を弱めることを主目的とする旨に言及しているが、それ以外のネットワークには目的分析がない。
DFRLab: 複数国における選挙プロセスへの影響、反西欧感情の醸成、親ロシア勢力の正統化など、明確な目的が分析されている。
ISD: 欧米のガバナンス失敗という認識の植え付け、移民問題を利用した社会分断の促進など、明確な目的が分析されている。
読売新聞: 自国に有利な国際世論の形成や相手国社会の分断という目的が記事中に明記されている。ただし、この記述は匿名の政府関係者の発言に基づいており、自国に有利な国際世論の形成を目的とすること自体はあらゆる国家が行う外交活動の範疇であり、それだけで許容水準を超えているとは言えない。
INODS: 日米分断や政権批判の強化、エネルギー不安に乗じた社会的混乱の誘発など、明確な目的が分析されている。
パーセプション・ハッキングやLLMグルーミングの可能性
Metaのレポートでのみ触れられていた。他の4レポートには記載がない。
Meta: 中国のネットワークによるAI生成ポスターや、イスラエルのネットワークによるAI生成のテキストコメントなどの事例が報告されているが、現状ではプラットフォームの検知を妨げるほどのトレンドにはなっていないと評価されている。また、Doppelgangerが自らの影響力を過大に見せかける「パーセプション・ハッキング」のリスクについても言及されている。
DFRLab・ISD・読売新聞・INODS: 記載なし。
分析内容
主たる分析手法・アプローチ
全てのレポートで分析手法の記載があった。
Meta: 自動検知システムと内部の脅威調査チームによるマニュアル調査のハイブリッドな分析を行っている。自社プラットフォームデータへの直接アクセスという強みを持つ。
DFRLab: OSINT(オープンソース・インテリジェンス)の手法や、複数年にわたる継続的なモニタリング調査に基づいている。
ISD: ロシア系メディアの分析にはソーシャルリスニングツールBrandwatchを使用し、中国・イランのアクターについては各国の国家系アカウントを収録した独自データダッシュボードを活用している。
読売新聞: サカナAIによるAI技術を活用し、XおよびWeiboの膨大な投稿(計約40万件)から特定のナラティブを抽出・解析している。加えて、日中の政府関係筋への独自取材を掛け合わせている。ただし、後者は匿名情報源であるため、分析結果の根拠として独立して評価することは難しい。
INODS: 独自開発のAIを用いたボット判定手法と、独自AIによる位置情報推定手法を組み合わせてネットワーク構造を分析している。
過去の事例との比較
過去との比較は重要であり、飛び抜けて大規模な活動と頻繁にある小規模な活動では評価も変わってくる。
Meta: ロシアの「Doppelganger」について過去の先行研究の内容と比較し、リダイレクトの停止やテキストの難読化など、検知を逃れるための戦術の変遷を詳細に整理している。ただし透明性レポートという性格上、CIB以外にはほとんど触れていない。
DFRLab: 体系的な比較分析の章立てはないが、ロシアの影響工作との連続性や過去の選挙介入との文脈的な接続は随所に記述されている。
ISD: 対象となった活動が過去に暴露されたことのある中国のネットワークやイランの「Storm-2035」などと重なっていることが確認されている。
読売新聞: 2023年の福島第一原発の処理水(核汚染水)放出時や、台湾の各種選挙における過去の認知戦の手法に言及・比較している。
INODS: 過去事例との詳細な比較はなく、過去の欧州での作戦との類似性に一部言及があるのみである。
国内アクター
外国の影響力工作が国内アクターと結びつく構造については、一部のレポートで指摘されている。DFRLab・ISDでは、外国ナラティブが国内政治アクターを通じて拡散される「情報操作のロンダリング」に相当する構造が分析されている。読売新聞にはこの視点がない。
Meta: クロアチアの事例において与党HDZの青年組織(MHDZ)との関連を指摘するなど、国内の政治キャンペーンや個人に結びつくネットワークの存在を取り上げている。これらは偽アカウントとの連携であり、利用規約違反の範疇で問題を特定している。
DFRLab: 「日和見的な国内アクター」の存在を指摘し、外国勢力との境界が曖昧になっている構造を詳細に分析している。ただし、外国ナラティブを利用すること自体は表現の自由の範囲内であり、DFRLabがアトリビューションを慎重にしている理由のひとつでもある。
ISD: アイルランド人でRTの記者として雇用されているChay Bowesが、ロシア国家メディアのナラティブと整合した形で移民問題について発信している事例を分析している。ただし、RTに雇用された人物が自身の意見を公開発信することは表現の自由の範囲内であり、許容水準を超える活動とは言えない。
読売新聞: 記載なし。
INODS: 国内の親露インフルエンサーがボットによって情報拡散の「ハブ」として利用され、意図せず影響力工作に巻き込まれる構造を分析している。インフルエンサー自身は許容範囲内の活動をしており、問題はボットによる誘導にある点を明確に区別している。
対象としたネット上の情報
Meta: 複数のSNS(Meta以外含む)およびネット上での情報発信を対象にしている。
DFRLab: 複数のSNSおよびネット上での情報発信を対象にしている。
ISD: 複数のSNSおよびネット上での情報発信を対象にしている。
読売新聞: 対象SNSはXとWeibo。分析対象のプラットフォームが限定されている。
INODS: 対象SNSはX。分析対象のプラットフォームが最も限定されている。
キネティック(物理的・現実的)との連動
連動するキネティックな活動を考慮していたかという点を確認した。たとえばロシアのドローンがポーランドの領空を侵犯した直後に偽情報の拡散を図ったことがある。放火などの破壊行為やネット上の偽情報との連動などもこれに当たる。キネティックな活動は法律に反するものが多く、それとの連動が確認された場合、情報工作の許容水準超過の根拠として有力である。この視点を持っていたのはDFRLabのみであった。
Meta・ISD・読売新聞・INODS: 記載なし。
DFRLab: モルドバでの票買い工作(ロシア系資金による大規模な現金給付、選挙法違反)や、アルメニアでの反EUリーフレット配布とオンライン活動の連動が分析されている。票買い工作については法律違反として許容水準を超えることが明確であり、それとオンライン工作の連動を示した点は重要である。
ボットの検出
人工的な拡散であるかを検証するための目安のひとつであるボットの検知は、読売新聞以外の4レポートで行っていた。ボット利用の有無は、人工的な拡散であることの確認だけでなく、利用規約から逸脱した行為であることの確認、CIBであることの確認につながる。ボットの検出は許容水準超過を判断するための必要条件のひとつであり、これがなければ問題となる活動と通常の発信活動を区別することができない。読売新聞の場合、ボットあるいはCIBの検証が行われていれば非難される行為であることを確認できたが、それがないため現時点では根拠に基づく非難が成立しない。
Meta・DFRLab・ISD・INODS: ボット検出を実施している。
読売新聞: 記載なし。
調査対象
攻撃側
全てのレポートが攻撃側にフォーカスしているが、特定の根拠の質および許容水準超過の確認の度合いに差がある。
Meta: CIBを行うネットワークの背後にいる国家(中国、ロシア、イラン)や、国内の政治団体、イスラエルのマーケティング会社(STOIC)などを自社プラットフォームデータに基づいて特定している。CIBはプラットフォームの利用規約に明確に反する行為であり、許容水準を超えていることの確認が最もはっきりしている。
DFRLab: ロシアなどの外国の干渉勢力や国内の政治家・活動家などを情報操作の主体として幅広く捉えている。票買い工作(法律違反)や偽ニュースサイト(なりすまし・隠蔽)は許容水準を超えることが明確だが、国内政治家が外国ナラティブを利用する行為はグレーゾーンにあり、DFRLabはその点で断定を避けている。
ISD: ロシアの国営メディアやPravdaネットワーク、中国の国営メディア、イランの「Storm-2035」など、国家の支援を受けたアクターにフォーカスしている。Pravdaネットワークによる制裁済みメディア(RT)のコンテンツ迂回配信は制裁違反として許容水準を超えることが明確である。一方、国家系メディアによる外国向け発信自体は多くの国が行っており、それだけで許容水準を超えているとは言えない。Storm-2035のアイルランドでの活動はエンゲージメントがほぼなく、実質的な影響は確認されていない。
読売新聞: 中国政府(中央宣伝部・中央統一戦線工作部)や在外公館、官製メディアのアカウントが攻撃側として記述されている。ただし、これはAIによる投稿分析と匿名取材を組み合わせた記述であり、独立した帰属分析手法に基づくものではない。在外公館が公式アカウントで発信すること、官製メディアが報道することは通常の外交・広報活動の範疇であり、ボット検出もCIBの確認もない現状では、許容水準を超えているかどうかを判断する材料がない。
INODS: 独自AIによる位置情報推定とボット判定により、ロシアおよび中国に帰属が推察される数十から数千規模のボットアカウント群や、親露インフルエンサーを攻撃側として特定している。ボット検出により利用規約違反が確認されており、許容水準超過の根拠として有効である。
受け手側
総じて、受け手側への影響評価はプラットフォーム上の数値に依存しており、実際の社会や人間の行動にどう影響したかという踏み込んだ評価が欠けているものが多い。Meta・DFRLab・ISDには受け手側の評価がほとんどない。
Meta: 現実社会での影響についての評価はなく、プラットフォーム上でのエンゲージメント分析に留まっている。
DFRLab: プラットフォーム上でのエンゲージメント分析に留まっている。
ISD: 「オンラインでの影響は限定的だった」など、ネット上での限定的な反響を測定するに留まっている。
読売新聞: AIによる投稿分析データをもとに、内閣支持率の推移や発信言語の変化をベースにした間接的な影響評価を行っている。
INODS: 日本政府の迅速な政策対応(備蓄放出など)によって、買い占めやパニックといった実際の行動につながる影響が抑制されたと、受け手側の社会への実影響を評価している。5レポートのなかで最も踏み込んだ受け手側分析である。
同調者
工作側が意図的に巻き込む同調者やインフルエンサーに関する分析を行っていたのはINODSのみであった。INODSが対象としたのは工作に自発的に加担した者ではなく、ボットによってメンションを送られ意図せず拡散に利用されたインフルエンサーである。意図せず利用されたインフルエンサー自身は許容範囲内の活動をしており、問題はボットによる誘導にある点をINODSは明確に区別している。他の4レポートにはこの視点がなく、全体的に手薄な領域と言える。
Meta・DFRLab・ISD・読売新聞: 記載なし。
INODS: ボットが影響力のあるインフルエンサーにメンションを送り、再拡散能力を利用してオーガニック拡散を誘発する「ハブ・アンド・スポーク型」のネットワーク構造が詳細に分析されている。
プロキシ(認知戦代行会社など)
Meta: イスラエルのマーケティング・PR会社(STOIC)の関与をプラットフォームデータから特定している。商業的なCIB代行という形態であり、主体の隠蔽を伴う点で許容水準を超えていることが明確である。
DFRLab: 外国のナラティブを自国の政治アジェンダに利用する国内の代理人について言及している。ただし、これだけでは許容水準超過の根拠としては弱い。
ISD: ロシアの「Pravdaネットワーク」やRTキャスターなどが、制裁を回避して情報を配信するパイプライン(プロキシ)として機能していることを分析した。制裁違反という観点では許容水準を超えていることが明確である。
読売新聞: 記載なし。
INODS: 「特定主体による直接的な発信に限らず」といった表現でプロキシについて言及していた。
ナラティブ
ナラティブの分析については、全レポートが何らかの言及を行っているものの、時系列での推移分析まで踏み込んでいるのは読売新聞のみであった。他はナラティブの内容の列挙に留まっている。なお、ナラティブの内容や設計自体は、外交・国家PRとして許容されうる活動である。許容水準の観点からは、ナラティブの拡散手段(ボット、偽アカウント、隠蔽など)が問題となる。
Meta: 使用されたナラティブの内容について一部言及はあるが、詳細な推移分析はなかった。
DFRLab: 反西欧ナラティブなどについて言及はあるが、詳細な推移分析はなかった。
ISD: 欧米のガバナンス失敗などのナラティブに言及はあるが、詳細な推移分析はなかった。
読売新聞: 5レポートのなかで最も詳細にナラティブの推移を分析していた。AIを活用し、11月の「日本政治・指導者批判」「台湾問題・内政干渉」から、衆院選期間中(1〜2月)の「軍事化・軍国主義復活」「日本の衰退・経済的脆弱性」へとナラティブが変化したことを抽出している。英語発信は大規模認知戦時(11月14〜20日)に日本語の約4倍に達するなど具体的な数値も示されており、ナラティブ分析の手法として新しい可能性を示したものと言える。ただし、分析されているのはナラティブの内容と量の変化であり、拡散手段(ボット・CIBの有無)については確認されていない。手段の確認なしに「認知戦」と断定することは難しい。
INODS: もっともらしい虚偽の構築や既存ナラティブの再利用などに言及はあるが、読売新聞ほど詳細な推移分析はなかった。ただし、起点となった投稿が事実無根の虚偽情報であることを具体的に示しており、ナラティブの内容面でも許容水準超過の根拠を示している点が他レポートと異なる。
アトリビューション
全てのレポートでアトリビューション(帰属の特定)への取り組みがあるが、根拠の質と慎重さに大きな差がある。具体的な根拠を明示したうえで帰属を試みているのはMeta・DFRLab・INODSの3つであった。ISDと読売新聞は根拠が不十分と判断した。
Meta: 自社プラットフォームのデータ(アカウント挙動・インフラ・広告支払い情報など)に基づき特定している。国家の直接的な指示までは断定しないことが多いが、技術的証拠を明示している点で信頼性が高い。
DFRLab: OSINT・漏洩文書・広告データなど具体的根拠を提示したうえで、「外国起源か国内起源かの区別が難しい」として断定的な帰属を避けた慎重な表現を行っている。安易に他国を非難することがそれ自体世論操作になり得るという認識に基づく姿勢であり、許容水準の判断の難しさを正直に反映している。
ISD: 「ロシア国家に結びついたメディア」と表現しつつも、FIMIの基準を完全には満たさないと自ら認めており、具体的な根拠に基づく帰属の特定とは言い難い。
読売新聞: AIによる投稿分析は「中国共産党系アカウント」を前提として抽出したものであり、帰属の証明にはなっていない。「習近平氏の直接指示」にまで踏み込んだ記述の根拠は匿名の「中国政府関係筋」への取材であり、情報源の検証可能性に課題が残る。
INODS: 独自AIによる位置情報推定とボット判定という手法を明示し、「ロシアへの帰属が推察されるアカウント」という形で断定を避けた慎重な表現を行っている。手法の透明性と表現の慎重さのバランスが取れている。
対策、課題
Meta: プラットフォームとしての防御策に加え、ドメイン登録業者や政府との情報共有を通じた業界全体での継続的な防御策の強化(連携)を自らの判断として提言している。
DFRLab: 明示的な対策や今後の国家的課題に関するレポート自身の提言は含まれていなかった。本レポートの性格が記録・分析に重点を置いており、政策提言は別途の報告書や活動に委ねられていると考えられる。
ISD: 政府がFIMIに対する国家的対応(国家偽情報対策戦略)を実行に移すことや、ハイブリッド脅威全体との関連性を理解するための継続調査をレポート自身の提言として挙げている。
読売新聞: 外部専門家(川島真・東大教授)の発言を引用しているのみで、レポート自身の判断・提言として明示されたものはない。読者がこれをレポートの結論と受け取りやすい構成になっているが、それは明示されていない。
INODS: 日本政府の迅速な物理的対応(石油備蓄放出など)が社会的混乱を未然に防いだと評価し、社会不安と結びつくデジタル影響工作への継続的な警戒を提言している。
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