Twitterの社会学―動向、課題、今後の研究の方向性―

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Sociology of Twitter/X: Trends, Challenges, and Future Research Directions
Dhiraj Murthy

 本論文「Sociology of Twitter/X: Trends, Challenges, and Future Research Directions」(Dhiraj Murthy、ANNUAL REVIEW OF SOCIOLOGY Volume 50, 2024)では、Twitterを利用した社会学研究の現状をレビューし、Twitter(現 X)が社会学の主要分野にどのように活用されてきたかを明らかにするとともに、社会学者がTwitterのデータを分析するための方法論的アプローチを提案し、今後の研究の方向性を示している。

目次

対象としたデータについて

 本研究では、社会学的研究の代表的な見解をまとめるために、SocINDEXSage PremierWeb of Scienceの3つのデータベースを用いて、2007年から2022年までに発表された1,644件の論文を抽出した。その中からランダムに抽出した75件を精読した結果、当該研究領域はおおまかに7つのテーマ(社会運動、政治、政策、および活動(44記事)、ニュース(8記事)および誤報/誤情報(12記事)、社会階層化または隔離(17記事)、経済社会学(7記事)、健康(27記事)、その他(2記事))に分類されることが示された。Twitter関連の社会学論文は2009年以降に増加し、特に2011年以降着実に増加、2021年にピークを迎え、最も多く引用された論文は42,253回引用されている。

 一方で、2023年2月、Twitterは学術研究のための無料APIアクセスを終了し、現在は有料のX APIに移行した。この変更により、少量のデータ収集は可能なものの、大規模なデータ収集は主に富裕層の学者に限られることとなると筆者は分析している。今後の研究においては、インターネット・アーカイブDocNow、スタンフォード大学のSNAPデータセット、ハーバード大学のDataverse、ジョージワシントン大学のTweetSets(現在、リンク先は削除されている)などのリポジトリに保存された過去のTwitterデータが利用される可能性が高い。無料APIの閉鎖は、ソーシャルメディアデータを使用したビッグデータに基づくさまざまな社会学的研究を制限するものであり、この種のアクセスを閉鎖したメタや他の多くのソーシャルプラットフォームの仲間入りをしたという点で、重要な意味を持っていると論文は主張している。

 今回分析に用いられたデータはCSV形式で提供され、利用することが可能である。

Twitter研究は、どのような方法論的アプローチがとられてきたのか?

 論文においては、社会学の学術誌に掲載されたTwitter関連の記事では、その研究に3つの方法論的アプローチが採用される傾向があると主張している。すなわち、計算的手法(統計や機械学習の使用など)、質的手法(デジタル・エスノグラフィ的アプローチの採用など)、および混合研究的手法(フォーカスグループの調査や洞察と機械学習の組み合わせなど)である。

計算的手法

 ユーザーのツイートや、他者のツイートへの反応をおこなった際に残るデジタル・フットプリントは、アンケートやその他の伝統的な社会学データよりも信頼性が高い場合があると、過去の論文を引用する形で著者は主張している。ユーザーの所在地などの位置情報付きのコンテンツを用いた統計・機械学習分析を用いた研究として、論文では主要都市における住民の生活ペースの傾向、社会移動、社会経済的地位の分布の分析といったものを紹介している。

質的手法(デジタル・エスノグラフィー)

 デジタル・エスノグラフィック・アプローチでは、Twitterをフィールドサイトと見なし、エスノグラファーが観察を行い、詳細なフィールドノートを作成し、回答者とやりとりを行う。この手法はTwitterの社会学においては「ネットノグラフィー」(netnography)と呼ばれ、論文内では医学生の集団のツイートの観察からそれらを構造化する研究や、若手気候活動家の集団の分析から彼らの形成する集団的アイデンティティとその効果を明らかにする研究などを紹介している。

混合研究的アプローチ

 アンケートなど、従来社会学において用いられてきた手法と、機械学習や定性的手法を組み合わせたものを混合研究法と呼称する。論文内では自殺関連のツイートについてクラウドソーシングによるラベル付けを行い、収集されたデータセットを機械学習で分析する研究や、米国における主要都市の位置情報を含むツイートから、住民の移動性と都市の関係についての分析を行う研究などが紹介されている。

社会学研究におけるTwitterの活用方法と、そこから見えるTwitterのソーシャルな世界とは?

 Twitterは、多くの国や状況における市民社会や公の言論において、非常に重要な役割を果たしている。この立場は、プラットフォーム上での政治、社会運動、政策、活動について研究する機会を社会学者に数多く提供してきたことを論文では指摘している。

 論文では、先に述べたTwitterに関連する社会学系論文の抽出結果の中でも、特に大きな割合を占めていた社会運動・政治・政策活動のカテゴリーをケーススタディとして、社会学的研究を推進するためにTwitterがどのように利用されてきたかについて、いくつかの事例を検討している。本項ではハッシュタグの使用による公共圏の構築に関する研究や、集団行動の運動においてTwitterが果たしうる役割についての研究などの引用をもとに、このプラットフォーム自体が、進歩的な運動のためのコミュニティや連帯を構築する上で重要な役割を果たす場として研究されてきたことを指摘している。例えば、COVID-19時の#iorestoacasaや#BlackLivesMatterなどが、共通の経験やアイデンティティ形成を支援したという研究などが紹介されている。一方、Twitterにおいては誤情報や偏見が広がることもあり、社会的対立を助長する場合もある。例えば論文内で紹介されている大学の銃乱射事件に関するツイートを調査した研究では、35%弱が誤報や誤情報であったことが明らかにされている。これにより、Twitter上での意見や議論が少数の強力なユーザーによって支配され、従来のメディアのような影響力の集中が見受けられる可能性も指摘されている。また論文では、Twitterはキャンセルカルチャーを生む場としても機能し、問題行動への反応を促進していることも指摘している。

Twitter・Xに関する今後の研究推進のためのロードマップ

 論文では、Twitterに関する今後の研究の方向性として、質的および混合的手法の強化、過去のデータセットを活用した縦断的研究、次世代AIを用いたデータ解析、Twitterの変化の監査・評価、Twitterの偏りへの注目、Twitterの社会学の他プラットフォームへの応用を提案している。

 具体的には、社会学的なアプローチを強化するために、デジタル民族誌学や参加観察、フィールドノートなどを駆使した質的研究を進めることや、歴史的データを活用した大規模な分析をすることも求められると指摘している。さらには、AI技術の進化により、生成型AIを用いた有害コンテンツの検出や、ツイートの感情解析が可能となり、今後の研究に大きな影響を与えると予想している。また、Twitterが抱える偏りやコンテンツの管理変更による影響を評価し、極端な意見や誤情報の拡散の研究が重要であるとも主張している。さらには、ユーザーの移行が進んでいる現在、Twitterの社会学は他のプラットフォームへの移行に対応し、引き続き重要な社会学的問いを追求するべきであると論文は主張している。

感想

 SNSのデータは計算社会学者にとって貴重なデータの金鉱と言える。これまで数万、数千万の人間の行動をリアルタイムで記録することは不可能だった。監視カメラなどの監視システムは存在したが、コストがかかるうえ、あくまでわかるのは行動であって、意識や感情の記録は難しい。SNSなら、監視カメラなどの監視システムと比較すれば安価に莫大な数の人間の活動を監視でき、意識や感情の表出をとらえることができる(代わりに行動は直接的にはとらえられない)。しかもしばらく前までは大手SNSプラットフォームが無償でそのデータを提供してくれていたのだ。夢のような話だ。

 もちろん、それぞれのSNSには意図せず生まれた固有の偏りや、意図的に生み出された偏りが存在する。それらは、利用者の行動のフィードバック、アルゴリズム、営業的判断、法的・倫理的要請から生まれてくる。これらの要因は絡み合っており、サミュエル・ウーリーは、「ウロボロスの蛇」にたとえ、計算社会学的なアプローチには限界があること、その限界を研究者が知ることは難しい(SNSプラットフォームには研究者にアルゴリズムや営業方針の変更を伝える義務はないし、研究中であることを知っていながらアルゴリズムを変更したこともある)ことを指摘している。

 さまざまな課題があるSNSデータをもとにした計算社会学のアプローチは、「街灯の下で鍵を探す」1になる可能性をはらみながらも、「そちらの方が明るいから」という理由で拡大を続けている。今回のようなメタな視点でのアプローチは計算社会学がその有効性と限界を確認しながら発展するためには欠かせないものだろう。

  1. 暗いところで鍵を失くしたのに、そこは暗くてなにも見えないからといって、明るい街灯の下で鍵を探しても鍵は見つからないという古いたとえ話。重要なところを分析する方法がないからといって、分析する方法がある重要でないところを研究しても意味がないといったことを示すときに使われる。 ↩︎

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この記事を書いた人

茨城県出身の2003年生まれ。軍事・非軍事を問わず安全保障に興味を持っている。専攻は日米関係史だが主に東アジアの安全保障体制を扱っている。専攻外では中世ヨーロッパにおける政治体制の勉強が趣味。とくにポーランド・リトアニア共和国における民主制が対象。

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