参院選から見えてきたメディア、政治家、専門家の課題

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社会調査支援機構チキラボの調査結果をもとに参院選で見えてきた懸念点についてご紹介したい。まず、その前に背景となっている問題を整理しておきたい。

目次

調査

現在の世界、特にグローバルノースの民主主義国では、社会が不安定で不満や怒り、不信感などがくすぶっている状態が続いている。これが社会の脆弱性となっており、きっかけがあれば極右や反移民などの反主流派が台頭したり、暴動が起こったりする。この状態の国に干渉するには相手国の市民の不満や怒り、不信の声を拡散して、焚きつけるだけでよい。現在の対策の多くは極右の台頭や陰謀論あるいは暴動といった結果として起きてしまった問題に焦点を当てている。もとになっている社会の脆弱性をなんとかしない限り、何度でも形を変えて、問題が発生する。


社会の脆弱性への対処が行われないのは、メディア、政治家、専門家の多くが、その問題を認識していないためだ。だからマッチ1本の火が大規模に燃え広がるのを見て、「SNSのせいだ」、「外国からの干渉だ」と考えてしまう。間違っているわけではないが、主たる要因ではない可能性の方が高い。
あるいは極右や陰謀論の主張に同調する市民を見て「外国の偽・誤情報に騙されたリテラシーの低い愚かな人間」あるいは「例外的な過激派」と思ってしまう。

しかし、アメリカでトランプが当選したことや、ドイツでAfDの支持が多いことなどを考えると、相対的に特別愚かなわけでも、例外的なわけではない。彼らの方が多数派になりつつある、くらいの認識を持つ必要がある。この認識の齟齬は、かつて多くの人が民主主義は世界の多数派であり標準である、という認識だったことに近い。最近では認識をあらためた人の方がと思うが、民主主義はとっくに人口でも国の数でも少数派になっている。民主主義から権威主義に移行する間の状態=アノクラシーでは、社会は不安定となり、不満や怒り、不信感などが広がりやすい。そして、民主主義指標V-Demのレポートによれば、民主主義と権威主義の間の状態になった場合、民主主義に戻るよりも権威主義化する方が多い。
同様に、「外国の偽・誤情報に騙されたリテラシーの低い愚かな人間」、「例外的な過激派」は多くの民主主義国で少数派ではないし、多くの場合は多数派になるのだ(権威主義化する可能性が高いのだから当然そうなる)。日本もそうなる可能性が低くないことを財務省デモや今回の参院選が可視化した。

今回の参院選で海外あるいは国内勢力からの干渉に対抗するため大手メディアはファクトチェックに乗り出し、一部ではロシアの影響工作に対抗する行動を起こしていた人々もいたようだ。しかし、そもそもの原因を改善せずに、目の前の火の対策だけに集中すると逆効果になる。そのため下記の記事を公開した。

海外からの干渉について想定すべき5つのこと
https://inods.co.jp/topics/6590/

社会調査支援機構チキラボの報告を参照しながら現状を読み解いてみたい。

参政党に投票した人々の傾向

報告にもあるように、参政党に投票した人々は次の3つを特徴としており、いわゆる極右ポピュリズムと共通する。
 ・外国人に厳しい
 ・右派傾向が非常に強い
 ・ジェンダー平等や多様性に批判的

以前、サラダバー過激派という言葉があったように、現在の反主流派=過激派は固定したイデオロギーを持たず、組織もなく、ゆるいネットワークで個人や小規模なグループが連携していることが多い。こうした人々は、陰謀論、極右、白人至上主義、反ワクチン、反LGBTQ+などさまざまな形で現れてくる。もっと大きな共通項は反LGBTQ+、反移民で、その中でも特に共通しているのは女性蔑視やマノスフィアといったジェンダーに関わるものである。そのため女性蔑視は過激派へのゲートウェイ・ドラッグとまで呼ばれることがある。女性蔑視から過激なグループや考えと接点を持つようになり、じょじょに陰謀論や反移民などそまってゆくことがある。

I analyzed more than 100 extremist manifestos: Misogyny was the common thread – The Conversation
https://theconversation.com/i-analyzed-more-than-100-extremist-manifestos-misogyny-was-the-common-thread-259347

Understanding Mixed Ideology Extremism – GW Program on Extremism
https://extremism.gwu.edu/understanding-mixed-ideology-extremism

参政党の躍進は、日本にアノクラシー化の可能性があることを示唆している。

選挙期間中のファクトチェックの効果、ロシア疑惑の影響

ファクトチェックやロシアとの結びつきの暴露やネット上での人工的(という主張があった)な拡散の抑制などが行われたが、参政党の投票行動にはほとんど影響を与えなかったことが調査結果からわかった。
その一方で、ファクトチェックが逆効果になった可能性が指摘されている。東京新聞に掲載された東洋大学の小笠原盛浩教授の調査は、ファクトチェックがテレビなどテレビなどで放映されることによって偽・誤情報が広がった可能性を示していた。チキラボの調査でもファクトチェックを見たのはテレビがもっとも多かった。

ファクトチェックは逆効果なの? 「フェイクを否定すると事実として拡散する」ジレンマ…参院選で起きていた – 東京新聞
https://www.tokyo-np.co.jp/article/425397

ファクトチェック団体やメディアにわざとファクトチェックさせて、偽・誤情報を拡散させる方法をロシアが行っていることは昨年の段階で明らかになっている。今回、ロシアの干渉の有無を判断できる材料はないが、関与の有無にかかわらず、ロシアが期待するような反応をしていたことになる。

ロシアのドッペルゲンガー実施企業Social Design Agencyの2.4GB漏洩文書
https://inods.co.jp/topics/4161/
ロシアのオペレーション・オーバーロード 第3の報告書
https://inods.co.jp/topics/6545/

多くの専門家、メディア、政治家はそれぞれ高度な知見を持つスタッフを抱えており、諸外国の先行事例などから総合的に判断していたと思われるが、一部にそうではない人々がいたことは残念だ。

メディア、政治家、専門家は干渉に利用される可能性が高い

今回の参院選では、懸念すべきふたつの点が見えてきた。いずれも現段階で断定できるわけではなく、実証的な実態調査をさらに行う必要がある。

・日本は国内外からの干渉を受けやすい状態にあり、干渉があった場合に有効な対処を行うことができない
・メディア、政治家、専門家が、干渉において利用される

現在、必要なのは実態を把握して、影響を確認し対処することと、再び同じことがおこらないようにするための措置である。現在の多くの対策は、目の前の偽・誤情報やロシアのボット、SNSプラットフォームに力点が置かれすぎている。社会が不安定で不満や怒り、不信感が蔓延している状況をかえなければ根本的な解決にはならない。アメリカやドイツ、イギリスなど欧米の例を見ればよくわかる。アメリカはこの分野で世界をリードする調査研究を行ってきたにもかかわらず、いまはこのありさまだ。
重要なのは前述の女性蔑視やマンスフィアを共通項にした極右、陰謀論、反ワクチンなどに加担しやすい傾向のある人々の実態把握だ。干渉を受けやすい層と言える。その実態や影響度合いを把握し、必要に応じて社会的な保護を与えなければならない。
同様にメディア、政治家、専門家は今回の参院選で干渉の踏み台にされやすいセクターとして実態や影響度合いの把握、保護措置が必要だ。

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この記事を書いた人

複数のIT企業の経営にたずさわった後、2011年にカナダの永住権を取得しバンクーバーに移住。同時に小説家としてデビュー。リアルに起こり得るサイバー犯罪をテーマにした小説とネット世論操作に関する著作や評論を多数発表。代表作として『原発サイバートラップ』(集英社)、『天才ハッカー安部響子と五分間の相棒』(集英社)、『フェイクニュース 新しい戦略的戦争兵器』(角川新書)、『ネット世論操作とデジタル影響工作』(原書房)など。
10年間の執筆活動で40タイトル刊行した後、デジタル影響工作、認知戦などに関わる調査を行うようになる。
プロフィール https://ichida-kazuki.com
ニューズウィーク日本版コラム https://www.newsweekjapan.jp/ichida/
note https://note.com/ichi_twnovel
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