18禁のSNSに見るインターネットの未来

成人向けのサブスクリプション型プラットフォーム「OnlyFans」に関して、この数か月で複数の興味深いニュースが伝えられている。日本ではOnlyFansの知名度が低いうえ、欧米市場向けのアダルトコンテンツ用サービス(多くの日本人には敬遠されがちな内容)として認識されがちなので、たとえ知っていても興味がないという方は多いかもしれない。
しかし、このプラットフォームは年に数千億円を動かす規模のサービスとして世界中の経済や文化に影響を与えている。そして近年では、アダルトとは関係のない分野で参入する著名なクリエイターも増加しており、今後の動向が気になるプラットフォームのひとつとなっている。今回は、このOnlyFansについて簡単に説明しながら、昨今に報じられた関連情報をお伝えしたい。
OnlyFansとは?
英国発の「OnlyFans」は、コンテンツを提供したいクリエイターが月額課金や個別課金を通して「ファン」から収益を得ることができるサブスクリプション型のプラットフォームだ。このように説明すると、単なるコンテンツ販売用のプラットフォームのように感じられるかもしれない。しかし実際には、ファンと密接なコミュニケーションをとれるSNSのような機能を持っており、タイムライン表示やフォロー制度、そして「コメント」「いいね」「DM」などは、かなりX(旧Twitter)のスタイルを意識した設計になっている。
実際のところ、OnlyFansの創業者Tim Stokelyは「広告収入ではなく、ファンから直接的に収益を得られるようなSNSを作りたい」と語っている。つまりOnlyFansのクリエイターは、自分をフォローしてくれるファンと継続的な繋がりを保ちながら情報やコンテンツを提供することで、ファンから金銭的な「応援」を得ることができる。
しかしOnlyFansといえば、とにかく「18禁のプラットフォーム」「露骨なアダルトコンテンツに特化した場所」のイメージが強いため、一般向けのSNSとは掛け離れた存在だと考える人のほうが多いだろう。とはいえ昨今では、アダルト界隈とは無関係のミュージシャンやアスリートなどの参入も増加している。
OnlyFansの決算報告によると、2024年時点でのクリエイター(コンテンツ提供者)の数は約463万人、ユーザー(ファン)のアカウント数は約3億7750万件だった。ただし、この3億7750万件のうち、実際に有料のサブスクリプションサービスを利用しているアクティブなアカウントが何件なのかは報告されていない。
また2024年の12か月で、ファンからクリエイターへ支払われた総額は約72億ドルに達している。
ちなみにクリエイターのほとんどは女性だが、男性も少数ながら存在している。ただし、人気の男性クリエイターの多くはゲイ向けコンテンツの提供者である。
◇OnlyFansの(ざっくりとした)歴史
もともとOnlyFansは、アダルトコンテンツ向けのサービスを意図して設計されたわけではなかった。2016年にOnlyFansuを設立したTim Stokelyは、TwitterやYouTubeで活動するアーティストなど、あらゆるジャンルの幅広いクリエイターを対象として「有料で写真や動画などのコンテンツを配信し、ファンから直接的な支援を受けられるサブスクリプション型のサービス」を提供しようとしていた。しかし未成年が参加できないシステムのうえ、成人向けのコンテンツをはっきりと禁止していなかったOnlyFansでは、より収益に繋がりやすい性的なコンテンツを投稿するクリエイターが徐々に増えていった。
そして2018年には、MyFreeCamsの創業者レオニード・ラドビンスキーがOnlyFansを買収した。MyFreeCams(老舗のアダルトライブチャット、通称「マイフリ」)で成功をおさめてきたラドビンスキーは、戦略を持って積極的にOnlyFansのアダルト分野を強化させていく。さらに世界中がパンデミックに見舞われると、これまでどおりの仕事ができなくなったアダルト業界のタレントや関係者、一般の成人向け業種の人々、あるいは単純にコロナ禍で職を失った様々な業種の人々が、生計を立てる目的で続々とOnlyFansへ参入し、過激なコンテンツを配信するようになっていった。
このようにして、OnlyFansは「アダルト向けのコンテンツを提供するクリエイターたちがファンから直接的に報酬を得られるプラットフォーム」として知られる存在となった。
一方で2021年には、決済業者や銀行からの圧力を受け、一時的に「露骨な性的コンテンツのホスティングを禁止する」という方針を発表したこともある。しかし、この発表はユーザーから強い反発を受けた結果、数日で撤回された。
◇ゆるやかな「アダルトからの脱却」
そして2025年現在でも、OnlyFansは「露骨な18禁のコンテンツを提供する女性クリエイターと、彼女たちに金を払いたい男性ファンばかりが集まるアダルト専門プラットフォーム」として認識されやすい。しかし2021年以降は、非アダルトのコンテンツの割合もゆるやかな増加傾向にあることが指摘されてきた。
残念ながら、OnlyFans側が「アダルト/非アダルトの数(比率)」を定期的に公表しているわけではないので、その根拠となる具体的な数字は示すことができない。しかし過去数年は、アダルトと無関係の分野で活躍してきた有名人が「微妙にセクシーだが『露骨なエロ』ではないコンテンツ」、あるいは「アダルトとは全く無関係の健全なコンテンツ」を有料で配信するようなケースが目立ちはじめている。
たとえば2025年3月には、ハリー・ポッターのラベンダー・ブラウン役で知られる女優のJessie CaveがOnlyFansに参入した。彼女は自分の髪だけに焦点を当てたフェティッシュなコンテンツ(髪のブラッシング動画など)を提供しており、「露骨に性的なものは配信しない」と明言している。また英国の飛び込み種目で初の金メダリストとなったオリンピックの飛び込み男性選手Jack Laugherは、2021年9月からOnlyFansで活動しており、競技用の水着を着た姿やトレーニングの風景など「健全なセミヌード」のコンテンツをファンに提供している。
Jack Laugher以外にも、OnlyFansに参入するアスリート選手は目立って増えている。ただ真剣に戦っているだけで、勝手にメディアやファンから性的に取り上げられる機会もあるアスリートたち、その中でもスポンサーを見つけるのが難しい競技の選手たちは、とりわけOnlyFansとの相性が良かったのかもしれない。たとえばカナダの棒高跳び選手(オリンピック銅メダリスト)のAlysha Newmanも、その一人だろう。「女性アスリートたちは、自分をどのように見せるべきか他人に決められてきた」「自分のイメージやファンとの関わり方は自分で決めたい」と語る彼女は、選手としての自立を図る目的でOnlyFansに参入し、日々のトレーニングの様子などを有料配信している。
またタイソン・リッター(米国のバンドThe All-American Rejectsのフロントマン)の場合は、ファンから直接的な収益を得るためではなく、シングルのリリースに合わせたプロモーションを目的として2025年6月にOnlyFansへ参入した。彼はファンとの身近な、かつ密接な交流を行うため、バックステージ映像などのコンテンツをサブスクライバーに「無料で」配信している。
そしてOnlyFans自身も2021年以降、公式サイトで「料理」「音楽」「フィットネス」などのジャンルで活躍するクリエイターを応援し、非アダルト系コンテンツの存在を積極的に宣伝してきた。とはいえ、OnlyFansには「アダルトに特化したプラットフォーム」として事業を成功してきた強みがあるため、彼らがアピールするアダルト脱却の流れは、単に金融機関や広告主との関係を維持するために見せているだけの「ポーズ」ではないかと指摘する向きもある。
最近、報じられたOnlyFans関連のニュース
そんなOnlyFansに関する今年の夏のニュースで、特に興味ぶかかったものを二つお伝えしてみよう。
◇「ファンとのDM」の代行業者がAIに仕事を奪われている
まずは「Rest of World(世界中のテクノロジーを「西側以外の視点」から描いている国際非営利メディア)」に掲載された2025年8月20日の記事を紹介したい。
A hidden network handles chats for OnlyFans stars. AI could soon take over
https://restofworld.org/2025/onlyfans-ai-dm-bots/
OnlyFansでは、クリエイターとファン(=サブスクライバー、フォロワー、支援者)とがDMを通して一対一の交流ができることも大きな売りとなっている。「アダルトコンテンツを提供している女性から、あなただけに送られるメッセージ」が、売り上げやチップに繋がりやすいことは言うまでもないだろう。
しかし世界的にトップクラスのクリエイター(年収1億円越え)には、数百万〜一千万人以上のファンがいる。そこまでのスターでなくとも、数千人〜数万人のファンから支援を受けているクリエイターは大して珍しくない。このような規模のファンとの個人的なやりとりを、クリエイターが自力で続けることは不可能だろう。
そのため、この業界では「チャッター」と呼ばれる海外在住の低賃金の代行労働者(主にフィリピン在住の若者)が、クリエイター本人になりすましてファンへの返信を担ってきた。このチャッターの業務は組織化されており、各オペレーターには厳しい販売目標額やノルマが課せられている。Rest of Worldに掲載された一例によると、あるチャッターは組織から割り当てられた6人のクリエイターになりすまし、慎重にメモを取りながら彼らとリアルタイムで会話し、12時間のシフトが終わると同僚に会話を引き継いでいた。果たして彼らが、どのような表情でセクシーな売れっ子になりすまし、「露骨に性的な会話をしたがるファン」との会話を黙々とこなしているのか、想像すると可笑しいような悲しいような気分にもなる。
しかし2024年以降、この業務の担い手がチャッターからAIチャットボットに置き換えられているという。「OnlyFansをターゲットにしたAIチャットボット」が、昨年から複数のテクノロジー企業によって開発されてきた。これらのボットは、クリエイターの口調やキャラクタを模倣できるだけでなく、「そのファンとのやり取り(過去の対話や課金など)」を学習しながら、自然な会話の流れで甘美な営業トークを生成できる。このようなボットは人間を雇うよりも安く利用できるうえ、仕事が早く、24時間の対応が可能だ。どちらにしても「クリエイターになりすまして金を巻き上げる行為」なら、わざわざ海外の低賃金労働者を頼る必要もないだろう。
「人間のチャッターは故意にスペルを間違えながら、Z世代のスラングを使っているのだ。現時点のAIチャットボットには、まだ人間味のある対応ができていない」と主張する声もある。しかし過労とストレスの激しい大量のエロトーク(その内容の酷さから男性不信となり、現実社会での恋愛感情を失くしてしまう女性チャッターもいるという)を不眠不休で続けるという過酷な業務こそ、最もAIに適した業務のひとつなのかもしれない。少なくとも、人生に悩む未成年の相談相手になってしまったり、持病に悩んでいる患者に医療的なアドバイスをしてしまったりするよりは、若い女性と性的な会話をしたがる男性ファンの相手をさせるほうが、確実にAI向けの仕事だろう。
しかし、OnlyFansならではの機能「コンテンツ提供者とファンの直接的な人間関係の構築」がAIベースに切り替わりつつあることに対し、OnlyFansはどのように考えているのだろうか? 実はOnlyFansには、「クリエイターが発信するメッセージは、人間が送信しなければならない」というルールがある。つまりボットのクリエイターの登録は許可されていない。しかし「クリエイター(または代理人)が送信ボタンを押して、AIチャットボットが生成したメッセージをファンに送る」行為はグレーゾーンに当たるだろう。Rest of Worldは、このようなAIの利用が規約に反するかどうかをOnlyFansに尋ねたものの、その記事が掲載された時点では回答が得られなかったと報告している。
◇「海賊版」がインターネットにもたらす意外な悪影響
次に、テクノロジー系ジャーナリストたちによる米メディア「404 Media」に掲載された2025年9月1日の記事を紹介したい。
How OnlyFans Piracy Is Ruining the Internet for Everyone
https://www.404media.co/how-onlyfans-piracy-is-ruining-the-internet-for-everyone/
先に説明したとおり、クリエイターにとってOnlyFansは「自分のファンだけを相手に有料のコンテンツを提供できるプラットフォーム」であり、その課金が彼らの収入源となっている。しかし有料で提供したコンテンツが違法に転載/拡散されるのは、あらゆるジャンルで発生するお決まりのパターンなので、もちろんOnlyFansでもコンテンツの「海賊版」の問題は深刻化している。自分のコンテンツが無断で転載されたクリエイターは、泣き寝入りをしたくなければ、「デジタルミレニアム著作権法に基づいたコンテンツの削除請求(DMCAテイクダウン)」を専門業者に依頼することになる。
404 Mediaの記事によると、現在ではこのような削除請求が膨大な数となっているため、それに対応する側でも「自動化されたシステム」が導入されているという。より詳細に記すなら「クリエイターから依頼を受けた業者が自動処理システムで削除要請を提出する」「別の自動処理システムが、その要請を審査している」という流れになる。この自動化された流れでは、海賊版とは全く無関係のウェブサイトやコンテンツまで「著作権侵害」と誤認されてフラグが付き、Googleの検索結果から削除されることがある。その結果、OnlyFanとはまったく関係のない一般のインターネットユーザーが巻き添えを食って情報を得にくくなる、あるいはサイト運営の表現の自由が損なわれるといった問題が発生している。
この問題について404 Mediaが報じたのは、彼ら自身が過去に掲載した真面目な記事(InstagramのAIセラピストに関する内容)がGoogleの検索結果に表示されなくなったことに起因している。このときGoogleの検索結果の下部には、「米国デジタルミレニアム著作権法に基づく複数の苦情を受け、検索結果を削除しました」というGoogleからの注記が表示されていた。この事件をきっかけとして、DMCA削除要請の質の低さ(たとえばTakedowns AIという業者が過去に提出した削除要請の大雑把さ)について調査した404 Mediaは、「OnlyFansの海賊版の問題が、インターネットを使い物にならないものにしている」と批判している。
ただし当該記事は、OnlyFansのクリエイターたちに非難の矛先を向けているのではない。むしろ「著作権侵害の可能性があるリンクを一つ一つ確認したくないクリエイターの心情(自分の名前を検索し、見たくもない膨大なポルノコンテンツの山をかきわけながら、違法なコンテンツへのリンクが延々と続くページを見続けなければならないという作業のネガティブさ)にも寄り添っている。つまり不法なコンテンツに削除依頼を提出すること、その際に専門業者を頼ることには一定の理解を示したうえで、「自動化されたシステムに依存しきった判断」の問題を提起している。
この記事には、著作権・DMCA・知的財産改革を専門とするパブリック・ナレッジの上級政策顧問の痛烈なコメントが掲載された。
『結局のところ「DMCAの削除規定」はインターネットから言論を消し去る手段だ。それは非常に強力なツールである。あなたに悪意がなくとも、たとえば誰かがあなたについて悪口を言うのを止めようとした場合、DMCAはあなたの行動を検証することなくそれを可能にする』
『つまり「誰にでも(本人になりすました他人にも)コンテンツの削除を要請する権限を与えるツール」が構築された場合の、非常に興味深い事例研究なのだ。その悪用は必ず起こる。時には大規模に、様々な理由で発生する。それは純粋な悪意で起こることもあれば、自動化システムの無能さやバグによって起こることもある。AIの普及で、このような事例はさらに増えるだろう」
「これは全てSFだが、最も愚かな形で現実のものとなっている」
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これらの二つの話題は、単に「露骨なセクシーさを売りにした、欧米市場向けのアダルトプラットフォームで起きている話」として片づけるべきではないだろう。洋モノのエロに全く興味のない人々にとっても無関係ではない、インターネット全体の変化を象徴するような出来事だ。先の記事の中で、404 Mediaは次のように記している。
『これは現代のインターネットが抱える「複数の重大な問題」が交錯した課題だ。Googleによる検索の独占、蔓延するポルノの海賊版、誤用や悪用に脆弱なDMCAの削除プロセス。そして、これらの全てを大規模に運用するために自動化が進んでいる現状。私たちが取材した関係者の全員が「この問題には簡単な解決策がない」と認めている』
引用元、参考資料
OnlyFans bans sexually explicit content
https://www.cnbc.com/2021/08/20/onlyfans-bans-sexually-explicit-content.html?utm_source=chatgpt.com
Harry Potter Actress Made an OnlyFans for ‘Fetish’ Content
https://www.vice.com/en/article/harry-potter-actress-made-an-onlyfans-for-fetish-content/
OnlyFans Founder Tim Stokely Steps Down As CEO
https://www.forbes.com/sites/carlieporterfield/2021/12/21/onlyfans-founder-tim-stokely-steps-down-as-ceo/?utm_source=chatgpt.com
Amanda Bynes joins OnlyFans, but plans no ‘sleazy content’
https://ew.com/amanda-bynes-joins-onlyfans-to-chat-with-my-fans-11716107?utm_source=chatgpt.com
Amanda Bynes joins OnlyFans, but plans no ‘sleazy content’
https://www.elle.com.au/culture/celebrity/celebrity-onlyfans/
Olympians On OnlyFans – The Best Olympic Athlete Accounts You Can Follow On OnlyFans – Follower
https://follower.co/blog/olympians-on-onlyfans/?utm_source=chatgpt.com
List of Olympic athletes who have turned to OnlyFans for extra source of income
https://www.nationalworld.com/sport/olympian-on-onlyfans-list-includes-elise-christie-jack-laugher-4854589?utm_source=chatgpt.com
成人向けSNSで「自ら稼ぐ」女性アスリートが増加中…背景にはスポーツ界に蔓延る「性的な搾取」が|ニューズウィーク日本版 オフィシャルサイト
https://www.newsweekjapan.jp/stories/business/2025/09/566172_2.php
