過熱するAIインフラ競争と Metaの巨額投資の行方

Meta(旧Facebook)は先日、米国でのインフラ整備のため、2028年までに6000億ドル(約90兆円)を投資すると発表した。この計画には「業界をリードするAI関連のデータセンターの建設」が含まれている。
しかし英国のIT系メディアThe Registerは、「同社の状況を考えると、その実現は困難ではないか」と指摘した。今回はこの計画の話題とともに、加熱する巨大テック企業のAIインフラ投資競争と、人々の反応について取り上げたい。
Metaの「6000億ドル投資」計画
Metaは2025年11月7日、自社の公式サイトに「How Meta’s Data Centers Drive Economic Growth Across the US」と題された記事を掲載した。ここに記された文章の多くは、「我社がAIのデータセンターを建設することが、どれほど米国の経済にとって有益となるのか」をアピールする内容となっている。
・この建設は米国のAI技術とインフラの発展に貢献するだけでなく、新たな雇用の創出、地域経済の支援、そして米国の技術的なリーダーシップの強化にも貢献します
・持続可能な建設、自治体のインフラへの投資、そして地元の学校や非営利団体への助成金の提供を通して、データセンターをホストする地域社会の強化にも取り組みます
・Metaは次世代のAI製品の開発と、誰もが使える個人的なスーパーインテリジェンスの構築に注力しています。これらの目標を達成し、米国が技術的な優位性を維持するためにはデータセンターが不可欠なのです
このように様々な利点を挙げ、それらの全てが「6000億ドルの投資の目的」であるかのように強調しているのだが、要するにMetaが実現したいのはAIデータセンターの建設であり、「その結果として生まれる利益」を説いていると考えてよいだろう。
このメッセージをMetaが届けようとしている相手は、おそらく米国の一般市民ではなく、米国政府や地域の公共事業者、あるいはパートナー企業や中央銀行などだろう。Metaの大規模な計画が抱える多くの課題(たとえば電力や水資源)に対応するには、彼らとの良好な連携が不可欠になるため、Metaとしては「みんなに様々な利益をもたらす計画なのです」と強くアピールしておきたい場面だ。
そもそもマーク・ザッカーバーグは2025年9月、ホワイトハウスの晩餐会に招かれた際、トランプ大統領に「今後のMetaは数年間で、少なくとも6000億ドルは米国に投資する」と語っていた。先日発表された計画は、この約束に基づいたものと考えられている。
ひたすら過熱する「AIインフラ構築競争」
主要ビッグテック企業の間では現在、AIインフラの整備競争が激しさを増している。AIモデルに必要となるのは技術力や開発力だけではなく、そのトレーニングや運用のための計算資源や電力、そしてデータセンターなどのインフラが不可欠となるためだ。
この分野に巨額の資産を投入している企業の代表格としては、NVIDIA、Microsoft、Google、Meta、Amazonなどが挙げられるだろう。これらの企業にはそれぞれに利点と弱点(たとえばGPUの調達力、電力の調達、データセンターの運用効率など)があり、どの企業がこの先をリードするのかは多くの注目を集めている。現在のところ、データセンターGPU市場で圧倒的な強さを見せており、インフラに積極的な取り組みを示しており、さらに世界最大の時価総額企業にもなっているNVIDIAが最も優位だろうと予想する声は多い。しかしOpenAIへの戦略的投資で知られるMicrosoftや、Vertex AIやTPUアクセラレーションが強みのGoogleも有力候補だ。
上記三社の投資額はどのようになっているだろうか。NVIDIAは今年9月、最大1000億ドルを段階的にOpenAIへ出資して巨大なAIデータセンターを建設すると発表した。またMicrosoftは、2025年度の「AI対応のデータセンターの建設・拡充に投資する計画」に約800億ドルを投資すると語っている。そしてGoogleは「主にクラウドサービスの急速な需要増とAI関連インフラの拡充のため」として、2025年の支出額を850億ドルに引き上げた。
あまりにも数字が大きすぎて感覚が麻痺しそうになるため、いちおう念押ししておくと、これらは「円」ではなく「ドル」である。600億ドル~850億ドルというのは、中規模先進国(たとえばフィンランドやルーマニアなど)の年間国家予算に匹敵する金額だ。
The Registerが指摘した「実現の可能性」
そんな中でMetaが発表した「数年間で6000億ドルの投資計画」は、他社に引けを取ることのない、充分なインパクトを与えるほどの金額だった。その発表は、もちろん競争相手を牽制するためのブラフではない。Metaは先日にも300億ドルの社債を発行しており、6種類に分けられた債券の償還期限は短いもので2030年、長いもので2065年だった。つまりAIインフラに投資するため、同社は「40年債を含めた『超長期債』での大規模な資金調達」を実際に行っている。
しかし英国のITメディアThe Registerは11月8日、「Meta can’t afford its $600B love letter to Trump」と題された記事の中で、「Metaが途方もない額の負債を担わないかぎり不可能であり、実現が困難な計画だ」と指摘した。その具体的な理由として
・同社は2025年に「700億ドル前後」を設備投資に回す見通しを発表しており、その大部分がAIのインフラに使われる予定となってはいるのだが、「数年で6000億ドル」の約束を達成したいのなら、その支出を3倍ほどに増やさなければならない
・Metaの2024年の純利益は620億ドル程度だった。現金(現金同等物と流動資産)も約445億ドル分ほどあるが、それらを足しても目標には遠く及ばない
・大規模な負債の活用は避けられず、すでに300億ドルの社債を発行しているのだが、それでも足りない
などが挙げられている。
つまり現状のMetaには、これほど巨額に膨れ上がったプロジェクトを自力で賄う体力がないため、金融機関や投資家を頼るか、ビジネスパートナーの資金を頼るか(※)、あるいはさらなる長期的債務の活用に頼らなければならない。いずれにせよリスクが大きく、さらに巨額の負債を担う形になるだろうという指摘だ。同誌は以下のように記事を締めくくっている。
『もしもMetaに、6000億ドル規模の米国内インフラ拡張計画を実現する望みが少しでもあるとするなら、ザッカーバーグは資金提供者たちの「豊かさと忍耐力」に期待するしかない』
※たとえばMetaは、すでにBlue Owl Capitalとのジョイントベンチャーを設立している。ざっくり説明すると、Blue Owl Capitalが大部分の資金を出してデータセンターを建設し、Metaはリース契約で借りるという流れになる(このジョイントベンチャーが担当するのは6000億ドルのデータセンター計画のごく一部であり、もちろん「6000億の大部分をBlue Owl Capitalが支払う」わけではない、念のため)。
つまりMetaは全てのデータセンターを自社で所有するのではなく、ジョイントベンチャー契約を利用して「リースで使う」ことも念頭に入れている。この場合のMetaには、市場の状況次第で「リース契約を終えて撤退する」という逃げ道も残されている……ようにも見えるのだが、どうやらMeta側には「違約金発生」のリスクがあるようだ。
「AIインフラ戦争」が残すもの(あるいは奪うもの)
この記事は、「世界で最も裕福な企業のひとつとして知られているMetaでさえ、自力ではデータセンターの夢を実現できない。どれほど大きな計画を発表しようと、結局は外部の資金をあてにするしかない」という厳しい現実を浮き彫りにしている。Metaの場合は主な収入源が広告なので、先述の三社と比較したとき「とりわけ無茶な投資」にも感じられるのだが、だからといってNVIDIAやMicrosoftやGoogleが一年で数兆円~数十兆円規模の支出を手軽に行えるわけでもない。
なぜ時価総額ランキングのトップクラスに名を連ねる企業が、これほど無茶をしてまでAIインフラに莫大な投資をしなければならないのか。もちろん「AI戦争で勝つには、それを動かすためのインフラが不可欠だから」であり、さらに「次の産業の基盤(未来の支配権)を目的とした投資だと見なしているから」だろう。

https://www.fool.com/research/largest-companies-by-market-cap/
2025年11月の時価総額ランキング。NVIDIA、Microsoft、alphabet(Google)、Meta、Amazonはいずれもトップテンに入っている。
しかし、過熱の一途をたどる彼らの戦いに冷ややかな/懐疑的な視線を送る意見も決して少なくない。特にWall Street Journalは過去数回に渡り、この問題を詳しく批判的に取り上げてきた。たとえば2025年10月1日の記事(This Is How the AI Bubble Will Pop)では、現在のAIインフラ投資が「過去最大の巨大なバブルとなる可能性」を指摘し、また2025年11月16日の記事「When AI Hype Meets AI Reality: A Reckoning in 6 Charts」ではAIバブルの兆候を複数のチャートで示し、巨額の投資に対して実際のAIサービスが低迷していること、そして投資を回収できる可能性が疑わしいことを示してきた。
AIバブルへの懸念を示しているのはWSJだけではない。2025年10月8日のThe Guardianの記事によると、イギリス中央銀行(BoE)は「AIに注力しているテクノロジー企業の株式バリュエーションは割高(stretched)にあり、AIに関する期待が後退すれば株式市場は大きな打撃を受けることになる」「特に懸念されるのはAIインフラの供給ボトルネックで、これらに問題があれば期待された収益は実現しない可能性がある」と指摘したうえで、さらに「これまで生成AIに投資した企業の95%が、その投資から何の利益も得ていない」というMITの研究データも示した。
そして懸念は「AIバブル」に関する内容に限らない。たとえば「AIのインフラ投資競争は国際社会の新たな冷戦であり、世界の軍拡競争を過熱させるものだ」という意見、あるいは「AIインフラの暴走や規制の欠如が、社会のシステムに悪影響をもたらす」という意見など、この問題については様々な分野の専門家から多様な批判が寄せられているのだが、あまり話を広げすぎると収集がつかなくなるので、ここでいったん止めよう。
最後に、先述のThe Registerの記事に寄せられた読者の意見の話をしたい。世界のテクノロジーの専門家、あるいは企業のIT部門の意思決定者などに長く親しまれているThe Registerは、「懐疑主義的、かつ英国らしい冗談を好む皮肉屋の技術屋の読者」が多いという傾向がある。
彼らはザッカーバーグの6000億円計画について、どんな感想を持ったのだろうか? そのほとんどは「計画自体が非現実的/無謀である」「Metaや投資家だけでなく、市民にとってもリスクが大きすぎる」「この計画は建設資材・電力・人材などの物理的な限界を考慮していない」などの批判的な内容だった。それは単なるマネーゲームの材料としてではなく、ビッグテックやAIを「技術」の視点から見てきた人々の率直な意見だろう。特に共感数の多かった意見、ユニークだった意見を以下に紹介しよう。
・資金が予定どおりに使われさえすれば、必要なものが供給されるのか?「計画に書いてあること」が「実現できること」になるわけではない。ビッグテックの連中は脳が非現実に侵されているから理解できないようだが、現実の(物理的な)世界には現実の「リミット」というものが存在している。(意訳)
・もしもバブルが弾けたら、多くのデータセンターは存続できなくなり、役立たずの資産となるだろう。(※つまり運営にも金がかかるという指摘)
・約束されたすべてのものが作られるとするなら、その建設にかかる費用は大した問題ではない。実際には、これらの装置ための製造と電力供給が及ぼす環境への影響や、適切なメンテナンスを行う必要性のほうが問題なのだ。
・現在のMetaが得ている広告収入の約10%は、詐欺広告や禁止された商品の販売によるものだ。自社のプラットフォームで一日150億回の詐欺広告を配信している企業が、巨額の投資とは滑稽である。
・このAIバブルが崩壊したときは、私たち一般人が銀行・保険会社・年金基金を救済するために尻拭いをさせられるのだろう。
・投資家たちに幸運を……え、40年債? この会社が5年後に存続していたら、私は本当に驚くし、深く感嘆するよ。
・この話がすべて終わる頃には、(インフレが進みすぎて)パン1斤が1兆ドルでも買えなくなっているかもしれない。
・(返信)いや、逆だろう。AIバブルが崩壊すれば、これらの巨大データセンターはほぼ確実に座礁資産となる。建設に費やされた資金はすべて失われ、消え去り、何ひとつ残らない。建設のために借り入れた資金は不良債権となり、その多くは最終的に1ドルあたり数セント、あるいは0セントで償却される。そのような環境でインフレは起こりにくい。
・これでMetaが潰れることを願うよ。いろんな意味で、本当に酷い会社だから。
参考資料、引用元
Meta can’t afford its $600B love letter to Trump ・ The Register
https://www.theregister.com/2025/11/08/meta_cant_afford_its_600b/
Meta to sell $30B in bonds to build AI datacenters ・ The Register
https://www.theregister.com/2025/10/31/meta_launches_30_billion_bond/
AI’s power needs could short-circuit US infrastructure ・ The Register
https://www.theregister.com/2025/06/26/us_datacenter_power_crunch/
How Meta’s Data Centers Drive Economic Growth Across the US
https://about.fb.com/news/2025/11/meta-data-centers-drive-economic-growth-across-us/
Meta’s AI data center expansion
https://www.aidataanalytics.network/data-science-ai/news-trends/meta-to-invest-600-billion-in-us-ai-data-center-expansion
The billion-dollar infrastructure deals powering the AI boom _ TechCrunch
https://techcrunch.com/2025/10/10/the-billion-dollar-infrastructure-deals-powering-the-ai-boom/
OpenAI and NVIDIA Announce Strategic Partnership to Deploy 10 Gigawatts of NVIDIA Systems _ NVIDIA Newsroom
https://nvidianews.nvidia.com/news/openai-and-nvidia-announce-strategic-partnership-to-deploy-10gw-of-nvidia-systems
Nvidia to invest up to $100 billion in OpenAI data center buildout
https://www.cnbc.com/2025/09/22/nvidia-openai-data-center.html
Microsoft Commits $80B to AI Data Center Expansion Through 2028
https://www.datacenters.com/news/microsoft-s-80b-investment-in-ai-data-centers-the-digital-backbone-for-a-multimodal-world
Google’s $85 billion capital spend spurred by cloud, AI demand
https://www.cnbc.com/2025/07/23/googles-85-billion-capital-spend-spurred-by-cloud-ai-demand.html
Bank of England warns of growing risk that AI bubble could burst _ Bank of England _ The Guardian
https://www.theguardian.com/business/2025/oct/08/bank-of-england-warns-of-growing-risk-that-ai-bubble-could-burst
