資金提供元が代わり変容するDFRLab

アメリカのシンクタンク大西洋評議会のデジタルフォレンジック・リサーチラボ(DFRLab)は、デジタル影響工作や認知戦などの調査で世界的に知られている組織だ。よくも悪くもロシアの工作の分析のひな形はDFRLabが作り、多くの機関がそれを取り入れて発展させた。
SNSにおける拡散の分析から仕掛けているアカウントと人為的な拡散の仕掛けをあぶり出す手法や、コンテンツの内容やアカウントの特徴などからアトリビューションするアプローチなどはここから生まれた。
資金提供元の変化と品質問題
歴史の浅いこの領域の研究では老舗といってもよいだろう。2024年後半から公開するレポートに変化が現れた。たとえば直近に公開された「Information environment research: UKRAINE」( https://disinfodigest.pl/information-environment-research-ukraine/ )はポーランド政府のプロジェクト(Minister of Foreign A airs of the Republic of Poland “Public diplomacy 2024-2025 – European dimension and counteracting disinformation”)の資金で実施されているMUGAの一貫となっている。ウクライナ以外にモルドバ、ジョージア、アルメニアなども対象となっており、こちらもレポートがある。ついでに言うとアメリカ国内のレポートはどんどん減っている。
米国政府からの資金提供が絞られているため、欧州からの資金によるプロジェクトが増えているようだ。欧州以外からの資金も流れている可能性がある。たとえば最近日本に関するレポートが2度公開されているが、その解像度の粗さなどから少なめの資金によって実施された可能性がありそうだ。
DFRLabによる日本のX空間への中露ナラティブの分析
https://inods.co.jp/topics/news/4839/
DFRLabによる日本の対策の遅れと提言
https://inods.co.jp/topics/report-reviews/5733/
解像度の粗さは「Information environment research: UKRAINE」でも見られる。ウクライナの情報空間を語るうえでは、「Jeansa」あるいは「Political Jeans」の話題は必須だと思うのだが、まったく記述がない。また、ウクライナ最初の英字メディアである Kyiv Postで編集部が大量解雇(事実以上の解体)が行われた経緯も解雇には触れたが、その理由には触れていない。Kyiv Postを解雇された編集者の一部は現在独立したメディア Kyiv Independet を発行している。
手前味噌で恐縮だが、上記については下記拙著をご参照ください。拙著以外に日本語で触れているものはなさそう。
「ウクライナ侵攻と情報戦」(扶桑社)
他国の事情は国外からわかりにくいことも多いと思うが、以前比べると品質が落ちたことは否めない。
アプローチの変化
悪いことばかりでもない。資金提供元からの要請とは思うが、全体像をとらえることを行うようになった。特定のSNSの特定の動きに注目する以前にやり方は、事例分析としては成立しても、社会全体への影響を図ることはできなかった。できないのに、あたかも社会に取って深刻な問題であるかのように扱っていた。
直近のレポートである「Information environment research: UKRAINE」ではウクライナの情報環境全般の整理を行ったうえで、そこへの干渉を取り上げている。以前とはだいぶ異なるアプローチであり、致命的な欠点がだいぶ克服されている。
アメリカとポーランドはどちらもロシアの脅威を深刻に受け止めていたと思うのだが、影響工作へのアプローチは異なっており、双方のよいところが組み合わさればこれまでになかった影響評価や対策が考えられるかもしれない。
ただし、その前提としては解像度の高いより精緻な調査研究が必要になる。資金源が欧州に移ったことがアメリカと欧州のアプローチの相乗効果を生み出すことを期待したい。
余談だが、日本に関する2本のレポートは日本政府もしくは近しいところかあ資金が出ているのではないかという懸念がある。もし、そうだった場合、資金提供元を明示しなかったことや解像度の荒いレポートの内容といい、DFRLabは日本にはスポンサーとしても調査対象としても関心がない、ということになる。資金提供額で態度が変わるのも新しい変化かもしれない(あくまで憶測です)。