米情報コミュニティの全貌とサイバー部門——米国の情報戦/認知戦①

米国は各省庁や軍の情報部門を一元的に統括する情報コミュニティという制度をとっている。トップは国家情報長官で、そのスタッフ組織が国家情報長官室だ。
もっとも、情報コミュニティの中でも別格なのが、大統領直属の情報機関であるCIAで、情報コミュニティの幹部でも国家情報長官とCIA長官は、政府内でも閣僚級のポジションになる。
省庁、軍の情報部門を統括する「情報コミュニティ」の18組織
情報コミュニティは正式には以下の18の各組織で構成される。
▽ODNI(国家情報長官室)
情報コミュニティ全体を統括する国家情報長官を補佐する事務局で、大統領に長官が報告する資料を最終的に作成する非常に権限の大きな組織だが、あくまで情報コミュニティの各機関からの情報をとりまとめる部局であり、組織としては小さく、要員も少ない。
▽CIA(中央情報局)
言わずと知れた米政府最強の情報機関。政府内の機構的には国家情報長官室の下になるが、圧倒的な情報力があり、長官はしばしば大統領や国家安全保障担当大統領補佐官に直接、報告/助言する。
▽NSA(国家安全保障局)
国防総局のシギント(信号情報)機関。サイバー戦も担当する。サイバー工作が現代の情報戦ではいちばんの主戦線になっている現在は、CIAに次ぐきわめて重要な情報機関といえる。
▽FBI情報局(IB)
司法省隷下の連邦政府の捜査機関「連邦捜査局」(FBI)の情報機関。
▽DIA(国防情報局)
国防総省の情報機関。筆頭部局は「作戦本部」。特にヒューミント(人的情報活動)に強い。
▽国務省情報調査局(INR)
国務省の情報機関。博士クラスの分析官が多く、国際政治状況の分析力に定評がある。
▽NRO(国家偵察局)
国防総省の偵察・監視衛星運用機関。イミント(画像情報活動)の統括組織。
▽NGA(国家地理空間情報局)
国防総省の地理空間情報機関。ジオイント(地理空間情報活動)の専門組織。
▽国土安全保障省情報分析局(I&A)
国土安全保障省の情報機関。
▽沿岸警備隊情報部(CGI)
国土安全保障省隷下の沿岸警備隊の情報機関。
▽国家保安情報局(ONSI)
司法省隷下の麻薬取締局(DEA)の情報機関。
▽財務省情報分析局(OIA)
財務省の情報機関。
▽エネルギー省情報防諜局(OICI)
エネルギー省の情報機関。
▽陸軍軍事情報部隊(MIC)
陸軍の情報部門を統括する部隊。
▽海軍情報部(ONI)
海軍の情報部門を統括する部隊。
▽第16空軍
米空軍戦闘司令部(ACC)隷下の情報部隊。
▽海兵隊情報部(MCI)
海兵隊の情報部門を統括する部隊。
▽国家宇宙情報センター(NSIC)
宇宙軍の情報機関。2022年に創設された比較的新しい組織で、情報コミュニティの18番目のメンバーということで「デルタ18」とも呼称される。
インテリジェンス活動を行なう他の組織
以上が米政府情報コミュニティの正式の18のメンバーだが、それ以外にもインテリジェンス活動を行なう組織は米政府省庁内にいくつもある。
たとえばFBIでは前出のIBが情報コミュニティの正式メンバーだが、それ以外にも、国家安全保障関連の捜査を担当する「国家安全保障局」(前出の国防総省のシギント機関と同じ名称だが別組織)、あるいは国際的な犯罪を追う「犯罪・サイバー・反応・業務局」内の「サイバー部」「国際作戦部」などがある。
また、財務省では前出のOIAが正式メンバーだが、それ以外にも「国防防諜・安全保障局」(DCSA)や「テロリズム・金融情報局」(TFI)などがある。
あるいは、エネルギー省でも前出のOICIが正規メンバーだが、それ以外に「国家核安全保障局」(NNSA)がある。
さらに、やはり情報コミュニティの正式メンバーではないが、軍の中にもインテリジェンス活動を実施している部隊がある。
たとえば米軍でサイバー戦を統括する統合軍が「米サイバー軍」(USCYBERCOM)で、それ以外にも各地域統合軍内の情報部隊がある。たとえば日本を担当する米インド太平洋軍(USINDOPACOM)本部には「情報部」(J-2)があり、その統括下に「統合情報作戦センター」と「特殊保安局」がある。
さらに、非公然の特殊作戦を統括する「統合特殊作戦コマンド」(JSOC)隷下の各特殊部隊も、紛争各地での情報活動を担う。その中でも潜入インテリジェンス工作の専門部隊が陸軍「情報支援活動部隊」(ISA)と通称される部隊だが、この部隊は完全に非公然部隊であり、正式呼称(しばしば変更される)や任務内容、要員数・要員名などが機密扱いにされている謎の部隊である。
認知戦への対策を担う組織では、情報を武器とする工作も
このように、米政府・軍のインテリジェンス部門の層は厚いが、その中でロシア工作機関などが仕掛ける認知戦への対策を担っているのは、第一にサイバー戦を担う各組織だ。サイバー戦機関はもちろんサイバー攻撃やサイバー防御が主任務だが、その作戦の中に情報自体を武器とする工作も含まれる。
CIAでは、サイバー戦のシステム開発と運用を「デジタルイノベーション総局」(DDI)が統括しており、同本部内でその運用についてはサイバー攻撃を「サイバー情報センター」(CCI)が、サイバー防衛を「サイバーセキュリティ室」(OCS)が主に担当している。CCIはラングレーの本部の他、ドイツのフランクフルト総領事館内にも拠点を持ち、世界中のさまざまな国に対して不正アクセス含むサイバー攻撃を大掛かりに行なっている。
また、最も機密性の高い攻撃については、バージニア西部郊外の秘密拠点でCIAの「作戦支援部」(OCB)が実行している。こうした部局は諸外国の標的へのハッキングなどで主要な役割を果たしているが、認知戦の攻防でどれだけ関与しているかは不明である。
サイバー戦を主任務のひとつとしているNSAでは、情報収集と処理を担当する「作戦本部」がサイバー作戦も行なっており、他にセキュリティを担う「情報システム・セキュリティ本部」がサイバー防護を統括している。また、他省庁や民間企業、同盟国や友好国との連携を担当する「サイバーセキュリティ協力センター」も運用している。
さらにNSAには軍の通信保全を担当する「中央保安部」(CSS)が併設されており、NSA長官はCSS長官も兼任している。この2機関は実質的に統合されており、まとめてNSA/CSSと呼ばれることもある。
また、前出の軍の米サイバー軍は、司令部がNSA本部内に設置されており、NSA長官は米サイバー軍司令官も兼任している。米サイバー軍は陸海空軍・海兵隊のサイバー戦を統括する部隊で、各軍のサイバー戦統括司令部である「陸軍サイバー司令部」「第10艦隊・艦隊サイバー司令部」「第16空軍・空軍サイバー司令部」「海兵隊サイバー空間司令部」を統括している。
このうち最も規模が大きいのは陸軍サイバー司令部で、隷下に「陸軍ネットワーク事業技術司令部」「陸軍サイバー防御旅団」「陸軍予備サイバー防御旅団」「第91サイバー旅団」「第780軍事情報旅団(サイバー戦担当)」「第1情報作戦司令部」「サイバー軍事情報群」がある。統合部隊として「サイバー国家任務部隊」(CNMF)もあり、その統括下に「国防総省情報ネットワーク本部統合部隊本部」「統合任務部隊アレス」がある。
FBI、国防情報局、国土安全保障省のサイバー戦担当部局
その他の省庁でサイバー戦を担当するのは、FBIでは前出の情報局(IB)内の「情報部」および同じく前出の犯罪・サイバー・反応・業務局サイバー部、さらに国家安全保障分野を担当する「国家安全保障局」(NSB)内の「防諜部」などがある。
国防総省国防情報局にはサイバー戦専門機関はないが、世界の5か所に配置された「地域センター」内に、サイバー戦もカバーできる要員が置かれている。また機能別拠点のひとつである「国防資産基盤センター」でもサイバー防御は行なっているものとみられ、さらには「国家メディア情報センター」でも認知戦対策は行なっているものとみられる。
また、国土安全保障省では、前出した情報分析局の隷下部局に「サイバー任務センター」があり、さらには新領域の脅威に対処する「経済安全保障任務センター」や「現在・新規脅威センター」などがある。
以上が米政府・軍で一部の認知戦対策にも関与しているサイバー部門の全体像となる。
次回は、これらの機関およびその他の政府機関の中で、外国からのフェイク情報誘導工作を監視し、諸情報の内容の真偽を評価する組織・部局とそれぞれの役目、さらにトランプ政権下での彼らの“変化”について紹介したい。
