「訂正なきOSINT」は真のOSINTか――GeoConfirmedが突きつけた情報発信の”規範”

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 ロシア・ウクライナ戦争やイスラエルのガザ侵攻、最近ではトランプ大統領によるベネズエラの前大統領拘束などでは、それらの事案の一部を撮影したとされる、SNS上に拡散する動画・画像について、その撮影場所を特定する取り組みが世界的に広がっている。このようなSNS等の公開情報を用いる分析手法は、OSINT(Open Source Intelligence)と呼ばれる。今回は、特に誤った情報のSNSでの拡散と訂正についても示唆を与えると思われる、OSINT団体による「情報訂正のあり方」「OSINTの規範」をめぐる議論と、筆者が海外で経験したOSINT分析手法の一端を紹介したい。

目次

OSINTの定義と求められる責任 GeoConfirmedの事例

 GeoConfirmed(Xアカウントは@geoconfirmed)は、紛争や自然災害で撮影された画像・動画の位置特定を数多く手がけることで知られ、各国のインテリジェンス関係者や研究者、ジャーナリストの間で一目置かれている。単なる推測ではなく、根拠を示しながら撮影地を確証していく姿勢が、その評価を支えているといえる。

 同団体は、100人以上のボランティアが参画し、世界各地で拡散される写真・動画などの視覚コンテンツについて、公開情報(地図、衛星画像、デジタルツール等)を用いて撮影場所を特定(geolocate)し、検証結果を公開するプロジェクトに取り組んでいる。

 公式サイト等によると、その狙いは「何が起きたか」という解釈に踏み込むことよりも、「どこで起きたのか」を確証することで情報の正確性を高める点に置かれており、検証にあたっては、根拠となる視覚的な手掛かりや推論過程を示す透明性を重視している。すなわち、出来事の評価や断定ではなく、地理的位置という“基礎情報”の確度を上げることに力点を置いている。

 “OSINT”という単語については、その定義はさまざまだが、米国下院の報告書は「オープンソースから収集した情報を収集・分析し、実用的なインテリジェンスを生み出す実践」と規定する。欧州連合は「特定のインテリジェンス要求に対応するために、適切な依頼元に適時に、公表情報から収集され、取り出され、配布されるインテリジェンスである」と定義している。いずれにせよ、OSINTは公開情報を素材としつつ、意思決定に耐える形へと加工する実践だと整理できるだろう。

 GeoConfirmedは最近のX投稿で、OSINTの定義と求められる責任(とりわけ自らが配信した誤った情報への訂正)に言及し、反響を呼んだ。同団体は、OSINTを「意思決定・脅威評価・調査のための洞察を得るため、公開情報源から入手可能な情報を収集・分析・解釈する実践である」と規定し、「位置情報の検証、(武器等の)装備種の特定、徹底的な調査を実施することで、生データを検証済みの“洞察”へと昇華させるものだ」と宣言する。

 他方で、OSINTはその分析後の情報についても、調査・検証した側と、その調査・検証された情報を受け取った側、そして第三者のいずれにおいても、真偽を検証できる点に特徴がある。つまり、結論だけが一方的に提示されるのではなく、根拠の提示を通じて“追試”が可能であるという性質をもつ

 その観点からも、GeoConfirmedによる誤った分析結果への向き合い方は示唆的である。GeoConfirmedが過去4年間で公開した位置情報は6万件以上で、そのうち誤りはわずか7件あった。同団体は、それでも多すぎるとの認識に立ち、誤りが生じるたびに検証プロセスを見直してきたという。

  対照的に、SNS上にはOSINTを自称するアカウントが複数存在するが、事実に基づく指摘を受けても訂正を行わないものが少なくない。彼らにとって重要なのは事実ではなく、最初の投稿が注目を集めることであり、言い換えれば、検証ではなくエンゲージメントが目的化している。

 GeoConfirmedが問題とするのは、「訂正した」という形式ではなく、誤った情報の拡散をどこまで抑止できるかという実効性である。同団体は、誤った内容の投稿を削除せず、後続投稿として訂正投稿を出すだけでは、元の投稿が集めた注目が残るため、訂正が届きにくくなり、結果として誤った情報の拡散は止められないと批判する。したがって、誤った元の投稿を削除し、訂正内容を反映して再投稿することこそが、唯一の責任ある解決策だと強調する。さらに、そのような行動を取らないアカウントは、OSINTではなく、注目を集めるためにOSINTを利用し、価値ではなくノイズを加える詐欺師だとまで断じている。

  実際、GeoConfirmedは、SNS上では著名なOSINTアカウントOpen Source Intelがイラン関連の偽情報をXに投稿したとして、これを批判した。この際、Open Source Intel側はGeoConfirmedの指摘に対する謝意を伝え、該当投稿を削除している。その後のやり取りのなかで、GeoConfirmedは、OSINTアカウントには、
①ニュースの集約者にすぎないもの
②多少の付加価値は提供するもの
③真のOSINTアカウント
――の3種類があるとして、真のOSINTアカウントは上述したように情報を”洞察”へと昇華させるもので、Open Source Intelは①〜③のどれを志向するのかと問いかけた


 この件は、GeoConfirmedが強調する原則が、実際のやり取りのなかで具体化した例でもあり、誤った情報の拡散のみならず、ジャーナリズムの視点からも興味深い事例と思われる。OSINT関係者や一部のジャーナリスト等の間では注目を集めていたが、日本国内ではさほど話題となってはおらず、今回の寄稿を契機にあえて取り上げた。
 以上は、主にGeoConfirmedが提示するOSINTの規範に関する話である。

OSINTの実践 べリングキャットの手法

 では、そうしたOSINTの実践は具体的にはどのような手法で運用されているのか。以下、その方法論を具体例で示すため、OSINT手法を用いる調査団体として世界的に名高い「ベリングキャット(Bellingcat)」を例に取り上げたい

 本拠地をオランダに置くベリングキャットは、SNS上の動画・画像・音声、人工衛星画像などの公開情報を活用し、さまざまな調査報道に取り組んでいる。メンバーには筆者のような報道機関出身者も多い一方で、エンジニアや理工系研究者など、従来の職業ジャーナリズムでは主要なアクターとはみなされにくかった人々が重要な役割を担っている点も特徴的だ。ここには、調査報道の担い手が多職種化しているという現代的な傾向も表れている。

 ベリングキャットは、公開情報を分析するOSINTの手法を用いて偽情報の検証などを継続しており、マレーシア航空17便撃墜事件(2014年)で容疑者を特定したことにより、国際的な評価を高めた。こうした実績は、OSINTが単なるネット上の推理ではなく、公共的な検証実践として機能することを示している。  筆者は昨年、ロンドンで開かれたベリングキャット主催のワークショップに参加した。勤務先のウェブサイトにも体験記を掲載したが、内容の詳細は公表が禁じられているため、ここでは踏み込んだ説明は控えたい。ただし、以下では公開可能な範囲でその概略を記すことで、ベリングキャットによるOSINTの方法論の雰囲気だけでも伝われば幸いである。

 場所特定で出された課題は、おおむね次のようなものだ。上記の画像はGoogleストリートビューをキャプチャしたもので、バス停とその背後には建物が写っている。サイズや紙幅の関係で画像が見づらくて恐縮だが、バス停の表示や建物の看板に記載された情報を手掛かりにインターネット上を検索すれば、撮影地がカリフォルニア州のこの地点 (2224 Piedmont Avenue Berkeley, California)であることは比較的容易に分かる。

 ここまでの作業は、OSINT初心者でも到達できる範囲だろう。ワークショップでは、次の段階として「影」に着目した調査を立て続けに行った。たとえば、この画像が2025年3月15日に撮影されたと仮定した場合、その日の何時ごろに撮影されたかを推定するといったものである。つまり場所だけでなく、撮影時刻の検証へと進むことで、事象の再構成の精度を上げるのだ。

 時刻の推定には、時刻と影の位置関係を確認できるSunCalcというサイトを用いる。同サイト画面左の「computation path of the sun for」欄に、上記の住所と年月日を入力し、サイト上部の時間帯の欄で太陽の位置を動かすと、地図上にその時刻の影が黒線で表示される。バス停とその影の位置関係に注目すると、影がちょうど車道と垂直にかかる時間帯を探ることで、下記の画像のようにおよそ18時半ごろと推定できる。

 また、地球上ではある日時において、物体の高さと影の長さの割合が一定となる領域が、下記の画像のようにリング状に現れる。これを活用し、ベリングキャットが開発したツール「Shadow finder tool」を用いた場所特定も行った。

 こうした手順は、一見すると細かい作業に見えるが、検証の強度を左右する要諦にもなる。影に注目するのは、たとえば、ある調査対象の人物が、ある日、ある時間に特定の地点に実在したか、あるいは撮影日時が正しいかといった点を裏づけるためだ。さらに、生成AIによる画像であっても、画像内に影が写り込んでいれば、撮影日時の推定に資する場合がある。影は、改変や生成の痕跡を突く突破口になりうるのだ。

 次に、重点的に注目するようレクチャーを受けたのは、インターネット上のサービスにおけるIDやユーザーネームである。パスワードはセキュリティ上、サービスごとに変えている人が多い一方で、IDやユーザーネームは複数のサービスで共通化されているケースが少なくない。たとえば、性的搾取等に関与したと報じられてきた米国の富豪、故ジェフリー・エプスタイン氏が各種サービスで使用していたIDは、すでに米メディアBusiness Insiderで報道されている。ワークショップでは、それらが実際にどのようなサービスで利用されているかを確認した。ここでの狙いは、断片的な公開情報をつなぎ合わせ、行動や関係性の輪郭を浮かび上がらせる点にある。

 これは、調査対象の人物が残すインターネット上の痕跡(digital footprint)を把握するうえで、重要な作業となる。視覚コンテンツの場所特定に限らず、公開情報の連鎖から実像へと迫るのがベリングキャットの方法論であり、ワークショップはその“基礎体力”を鍛える場であった。

終わりに

 以上を踏まえると、GeoConfirmedやベリングキャットに代表されるOSINTの実践とは、公開情報を素材として、位置・時刻・関係性といった争点を検証可能なかたちに再構成し、“洞察”へと転換するプロセスといえる。このプロセスでは、根拠の提示による“追試”の可能性と、誤りが判明した際の訂正責任という二点が特に重要視される。さらに、結論の提示にとどまらず、第三者でも検証できる根拠と、誤りを是正する運用を含めて説明することが求められる。この意味でOSINTは、説明責任の基準を再定義する営みだともいえるのではないだろうか。

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この記事を書いた人

Spectee 情報分析チーム マネージャー
慶応義塾大学卒業後、毎日新聞社入社。東京本社経済部などを経て、2019年Spectee入社。ネット上の公開情報を分析するOSINTの手法を活用したSNS分析に取り組む。

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