OSINTの本質を構成するジャーナリズム〈サイバー防衛研究会2月例会報告〉

2月例会では、SNSリスク検知サービスを展開する株式会社Spectee(以降、スペクティ)の大久保 陽一氏を講師に迎え、報道実務、選挙情勢分析や行政対応など幅広い論点からOSINT(Open Source Intelligence)をテーマにした講演をしていただいた。
講演会データ サイバー防衛研究会2月例会
「SNS分析の現場から 偽情報対策、OSINTをめぐる議論とその手法について」
講演者/大久保 陽一(株式会社Spectee)
司会/齋藤 孝道 開催日/2026年2月27日(金)
SNSリスク検知の実務に見る「確認」の思想
大久保氏が所属するスペクティは、SNS投稿をAIで抽出し、その後に人手による確認を経て情報を配信するリスク検知サービスを提供している。国内外の事件・事故・災害に関する投稿を24時間365日体制で監視し、住所や発生地点、画像の真正性などを確認した上でアラートとして配信する仕組みである。
ここでのポイントは、技術的抽出よりも、その後の確認工程である。SNS投稿情報は速報性に優れるが、誤認や過去画像の再利用、意図的な改変も含まれる。そのため、地図情報やハザードマップ、衛星画像、行政公開データと照合し、投稿を「裏付ける」作業が不可欠となる。
スペクティのサービスでは、例えば、冠水写真が一枚投稿された場合、それを単独で扱うのではなく、地理情報と突き合わせ、当該地域の地盤高や過去の浸水履歴を確認する。さらに衛星画像で広域の状況を把握し、点として現れたSNS情報を面としての被害状況へと拡張する。ここには、単なるデータ処理ではなく、「状況を読み解く」姿勢がある。
OSINTの本質──情報の照合と人間理解
講演で強調されたのは、「複数の情報源を活用する」という原則であった。
しかしそれは単なる数の問題ではない。異なる性質の情報を照合し、互いの盲点を補完するという構造に本質がある。
例えば、投稿画像の場合、まず逆画像検索によって過去の掲載履歴を確認する。対象がロシア関連の事案であればYandexが有効な場合があり、Google検索を補完することで正確性を高める。
次に、画像に写り込んだ建物や地形、標識などを手掛かりに撮影地点を推定する。建物の高さと影の長さの比率から時間帯や方位を推測し、地図情報や衛星画像と照合して候補を絞り込む。こうした幾何学的・地理的な検討により、位置特定の確度を段階的に高めていく。
投稿者についても、単一のアカウント情報だけで判断しない。ユーザーネームを検索サービス[*]で横断検索し、過去の投稿傾向や活動地域との整合性を確認する。名義の揺らぎや地域差に注意しながら、同一人物である可能性を慎重に評価する。削除されたページは公開アーカイブで履歴を復元し、記述の変化や過去の発信内容を検討する。
* ユーザーネーム検索サービス「Find My Username Footprints Across the Internet」
ハッシュタグの連鎖を追うことで、同一会場や同一イベントに関する複数投稿を集められることもある。公開された席次情報や集合写真があれば、写り込んだ人物の照合を通じて関係性を見つけることも可能である。
動画についても同様に、拡散映像が過去の別事案の流用ではないかを確認し、オリジナル投稿の発見やフレームの一致、メタデータの整合性を検証する。
災害事案では、SNS上の写真という「点」の情報を、Copernicusなどの衛星画像と照合し、浸水域や煙の広がりを面的に把握する。こうして点情報と面情報を結び付けることで、状況理解の精度が高まる。
このように、個々の投稿は断片的であっても、検索エンジンの使い分け、地理的推定、アーカイブ確認、横断検索、衛星画像との照合といった工程を積み重ねることで、情報は「断片」から相互に裏付けられた「構造」へと変わる。OSINTの本質は、この積層的な検証過程にある。
事例紹介では、秘匿性が求められる立場(諜報機関)の人物であっても、慶弔行事など私的な場面では人としての営みを完全には消し去れないという興味深い指摘があった。
結婚式や家族行事の写真が、関係者によりSNSに断片的に投稿され、それが他の公開情報と結びつくことで人物関係や所属が浮かび上がる場合がある。高度な技術ではなく、人間社会の行動原理を理解することが調査の手掛かりとなるのである。
つまりOSINTとは、ツールの巧拙ではなく、「人はどこで痕跡を残すか」という洞察を基礎に、公開情報を横断的に結び付ける営みであるとも言えよう。その意味で、OSINTはデジタル技術の産物であると同時に、人間理解に立脚した実践でもある。
票読み・警察との比較に見る共通構造
講演では、OSINTとの対比として、選挙の票読みや警察の情報収集も示された。
選挙報道では、電話調査の生データと現場の人的情報を突き合わせ、過去の選挙データや基礎票を踏まえて情勢を推定する。単一の調査結果に依存するのではなく、複数の要素を重ね合わせて全体像を描く点が特徴である。

基礎票を固定ベースとし、投票率要因を加味することで、人口30万人規模で誤差500票以内に到達する事例があるという。
警察による情報収集も、公開情報だけでなく、地域社会における観察や関係性の蓄積を通じて精度を高めているとの話が、講師の記者時代のエピソードと共にディープに紹介された。
詳細は伏せるが、経歴確認や人的ネットワークの把握といった地道な作業が基盤となっていることが示唆された。
これらに共通するのは、「断片を構造化する力」である。個々のデータは小さくとも、それを組み合わせることで状況理解が可能になる。この構造的思考こそが、OSINTと報道実務、さらにはインテリジェンス領域を貫く共通項である。
自治体のファクトチェックと資源配分の問題
国内事例として、自治体によるファクトチェックの取り組みも紹介された。
観光地に関する偽情報は地域経済に影響を与え得るため、一定の対応は必要である。しかし、すべての偽情報を逐一検証することは現実的ではない。
類型化された偽情報については予防的な広報や優先順位付けを行い、実害の大きい事案へ資源を集中させるべきとの示唆があった。ファクトチェックが自己目的化するのではなく、社会的影響や費用対効果とのバランスを踏まえて設計される必要がありそうだ。
所感──OSINTはジャーナリズムの延長線上にある
本講演を通じて示唆されたのは、OSINTの本質が「現場に近いジャーナリズムの作法」にも通じているという点である。
取材対象の車両ナンバーや定置パターンを把握し、日常の変化から異常を読み取る姿勢は、特別なアルゴリズムではなく、観察と蓄積の積み重ねである。
SNSや生成AIが注目を集める今日、OSINTは先端技術の象徴として語られがちである。
しかし実際には、複数の情報源を照合し、人間の行動原理を理解し、拙速な結論を避けるという姿勢が中核にある。その意味で、OSINTはデジタル時代に再構成されたジャーナリズムの一形態と位置付けられるのではないか。
サイバー防衛を論じる上でも、技術導入のみならず、情報の検証文化をどう育てるかが重要である。本例会は、その基礎に立ち返る機会となった。
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