脱米国のカナダ発SNS、Ganderの行方

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Facebook、X、Instagramなど、大手SNSのほとんどが米国発であることに対する懸念の声は少なくない。そんな中、特に米国への反発が高まっているカナダでは、5人のカナダ人の起業家によるカナダ発のソーシャルメディアプラットフォーム「Gander」の計画が発表された。現在のところGanderはまだリリースされておらず、正式ローンチは2025年10月となる予定だが、計画が発表された2025年6月下旬の時点で9000人以上のユーザーが早期登録を済ませており、8月中にはクローズドのベータ版での運用が開始される見込みとなっている。

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Ganderの特徴

公式サイトの記述によると、Ganderは「カナダのために作られた、楽しくプライベートで倫理的な」ソーシャルメディアだ。より具体的には、データのプライバシー、ユーザー主導のフィード、コミュニティの健全性(トロール対策、バイアスチェック、ファクトチェックの機能など)、そしてカナダのデジタル主権を重視した設計を特徴としている。このプラットフォームの対応言語は英語とフランス語(いずれもカナダの公用語)だが、「将来的には先住民族の言語にも対応する」という、たいへんカナダらしい目標も語られている。

米テクノロジー企業への依存を不安視しているタイプのカナダ人にとって、Ganderが最も魅力的に感じられるのは、そのデータが「カナダ国内のサーバに保管され、カナダのデジタル法で保護される」という点だろう。これらのデータが国外へ持ち出されたり、また第三者へ販売されることはない、とGanderは明言しており、また特定のユーザーを特定の広告へ誘導するための「不透明な設計」も排除するという。

ちなみにGanderの名前は、ニューファンドランド州の街の名前に由来している。この街にあるGander国際空港は、9.11の同時多発テロ事件が起きたとき、トラブルに巻き込まれた大勢の乗客や乗務員たちが留まることになった場所だ。このとき、同空港の周辺に住む市民たちは、自宅などを解放して彼らを迎え入れたというエピソードでよく知られている。その町の名前を選んだ開発者たちは「協力的で思いやりのあるコミュニティ」のイメージを強調したかったのだろう。

健全なSNSを求めるユーザー

またGanderは「ダークパターンの排除」を強調している。つまりユーザーの中毒性を高めるような設計(たとえば大手SNSに見られるような無限スクロール、大量の通知など)を避けたいという意向だ。さらにコミュニティのモデレーション機能やトロールフィルター(荒らし避け)などの機能も取り入れ、倫理的な広告の配信を目指し、楽しく健全にサービスを利用してもらいたい、という意向を語っている。さらに彼らは「クリエイター向けのツールやカスタマイズの機能」や「クリエイターへの収益の分配の機能」なども検討している。

こういったGanderの方向性や設計は、ちょうどXからBlueskyに移行したタイプのユーザー、とりわけ「Xにおける無秩序やAIの濫用を嫌い、Blueskyに避難した、真面目なタイプの個人クリエイター」に刺さりそうな内容であるようにも見える。その一方で「理想は高いが現実味がない」と感じてしまう人も決して少なくないはずだ。

Ganderの将来性

Ganderに関する懸念の声として、やはり真っ先に挙げられるのは「将来性(あるいは普及性)」だろう。現時点でのGanderの知名度や普及力は決して高いものではない。カナダのニュースではそれなりに話題となっているものの、なにしろカナダ全体の人口が4,100万人程度なので、既存の大手SNSとは比較するまでもない。

そもそも2025年に「既存のソーシャルメディアに対抗する新しいプラットフォーム」を立ち上げること自体が無謀だという意見もある。たとえばXに辟易してBlueskyの利用を開始し、「こちらのほうが居心地がいい」と最初は喜んだものの、気が付けばユーザー数の多いXに戻ってしまったという人は多いだろう。すでに大勢の顧客を獲得しているサービスに対抗しようと、新たに「似ているもの」を運営するのはあまりにも不利だ。それは吉野家の隣で、吉野家に似た牛丼屋を個人経営するような話かもしれない。

他にも「カナダの価値観や法に特化したサービスは、グローバルな展開に期待できない」「開発段階で様々な機能やメリットを語っているが、それらをどこまで実装できるのか」といった声は挙がりそうだ。

多様化する価値観と課題

米国発の大手SNSの代替案となるような、プライバシーを重視したSNS、ユーザー主導型のSNS、ローカルな法に準拠したSNSを提供したいという意向で立ち上げられるサービスは、もちろんGanderが初めてではない。たとえばMastodon、Bluesky、Confinity(欧州)、Session(オーストラリア)などが、様々な視点から「米国発の大手SNSとは異なった価値観」を追求するようなサービスを運営している。これらのそれぞれに対しては多様な賛否両論があり、また多くの課題が残されていることも否めない。

それでも「ウンザリするようなプラットフォームを利用しつづけることで、もう彼らに何らかの貢献をしたくはない」「自分はあくまでも理想を追い求めてくれるプラットフォームのほうを応援したい」と考える人もまた、確かに存在している

参考

gander
https://gandersocial.ca

Tech leaders ready launch of Canadian social-media platform Gander to buck U.S. dominance – The Globe and Mail
https://www.theglobeandmail.com/business/economy/article-tech-leaders-ready-launch-of-canadian-social-media-platform-gander-to

New Canadian app Gander Social to launch as alternative to Meta, X – BNN Bloomberg
https://www.bnnbloomberg.ca/business/2025/06/25/new-canadian-app-gander-wants-to-bring-the-social-back-to-social-media/

Meet Gander — Social Media App Built by Canadians, for Canadians – The Globe and Mail
https://1075koolfm.com/meet-gander-social-media-app-built-by-canadians-for-canadians/

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この記事を書いた人

やたらと長いサイバーセキュリティの記事ばかりを書いていた元ライター。現在はカナダBC州の公立学校の教職員として、小学生と一緒にRaspberry Piで遊んだりしている。共著に「闇ウェブ」 (文春新書) 「犯罪『事前』捜査」(角川新書)などがある。

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