アメリカの片田舎に爆誕した「新」企業城下町――Starbase市が秘める恐ろしき可能性

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現代に蘇る企業城下町

アメリカのテキサス州キャメロン郡ボカチカに約1.5平方マイル(東京ディズニーランドの8倍程度)の広さの市がある。
その名を「Starbase市」という。
名前から予想できるように、ロケット開発・試験・打ち上げ拠点となる、イーロン・マスクのSpaceXが主導して作った街である。
Starbase市の人口は約500人。この市の住人のほとんどはSpaceXの従業員で構成されており、市長もSpaceXの副社長であるボビー・ペデンが務めている
何もなかったこの土地のために、SpaceXは上下水道、道路、電力供給のインフラを整備した。
さらには消防、警察、医療、教育などの公共サービスをも提供し、住民の生活基盤を支えてい
る。
イーロン・マスクは、現代に企業城下町を蘇らせたのだ。
https://en.wikipedia.org/wiki/City_of_Starbase_Incorporation_election

企業城下町の光と陰

かつてアメリカに存在した企業城下町には光と陰がある。

▽ペンシルベニア州ハーシー
光の例では、1900年代初頭にペンシルベニア州中部に創設されたハーシーという街がある。
ハーシーは名前の通り、ハーシーという有名なチョコレート会社が作った企業城下町だ。
チョコレート工場で働く従業員のために、工場近くの何もなかった農村地帯を買い上げた。
そこに住宅から始まり、学校、病院、教会、娯楽施設、道路や公園などの公共インフラを作り上げた。
ハーシーの街は会社の事業拡大と共に街も発展していった。
100年以上が経った現在、ハーシー社はインフラなどには関与しなくなっており、街は観光・教育・医療など独自の自治・発展を継続している。
https://en.wikipedia.org/wiki/Hershey,_Pennsylvania

▽イリノイ州プルマン
陰の例では、1800年代後半にイリノイ州シカゴ南部に創設されたプルマンという街がある。
プルマンは鉄道寝台車で知られるプルマン・パレスカー製造会社が作った企業城下町だ。
プルマンは工場労働者にしかるべき環境を与えれば、生産性が上がるとして住宅や学校、教会、公園といった施設を整備した。
だが、プルマンの街は1894年5月に起きたストライキの発端の地となった。
ストライキはプルマン社だけでなく鉄道会社全体を巻き込むストライキへと発展し、全米の鉄道網が麻痺状態へ陥った。
最終的に連邦政府が軍を投入し、ストライキは鎮圧された。
その後、会社による街の完全所有・管理は、民主的な市民生活と相いれないと結論づけられ、プルマンの街はシカゴ市に併合され、企業城下町としてのプルマンは消え失せた。
https://en.wikipedia.org/wiki/Pullman,_Chicago

この二つの街の相違点は管理の考え方にある。
ハーシーは住民を管理することではなく、住みやすい街を提供することに腐心した。
それは会社が経営危機に陥った時でも変わらなかった。

一方でプルマンは従業員を徹底的に管理し、家賃や物価も会社が一方的に決定した。
酒場は禁止され、生活の自由は厳しく制限された。
そしてプルマン社が経営危機に陥った時、給与は下げたにも関わらず家賃を下げることはしなかった。
住民に重ねて負担を強いた結果がストライキだった。

現代に蘇ったより強化されたイーロン・マスクの「新」企業城下町

Starbase市には、ハーシーにもプルマンにもない特色がある。
それは「市」であるということだ。
ハーシーもプルマンも「市」ではなかった。
Starbase市だけが、法人化された都市なのだ。

元々、Starbase市が位置するテキサス州ボカチカ一帯は、キャメロン郡の未編入地域だった。
未編入地域とは、市や町に属さず郡が直接管轄しているエリアを指す。
かつてはキャメロン郡の一部であり、独自の市政府は存在せず、行政サービスもキャメロン郡が担当していた。
それが2025年5月3日の住民投票によって、Starbase市として法人化が承認され、同年5月20日に正式に市として成立した。

法人化によりStarbase市は独立した市政府を持ち、自治体として税収を得、自前の条例や行政サービスを提供できるようになった。
その市長と市議会のメンバーを選ぶのは、Starbase市の住民だ。
そして住民のほとんどはSpaceXの従業員となる。
それが意味するところは、市長と市議会のメンバーを誰にするのかを、事実上SpaceX社が握っているということだ。
それはイーロン・マスクが、Starbase市のインフラ整備、公共サービスを管理下におき、土地の利用や開発計画にいたるまで決定権を握っていることを意味する。
https://www.kut.org/politics/2025-05-20/elon-musk-texas-spacex-starbase-city-official-election-certification

「新」企業城下町――Starbase市が秘める可能性

イーロン・マスクが、Starbaseを市として莫大な運営コストを負担してまで権限を拡張させたのには理由がある。
例えばStarbase市は、管轄しているボカチカのビーチについて閉鎖する権限を持っている。
そのため、ロケット発射時には自由に閉鎖することが可能だ。
市長にお伺いを立てる必要はない。
これは今後の政治情勢の変化により、政治的な妨害が介入する危険性を下げる意味合いがある。

しかし企業城下町は諸刃の剣だ。
強権は苦しい時にこそ、弱者に牙を剥く。
プルマンは経営危機に苦しんだ時、その負担を従業員に向け、大規模なストライキのきっかけを作った。
より強い権限を獲得したStarbase市はどうなるのだろう。
経営が苦しくなったとき、新しい企業城下町の真価が問われることになるだろう。

だが、もっとも恐ろしいのはStarbase市が大成功した場合かもしれない。
企業が作る街こそに価値があると人々が評価し、Starbase市に人が集まるようになったらどうなるだろう。
これは大きな問いかけに発展する可能性を秘めている。
「誰が公共サービスを運営すべきか」という問いかけだ。
「企業が運営すべきである」
そう人々が判断したとき、その先にあるのはこうだ。
「誰が国家を運営すべきか」
イーロン・マスクが作り上げた企業城下町は、国とはなにかを問いかける試金石となるかもしれない。

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この記事を書いた人

脳と心のメカニズムに惹かれ、神経科学や認知の分野を中心に執筆。
複雑な現象に潜む共通性や、本質的な問いを掘り下げることを大切にしています。
情報が溢れるこの時代にこそ、選ぶべきものより「捨てるべきもの」を見極める思考が必要だと感じています。
記事を通じ、新しい認知や価値観に目を向けるきっかけを届けられたら嬉しいです。

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