「ICEのなりすましによる凶悪犯罪」をFBIが警告

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米国では2025年初頭以降、つまり第二次トランプ政権が発足して間もない頃から、「ICEの職員を装った犯罪者たち」による犯罪が相次いで報告されている。

先日のWIREDの報道によると、2025年10月にはFBIが「ICE職員に成りすました犯罪者の急増」について警告を発していたようだ。ここで興味深いのは、この警告が「偽者のICE職員に気をつけましょう」という一般市民への喚起ではなく、米国内の法執行機関の職員たちに対する警告文書だったという点だろう。

今回は、このWIREDの独占記事が伝えた「FBIの警告」を紹介しながら、現在の米国が置かれている状況や、法執行機関の役割について考えていきたい。

目次

はじめに:FBIの内部警告とは

2025年11月4日のWIREDに掲載された「FBI Warns of Criminals Posing as ICE, Urges Agents to ID Themselves」は、FBIが発行した勧告通達に基づいて書かれた記事だ。それは一般に公開されたものではなく、法執行機関向けに送られた内部文書だったのだが、透明性非営利団体「Property of the People」が情報公開法を通じて入手したものと説明されている。

FBI Warns of Criminals Posing as ICE, Urges Agents to ID Themselves _ WIRED
https://www.wired.com/story/fbi-warns-of-criminals-posing-as-ice-urges-agents-to-id-themselves/

警告に記された「偽ICEの犯行」事例

この文書には「ICE職員になりすました犯罪者」の実例がいくつか記されている。それらの全てが2025年、つまり第二次トランプ政権発足後に起きた事件である。WIREDの記事に掲載されたものの中から、特に悪質なものを以下に紹介する。

・ノースカロライナ州の性的暴行事件(1月)
入国管理官を名乗る男がモーテルに侵入し、女性に偽の身分証明書を提示しながら、「私の言うことを聞かなければ国外追放する」と脅迫し、性的行為を強要した。

・ブルックリンの暴行(および性的暴行未遂、窃盗)事件(2025年2月)
入国管理官を名乗る男が「近くの階段で話を聞こう」と女性を階段へ連れ込んで殴りつけたのち、強姦に及ぼうとした。この犯人は被害者の携帯電話も奪っている。

・フロリダ州の誘拐未遂事件(2025年4月)
「ICE」と記されたシャツを着用し、ICEの職員を名乗る女が「元交際相手の現在の妻」に接触し、車に乗せてアパートへ連れていこうとした(ただし幸いにも、被害者の女性は逃げだすことができた)。

・ニューヨーク州のレストラン強盗事件(2025年8月)
黒の戦術服を着用した3人組がレストランに入店し、ICEの職員を名乗り、従業員の手を縛り上げて頭にゴミ袋をかぶせたのち、店のATMから約1,000ドルを強奪した。この3人を本物のICE職員だと信じた従業員たちは、縛られる直前まで大人しく彼らの指示に従ってしまった。

これまでにも報告されていた事例

とはいえ、偽ICEに関する問題は、今回FBIによって初めて報告されたものではない。
ここでいったんFBIの内部警告から離れて、これまでにメディアで報告されてきた「第二次トランプ政権発足後におけるICE職員のなりすまし事件」の例の一部を紹介したい。

・ペンシルベニア州ルイスバーグの身分証明拒否(2025年7月)
ICEのバッジやユニフォーム(らしきもの)を身につけた複数の人物が、ICE職員を名乗って商店を訪問し、店員らに対し「移民ステータスに関する質問」をした。店員は彼らに身分証明の提示を求めたが拒否された。不審だと察した店員は、入店を拒否して会話を記録した。その後、地元警察が「その人々はICEの職員ではない」ことを確認し、市民に注意喚起をした。

・フィラデルフィア州の学生寮侵入未遂事件(2025年2月)

黒いシャツに「Police」「ICE」などと記された服を着用し、ICE職員を装った3人の人物が、テンプル大学の学生寮(Johnson & Hardwick Residence Hall)への立ち入りを試みたが拒否された。彼らはその後、近くの店舗で迷惑行為をしながら、その様子を動画で撮影していた。逮捕された人物のひとりは、テンプル大学の22歳の学生だった。

・ハンティントンパークの押収事件(2025年6月)

ハンティントンパークで、ICE職員を装っていた一人の男性が逮捕された。警察は当初、この人物が使っていた車両を「法執行機関が利用している車両」と誤解していたのだが、ナンバープレートを確認したのちに偽物と判明した。車内からは複数の偽造パスポートや未登録の銃器などが発見されており、これらは全て押収されている。

・サウスカロライナ州の脅迫事件(2025年2月)

サウスカロライナ州サリバンズアイランドで、ICE職員を装った男が、停止させた複数のトラックの運転手たちに「メキシコへ帰れ」と脅迫したり、車の鍵を奪ったりした。被害に遭ったのは、いずれもヒスパニックの男性だったと伝えられている。逮捕された男は約23万ドル(約3500万円)の保釈金を支払って保釈された。

これらはFBIが示した犯行事例(強盗、暴行、誘拐未遂など)ほど凶悪ではない。しか今年1月以降、ICE職員の服装や装備や車両などを模倣した一般人が、全米の各地で次々と法執行機関になりすましては、その権威や権限を不正利用しようとしてきた。

彼らの一部は「ICEになりきって威圧的にふるまう自分」の姿をわざわざ動画で撮影していた。その映像がSNSで拡散されて逮捕につながった例もある。おそらく彼らの一部は遊び半分で、あるいは弱いものいじめの感覚で、「移民を威嚇し、成敗してくれる痛快なキャラ」になろうとしたのだろう。

しかし、その承認欲求の代償は大きい。連邦政府の職員を装って行動することは「連邦公務員なりすまし罪(米連邦法「18 U.S. Code 912」False Personation of an Officer or Employee of the United States)」の対象となるため、その時点で国家の秩序を乱す重大犯罪とみなされ、多額の罰金刑や懲役刑が科されるケースが多い。さらに恐喝や暴行や窃盗等を行った場合、その処分が極めて厳しくなるのは言わずもがなだ。

CNNの2025年10月2日の報道によれば、こうした「ICE職員のなりすまし事件」は2025年だけで24件が確認されている。これはCNNが法廷記録、SNSの投稿、ローカルメディアによる報道などから拾い上げて調査した結果であるため、実際にはそれより多いかもしれない。ここで示されたケースは「政治的な活動家による移民への威嚇」から「誘拐・強盗・暴行などの凶悪犯罪」まで多岐にわたっており、そのうち10件が起訴されている。

FBIが示した背景と問題点

WIREDが入手した警告文書の中で、FBIは「昨今のICEにおける活動の拡大」について触れている。そのうえで各法執行機関に対して全国的な連携を呼びかけ、「捜査にあたる職員は身分証明を明確に示すこと」「民間人が職員に対し、さらなる身元確認を求めてきた場合は協力すること」を強く求めた。つまりFBIは、それぞれの法執行機関が透明性を上げ、市民からの信頼を得る必要があるとアドバイスしている。

これは暗に、第二次トランプ政権発足後のICEの姿勢や活動を批判していると考えて良いだろう。この点について少し詳しく説明したい。

・ICEの逮捕の拡大

ICEは今年1月以降、「1日3000人の逮捕」を目標とする強硬な移民政策のもとで強制捜査を拡大してきた。トランプが再び大統領に就任してから最初の50日間だけで、ICEによる逮捕の件数は3万2000件以上報告された。現在のペースで逮捕が続けられた場合、2025年の年間逮捕者は26万~30万人ほどになるものと予測されている。

これらの逮捕における理由は、言うまでもなく「不法滞在」に関係しているのだが、それらの中には「移民ステータスの確認に関する違反やミス」などの案件も含まれている。またReutersの報道によれば、ICEによる逮捕者の65%には何ら犯罪歴がなかった。さらに、暴力などの事件記録が確認できた人物は7%足らずで、残りは軽微な罪状だ。そのため、「いくら大量に逮捕しても、トランプ政権の謳う『治安の向上』にほとんど貢献しない」という指摘もある。

また一部では、合法的に米国で永住している移民(グリーンカードの保持者)や一時保護資格の対象者(TPS保持者)も不当に逮捕/拘留されたという事例がある。また「移民局への出頭の義務を遵守していたにも関わらず誤認逮捕された、永住権を申請中の人々(つまり正規の移民手続きを進めている最中の移民)」などの事例も報告されている。

これらの手違い──「外国人を見境なく威圧してMAGA派を喜ばせるためのサービス活動」だったのではなく、あくまでも誤認だったと仮定しよう──で逮捕された移民の実数もお伝えしたかったのだが、いくら調べても現時点での数が不明であり、大まかな推定でも「数十人~一万人程度」まで幅が出てしまった。言い方を変えるなら、「このような事例数の見当さえつかなくなるほど、ICEの逮捕が大規模で強硬的で雑になった」という見方もできるだろう。

ともあれ、こうした状況では多くの移民が「いつ、どんな疑いをかけられて酷い目に遭わされるか分からない」という恐怖を抱えている。たとえ合法的な居住者であろうと、現在の彼らにとって「ICEを名乗る人物」は決して刺激したくない相手だ。そしてICEになりすます犯罪者たちは、その目的がイタズラであれ強姦であれ強盗であれ、いずれも「移民たちがICEに怯えている状況」を悪用している。

・メディアが伝えたイメージと、杜撰な慣行

今年1月以降、多くのメディアは「勢力を拡大する現在のICE」の話題を取り上げ、SNSでも大いに拡散されてきた。それらの報道やシェアの文脈は「ならずものをテキパキと成敗するICE」「勇猛果敢に市民の安全を守るICE」「人権を軽視する無慈悲なICE」「見た目は強そうだが無意味な活動に明け暮れているICE」「身体だけ鍛えた馬鹿の末路」など多岐に渡っていたが、どのような説明であれ写真や動画は同じようなものだった。つまりICE自身が演出したとおりの「銃器を携帯し、黒っぽい服や防弾チョッキを着用した、ものものしく強そうなICE」である。彼らになりすました犯罪者の一部は、彼らに憧れてコスプレ感覚で真似をしているうち、調子に乗って本物のICEさながら移民を威嚇するようになり、気が付けば逮捕されるような事態に発展してしまったのかもしれない。

関連の過去記事:「ICEのバービーと平和的な抗議活動」をめぐる報道 _ INODS UNVEIL
https://inods.co.jp/topics/7424/

そしてFBIは、ICE職員のビジュアルそのものについても重要な指摘をしている。
WIREDの報道によると、FBIは警告文の中で「(自身の顔を隠すような)マスクや私服を着用し」「身元を明確に示さないまま」カジュアルに捜査や逮捕をする職員の報告が相次いでいることを伝えたうえで、このようなICEの行動がますます「犯罪者による成りすましを容易にしている」と主張した。だからこそFBIは「捜査中の職員は、身分証明を明確に示すこと」「民間人が職員に対し、さらなる身元確認を求めてきた場合は協力すること」を法執行機関の関係者たちに徹底させようとしたのだろう。

※ちなみに「そもそもICEには顔や身元を隠して捜査をする権限があるのか?」という点については諸説ある。「潜入捜査や特殊作戦でない限りは許可されていない」という指摘も多い。この点についてICEは「現在、ICEの職員が嫌がらせや脅迫に晒されているため、彼らの安全を確保するには身元の特定を防ぐ必要があるのだ」と主張している。

ICEとFBIの「役割と対立」

今回のFBIの警告に記された主張を極めて大雑把にまとめると、「ICEのなりすましによる犯罪を激増させた要因は、ICE自身の過剰な執行や、メディアを利用したイメージ戦略や、活動内容の杜撰さにある。今後は地元と連携しながら、適切な手段で適切な捜査をしなさい。あなたたちも国の法執行機関であるのなら、市民の信頼を得られるよう、ちゃんと真面目にやりなさい」というお小言に見えてくる。

もちろんFBIとICEは、いずれも米国の安全保障や法執行を担う立場だ、しかしFBIが「重大犯罪やテロ対策を主に担当する捜査機関」であるのに対し、国土安全保障省の下位機関であるICEは「移民法・関税法の執行と関連捜査を担当する機関」となっている。とはいえ現在のICEの活動は、予算を人員を大幅に増やしながら派手に活動しており、その捜査や逮捕の手法も物議を醸している。この状況を考えると、そろそろFBI内部から苦言が呈されたのは当然だったのかもしれない。

ただでさえ2025年1月以降は、トランプ政権とFBI(およびDOJ)間の緊張や対立を感じさせるニュースがたびたび伝えられてきた。たとえば「連邦議会議事堂襲撃事件」の捜査に関わった人物に対し、トランプ政権が一斉に圧力をかけた際には、FBIの上級職員が何人も解任する結果となった。それは米国の法執行機関の中立性と民主的統制にまつわる論争を呼んでいる。

つまり現在の米国には、もはや三権分立のバランスが崩れつつあるのではないかという懸念が生まれている。現在のICEの姿は、その懸念を象徴するものの一つだ。その構図と、今回のFBIによる警告文書は、おそらく無関係ではないだろう

参考資料

FBI Warns of Criminals Posing as ICE, Urges Agents to ID Themselves _ WIRED
https://www.wired.com/story/fbi-warns-of-criminals-posing-as-ice-urges-agents-to-id-themselves/

ICE impersonation follows Trump immigration crackdown, police say – The Washington Post
https://www.washingtonpost.com/nation/2025/02/04/ice-impersonation-arrests-charges-temple/?utm_source=chatgpt.com

ICE impersonator incidents rise during Trump’s second term _ CNN
https://edition.cnn.com/2025/10/02/us/ice-impersonator-incidents-rise-invs-vis

US sees spate of arrests of civilians impersonating Ice officers _ US policing _ The Guardian
https://www.theguardian.com/us-news/2025/jun/28/civilians-impersonating-ice-officers

Police_ Individuals impersonating ICE agents visit Lewisburg business – YouTube
https://youtu.be/hWb7jLIvC3I?si=YYLPSyQV7HDcw12b

Police investigating man possibly posing as federal agent in Huntington Park NBC Los Angeles
https://www.nbclosangeles.com/news/local/huntington-park-accused-immigration-enforcement-agent/3734330/

Rash of ICE impersonation follows Trump immigration crackdown, police say – News India Times
https://newsindiatimes.com/rash-of-ice-impersonation-follows-trump-immigration-crackdown-police-say/

Chart_ Has ICE Been More Active Under Trump_ _ Statista
https://www.statista.com/chart/34071/number-of-monthly-arrests-made-by-ice/

Trump Claims on Immigration Enforcement_ Rhetoric vs Reality
https://tracreports.org/reports/759/

Trump’s immigration enforcement record so far, by the numbers _ Reuters
https://www.reuters.com/world/us/trumps-early-immigration-enforcement-record-by-numbers-2025-03-04/

By the numbers_ the latest ICE and CBP data on arrests, detentions and deportations in the US _ US immigration _ The Guardian
https://www.theguardian.com/us-news/ng-interactive/2025/aug/29/trump-immigration-ice-cbp-data

Trump administration forces out multiple senior FBI officials and January 6 prosecutors _ NBC
https://www.cnbc.com/2025/01/31/trump-administration-forces-out-multiple-senior-fbi-officials.html

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この記事を書いた人

やたらと長いサイバーセキュリティの記事ばかりを書いていた元ライター。現在はカナダBC州の公立学校の教職員として、小学生と一緒にRaspberry Piで遊んだりしている。共著に「闇ウェブ」 (文春新書) 「犯罪『事前』捜査」(角川新書)などがある。

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