政治と宗教が交差する米のメガチャーチで始まった「政治家養成アカデミー」

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アメリカ国内の政治に関するニュースで、「キリスト教ナショナリズム(Christian Nationalism)」や「福音派(Evangelical)」といった宗教関連の用語を耳にする機会が増え続けている。
そして現代アメリカのキリスト教事情を象徴的に示すのが、礼拝に2,000人以上を動員するプロテスタントの巨大教会「メガチャーチ(Megachurch)」の隆盛だ。政治と宗教がクロスオーバーする舞台としての性格を持つメガチャーチは、特にドナルド・トランプ(Donald John Trump)政権の誕生以降、その傾向が顕著である。

本記事の前半部分では、メガチャーチの拡大とその背景にあるキリスト教ナショナリズムについてごく基本的な情報を確認し、後半では、メガチャーチのメッカである(何か間違った表現だが)テキサス州で実践されている政治教育プログラムについての、地元メディアのレポートを詳しく紹介する。「政治と宗教の融合」の最前線は、今どういうことになっているのだろうか。

目次

(1)キリスト教ナショナリズムとメガチャーチに関する基本情報の確認

(i)キリスト教ナショナリズムの現在地

「キリスト教ナショナリズム」の定義は論者によって異なるが、最大公約数的な特徴を大雑把にまとめよう。
キリスト教ナショナリズムは、キリスト教をアメリカの文化の源泉に位置づける。そこではアメリカは、「キリスト教徒によって作られた、キリスト教徒のための国」として語られる。
その起源は、アメリカ建国の礎となったピューリタニズム(清教徒主義)や、南北戦争以前の南部の社会にまで遡るが、現在の状況に直接つながっているのは、1980年代以降の、ロナルド・レーガン(Ronald Wilson Reagan)やジョージ・H・W・ブッシュ(George Herbert Walker Bush)とジョージ・W・ブッシュ(George Walker Bush)父子の政権誕生に寄与した、共和党との親和性の高まりだ。それは聖書の考えに基づく、中絶の禁止や同性愛の嫌悪、進化論の否定といった反リベラルの保守的文化観とも合致しやすい。特に9.11の同時多発テロ以降は、イスラム教に対する恐怖や移民排斥の心理を背景に、民族国家的な白人至上主義との結びつきが強まった。

また、グローバル化や産業構造の変化によって経済格差に苦しみ、喪失したアイデンティティをキリスト教に求める種類の人びとは、「自分たちは疎外されており、いずれマイノリティとして脅かされる」という被害者意識に苛まれやすい点がしばしば指摘される。その感覚が、社会進出した女性や移民への敵視、あるいはLGBTQ+のような多様性の否定へとつながり、陰謀論や反ワクチン主義、Qアノン運動に惹かれやすい傾向や、政治的暴力の肯定という姿勢となって現れる。
このように、現在のキリスト教ナショナリズムはMAGA層の中核を成す属性と重なり、第一次および第二次トランプ政権を成立させる重要な因子となった。トランプは敬虔なキリスト教徒とは言い難いが、富と権力を神の祝福とみなす「繁栄の神学」を体現するビジネスマンという条件は満たしている。

一方で、キリスト教ナショナリズムはエリート層にも浸透している。ペイパル創業者のピーター・ティール(Peter Thiel)は、無神論者が主流だったシリコンバレーにおいて、いまキリスト教の伝道者として盛んに活動している。

■シリコンバレーで求める神、さもなくばピーター・ティール
(The New York Times:Seeking God, or Peter Thiel, in Silicon Valley)
https://www.nytimes.com/2025/02/11/business/silicon-valley-christianity.html

ゼロから1を生み出すテクノロジーを創造主の技に等しいものと考えるティールは、スタンフォード大学で、「欲望の三角形」やミメーシス(模倣)の理論で名高い哲学者ルネ・ジラール(Rene Girard)に師事した。彼はそこで、「十字架にかかって死んだキリストを模倣することで、資本主義の中を生き抜きつつも欲望の無限連鎖から脱出できる」という独特の思想を養い、いうなればここに「プロテスタンティズムの倫理とテクノ・リバタリアンの精神」との結びつきが成立したのである。
ティールの思想は、現在の米副大統領J・D・ヴァンス(James David Vance)に大きな影響を与え、一時キリスト教を離れていたヴァンスが「回心」するきっかけとなった(なお、ヴァンスの宗派はカトリックである)。

(ii)政治への踏み込みを隠さないテキサスのメガチャーチ

キリスト教ナショナリズムは自分たちの影響力を強めるために、各種メディアを熱心に活用する。ラジオ番組やポッドキャスト、SNSなどに加えて主戦場となるのが、今では全米で1,300~1,500の規模で存在するといわれるメガチャーチである。政教分離の原則のもと、メガチャーチの牧師たちが特定の政治党派への支持を表明することは認められていないが、彼らは「妊娠中絶に反対する候補にこそ神の祝福が与えられるべきです」といったレトリックを用いて説教することで、信徒に対して事実上の指図を行う。

メガチャーチの典型的な光景として知られるのは、ゴスペルライブと見紛うばかりに信徒たちが盛り上がる集会の様子だ。そのため各教会は、コンサートホール並みの音響や照明設備を充実させている。五感を刺激する演出のなかで、カリスマ牧師のメッセージに信徒たちは心地よく酔う。メガチャーチを研究した『High on God: How Megachurches Won the Heart of America』を2020年に著したワシントン大学教授のジェームズ・ウェルマン(James Wellman)は、信徒がメガチャーチで体験する多幸感を「ドラッグ」と、端的に表現している(なおウェルマンは、「神に目覚める高揚感」という肯定含みのニュアンスでこの語句を用いている)。

■麻薬としての神:アメリカのメガチャーチの台頭
(UW NEWS:God as a drug: The rise of American megachurches)
https://www.washington.edu/news/2012/08/20/god-as-a-drug-the-rise-of-american-megachurches/

メガチャーチの多くが、アメリカ中西部から南東部に広がる「バイブル・ベルト(Bible Belt)」に存在している。1990年代以降メガチャーチが発展を続けている理由として、北部工業地帯の衰退にともなって南部への産業移転と移住が進んだ人口動態的な事情に加え、各教会が信徒に配慮して平日礼拝を実施し、医療サービスや法律相談といった精力的な「企業努力」を行っているという事実がある。

動員力と集金力で傑出する「ギガチャーチ」を含め、メガチャーチが集積する土地として知られるのがテキサス州だ。セレブ牧師として名を轟かせるジョエル・オスティーン(Joel Scott Osteen)の、全米最大とされる「レイクウッド教会(Lakewood Church)」も、テキサス州ヒューストンにある。
そしてテキサス州は、政治への踏み込み度合いにおいても、メガチャーチ勢力の先頭集団にいる。テキサス州ダラスの「ファースト・バプテスト教会(First Baptist Church)」の牧師ロバート・ジェフレス(Robert James Jeffress Jr.)は一貫してトランプ支持を公言し、2024年の大統領選でもトランプへの投票を信徒に呼びかけた。

2024年8月には、テキサス州フォートワースを本拠地とするメガチャーチの「マーシー・カルチャー教会(Mercy Culture Church)」の主任牧師ランドン・ショット(Landon Schott)のインスタグラム投稿が物議を醸した。ショットは、ロー対ウェイド判決(アメリカ国内法を違憲無効として女性の堕胎の権利を認め、長年に渡る論争を引き起こした判決)の議論にからめて、「民主党に投票する者はクリスチャンではない」と投稿したのである。

■「キリスト教徒は民主党に投票しない」という牧師の投稿が論争を巻き起こす
(Premier Christian News:Pastor’s ‘Christians don’t vote for Democrats’ post ignites controversy)
https://premierchristian.news/en/news/article/pastor-s-democrats-aren-t-christian-post-ignites-controversy

マーシー・カルチャー教会は2017年にショットらが創設した。ちなみにショットに祝福を与えたのは、かつてトランプのスピリチュアルアドバイザーを務め、テキサス州サウスレイクに全米屈指のメガチャーチ「ゲートウェー教会(Gateway Church)」を創設したカリスマ牧師で、2025年10月、当時12歳の少女に性的虐待を行った40年以上前の罪を認めて収監されることになったロバート・モリス(Robert Morris)である。

(2)テキサス州のメガチャーチによる「候補者養成アカデミー」

2025年11月、テキサス州オースティンに本社を置く「テキサス・トリビューン(The Texas Tribune)」と、テキサス州フォートワースを拠点とする「フォートワースレポート(Fort Worth Report:FWR)」という2つの非営利ニュースメディアが共同で、くだんのマーシー・カルチャー教会が運営する候補者養成のオンライン講座の様子をレポートした。以下、内容を詳しく見て行こう。

■「政教分離は存在しない」。テキサスの教会によるクリスチャンのための選挙候補者養成アカデミーの内部
“No Separation Between Church and State”: Inside a Texas Church’s Training Academy for Christians Running for Office
https://www.propublica.org/article/fort-worth-mercy-culture-church-campaign-university

フォートワースはテキサス州北部タラント郡の群庁所在地で、テキサス州で出る石油や天然ガスの恩恵を受けて、21世紀初頭には全米最速の成長度の大都市となり、「全米で最も住みやすい地域」のひとつにも選出された。全米で13番目に人口が多い都市で、現在も成長は継続しているが、アフリカ系アメリカ人の移住が増えるなど「多様化」の兆しも見えている。

テキサス・トリビューンとFWRのレポートは、テキサス州選出の下院議員ネイト・シャッツライン(Nate Schatzline)が、「クリスチャンであるあなたは、政治と地方自治体において重要な役割を担っています」というビデオメッセージを送る風景から始まる。これはマーシー・カルチャー教会が、「霊に導かれた候補者」を育成するために創設したオンライン授業「キャンペーン・ユニバーシティ(Campaign University)」の一風景だ。
公然と政治活動を展開する同教会の政治非営利団体「フォー・リバティ・アンド・ジャスティス(For Liberty & Justice)」が、キャンペーン・ユニバーシティを運営している。マーシー・カルチャー教会の牧師であるシャッツラインは、トランプの国家信仰諮問委員会にも加わっている。

キャンペーン・ユニバーシティの中核にあるのは、教会内で起きることと政府内で起きることは地続きであるという思想だ。ここでは、政教分離を定めた合衆国憲法修正第一条の条項を、「政府による宗教への介入に対する保護」として解釈するよう教えられる。
かつて、教会が政治について議論したり関与したりすることには、免税資格を失うリスクがあった。しかし2025年夏、アメリカ内国歳入庁(国税庁)は、宗教指導者が説教壇から政治候補者を支持することを認める決定を下した。シャッツラインはこの決定を、自身や他の牧師が遠慮なく政治活動を行うGOサインと受け取った(それこそ「福音」や「免罪符」と感じたかもしれない)。

キャンペーン・ユニバーシティのカリキュラムは、政治関係の影響力を発揮するための知識と実践的なスキル、そして精神的な指導を学生たちに100ドルで提供する。地方自治体との関わりを始めるための具体的な課題もいろいろと用意されており、たとえば、アメリカ合衆国憲法の読解、さまざまなレベルの政府で自分たちを代表する公選職者の特定、選挙資金提供者の潜在的なリスト作成といったものだ。
テキサス大学オースティン校で、人種・宗教・政治のかかわりを研究する政治学教授のエリック・マクダニエル(Eric McDaniel)は、キャンペーン・ユニバーシティのようなプログラムは、宗教主導の政治運動の新しいステージを示すものだと述べている。
「従来の運動は、教会員を活動家へと促してきました。それに対して、キャンペーン・ユニバーシティは、キリスト教保守派が公職を目指すためのトレーニングとして機能している点で際立っています。重要なのは、地方選挙の勝利から始まり、次に州選挙で勝利し、そして今や全国レベルで勝利を収めていることです。だからこそ運動を維持することができるのです」

バプテスト宗教自由合同委員会事務局長で、全国非営利団体の「キリスト教ナショナリズムに対抗するキリスト教徒(Christians Against Christian Nationalism)」キャンペーンのリーダーを務めるアマンダ・タイラー(Amanda Tyler)も、「(実態として)教会や精神的指導者が、信徒に政治活動を奨励することは珍しくありませんでした。しかし、教会が候補者養成アカデミーまで運営するというのは異例で、他に類を見ません」と述べている。

ランドン・ショットと彼の仲間のスティーブ・ペナーテ(Steve Penate)が、マーシー・カルチャー教会を創設する時に立てた「街をひっくり返す教会を建て、地元政治のリーダーとなる」誓いを実現するための装置のひとつが、キャンペーン・ユニバーシティというわけだ。ペナーテは、2021年にフォートワース市長選に出馬し、共和党のマティー・パーカー(Mattie Parker)に敗れた。キャンペーン・ユニバーシティで教えられるスキルは、その時の教訓を基に選定されている。キャンペーン・ユニバーシティは卒業生名簿を公開していないが、2022年のインスタグラム投稿では、最初の卒業生約50人の写真が掲載されている。

ペナーテによれば、「フォー・リバティ・アンド・ジャスティス」はキャンペーン・ユニバーシティを全国規模で展開するため、全国の教会との提携を目指しているという。亡きチャーリー・カーク(Charlie Kirk)のターニング・ポイントUSAが大学のキャンパスを活用して学生を動員した仕組みをモデルに、地域の教会が信徒を政治的に動員することを目論んでいる。
ペナーテは「テキサス州以外でも、フォー・リバティ・アンド・ジャスティスの2つの支部がキャンペーン・ユニバーシティを提供している。2026年初頭にはアリゾナ州に新たな支部を開設する予定で、その後、シャッツラインがトランプの信仰諮問委員会で存在感を高めることで、フォー・リバティ・アンド・ジャスティスは飛躍的に成長する」という。

フォートワースが位置するタラント郡は、全米最大の都市部で共和党支持が強い。共和党はタラント郡の支配権を万全のものにしようとしているが、この郡は時折ゆらぎをみせる。2020年の大統領選ではジョー・バイデン(Joe Biden)を支持し、2018年と2024年の2度にわたって、共和党上院議員のテッド・クルーズ(Ted Cruz)の対立候補に投票した。
「タラント郡は、宗教と政治との交差について、国レベルの議論の震源地となる可能性があります」と、前述のマクダニエルは状況を注視している。政治拠点化したメガチャーチの「次の形態」を占ううえで、当面テキサス州の教会群の動向から目を離すわけにはいかないようだ

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この記事を書いた人

ビジネス系週刊誌ライターや不動産情報サイトのコンテンツ制作など、編集・執筆業務に25年以上従事。サイバーセキュリティ領域の動向を、旧来の「知」がテクノロジーの進化で変容・解体されていく最前線として注視しています。

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