SNSにおけるニュースのプラスの効果を検証した論文

1.はじめに
今回はNature Human Behaviourによるレポート「Following news on social media boosts knowledge, belief accuracy and trust」(.https://doi.org/10.1038/s41562-025-02205-6 )を紹介する。この研究では、「ソーシャルメディア上のニュースが人々を無知にしたり、誤った情報を与えたりする」という、一見すると正しそうな主張を再検証し、ソーシャルメディアが個人に与える影響力について検討する内容となっている。
2.ソーシャルメディアへの理解は正しいか?
今日において、ソーシャルメディアは世界に幅広く浸透し、ソーシャルメディアプラットフォームの利用者数は世界人口の六割以上に当たるとされている。一方で、ソーシャルメディアは、しばしば毒性があり、センセーショナルで、誤解を招き、時には有害な低品質なコンテンツを促進することで、公共の議論の質を低下させているという典型的な批判の対象にもなると本報告は述べる。不正確な情報の拡散や過大な表現の情報、虚偽は対立の煽動や混乱を深刻化させ、民主的統治に対して深刻なダメージを与えうるとレポートでは指摘されている。このような課題に対し、本研究は、ソーシャルメディアが誤情報や過激なコンテンツを助長し、民主的統治を脅かすという懸念に対し、別のアプローチを提示する。従来の研究は「悪い」コンテンツの排除や、ユーザーの批判的思考の向上に焦点を当ててきたが、本研究では、ユーザーが「良い」コンテンツ(事実に基づいた信頼性の高いニュース)に自然に触れる機会を増やすことで、民主的な情報環境を強化する可能性を探った。本研究は、強制的ではなく自発的なニュース接触に着目し、過去の研究が主に米国やFacebook/Twitterに限定されていたのに対し、国とプラットフォームを多様化した点において特色がある。結論として、ソーシャルメディア上で「良い」情報の可視性を高めることは、分断や誤情報に対抗し、民主主義の回復力を高める実践的な方法であると提案している。
3.調査方法
フランスとドイツで事前登録されたオンラインフィールド実験を実施し、ふだんと同じ利用条件下でInstagramとWhatsAppでニュースを2週間フォローする行為の因果効果を推定する。参加者はWhatsAppまたはInstagramを使用しており、実験に含まれたニュースアカウントを既にフォローしていないことが条件であった。WhatsAppユーザーはWhatsAppグループに、InstagramユーザーはInstagramグループに割り当て、各グループ内のユーザーもランダムに実験群または統制群に割り当てられた。実験群の参加者は2つのニュースアカウントをフォローするように求められ、対照群の参加者はニュースアカウント以外のアカウントをフォローするように求められた。参加者は事前・事後に時事問題や社会情勢に関する知識を問う質問に回答し、また特に期間終了後には、提示されたニュース記事の真偽を問う問題に回答した。本レポートではこれらの結果を分析することで、当研究についての検証を行った。
4.結果
本報告内では、以上のような「ユーザーに正しい情報を触れさせる」というアプローチによって得られた知見として、以下の4点を強調している。
・時事問題知識の向上
実験内で介入(SNS上でニュースアカウントをフォローし、その記事を積極的に視聴する)を行ったグループは、そうでないグループと比較して国内・国際ニュースに対する認識の向上が見られた。
・真のニュース記事に対する認識の向上
介入を行うことで、正しいニュース記事に対する認知度が向上した。一方で、誤情報に対する認知度は大きく増加せず、正しい情報のみを摂取できる環境であったことが示唆された。
・信念の正確性の向上
前述のような正しいニュースへの認知と偽情報に対する認知の差から、正しい情報と誤情報を見分ける能力の向上が示唆された。
・ユーザーの政治課題などへの関心が高まることは保証されない
実験内で行われた介入では、政治的有効性やニュース・政治への関心などについては実験の前後で優位な差を見出すことはできなかった。
5.ソーシャルメディアの新たな活用方法
本レポートでは、ソーシャルメディア上で信頼できるニュースへのアクセスを促すことで、民主的成果に与える影響を検証している。これは、従来の介入が「悪い」情報の拡散防止や識別教育に注力してきたのに対し、本研究では「良い」コンテンツ(信頼性の高いニュース)への接触を促すという新たなアプローチを採用した、という点からも推察することができる。
今回行われた実験では、ニュースアカウントをフォローするようインセンティブを与えるだけで、政治知識や真実のニュースの識別、ニュース・ジャーナリストへの信頼が向上した。効果の大きさは限定的ではあるが、自然な利用環境下で、軽度な介入でも測定可能な影響が確認された点が重要であると本報告は強調する。さらに、これらの知識・信頼の向上は、偽情報への露出を減らすことよりも、真実のニュースへの信頼を高める方が有効である可能性を示唆すると報告では述べる。実験前には、多くの参加者が信頼できるメディアの存在自体を認識しておらず、特にWhatsAppなどではその傾向が顕著であった一方で、参加者の半数以上が実験終了後もニュースアカウントのフォローを継続すると回答し、質の高い情報へのアクセスが容易であるという認識自体が欠如していることが、ニュース消費の低水準化の一因であると本報告では分析している。
これはプラットフォームがニュースの露出を減らす現在の方針と矛盾し、Metaなどの企業が「人々はニュースを求めていない」と主張する根拠に疑義を呈するものだと報告は指摘する。むしろ、簡単な促しがあれば、多くのユーザーがニュースへの接触を望み、実際に有益な影響を受ける可能性があることがレポート内では示されている。
結論として、本研究はソーシャルメディアが「誤情報を減らす場」ではなく、「良質な情報への架け橋」として機能し得ることを示していると言える。ユーザーに適切なインセンティブを与えることで、民主的関与と情報リテラシーが向上し、健全なプラットフォームとして発展する可能性を提示している。
