AIとの対話が投票行動に影響を与える、という複数の論文が示唆するもの

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目次

1.はじめに

今回は、MIT Technology Reviewの記事「AI chatbots can sway voters better than political advertisements」を紹介する。複数の論文をもとに、AIチャットボットが選挙運動にどのように関与し、有権者の投票行動に影響を与えるかを評価している。

2.LLMが投票行動に与える影響

本記事では、チャットボットの選挙運動への活用として顕著な例として2024年の米ペンシルベニア州での民主党候補シャメイン・ダニエルズによるものが紹介されている。同候補はチャットボット「Ashley」による有権者への電話対話を選挙運動に活用した。結果的に当選は逃したものの、研究によればAIとの一度の会話でも有権者の意見を変える可能性があり、その効果は政治広告を上回るという。複数の大学の研究では、政治的偏向を持つAIが米国民主・共和両党支持者に対し対立候補への支持を促すことが確認された

3.研究

まず、「Nature」誌および「Science」誌に掲載されたチャットボットとの対話が投票行動に影響を与えるという趣旨の論文を紹介している。
「Nature」誌に掲載された論文では、2024年米大統領選の約2カ月前に、2,300人以上の参加者が特定候補を支持するよう訓練されたチャットボットと対話する、という実験が行われたと紹介されている。この対話では、特に経済や医療政策を中心とした議論で支持に与える影響が高く、カマラ・ハリス支持のAIと会話したトランプ支持者は、ハリス支持度が平均3.9ポイント上昇したことが報告されており、これは2016年・2020年選挙における政治広告の約4倍の効果に相当するとされている。また、トランプ支持AIもハリス支持者を2.3ポイント分トランプ方向に動かしたことが明らかになっている。同様の実験は2025年のカナダ連邦選挙とポーランド大統領選挙でも行われ、野党支持者の態度が約10ポイント変化するなど、さらに大きな影響が確認されたとこの論考では評価している。
「Science」誌に発表された研究では、19のLLMを用い、英国の約7万7,000人と700以上の政治課題について対話を行い、説得力の要因を分析している。その結果、事実と証拠を多用し、説得的な会話例で追加訓練したモデルが最も効果的で、反対意見を持つ参加者を最大26.1ポイントも賛成側に転換させたことが報告されている。

従来の考え方では、強い党派性を持つ有権者は反対意見に耳を貸さないと考えられてきたとされてきたが、実際の研究ではGPTやDeepSeek系モデルを含むチャットボットが、事実や証拠を用いるよう指示された場合、説得力が大きく高まることが示されたと述べている。一方で、モデルが説得力を増すにつれ、誤解を招く情報や虚偽の情報を提供する頻度が高まったことも指摘されている。原因については未解明のため、詳細に言及されてはいないが、モデルがより多くの事実を駆使する方法を学ぶにつれ、知っている情報の周縁部にまで手を伸ばすようになるため、事実の質が低下するという可能性が提示されている。研究者らは、チャットボットの説得力が民主主義の未来に深刻な影響を与える可能性があると指摘する。チャットボットを活用した選挙運動は、有権者の独立した政治判断を損なう形で世論を形成しうる。

4.結論

チャットボットが選挙運動でより大きな役割を担うようになったとしても、それが真実を拡大するのか虚構を拡大するのかは不明である。通常、選挙戦では誤情報が情報面で優位にあるため、選挙運動用AIの出現およびそのAIによる誤情報の拡散は憂慮すべき事態と言えるだろう。人々が生活支援にAIを頼るようになれば、選挙運動側が促すか否かにかかわらず、投票アドバイスをチャットボットに求めるようになる可能性は大いにあり、その際システムを抑制する強力な規制がない限り、それは民主主義にとって憂慮すべき事態と言える。政治に関する会話における大規模言語モデルの出力精度を監査し記録することが、選挙運動などにおけるAIとの正しい関わり方の入り口であると指摘されている。

5.関連文献

本記事で紹介されている論文はいずれも公開されており、アクセスが可能である。

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この記事を書いた人

茨城県出身の2003年生まれ。軍事・非軍事を問わず安全保障に興味を持っている。専攻は日米関係史だが主に東アジアの安全保障体制を扱っている。専攻外では中世ヨーロッパにおける政治体制の勉強が趣味。とくにポーランド・リトアニア共和国における民主制が対象。

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