反ユダヤ主義が多様な過激派を結びつけてきたことを検証

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目次

1.はじめに

今回はISD(Institute of Strategic Dialogue)によるレポート「Antisemitism across the extremes: A deep-dive on US-based violent online networks」https://www.isdglobal.org/digital_dispatches/antisemitism-across-the-extremes-a-deep-dive-on-us-based-violent-online-networks/)を紹介する。このレポートの主要テーマである反ユダヤ主義は、長年にわたり、思想や立場の異なる暴力的過激派どうしを結びつける共通の考え方として機能してきた。本レポートでは、根強い固定観念に基づく反ユダヤ主義が、暴力的な過激派に世界を陰謀論的に解釈する枠組みを提供し、ユダヤ人を憎悪の中心的標的として位置づけていると指摘する。本研究では、ISDが開発したデータ分析システムを活用し、アメリカにおける暴力的な過激派のオンライン活動を分析している。

今回紹介するレポートは、オンライン反ユダヤ主義を支える傾向や害悪の実態、プラットフォームシステムなどに焦点を当てた複数国のISDが参加する研究シリーズの一部であり、以下が今回の研究以外の記事となっている(一部)。

https://www.isdglobal.org/isd-publications/research-compilation-on-online-antisemitism/

https://www.isdglobal.org/isd-publications/mainstreaming-digital-human-rights-a-pan-european-policy-roadmap-to-combat-online-antisemitism/

https://www.isdglobal.org/digital_dispatches/the-manchester-synagogue-terrorist-attack-a-snapshot-of-online-antisemitism-and-extremist-exploitation/

2.調査方法

ISDでは、2024年8月から2025年1月までの6か月間を対象に、ISDの専門家が訓練した大規模言語モデル(LLM)ベースの分類システムを投入し、米国内の1,000以上の暴力的な過激派アカウントおよびチャンネルから、オンライン反ユダヤ主義を活発化させる大量の投稿、プラットフォーム上の拡散状況、主要なアクター、テーマについて調査している。分析対象はネオナチから過激派アナーキストまで多岐にわたる。これらの調査で収集されたアカウントは以下の条件を満たしている。

  • 過激:過激主義またはその世界観を発信している。
  • 暴力:テロや暴力の促進、暴力の経歴を持つグループとの関連性がある
  • 米国との関連: 米国に拠点を置くグループによって運営されている。

3.結果

  • 国内の暴力的過激派による大量拡散
    本レポートは、2024年8月から2025年1月までの6か月間に、米国を拠点とする1,000以上の暴力的過激派アカウントが、15万件を超える反ユダヤ主義的コンテンツをオンライン上で拡散していたことを明らかにした。これは反ユダヤ主義が一部の例外的現象ではなく、過激派ネットワーク内で日常的かつ体系的に生産・共有されていることを示している。
  • 2024年後半における投稿量の増加
    反ユダヤ主義的投稿は分析期間を通じて着実に増加し、最終月は初月と比べて21%増加した。この増加傾向は、一時的なスパイクではなく、継続的な拡散基盤が存在することを示唆している。なお、途中から分析対象に加えられた掲示板やフォーラム上の投稿を除外しても、増加傾向は明確であった。
  • 国際情勢と連動する拡散パターン
    反ユダヤ主義コンテンツの顕著な増加は、米大統領選、イランによるイスラエル攻撃、ハマスによる10月7日攻撃の周年といった国際・政治的出来事と強く連動していた。これらの局面では、陰謀論的言説や、ユダヤ人・イスラエル人に対する暴力を称賛・正当化する投稿が集中し、外的イベントが過激派動員の触媒として機能していた。
  • REMVEアカウントの中心的役割
    人種的・民族的動機を持つ暴力的過激派(REMVE)は、分析期間全体で反ユダヤ主義コンテンツの43%を生成し、最も顕著な脅威主体であった。一方、2024年10~11月には外国テロ組織支持アカウントが一時的に優勢となり、投稿の45%を占めた。これは反ユダヤ主義が特定思想に限定されないことを示している。
  • グロイパーの不釣り合いな影響力
    暴力的なグロイパー(Groyper。共通のネットミームなどを持つ極右系の運動体で、「荒らし」行為などを行う)系アカウントは、反ユダヤ主義投稿全体のわずか2%しか生成していなかったが、エンゲージメントの12%を占めていた。これは、投稿量よりもネットワーク構造や支持者の動員力が言説拡散に与える影響の大きさを示しており、少数の高影響アクターが全体の言説環境を歪め得ることを浮き彫りにしている。
  • 周辺プラットフォームへの集中
    反ユダヤ主義コンテンツの90%以上は、過激主義関連フォーラム、4chan、Telegramといった周辺プラットフォーム上で確認された。XやYouTubeなどの主流プラットフォームは全体の9%にとどまり、過激派の主要な活動空間が規制の弱い代替的オンライン環境へ移行している実態が示された。
  • 反ユダヤ主義は過激派同士を結びつける共通の思想であり続けている
    分析は、反ユダヤ主義が異なる過激思想を横断して共有される動員資源であり続けていることを示した。暴力的過激派は陰謀論や中東の象徴的事件を利用して支持者を結集させており、対策には特定イデオロギーに限定しない横断的視点と、イベント連動型の動員分析を組み込む必要がある。

上記の調査結果とは別に、ISDはマッピングツールを用いて投稿内容を大まかに分類している。それによれば暴力的な過激派の投稿は以下のようなものに大別できる。

  • 陰謀論(44%)
    ユダヤ人が世界政治・選挙・移民政策を操作しているとする主張。ユダヤ人による人身売買・選挙不正・医療やテクノロジー業界支配などがよく用いられている。
  • 罵倒や差別スラング(21%)
    単純な差別用語や人間性を否定する言葉を含んだ投稿をする。古典的なヘイトの形を取るが、詳細な文脈なしでも広く使われる傾向にある。
  • 中東紛争関連(15%)
    イスラエル・パレスチナ情勢に絡めた言説だが、政治批判としてではなく明確な反ユダヤ主義として表現される。イスラエル軍による空爆など実際の出来事と結びついて投稿数が急増する傾向にある。
  • 古典的反ユダヤ主義(14%)
    中世~近代のキリスト教神学や文化に対する誤った反ユダヤ的解釈(ex. 血の中傷)を引用した主張。
  • 他の差別と結びついた投稿(5%)
    反ユダヤ主義と同時にミソジニー(女性差別)、人種差別(黒人・アジア系)、LGBTQ+ への憎悪が混在した投稿。白人至上主義的な総合ヘイトとしての特徴が顕著に現れる。

4.結論

このレポートでは、米国の暴力的過激派ネットワークにおいて反ユダヤ主義的言説が6か月間にわたり増加し、選挙や中東紛争などの重要事件を契機に急増する傾向が指摘されている。こうした知見をプラットフォームのリスク評価や緊急対応計画に組み込み、大きな事件が発生した後のSNS上における高いリスクを軽減するための適切な人員・システム・知識を確保することが重要である。また、反ユダヤ主義コンテンツの多くは画像掲示板やフォーラムなどの周辺プラットフォームに集中しており、主流SNS中心の対策には限界がある、というのがISDの見解である。これらの結果は、イデオロギーを超えて拡散する反ユダヤ主義の生態系に対応するため、継続的かつ体系的なデータ分析と包括的対策の必要性を示していると言える。

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この記事を書いた人

茨城県出身の2003年生まれ。軍事・非軍事を問わず安全保障に興味を持っている。専攻は日米関係史だが主に東アジアの安全保障体制を扱っている。専攻外では中世ヨーロッパにおける政治体制の勉強が趣味。とくにポーランド・リトアニア共和国における民主制が対象。

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