SNSのアルゴリズムはユーザーの政治主張に大きく影響する

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目次

1.はじめに

今回は、Nature誌に掲載されたGermain Gauthierらによるレポート「The political effects of X’s feed algorithmhttps://www.nature.com/articles/s41586-026-10098-2を紹介する。
SNSにおけるフィードアルゴリズム(ユーザーそれぞれに最適化された投稿などを表示する仕組み)はそのSNSのユーザーの政治的意見の形成に大きな影響を与えている、という仮説は今まで広く指摘されてきたものである。一方で、この仮説の正当性を示すためのさまざまな調査では、むしろ「アルゴリズムによる政治的な影響は見られない」という真逆の結果が示されてきた。
本レポートでは、2023年に「X」で実施した実験から、フィードアルゴリズムがユーザーの政治的意見に本当に影響を与えているのか、またこれまでの調査ではなぜそのような結果が提示されなかったのかといった謎を説明することを目的としている。レポートではXのアルゴリズムフィードへの接触が、ユーザーの政治的態度やアカウントフォローといった行動に顕著な影響を及ぼしていることなどが示されている。

2.これまでのSNS研究の限界

SNSフォームは人々の生活を根本的に変えたと評価されている。これらのプラットフォームはニュースの提供元として非常に重要な資源とみなされており、例えば米国の成人の4分の1がSNSを主なニュースソースとして挙げ、半数は少なくとも時々これらのプラットフォームからニュースを入手していると答えている。通常、プラットフォームはフィードアルゴリズムを用いて、各ユーザー向けにパーソナライズされたフィード(投稿などが表示される画面のこと)内でコンテンツを選定し、順序付けを行っている。フィードアルゴリズムが導入される前は、ユーザーにはフォローしているアカウントからの投稿が時系列順に並ぶシンプルなフィードであり、最新の投稿が最上部に表示されていた。

SNSの研究者らは、フィードアルゴリズムが社会や民主主義に及ぼす悪影響についてたびたび懸念を表明している。こうした懸念は、誤情報の拡散、有害で扇動的なコンテンツの拡散、フィードにより分断されたコンテンツによる「フィルターバブル(アルゴリズムが表示する投稿を最適化した結果、ユーザー自身に都合の良い情報しか表示されなくなる現象)」の形成に起因する。
この指摘は決して突飛なものではなく、実際にSNSがユーザーの選好に重大な影響を及ぼすことを示す証拠は数多く存在するほか、検索エンジンの順位付けに関する研究においても、情報の提示順序がユーザーの行動や政治的思想に影響を与える可能性が示されている。
一方で、SNSのフィードアルゴリズムの影響に関するこれまでの調査では、政治的影響はゼロであると報告されている。
例えば2020年の米国大統領選挙期間中、研究者がMetaと協力して実施したFacebookとInstagramに関する大規模な研究では、アルゴリズムによってキュレーションされたフィードを時系列順のフィードに実験的に置き換えたところ、政治的なコンテンツに大幅な変化が生じ、プラットフォームへのユーザーのエンゲージメントが低下したにもかかわらず、ユーザーの分極化や政治的態度に検出可能な影響は認められなかった。原因として考えられるのは、アルゴリズムへの初期の接触が政治的結果に持続的な影響を与える場合、アルゴリズムをオフにしても、その重要性にもかかわらず影響が検出されないという可能性である。例えば、人々がアルゴリズムによって提案されたアカウントをフォローし始め、アルゴリズムをオフにしてもそれらをフォローし続けるため、このようなことが起こり得ると筆者は指摘している。

3.研究方法

本レポートでは、SNSアルゴリズムがユーザーの政治的態度や行動に与える影響を検証するため、実際のXユーザーを対象としたランダム化実験を実施した。参加者は調査会社から募集された米国在住のXユーザーで、約4,965人が実験に参加した。
研究ではまず事前アンケートを実施し、政治的意見やSNSの利用状況などの基礎データを収集した。その後、参加者を無作為に「アルゴリズムフィード(For You)」と「時系列フィード(Following)」のいずれかに割り当て、約7週間にわたり指定されたフィード設定でXを利用してもらった。
実験後には事後アンケートを行い、政治的意見、政策優先順位、政治ニュースに対する評価などの変化を測定した。さらに一部の参加者にはブラウザ拡張機能をインストールしてもらい、実際に表示されたタイムライン投稿を収集したほか、フォローしているアカウントのデータも取得した。これらのデータを用いて、フィード設定の違いがユーザーの政治的態度やオンライン行動に与える因果効果を分析している。

4.結果

本レポートでは、上記実験の結果を分析し、以下の3つの主要な発見を提示している。

  • 4.1フィードアルゴリズムはユーザーの政治的意見に大きな影響を与える
    分析の結果、アルゴリズムフィードを利用したユーザーは、時系列フィードを利用したユーザーと比べて政治的態度に変化が見られた。特に政策課題の優先順位において、より保守的な立場を重視する傾向が強まり、保守系政治アカウントをフォローする割合も増加した。この結果は、SNSの推薦アルゴリズムが単に情報を整理するだけでなく、ユーザーが接触する情報の内容を変化させ、それが政治的立場の形成に影響を与える可能性を示している。
  • 4.2フィードアルゴリズムが与えた影響は長期間持続する
    研究では、アルゴリズムによって形成された情報環境が持続する可能性も確認された。アルゴリズムフィードの利用によってユーザーが新たに政治アカウントをフォローすると、その後に時系列フィードへ戻った場合でもフォロー関係は維持される。その結果として、ユーザーのタイムラインに表示される政治に関する情報の傾向は変わらず、アルゴリズムを利用しなくなった後も影響が残ることが示唆された。これは、アルゴリズムの効果が一時的ではなく、長期的な情報を取得する環境の形成を通じて持続する可能性を示している。
  • 4.3フィードアルゴリズムはタイムラインの構成にも影響を与える
    収集されたタイムラインデータの分析では、アルゴリズムフィードが表示する政治に関するニュースの性質にも特徴的な変化が確認された。アルゴリズムフィードでは、政治系アカウントや政治的主張の強い投稿が表示される割合が増加する一方、伝統的なニュースメディアによる報道の割合は相対的に減少していた。さらに、エンゲージメントの高い投稿が優先的に表示される傾向も見られた。こうした結果は、アルゴリズムがユーザーの政治に関する情報を取得する環境を再構成する仕組みの一端を示唆しているとレポートは指摘する。

5.結論

本研究は、SNSのフィードアルゴリズムがユーザーの政治的立場やオンライン行動に影響を与える可能性を、実際のユーザーを対象としたフィールド実験によって示した。分析の結果、アルゴリズムフィードへの切り替えはユーザーの政治に対する認識や政治ニュースに対する評価をより保守的な方向へと変化させる一方で、アルゴリズムを解除して時系列フィードに戻した場合には同様の変化は見られなかった。
この結果は、アルゴリズムによって推薦された政治アカウントをユーザーがフォローすることで、その後も同様の情報環境が維持されるためであると筆者は指摘する。つまり、アルゴリズムは単に表示順序を変更するだけでなく、ユーザーが接触する情報のネットワークそのものを形成する可能性があるなど、SNSのアルゴリズムが政治的意見や情報を取得する環境の形成において重要な役割を果たし得ることを示唆している。

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この記事を書いた人

茨城県出身の2003年生まれ。軍事・非軍事を問わず安全保障に興味を持っている。専攻は日米関係史だが主に東アジアの安全保障体制を扱っている。専攻外では中世ヨーロッパにおける政治体制の勉強が趣味。とくにポーランド・リトアニア共和国における民主制が対象。

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