欧州対外行動庁(EEAS)のFIMI年次レポートの絶望的な進歩

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今年で4年目となる欧州対外行動庁(EEAS)の「Annual Report on Foreign Information Manipulation and Interference Threats」https://www.eeas.europa.eu/eeas/4th-eeas-annual-report-foreign-information-manipulation-and-interference-threats_en )が公開された。
注目すべき点としてはForeign Information Manipulation and Interference(FIMI)に対するプレイブックを提示した点だろう。

目次

報告書の概要

EEASの報告書は3部構成となっている。各部の概要をご紹介する。

1.中国とロシアに焦点をあてた2025年のFIMIの動向の分析
 ・AIの利用によるマルチモーダル・コンテンツの大量配信と多言語化。FIMIの27%AIに関連したTTPだった。

出典:4th EEAS Annual Report on Foreign Information Manipulation and Interference Threats(
12.03.2026、 https://www.eeas.europa.eu/eeas/4th-eeas-annual-report-foreign-information-manipulation-and-interference-threats_en )


 ・FIMIはサイバー空間とキネティックなど他の方法(ドローンによる侵入、破壊行為、U諸国の重要インフラへの攻撃など)と組み合わされて実行されるケースが増加。ネットワークはより広がり、アトリビューションをより難しくしている。
 ・FIMIはサイバー空間の問題ととらえられがちだが、そのターゲットは選挙などリアルな空間で発生しているものが多い。
 ・2025年1月1日から12月31日の間に540件FIMIを検知したが、アトリビューションに成功したのは35%で、29%がロシア、6%が中国だった。
 ・同期間内に10,500のメディアが利用され、そのうち利用頻度の高い3,000件の95%は国家とかかわりがあった。
 ・43,000件のFIMI活動(テキスト、音声、動画などのコンテンツ)を検知。19種類のプラットフォームに展開されていた。そのうち最多のXは全体の88%を占めていた。
 ・100カ国以上がターゲットになっており、ウクライナ(112件)が最多、次いでフランス(107件)、モルドバ(94件)だった。

2.FIMI抑止戦略。今年の目玉となるプレイブックを提示
 ・FIMI抑止ツールボックス4つのツール
  個人や組織への制裁措置。
  法執行機関による取り締まり
  プラットフォームへのデジタル規制
  社会的なレジリエンスを高めるための措置。
 ・FIMI抑止プレイブック(下図)

出典:4th EEAS Annual Report on Foreign Information Manipulation and Interference Threats(
12.03.2026、 https://www.eeas.europa.eu/eeas/4th-eeas-annual-report-foreign-information-manipulation-and-interference-threats_en )


EEASのレポートは毎回、とても参考になるデータを示し、もっともらしい解決策や分析を見せてくれる。しかし、それらが実効性に乏しいことはEU諸国の状況が悪化の一途をたどっていることから明白なので、彼らの提案する対策を紹介するのは時間の無駄っぽいので割愛した。今年の目玉なので関心ある方は読んであげてください。特になにをやれば困っている官公庁や官公庁から予算を確保した方々にとっては役立つと思う。

3.脅威アクターがFIMIのために展開しているネットワークを分析
見応えがある図解と分析がある。非常におもしろいのだけど、これまた実効性がない、というか、この分析には攻撃側組織の実行部隊や影響の特定と分析がないので、すごい図解ができた、以上の感想を持ちようがない。実行部隊のひとつSDAから漏洩した文書によればこうした分析で出てくるネットワークと実行部隊は一致していない。

報告書を読んで感じたこと

毎年、発行されているものなので、EUにおけるFIMIの状況がわかってとても参考になる。おそらくけっこう予算を使っているので、データもかなり取っている。
その反面、構造的な限界は年を追うごとに鮮明になってきているような気がする。構造的な限界とは体制に起因する制限のことだ。たとえば本報告書では「サイバー空間とキネティックなど他の方法(ドローンによる侵入、破壊行為、U諸国の重要インフラへの攻撃など)と組み合わされて実行されるケースが増加」と指摘しているが、その場合、実行組織の特定や目的、影響などを把握するためには現状のチームではカバーしきれない。また、主たる実行組織や目的によって、アトリビューションが変わる可能性もある。といったことを考えると、この報告書に書かれた内容は多くはきわめて制限の多い者であることになる。

より一般化するとFIMI主体の進化においついていけていない、ということになる。現状のFIMIの対症療法的対応を見る限りでは、このギャップは広がることはあっても解消されることはない。解消されたように見えても、実は限定された範囲だけを見るかぎりでのことだったりする。
このことが顕著にわかるのは報告書P12、P13に書かれているロシアと中国に関する記述である。どちらにもそれぞれの自国内で情報統制の話が書かれており、中国では自国内と海外に対してシームレスにつながっていることがわかる。8年前から言っていることだが、中国は国内外に対してシームレスに図のような情報統制を行っており、このアプローチは攻撃と防御の並行して実施できる。

出典:筆者作成

こうしたアプローチに対して今回の報告書のような海外からの干渉にのみ焦点を当てた対策はほとんど効果が期待できない。
EEASは4年経ってようやく8年前の実態に少し近づいた分析を行うことができるようになったが、すでに中国はさらにその先にいる。

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この記事を書いた人

複数のIT企業の経営にたずさわった後、2011年にカナダの永住権を取得しバンクーバーに移住。同時に小説家としてデビュー。リアルに起こり得るサイバー犯罪をテーマにした小説とネット世論操作に関する著作や評論を多数発表。代表作として『原発サイバートラップ』(集英社)、『天才ハッカー安部響子と五分間の相棒』(集英社)、『フェイクニュース 新しい戦略的戦争兵器』(角川新書)、『ネット世論操作とデジタル影響工作』(原書房)など。
10年間の執筆活動で40タイトル刊行した後、デジタル影響工作、認知戦などに関わる調査を行うようになる。
プロフィール https://ichida-kazuki.com
ニューズウィーク日本版コラム https://www.newsweekjapan.jp/ichida/
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