トランプが嫉妬する? マムダニのSNS選挙戦

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米国ニューヨーク(NY)市で11月に予定されている市長選に向けて、民主党内の候補者を選ぶ予備選の投開票が6月24日に行われ、急進左派に属する33歳の現職NY州議会議員ゾーラン・マムダニ(Zohran Mamdani)が、元NY州知事アンドリュー・クオモ(Andrew Mark Cuomo)に勝利した。知事時代のコロナ禍対応などで名を挙げた大物政治家を無名の若手議員マムダニが破った結果について、メディアは「現代NY市史上、最大の番狂わせ」と評した。
衝撃はいまだ収まらず、マムダニの躍進を警戒する保守層や富裕層は危機感を強め、包囲網の形成に躍起となっている。マムダニがかくも熱狂的な支持を集める理由(敵対する勢力からすれば、彼を受け入れがたい理由)を、幾つかの角度から確かめていく。

目次

マムダニの特徴(1)明快で具体的な左派ポピュリスト

マムダニは「民主社会主義者」とされ、重要課題として掲げるのはリベラル色の非常に強い政策だ。そのため民主党内でも、政治信条が共通する上院議員バーニー・サンダース(Bernie Sanders)らから支持を受けている。

テキサス州の社会・文化に密着するデジタルメディア「The Barbed Wire」で、コラムニストのスティーブン・モナセリ(Steven Monacelli)は、「NYで起きた衝撃から、テキサス人が学べることは想像以上に多い」と呼びかけ、マムダニがNYの有権者たちを奮い立たせた要因を分析し、その問題意識は、NYとはさまざまな事情が異なるテキサスにおいても共通するはずだと述べている。以下、詳しく見ていこう。

What Can Texans Learn from Zohran Mamdani’s Political Earthquake? More Than You’d Think.
https://thebarbedwire.com/2025/07/01/politicians-texans-can-learn-zohran-mamdani/

主ターゲットである労働者階級の有権者にダイレクトに響く「生活費」の問題にフォーカスすることが、マムダニの戦略の1つだ。代表的な政策は、家賃固定アパートの賃料引き上げ凍結、公営食料品店の開設、無料の市営バス導入、保育(チャイルドケア)の無償化など、大胆かつ具体的な内容となっている。

マムダニについては、民主党内や支持勢力の内部でも評価が分かれる。その勝利を称賛する議員もいればマムダニと距離を置こうとする議員もおり、かつて米国財務長官などを務めた経済学者ローレンス・サマーズ(Lawrence Summers)は、マムダニの勝利は一種の「ポイズンピル(毒薬)」であり、彼が市長になればNY市から大規模な人口流出が起きるだろうと評している。
また、リベラル・ジャーナリズムの牙城であるアトランティック誌(The Atlantic)も、マムダニの政策を、検証に耐えない「マジックリアリズム」(現実と非現実の混淆)だと批判していた(民主党予備選後、アトランティック誌は「マムダニの勝利は、民主党の今後の進路についてある程度のアイデアを与えるものかもしれない」と、やや軌道修正した)。

とはいえマムダニが、政治団体「アメリカ民主社会主義者(Democratic Socialists of America:DSA)」NY支部や数万人のボランティアの熱心な活動に支えられて選挙戦を勝ち抜いたのも事実である。モナセリは、テキサス市民を啓発するコラムの締め括りに、マムダニがSNSを積極的に活用して(後述)、有権者と直接交流し、特に若い有権者から圧倒的な支持を得たことを強調している。旧来の民主党の「老人政治」にうんざりしていた層、あるいはこれまで政治に関心がなかった若い有権者たちに、マムダニは「閉塞状態を打ち破る、私たちを代表する政治家」と思わせる存在だったのだ。

一方、右派やエスタブリッシュメント層がマムダニに向ける評価はある意味でわかりやすい。そこにあるのは、強い拒否反応一色だ。社会格差を抑制するための財源として、法人税や富裕層向けの増税を政策に掲げるマムダニに対して、NYの富裕層や金融界は猛反発している。
ウォール・ストリート・ジャーナル(The Wall Street Journal)は7月、NY市の金融関係者による反マムダニのネットワーク構築が急ピッチで進んでおり、「ニューヨーカーズ・フォー・ア・ベター・フューチャー25」と呼ばれる独立グループが、およそ2,000万ドルの資金調達を計画していると報じた。JPモルガン・チェースの会長兼CEOジェイミー・ダイモン(Jamie Dimon)はマムダニについて「社会主義者というよりマルクス主義者」「現実世界では何の意味もない政策」と批判している。

New York’s Financial Crowd Rushes to Build Anti-Mamdani War Chest
https://www.wsj.com/politics/policy/new-yorks-financial-crowd-rushes-to-build-anti-mamdani-war-chest-a6dff9c9

アルジャジーラ(Al Jazeera)も、NYの富裕層が恐怖におののく様子を伝えている。
Will Zohran Mamdani help or hurt New York’s economy?
https://www.aljazeera.com/economy/2025/7/21/will-zohran-mamdani-help-or-hurt-new-yorks-economy

一部の投資家や金融機関は、マムダニを警戒して資金の引き上げをちらつかせているという。ベネフィット・ストリート・パートナーズ(Benefit Street Partners)のマネージング・ディレクターであるマイケル・コンパラト(Michael Comparato)は、「世界の金融の中心地が社会主義者の手に渡るかもしれない」とLinkedInに投稿し、NYでの3億ドルのホテル投資から撤退した。また、トランプ支持者として知られる著名なヘッジファンドマネージャーのビル・アックマン(Bill Ackman)は、「マムダニが市長になった暁には、NY市は経済的に存続不可能になる」と警告した。
ただしアルジャジーラは同時に、「歴史的に、税率の上昇が企業を流出させたことはない」と述べ、バード大学教授で『繁栄の脅威:ニューヨーク市と経済発展への闘い』の著者である、ダニエル・ワーテル=ロンドン(Daniel Wortel-London)の「富裕な投資家層は、マムダニがNY経済に与える打撃について、かなり誇張していると思われます」という見解も紹介している。

マムダニの特徴(2)多様性の象徴

マムダニは1991年にウガンダで生まれたインド系のムスリムで、7歳の時にNY市に移住し、2018年に市民権を取得している。そうした背景から、非正規移民の権利を擁護する「聖域都市・NY市」を堅持し、移民住民の保護に力を尽くす姿勢を示している。

「移民の子」というアイデンティティが、マイノリティからの期待や共感を集めることに作用すると想像される反面、マムダニのこうした属性はまさに、米大統領ドナルド・トランプ(Donald John Trump)にとっては理解の範疇の外にあり、攻撃の対象となる。トランプはマムダニを「完全なる共産主義の狂人」「見た目も酷いし、大して賢くもない」と口を極めて罵倒している。

Billionaires Lash Out After Zohran Mamdani Says There Shouldn’t Be Billionaires
https://www.forbes.com/sites/yezensaadah/2025/06/30/billionaires-lash-out-after-zohran-mamdani-says-there-shouldnt-be-billionaires/

また、米司法省は2025年6月に、米国に帰化した国民の一部から国籍の剥奪を進める方針を決めた。人権侵害・凶悪犯罪といったケースのほか、テロとの関わりのような国家安全保障への脅威となるおそれがある場合が対象となっている。この方針を根拠に、トランプの尻馬に乗る共和党議員は「マムダニの親パレスチナの姿勢はテロとの関わりが疑われる」として、マムダニを捜査するよう司法省に求めた。民主党は「司法省の武器化に他ならない」と猛反発している。

マムダニの特徴(3)SNSによる巧みな自己プロデュース

マムダニは、母親がオスカー候補にもなった映画監督、父親が文化人類学者という人文系の教養に恵まれた家庭に育った。彼自身も政治の世界に入るまでは、映画・ラップ・執筆とさまざまな表現分野を経験している。2020年に民主党からNY市議会議員選挙に立候補し初当選した後も、クリエイティブな世界への関心は衰えず、アニメーター・イラストレーターのラマ・ドゥワジ(Rama Duwaji)と結婚している。
その嗜好も反映されてか、マムダニの選挙戦略はSNSを駆使したものだった。この、旧来のメディアではなくSNSによるメッセージ伝達を活用する姿勢こそが、全く相容れない価値観の持ち主であるトランプとマムダニの、ある種の共通点である。

ニューヨーク・タイムズ(The New York Times)は、NY市長選に向けた民主党予備選をマムダニが席捲した大きな要因として、SNS動画キャンペーンを挙げている

How Social Media Videos Fueled Zohran Mamdani’s Success
https://www.nytimes.com/2025/06/29/nyregion/zohran-mamdani-campaign-videos.html

マムダニは、「NY市をより住みやすい街にする」というメッセージを、TikTokやInstagramで発信し続けた。そこでは、若さやポジティブな雰囲気といった、政治家として好まれる普遍的な要素を打ち出すにとどまらず、「ミレニアル世代の政治家にふさわしい、ネットスラングにも通じたデジタルネイティブ」というイメージを強調する巧みなブランディングも行われていた。
それらが、政治に知識や関心のなかった層も含めて若者に刺さり、彼ら彼女らのタイムラインをたちまちマムダニのショート動画が埋め尽くした。著名人がカメオ出演するマムダニの動画を、若者たちはエンターテインメントとして消費する。そして若者たちは、インフルエンサーとコミュニケーションするような感覚でマムダニの発信する情報を拡散し、時には自身のクリエイティブを献身的に提供していく。熱狂する若者たちを、マムダニのプロモーションへの草の根的な協力活動に自発的に向かわせるエコシステムが、自然に構築されていったのである。こうしてマムダニは、無名の若手政治家ではなく、一種のミームへと化身していった

民主党予備選で最有力候補と目されていたクオモは、「マムダニは動画作成こそ得意だが、リアリティ番組は苦手だろう」と、マムダニの経験不足と空想的な政策を嘲笑した。また、11月のNY市長選本選で対決することになる、民主党から無所属に転じた現職市長のエリック・アダムズ(Eric Adams)も、名指しこそしなかったものの「彼らにはツイートの実績がある。私には街頭の実績がある」と、同様のレトリックでマムダニを揶揄した。
マムダニのSNS戦略が、実際の投票行動にどう結びついたのかを数値化することは不可能だが、選挙結果を見るかぎり、クオモやアダムズはその威力を見誤っていたのかもしれない。いずれにせよ、11月の本選では、富裕層や金融界の反マムダニキャンペーンと併せ、全力でマムダニをつぶしにかかることが予想される(クオモも、無所属の立場で再度挑戦する可能性を否定していない)。

マムダニの脅威を本能的に察知していたのは、むしろトランプかもしれない。人格攻撃のレベルにまで至っているマムダニ批判は、あるいは「自分よりさらに巧みにSNSを使いこなし、若者たちの心のコントロールに長けている無名の民主社会主義者」への恐怖と羨望に基づいていたのかもしれない。

冒頭で紹介した「The Barbed Wire」のモナセリのコラムで、プログレス・テキサス(Progress Texas)のエグゼクティブディレクター、キャスリーン・トンプソン(Kathleen Thompson)は「候補者や自分たちの心に響く政策に惹かれれば、若者はその気になる、というのが、今回の(マムダニ現象の)教えるところだと思います」と語り、マムダニの成功はテキサス州でも再現可能だと考えている。そしておそらく、どの地域においても応用可能性はあるだろう

右傾化を加速させる共和党に不安を抱き、言葉遊びを続ける老いた民主党にも期待しない若い世代に向けて、明快で具体的なプラン(実現可能性はさておき)を提示し、SNSを介した感性レベルのコミュニケーションを行うことで、マムダニは大きな成果を挙げた。その戦略がどう尖鋭化していくのか、対抗する陣営がどのような手段をとるか、そして有権者のマインドはどう揺れ動くのか。11月のNY市長選は、NY市の未来にとどまらない重要な意味を持っているといえそうだ。

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この記事を書いた人

ビジネス系週刊誌ライターや不動産情報サイトのコンテンツ制作など、編集・執筆業務に25年以上従事。サイバーセキュリティ領域の動向を、旧来の「知」がテクノロジーの進化で変容・解体されていく最前線として注視しています。

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