Xが生んだスーパーヴィラン「Grok」ジョーカー

  • URLをコピーしました!
目次

繰り返される「Grok」の問題


2025年11月。「X」上で稼働する対話型の生成AIチャットボット「Grok」が、複数回にわたって「ドナルド・トランプが 2020年米大統領選挙で勝利した」と断言する回答を出したと報道された。
調査したNewsGuardによると、少なくとも3件の類似する返答を確認しており、「票の集計に不正があった」などといずれも根拠のない主張をもとに、「Grok」はトランプ勝利と訴えたという。

当然ながら2020年アメリカ大統領選では公式にジョー・バイデンが勝利し、複数の州での再集計や法廷審理でも「大規模な票の不正」があったという信頼できる証拠は示されていない。

後日、The Guardianが同様のやりとりをGrokにて試したが、「ドナルド・トランプが 2020年米大統領選挙で勝利した」という返答は再現できなかった。
報道後に「Grok」の開発元である「xAI」が対処した可能性があるとしている。

https://www.newsguardrealitycheck.com/p/xs-grok-claims-trump-won-the-2020?open=false#%C2%A7xs-ai-chatbot-grok-claims-trump-won-election

「Grok」 が「2020年選挙におけるトランプ勝利」と回答したのは、歴史的事実や公的な認定結果と矛盾する明らかな誤答である。
サイレントながら修正された事実からも、開発元の「xAI」も問題ある誤答と認識していると思われる。
「Grok」には、以前にも極右的・差別的・反ユダヤ主義的な発言を行ったとして問題視された過去がある
今回の誤答も同様にAI の偏向の一例とみなされている。

https://inods.co.jp/topics/news/6674/

「ChatGPT」や「Gemini」とは違う「Grok」の特殊性


「Grok」だけが突出して問題発言が多いと言われているのは、「Grok」だけが保有する二つの特殊性がある。

1.LLM(大規模言語モデル)の特殊性
「Grok」は「X」上で動く生成AIだ。
その特徴として「X」でやりとりされる情報をリアルタイムで取得し回答に反映させている。
これは「xAI」がはっきりと公表していることだ。

https://help.x.com/en/using-x/about-grok

その事実は、「Grok」のLLM(大規模言語モデル)の学習データが、「X」での情報に比重をかけて取り込んでいる可能性を示唆している。
実際、前項の「2020年選挙におけるトランプ勝利」を断言した「Grok」の回答は、「X」でも活発にやりとりされていた話題に類似している。
「Grok」の陰謀論的で右派に寄って見える主張は、驚くほど「X」で散見される右派に親和的で陰謀論を好む空気感と類似しているのだ。

SNSが持つ即時性や匿名性は、その構造上、事実よりも感情が優先されがちで、騒がしさ・偏り・攻撃性を持ちやすい。
「Grok」は、その空気感をダイレクトに取り込む設計になっている。
そんな「Grok」が吐き出す答えは、ウェブ全体というより「X」の文化をバックボーンに回答する偏った生成AIとも言える。

2.設計思想
さらに「Grok」は安全性をあえて捨てている部分がある。
他のAIは 安全・中立・非政治性 を最優先に設計されている。
だが、「Grok」は「エッジの効いた回答をするAI」だと公式サイトでも謳っている。

https://x.ai/news/grok/

それこそが「Grok」と他の生成AIとの違いであり、アイデンティティでもある。

3.融合する二つの特徴
この二つの特徴を備える「Grok」は、内奥にSNS特有の騒がしさ・偏り・攻撃性を持つ、エッジの効いた回答を求められる生成AIということになる。
その結果が「ドナルド・トランプが 2020年米大統領選挙で勝利した」と断言した理由なのではないだろうか。
「Grok」は設計コンセプト通り、SNSで活発に語られた内容を踏まえてエッジの効いた回答で応えたのだ。
「Grok」は生まれ落ちた時から知恵の宝物庫というより、「X」の一面を切り取ったジョーカーのようなキャラクターとして成長することが運命づけられていたのかもしれない

「Grok」のもう一つのサービス「Grokipedia」の抱える致命的な問題


「Grok」が発表しているサービスは、「X」上で使われている生成AI以外にもある。
生成AIによるオンライン百科事典「Grokipedia」だ。

立ち位置としては、「Wikipedia」の生成AI版といったところだろうか。
公開時点で約80〜100万件の記事があり、「Wikipedia」を超えることを目標に生まれた。

「Grokipedia」の最大の特徴は、「Wikipedia」のように人間の手によって記事が作成されるのではなく、
生成AI によって記事が作られ、同じく生成AIがファクトチェックして公開されるという点だ。

だが、現状では多くの問題点が指摘されている。
生成された記事の中には、歴史・人種・社会に関する歪んだ解釈が含まれており、特に人種差別、科学的人種主義、白人至上主義、ホロコースト否定、ナチズム礼賛といった内容があった
このようなことが起こっている背景には、一般的には信頼度が低いとされるウェブ上の偏向記事を、AIが通常の記事と同列に扱った結果だとされている。

https://www.nbcnews.com/tech/elon-musk/elon-musk-grokipedia-wikipedia-neo-nazi-grok-42-encyclopedia-rcna244749

「Grok」は弊害ばかりなのか。

現在の「Wikipedia」は、残念ながら編集速度が現実世界の情報更新速度に追いつけていない。
日進月歩の科学技術、日々変化する社会政治、目まぐるしいテック企業の動向、ポップカルチャー、ネット文化――。言語間の格差も著しい。
あらゆる情報更新は加速度的であり、すでに人力で対応できる限界点を越えている節がある。

「Grokipedia」が持つポテンシャルは、それを補う可能性を秘めている。
確かに現状は致命的な問題がある。
「Wikipedia」と比べた際の、記事の参照数の少なさ、参照元の信頼度の検証不足、単にWikipediaをソースにした焼き直し、致命的な誤情報の多さ――。
致命的な誤情報は、百科事典に求められる一番重要な土台――信用を無にしてしまう。

だが、それも変えていくことはできるはずだ。
今は「Grok」が単独で情報源を探し、記事を書き、自身でチェックしている。
例えばその仕組みを、「Grok」が初稿を書いたあとに別のモデル――「ChatGPT」などが参照元の信頼性を含めて事実チェックをし、さらに「Gemini」が批判的な観点から反論を試み、最後に人間がチェックして公開できればどうだろう。
国家プロジェクトに近いものになるかもしれないが、精度は飛躍的に上がるはずだ。

それが実現できれば、現状とは比べものにならない速度で、消えていくはずだった人間の知が掬い上げられ、カテゴライズされて格納されていくことになる
それは未来の誰かが、新しいものをつくりあげるための貴重な土台となるはずだ。

最悪のシナリオ

一方で「Grokipedia」はさらなる地獄を生み出す可能性もある。
負の永久サイクルだ。
1.「Grokipedia」が間違った偏向記事を作成する
2.それを見たユーザーが「X」などで拡散する
3.拡散されて記事化された情報を「Grokipedia」が再び取り込む
4.さらに多くの偏向記事が作成され、既存の偏向記事は参照元を増やし事実認定されていく
5.それを見たユーザーが「X」また拡散する
6.拡散された情報を「Grokipedia」が再々度取り込む→1.へ

これを繰り返していくことにより、事実は容易に書き換わってしまう可能性がある。
少しずつ事実が曖昧になっていき、最終的には間違ったものが事実にとってかわる

50年後の2075年には、「2020年米大統領選挙で勝利したのはトランプ」とまではいかなくとも、「バイデンは不正によって勝利した」と歴史が改変されていることもありえるのだ。
100年後にもなれば「2020年米大統領選挙で勝利したのはトランプ」とされても否定する当事者はいない。完全なる歴史改変が可能になるだろう。

怖ろしい可能性だが、それでもAI革命は止められない。
新しいものは大きな弊害も引き連れてくるものだ。
最悪のジョーカーを生み出さないためにはどうするべきか。
どうすれば最悪の未来を回避できるのか。
国家的な対応も含めた対策が必要になっていくだろう。

よかったらシェアお願いします
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

脳と心のメカニズムに惹かれ、神経科学や認知の分野を中心に執筆。
複雑な現象に潜む共通性や、本質的な問いを掘り下げることを大切にしています。
情報が溢れるこの時代にこそ、選ぶべきものより「捨てるべきもの」を見極める思考が必要だと感じています。
記事を通じ、新しい認知や価値観に目を向けるきっかけを届けられたら嬉しいです。

メールマガジン「週刊UNVEIL」(無料)をご購読ください。毎週、新着情報をお届けします。

目次