新たなステージに入るファクトチェック 効果の検証を

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 7月に行われた参議院選挙では、ファクトチェック団体だけでなく、テレビや新聞といった既存メディアも検証を行い、国内のファクトチェック活動は新たなステージに入ったといえる。取り組みが進んだことにより、ネガティブな結果を生む可能性も見えてきた。ファクトチェックの効果を検証する必要がある。

目次

ニュースの空白から検証へ


 国内のファクトチェックの普及・推進活動を行うファクトチェック・イニシアティブ(FIJ)が参議院選挙での取り組みを紹介するサイトには、200本を超えるリンクがある。国際ファクトチェックネットワーク(IFCN)に加盟する、日本ファクトチェックセンター(JFC)、InFact、リトマスといったファクトチェック団体だけでなく、これまで消極的だったテレビや新聞の検証記事も多数掲載されている。

 参議院選挙の前哨戦とされた東京都議会議員選挙を前に、取り組みを公表する既存メディアがあったことも特徴で、6月には読売新聞、佐賀新聞、時事通信、日本テレビの4社が、選挙に関してインターネット上の情報を対象に共同でファクトチェックを実施することを公表している。

 日本新聞協会は「インターネットと報道をめぐる声明」を公表し、選挙における真偽不明の情報拡散はプラットフォーム事業者の責任であることを指摘しつつ、選挙報道のあり方を見直し、検証に取り組むことを示した。また、専用のTwitterアカウント(@senkyo_kensyo)を開設して、情報発信することも公表した。

 選挙期間の報道は、情勢報道と呼ばれる各党の支持変化や選挙区における候補者の状況を伝える内容が中心であった。真偽不明の情報がSNSに拡散したとされる2024年の兵庫県知事選挙では、新聞社の記事がYahoo!ニュースに配信されることは少なく、在阪テレビ局がYouTubeに公開した番組も数本にとどまり、インターネットで「ニュースの空白」が起きた。

 報道機関が選挙期間中の報道に消極的な要因は、報道が選挙に影響を与えたと言われたくないためだ。テレビ朝日の報道局長が、非自民政権の誕生を後押しする報道姿勢をとったと発言して問題となった「椿事件」では、選挙報道が政治的に偏向しているとの批判が広がり、テレビ報道に対する政治家の介入の口実となった。

検証は届いているのか

 参議院選挙で状況は大きく変化した。ニュースは大量に配信され、検証も活発に行われた。このような検証は届いているのだろうか。
 参議院選挙期間中に、大学で担当する授業の受講者約200人にアンケートを行い、メディアなどによる事実検証やファクトチェック活動を見ましたか、という質問を行った。その結果は、「見ていない」が51%と半数を占めた。「なにかよく知らない」も33.2%で、「見た」と回答した学生は15.8%にとどまった。

図 「メディアなどによる事実検証やファクトチェック活動を見ましたか」という質問に対する回答。
図 「メディアなどによる事実検証やファクトチェック活動を見ましたか」という質問に対する回答。

 検証活動を見たと回答した学生に、どのような内容だったかを質問した。

 「ファクトチェック団体」と回答した学生は、「石破首相がテレビ番組に出演し、「なめないほうがいいですよ」と発言したとしてXで拡散されていたが、ファクトチェック団体によると、実際には別の党首の発言に対する返答だった」と記載していた。

 「新聞社」と回答した学生は、「「生活保護受給世帯の3分の1は外国人」という投稿を毎日新聞社がファクトチェックした記事」「朝日新聞社のサイトで「通勤手当に新たに課税」は本当? ネットの言説をファクトチェックというものを見た」とそれぞれ具体的に記載していた。

 検証活動を「見た」という回答をした学生で最も多かったのは「X」だった。Xの投稿に対し「@grokファクトチェック」と記入するとAIが回答するという仕組みについて具体的に言及した学生が6人、「コミュニティノート」と回答した学生が2人いた。

 「テレビ番組」と回答した学生には、ファクトチェックについて解説した番組について「見た」と回答したとみられるものが複数あった。

検証活動を「見た」と回答した学生に「どのような内容だったか」と質問したときの回答。
表 検証活動を「見た」と回答した学生に「どのような内容だったか」と質問したときの回答。

 以前からファクトチェックの拡散力が弱いことが指摘されてきたが、テレビや新聞が検証作業に乗り出しても、アテンション・エコノミーに支配されているSNSでは検証活動が届くことは難しい状況にある。せっかくの取り組みを生かすためにも、以前から言及しているようにYahoo!ニュースやスマートニュースなどのニュースプラットフォーム事業者と連携し、できるだけ多くの人の目に触れる努力が必要になる。

拡散のトランペットに注意せよ

 取り組みが進んだことにより、ネガティブな結果を生むことも明らかになりつつある。東洋大学の小笠原盛浩教授の調査によると、参議院選挙に関する偽情報の入手先の最も多いのがテレビであり、ファクトチェック報道に力を入れた結果、偽情報が拡散した可能性があるという。

 以前から偽・誤情報や陰謀論をニュース化する際に注意が必要なことは指摘されていた。フェイクニュース研究の先駆者であるクレア・ウォードルは「拡散のトランペット」という概念を示し、メディアは偽・誤情報や陰謀論を取り上げてエネルギーを与えないように注意するように呼びかけている。筆者が以前に調査したロシアの飛び地に隣接するリトアニアでも、ニュース化について注意が行われていた。ロシアの世論工作は、真偽不明の情報をニュース化させることで、むしろ影響力を増すように工夫されている。

 偽・誤情報があるから何でも検証すればよいわけではない。

『欧州民主主義国家を襲うフェイクニュースの脅威』2019年、「外交」、藤代 裕之
http://www.gaiko-web.jp/test/wp-content/uploads/2019/04/4-4p40-43.pdf

 ファクトチェック先進国とされて積極的な取り組みを行っていたアメリカが、いまどのような状況かを考えれば、ファクトチェックや検証報道は、やり方によっては、むしろ偽情報を広め、社会分断を進めてしまうことを示している。

 検証活動が間違うこともあり、兵庫県知事選挙ではJFCが2つの記事を公開したが、そのうちの1つが修正されている。記事で検証を呼びかけたが、JFCの運営委員会報告書を見ても行われた形跡はない。間違いを指摘する組織は、自らの間違いについて検証する仕組みがないとすれば、信用を得られることはないだろう。

兵庫県知事選挙のファクトチェック活動検証を』2025年1月、「UNVEIL」、藤代 裕之
https://inods.co.jp/articles/experts/5082/

 これからも活発にファクトチェックが行われるとしたら、検証活動の効果を検証する体制を構築していく必要がある。

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この記事を書いた人

藤代 裕之のアバター 藤代 裕之 リサーチフェロー

法政大学社会学部メディア社会学科教授
広島大学文学部哲学科卒業、立教大学21世紀社会デザイン研究科前期課程修了。徳島新聞社で記者として司法・警察や地方自治などを取材。NTTレゾナントに転職し、ニュース編集やNTT研究所のR&D支援(gooラボ)、新サービス開発などを担当した。2013年から法政大学社会学部メディア社会学科准教授、2020年に教授。日本ジャーナリスト教育センター(JCEJ)代表理事。著書に『ネットメディア覇権戦争
偽ニュースはなぜ生まれたか』(光文社)、編著に『フェイクニュースの生態系』(青弓社)などがある。

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