「ファクトチェック元年」と呼ばれた2025年の参院選、検証活動の課題とは

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 2025年7月に行われた参議院選挙は、ファクトチェック団体だけでなく新聞社やテレビ局が検証活動に取り組んだことから、2025年は「ファクトチェック元年」とも呼ばれた。どのような検証活動が行われたのか、筆者の研究室に所属する学生が中心となり分析を進めてきた[1]。この分析によって、新聞社、テレビ局、ファクトチェック団体と組織の違いで、検証する対象やテーマに差があることが明らかになった。検証対象の選定やレーティング基準が説明不足のため、このままでは検証活動に不信感を産んでしまう可能性がある。

目次

新聞とファクトチェック団体が中心

 2025年7月に行われた参議院選挙はメディアによる検証活動が展開された。どのような組織が、どのような検証活動を行っているのか、ファクトチェック推進団体であるファクトチェック・イニシアティブ(FIJ)が運営する「ファクトチェック・ナビ」と「Yahoo!ニュース」から検証記事を収集し、東京都議会議員選挙に関連する記事などを除外した215本を分析した。

 検証を行った組織は、新聞社、テレビ局、通信社、出版社、ファクトチェック団体の5種類で計37あった。検証記事数が最も多かったのは新聞社で103本、次いでファクトチェック団体が75本、テレビ局が33本、通信社と出版社がそれぞれ2本で、検証活動は主に新聞社とファクトチェック団体が中心に行われていたということになる。

検証記事を出した組織数の種類別の割合と記事数の割合(「2025年参議院選挙における報道機関とファクトチェック団体の検証活動」[1]から)

 最も多く記事を出した組織は、日本ファクトチェックセンター(JFC)で42本、次はInFactが27本とファクトチェック団体が上位を占めた。新聞社では、神戸新聞が17本、琉球新報が15本、東京新聞が13本、毎日新聞が12本と多く、テレビ局では、NHKが8本、日本テレビが6本と多かった。神戸新聞は活動の背景に、2024年の兵庫県知事選挙で読者から「何が真実か分からない」「なぜ取り上げないのか」といった戸惑いや批判の声が寄せられたと説明している。琉球新報は2018年の沖縄県知事選挙からファクトチェック活動を行っている老舗だ。

政党別で最も多いのは参政党

 国際ファクトチェックネットワーク(IFCN)に加盟する国内団体は、JFCとInFact、それにリトマスを加えた3つの団体である。2022年9月から2023年8月までの1年間の活動状況を比較した研究では、検証対象は主にXで、海外の話題も多く扱っていたが、今回は選挙期間中ということで状況は異なる。

参考:何でも「ファクトチェック」では対策を見誤る

 検証対象は、SNSが最も多く139本、政治家は103本あった。何を検証対象としているのか不明な記事も9本ある。なお、一つの記事に複数の検証対象が含まれる場合があるため総数は251本となっている。

 政治家を検証対象に含む103本を政党別に分類したところ、最も多かったのは参政党で45本、次に多いのは自民党19本、NHK党7本、立憲民主党6本、れいわ新選組と国民民主党は4本,公明党と日本維新の会と日本保守党が各3本と続く。政党別にすると合計は105本となるが、これは複数の政党を検証している記事があったためである。

 7月3日の公示日前後はほとんどないが,20日の投・開票日が近づくにつれて検証記事が増加していること、参政党が多いこと、といった傾向はXのコミュニティノートの付与状況とよく似ている。

政治家を検証対象に含む検証記事数の推移を所属政党別に色分けした(「2025年参議院選挙における報道機関とファクトチェック団体の検証活動」[1]から)

検証対象やテーマに差

 組織の違いで検証する対象やテーマに差があった。新聞社は政治家が、ファクトチェック団体はSNSがやや多いが、テレビ局はほとんどがSNSを検証対象としている。テーマでは、新聞社は政策と排外、ファクトチェック団体は政策が多く、排外と投・開票と選挙運動も取り上げている。テレビ局は排外を取り上げることが多かった。対象を選定する理由を説明している組織は僅かであり、このような差がなぜ生まれているかという理由は不明である。朝日新聞は目的や対象についても方針を明示している。

参考:朝日新聞社 ファクトチェックの新しい指針

検証記事の対象(組織別)(「2025年参議院選挙における報道機関とファクトチェック団体の検証活動」[1]から)

レーティングの説明不足

 このような説明不足は、「レーティング」でもみられる。レーティングとは検証結果を示すもので、例えばFIJでは「正確」「ほぼ正確」「ミスリード」「不正確」「根拠不明」「誤り」「虚偽」「判定保留」「検証対象外」の9種類となっている。

 このFIJ基準以外に、ファクトチェック団体の「JFC基準」「メディアの独自基準」「レーティングしない」の4種類があることが分かった。「FIJ基準」を採用している組織は毎日新聞、佐賀新聞、沖縄タイムス、リトマス。「JFC基準」を採用している組織は、読売新聞、佐賀新聞、JFC。「独自基準」は朝日新聞と琉球新報である。朝日新聞はFIJ基準を採用していたが独自基準に変更している。ほとんどの組織はレーティング基準が不明である。

 「レーティングしない」というのはファクトチェック団体のInFactだ。InFactはFIJのレーティングを利用してきたが、「レーティングの言葉が持つ厳しい語感が、社会の分断化を生じさせる恐れがあるとの判断に立ち、今後はレーティングを使わずにファクトチェックの結果を簡潔且つ丁寧に説明する方法を用いる」と説明している。

参考:InFactで「優しいファクトチェック」開始(2025年4月2日)

 同様の理由で「レーティング」を行わずに検証活動を行った組織もあったと考えられるが、説明がなければ読者には判断ができない。

各組織が採用しているレーティング基準(「2025年参議院選挙における報道機関とファクトチェック団体の検証活動」[1]から筆者作成)

 「レーティング」基準の説明が記事中にあることも少ない。リンクを押したり、関連記事や一覧ページを経由したりする必要があり、有権者にとって分かりにくい状況となっていた。ネットでは記事の読まれ方が紙とはことなり、基本的には個別に読まれる。ポータルサイトへの配信やSNSで拡散された場合に、わざわざ説明ページを見に行くとは考えにくい。説明が記事にない場合、検証活動の方針や基準が分からないまま記事を読むことになる。

 検証対象の選定やレーティング基準が説明不足となっている状況に、ゼミ生は「恣意的な選定だと思われる危険性がある、選定基準を示すことが必要なのではないか」と指摘している。既存メディアやファクトチェック団体の検証活動が恣意的な偏りがあると思われてしまえばせっかくの活動もネガティブな反応を生むことになってしまう。検証活動を行うだけでなく、「レーティング」基準の統一や明示、方針を丁寧に説明するなどの取り組みが欠かせない。

  1. 小林菜花・藤代裕之「2025年参議院選挙における報道機関とファクトチェック団体の検証活動」第111回情報処理学会EIP研究発表会(2026)
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この記事を書いた人

藤代 裕之のアバター 藤代 裕之 リサーチフェロー

法政大学社会学部メディア社会学科教授
広島大学文学部哲学科卒業、立教大学21世紀社会デザイン研究科前期課程修了。徳島新聞社で記者として司法・警察や地方自治などを取材。NTTレゾナントに転職し、ニュース編集やNTT研究所のR&D支援(gooラボ)、新サービス開発などを担当した。2013年から法政大学社会学部メディア社会学科准教授、2020年に教授。日本ジャーナリスト教育センター(JCEJ)代表理事。著書に『ネットメディア覇権戦争
偽ニュースはなぜ生まれたか』(光文社)、編著に『フェイクニュースの生態系』(青弓社)などがある。

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