トランプ政権に抗う米国市民の創造力とホイッスル

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第二次トランプ政権の発足から一年が経過した米国では、政治的な分断の深まりと共に大統領権限が拡大している。この一年間に行われた執行命令は228件、つまり本来なら議会を通して審議されるはずのルール変更が「大統領の判断」により1~2日に一度のペースで実行されてきたことになる。これは権限の強化というよりも、非日常的の日常化と表現したほうが良いかもしれない。

そして2026年1月7日、ICEの職員がミネアポリスで女性市民を射殺した事件は、これまで伝えられてきた「移民の弾圧と市民の抗議」「連邦政府と州政府の対立」といった話題の一線を越えたものと感じた人も多かっただろう。この事件の翌日、ヴァンス副大統領は記者会見で「ICE職員は絶対的免責(absolute immunity)に守られている」と述べ、さらに5日後の1月13日にはDHSが「ICEの全職員よ。あなたたちには連邦レベルの免責権がある」というスティーブン・ミラーの発言(※)をXで拡散した。これらの主張に法的根拠があるのかどうかはさておき、現在の米国は、連邦政府が「ICEに逆らう市民がいた場合、ICEは何をしてもいい」とお墨付きを与えたような状態になっている。

しかし政権に抗議する市民は、このような困難な状況でも創造的な対抗の手段を見出そうとしてきた。たとえばシカゴではICEに警戒するために3Dプリンタで作られたホイッスルが鳴り、ミネソタではICE職員が宿泊するホテルの前で大量のドラムが鳴った。これらは一般の大手メディアではあまり触れられない地味な話題だが、今回はシカゴとミネアポリスの話題を中心として、トランプ政権下の米国の都市で静かに進化しつつある抗議の手法についてお伝えしたい。

関連の過去記事
「ICEのバービーと平和的な抗議活動」をめぐる報道
https://inods.co.jp/topics/news/7424/
「ICEのなりすましによる凶悪犯罪」をFBIが警告
https://inods.co.jp/topics/news/7713/

※ホワイトハウスの政策担当副首席補佐官であり国土安全保障顧問でもあるスティーブン・ミラーは、実際にICEが市民を銃殺する数か月前の2025年10月、この「ICE職員に向けたメッセージ」をFOX Newsの番組で語っていた。

目次

シカゴ:相互扶助とオレンジ色のホイッスル

・政権にとって「勝てばトロフィ」の町
移民のコミュニティを保護する姿勢を前世紀から整えてきたシカゴ(イリノイ州)は、「法的根拠がないかぎり、市の警察はICEの拘留要請に従わない」という立場を明確に示してきたサンクチュアリ都市である。民主党支持が強固な都市のひとつで、人口の20%以上にあたる180万人が国外生まれ、ラテン系の住民の割合が高いことでも知られている。

地元出身者と移民の相互扶助が古くから根付いているシカゴでは、市長のブランドン・ジョンソン、およびイリノイ州知事のJBプリツカーが、トランプの再選後も「政府の移民取り締まり強化や大量強制送還に強く反発しつづけること」を公約として掲げてきた。しかし(だからこそ)シカゴは、トランプにとって最も屈服させたい町のひとつとなっている。米国の第三の都市であり、さらにオバマ元大統領を輩出した町でもあるシカゴの移民を大量に強制送還して、その抗議者たちを鎮圧することができれば、「我々は移民や極左からシカゴを取り戻した」というナラティブ上の成果が生まれる。そのプロパガンダ的な価値は、とてつもなく大きいだろう。

第二次トランプ政権の強硬移民政策の標的のひとつとなったシカゴは2025年、ミッドウェイ・ブリッツ作戦急襲(※1)や州兵派遣などの騒ぎに見舞われてきた。連邦政府に抗議する市民と対峙した移民当局が発砲し、女性市民が怪我を負うといった事件も実際に起きている。そして「ハンズ・オフ・シカゴ」の集会が開かれた際には、イリノイ州のプリツカー知事が自ら参加して「シカゴは屈しない。シカゴは平和的な抵抗を選択しつづける」と演説し、「ドナルド・トランプよ、シカゴに来るな」と大統領を名指しで非難した。

※2025年1月、「一人の移民による轢き逃げ事件」をきっかけとして展開された。この作戦ではイリノイ州に数百人のDHS捜査官が動員され、数百人規模の住民が拘束されている。

・ホイッスル作戦の発端と発動
そのシカゴでは、ICEへの対抗手段としてホイッスルが広く利用されてきた。それは主に「ICEの職員が現れたとき(あるいは急襲に気付いたとき)近隣に知らせるための警報システム」として用いられている。ホイッスルを首から提げて町をパトロールする市民は、ICEを見かけては笛を鳴らして周囲に知らせる。音に気付いて集まった人々は、ICEの行動を撮影し、ワシントン移民連帯ネットワーク(WAISN)のホットラインやSNSなどに情報を送っている。また一部では、有志がホイッスルを大音量で鳴らしながらICEの車両を追いかけつづけ、それを聞いた市民がオンラインに情報を投稿することで、彼らの動きを知らせるといった作戦も用いられている。

ちなみにシカゴでは、オレンジ色のホイッスルを携帯する市民が多い。彼らは、その目立つアイテムを互いに見せあうことで仲間であることを確認しているため、それは「シカゴの地域ぐるみの連携」を象徴するアイテムにもなっている。

シカゴのホイッスル作戦は2025年の夏、シカゴ在住の一人のオーガナイザーが、ロサンゼルスでのホイッスルの使用例を取り入れたことを発端としている。そして2025年秋、連邦捜査官が「建設現場の昼休みを狙って作業員を拘束する」などの急襲作戦を進めた際には、近隣の住民たちが実際にホイッスルを鳴らして即座に集結した。

米国のストリーミングニュース「Scripps News」は、自宅で1,500個以上のホイッスルセットを手作りしたシカゴの父娘のドキュメンタリー動画をYouTubeで公開している。彼らが急ピッチで準備した大量の笛は、図書館や地元の店舗に置かれて市民に無料配布された。それは先述の作業員拘束事件の際にも用いられた。

・「ホイッスル・キット」の役割
この頃からシカゴでは「Whistlemania」と呼ばれる地元密着型のクラフトイベントが始まっていた。これは地域の住民が集まって「ホイッスル本体」「鳴らし方の説明書(ICEを見たときの吹き方、逮捕などの緊急事態を見たときの吹き方の説明)」、「拘束された際の自分の権利について説明するカード」、「コミュニティの連絡先/支援情報」などを一式にしたホイッスル・キットを手作りしようという活動だ。それは単純に笛を配布する取り組みではなく、参加した市民同士が手作業を楽しみながら結束を強化する催しでもあり、またICE対策の情報交換や、市民の権利の学びにも貢献する活動にもなっている。

もともとWhistlemaniaは、単独のグループが15人程度の集まりを想定して企画した小規模なイベントだった。しかし初回に集まった地元市民が約400人にも及んだため、以降は市内各地のカフェやコミュニティセンターなどでたびたび開催されるようになった。このイベントは過去数百回で数十万個のキットを作成したと伝えられており、そのユニークな活動はシカゴ以外の都市にも波及している。たとえば現在、シアトルではWhistlemaniaを参考にしたイベント「Whistle-making party」が定期的に開催されている。こちらでも手芸サークルのような気軽さで集まった地域住民たちが、毛糸の紐を通したホイッスルと共に、シカゴで配布されているものと同様のホイッスル・キットを組み立てている。


・ホイッスル不足と3Dプリンタ
このイベントが成功したおかげもあって、ホイッスルを携帯する市民の数が急激に増加したシカゴでは、町中の店舗でホイッスルが売り切れ、地元で新たにホイッスルを入手することが困難となってしまった。そのため一部のボランティア活動グループはAmazonの「ほしい物リスト」を利用し、キットの材料(笛本体、紙、インクなど)を寄付してもらうという作戦を開始した。一方「とにかくICEを見たときに大きな音を出して周囲に知らせることができれば良いのだ」と考えた一部の市民は、ホイッスルの代わりにトランペットなどの楽器を持って町に立つようになった。

やがてシカゴでは、3Dプリンタを利用してホイッスルを作成する取り組みが盛んに進められるようになった。笛が買えないのなら最初から作ればいい、という発想だ。一部の市民はPrintables.comなどでダウンロードできる共有データを印刷し、安価で手軽にホイッスルを作成した。また一部の市民は、自分のデザインしたオリジナルのホイッスルづくりを楽しんだ。さらに一部の市民は「仲間に知らせる吹き方」「ホットラインの電話番号」などが本体に組み込まれたホイッスルをデザインし、そのデータをオンラインで公開した。ホイッスル・キット一式を手に入れることができなくても、このホイッスルさえ3D印刷できれば、それは簡易版のような役割を果たしてくれるだろう。

・ホイッスル作戦の意義と効力
「地域住民が一斉に笛を使い、互いに連絡しあってICEの急襲に抗う」というシカゴのホイッスル作戦からは、米国らしいDIY精神と、シカゴらしい地域連携の両方が垣間見える。それは、ただ笛を吹くだけという非暴力的で単純な手段ではあるものの、奇襲に素早く反応してタイムラグもなく警告し、「彼らが来た」「扉をロックしろ」「かくまえ」と効果的に知らせることができる優れものだった。

また彼らがホイッスルを配布する際、「市民の権利に関する知識」「ICEに関する知識」を共有しながら、連携プレイを見せるように活動してきたことも非常に意義深いだろう。シカゴを狙った大規模な作戦で捜査官が増員されるたび、それに対抗する市民たちは緊急ホットラインを開設し、対策チームを派遣して情報を収集し、それを共有してきた。

そんなシカゴ市民の実力は、連邦政府からも(苦々しく)認められている。トランプ政権下で強制送還の責任者を務めている反移民強硬派の元警察官トム・ホーマン(通称「国境の皇帝」)は、シカゴを狙った作戦に関して「この町の住民たちは自分たちの権利を非常に深く理解しているため、逮捕は困難を極めた」と語っている。

ミネソタ:命がけの反撃とドラム包囲

次に紹介するのは、いまやすっかりICEに関する話題の中心となってしまったミネアポリス(ミネソタ州)だ。以前ここでお伝えしたとおり、現在の連邦政府は「ソマリア系移民による詐欺」の話題を足掛かりとしてミネソタへの圧力を強めている。2025年末にMAGA系ユーチューバーの作成した「ソマリア系移民の詐欺疑惑動画」が全米に拡散されたこともあり、現在のミネソタは取り締まりを強化するべき町として恰好の標的となってしまった。

関連の過去記事:MAGAインフルエンサーのミネソタの告発動画
https://inods.co.jp/topics/news/8657/

つまり現在のICEには「いま巨額の詐欺に関与している移民を、直ちに強制送還しなければならない」というタイムリーな口実がある(その疑惑に明確な根拠があるのかどうかは別として)。米国最大のソマリア系コミュニティがあるミネソタには、すでに2000人のICE職員が派遣され、かなり強引な手法で「不法滞在の可能性がある住民の拘束と逮捕」が進められている(本当に不法滞在が疑われる人物を狙っているのかどうかは別として)。こうしてミネソタは、イリノイよりもはるかに切迫した状況となってしまった。


・射殺された二人の市民
そして皆様もよくご存じのとおり、ミネソタ最大の都市ミネアポリスでは、とうとうICEの移民取り締まり活動を監視(撮影)していた市民がICEに射殺されるという事件が起きた。さらに本項を執筆している最中にも、二人目の犠牲者が出てしまった。即死した二人はいずれも米国生まれの白人で、犯罪歴のない一般市民だった(二人目の犠牲者、アレックス・プレティ氏には交通違反の記録があったが、「チケットを切られて終わり」の軽微な違反)。ICEに抵抗すれば白人の米国人でも命を奪われかねないという状況の中、市民たちにはどのような抗議の道が残されているのだろう? 

現在、二人目の犠牲者が出たばかりのミネアポリスには世界中の人物や団体から数多くの真摯な意見が寄せられており、それが連日のニュースになっている。つまり、報道機関が「ミネアポリス市民の抗議の手法」について最新情報を伝えている場合ではないだろう。さらに現地の様子に関する情報も、いまはやや錯綜している。そのため、ここでは最初の犠牲者となった37歳の女性、レニー・グッド氏が射殺された直後の市民たちの行動からお伝えしたい。

・ホテルのドラム包囲
レニー・グッド氏がICEに撃たれた2026年1月7日夜、ミネアポリスの抗議者は、ICEの職員が宿泊しているホテルを特定した。そのホテルに駆け付けた抗議者たちは、ドラム缶や自作の太鼓、エアホーン、ホイッスルなどの楽器を大音量で鳴らしながら「ICEは出て行け」「レニーの血は洗い流せない」とコールをする騒音デモを行った(※)。ただ単にシュプレヒコールを上げるためではなく、ICE職員の休息を妨害することも大きな目的の一つだったと考えられる。

なにしろ「犯罪を起こしたわけでもない一般市民が、法執行機関によって射殺される」という衝撃的な出来事の直後だったためか、このときのミネアポリスの抗議者たちは普段ほど平和的ではなかった。彼らのデモがピークに達した20時半ごろ、当該ホテルは完全に包囲され、彼らの一部はロビーの窓に「ICEが殺した」と落書きし、花火でガラスを破損し、ホテル内への侵入を試みた。そのため同日22時半ごろには約100人の州警察が現地に到着し、「不法集会宣言」を発した。このあと少々の衝突が生じ、20人ほどが器物破損などの疑いで逮捕されたものの、催涙ガスなどは使われることなく、23時15分ごろには多くの参加者が解散する流れとなった。ただし一部報道によると、深夜2時ごろまで座り込みを継続していた抗議者もいたという。


※この抗議デモに関しては、媒体によって報道のトーンが異なっている。どれに触れるかでデモに対する印象は大きく変わってくるだろう。標的となったホテルについても、具体的なホテルの名前を一つだけ記した報道もあれば「少なくとも二軒以上のホテル」と記した報道もあり、どれが正確なのか不明である。集まった抗議者の数も、報道によって「200~300人」「1000人以上」と幅があり、いずれも推定の数字でしかない。また「抗議者たちが集まったホテルには、ICEの職員が一人も宿泊していなかった可能性がある」「真偽不明の情報を信じた抗議者たちが暴徒化した」と示唆するようなメディアも複数あったが、いずれも信頼度スコアが低いことで知られる右派メディア(NYPost/Newsmax/GB Newsなど)であり、CNNやAP、Reutersなどの大手報道機関の記事にはそのような言及がなかったことを注記しておきたい。

・Minnesota ICE Watchの監視ネットワーク
このとき抗議者たちがICEの宿泊先を特定し、その情報をシェアするために用いたのは、彼らが独自に構築してきたネットワークだった。連邦政府の移民取り締まり強化に抗議しているミネソタの抗議者たちは、ICE Watchと呼ばれる監視ネットワークを作り上げている。これは単体のアプリやプラットフォームの名前ではなく、地域の住民がInstagramのアカウントをメインのハブとして使い、それを暗号化チャットツールやオンラインの地図共有サービス、警告システムなどを組み合わせることによって機能させているグループ活動だ。

この活動により、彼らはミネアポリスを中心としたICE関連情報(たとえばICEの捜査官の目撃情報、ICEの車両やナンバープレートの写真、それらの位置情報など)をほぼリアルタイムで共有し、警告することができる。このネットワークの役割は「ここにいるから注意せよ」と知らせるためだけでなく「その場所に駆けつけて援護せよ」と伝える目的でも利用される。

・ミネアポリスにおける「コミュニティの抵抗」
ミネソタのラテン系家族の生活向上を目指す非営利団体「COPAL」(2018年設立)は現在、ミネアポリスの移民擁護活動の中心的な存在となっている。彼らは教会や学校などの施設でもICE対策のトレーニングを頻繁に行っており(COPALのトレーニングだけでも、これまで一万人以上が登録している)、令状の読み方指南、ICEの活動を録画する方法、またシカゴと同様のホイッスルの使い方、あるいは先述のネットワークへのアクセス方法なども教えている。

そして一部の市民はICEの車両を長時間追跡して動きを監視し、「急襲や逮捕が始まりそうな場面」を察知すると即座にオンラインで情報を共有し、現場に抗議者たちを集めようと試みている。ただし過去の急襲においては、現場に駆け付けた数十人の市民がスマートフォンを構えて立ちはだかり、無事に逮捕を阻止できたという例もあったものの、間に合わないことも多かったという。「当局の急襲に対応する」という一点のみについて言うなら、彼らのオンラインを利用したネットワークの働きは、大量の市民を巻き込んだ大規模なホイッスル作戦にやや劣っているかもしれない。

ただしシカゴ以上に緊迫した状況となっているミネアポリスでは、「監視」「駆けつけ」だけではなく、住民の生活を支援する目的でもオンラインを利用したネットワークが活かされている。たとえば子どもだけ、あるいは親だけが取り残されてしまった家庭をサポートする活動に、あるいは自宅で監禁状態となり仕事にも買い物にも行けない住民に食料を届けるといった活動にも市民が参加している。このような活動において、彼らの連絡網は非常に心強いだろう。

ブルーステートの都市同士の「助け合い」

・シカゴとミネアポリス
第二次トランプ政権がブルーステート(民主党優勢の州)の都市を目の敵にしてきたのは言うまでもないことだ。しかし、とりわけシカゴに対する「取り締まり」はかなり早い時期から始まっており、それは何度も時間をかけて強化されてきた。そしてシカゴ市民は、その長期戦の中でICEに対抗するための実践的な対策を練りつづけ、抗議の手法を少しずつ進歩させることができた。

一方、ミネアポリスに対する連邦政府の取り締まりは、インフルエンサーの影響力を駆使しながら「米国から大金を奪うソマリア系」という分かりやすい悪役を示すことで急速に拡大したものだった。この町に派遣された2000人のICEの職員たちには口実と勢いがあり、もはや批判を恐れない、強引な手法も厭わない傾向が強くなっている。そして突然「移民ですらない抗議者の即死」という悲劇が二度も発生してしまったミネアポリスでは多くの市民が驚き、悲しみに暮れている。そして、この極限状態でも彼らは過激化することができない。それが「暴徒を鎮圧する」という口実が欲しいトランプ政権の思う壺になることを熟知しているからだ。いまミネアポリスで移民たちを守ろうとしている市民たちは、もはや精神的にも時間的にもまったく余裕がない状態だろう。

・異なる都市間の助け合い
そんな中、シカゴからは二人の女性がミネアポリスに向かっていた。ホイッスル5000本、「あなたの権利を知るカード」10000枚を車に積み込み、寄付金9000ドルと共にミネアポリスに到着した彼女たちは、すぐさま現地でホイッスル・キットの作成イベントを開いた。それはちょうどミネアポリス版のWhistlemaniaと言えるものだ。

多くのICE職員がミネアポリスのほうへ派遣された影響もあってか、現在のシカゴは(おそらくは一時的な)小康状態にあるという。そのため一部のシカゴ市民は「昨年のシカゴと同じ苦難に直面している他都市」を支援する活動を行っている。先述の女性たちのように現地へ直行したケースも含め、すでにシカゴからは累計15万本以上のホイッスルが、全米の都市(ミネアポリス、ニューヨーク、バルチモア、ニューオリンズ、ワシントン、コロラドなど)に届けられているという。

先に記したとおり、もともとICEに対抗するホイッスルの作戦はロサンゼルスで発生し、それがシカゴに伝わって発展したものだった。ロサンゼルスから「警報システムのアイディア」を得て、そのアイディアを発展させてきたシカゴは、いま「ホイッスルを充分に活用するための大量のキット(および、そのキットを量産するための手段)」を全米の他都市に届けようとしている。

シカゴの市民たちは、これまで何度も急襲を受けながら、ホイッスルの活用方法や、それを効果的に市民へ届けるためのノウハウを少しずつ磨いてきた。特に3Dプリンタの導入は、配布のコストに劇的な変化をもたらしたと言って良いだろう。なにしろ「深刻なホイッスル不足」を経験したシカゴの市民たちは、それを3Dプリンタで自作するようになってからも、どの価格帯のプリンタやフィラメントを買い、どのように印刷すれば「実践に使える安価なホイッスル」を作れるのか切磋琢磨してきた。その甲斐もあってか、いまや彼らは1ロール12ドルのフィラメントから800本のホイッスルを作成することができるという(単純計算で言えば、ホイッスル一つあたりの原料費は2円強)。

さらに彼らは、キット作成のイベントを繰り返し開催しながら、「ホイッスルの使い方」の説明書をどのように作成すれば視覚的効果が高くなるのかも学んだ。そしてシカゴのアートコミュニティ施設Pilsen Arts & Community Houseがデザインした「ホイッスル取扱説明書」の小冊子のコピーは現在、ICEと対立する多くの都市で、標準的なマニュアルのテンプレートとして広く利用されはじめているようだ。

抵抗の学びとヒント

こうしてシカゴが培ってきた「ホイッスル作戦」の知識や経験や技術は、そのまま全米で流用できるテンプレートを作った。現在のシカゴは、全米の「ICEに抵抗している都市」同士を繋ぎ、いま被害が集中している場所を支援するリーダー的な都市になりつつあるようにも見える。ここまでの彼らの活動は、ホイッスルの利用のみならず、それぞれの都市の抗議者たちが効果的に活動するための様々な手法のヒントを与えているだろう。たとえばWhistlemaniaの取り組みは、どうすれば地元の市民を積極的に参加させることができるのか、集まった人が何をどのように学ぶべきなのかという大きな成功例を示した。

そして彼らの取り組みから教訓を得られるのは、ICEに対抗している米国の都市だけではなさそうだ。2025年のシカゴが行ってきた一連の活動は、「いま目の前で起きていることへ平和的に立ち向かいたい」と願う世界中の都市の市民に対し、何をどのように進め、何をどう共有すればよいのかを考えるうえでの大きな手掛かりを残したのではないだろうか。

出典

https://x.com/DHSgov/status/2011213308968538361
https://www.popmatters.com/no-kings-humor-shrivel-authoritariansim
https://impakter.com/staving-off-dictatorship-innovative-tactics-and-strategies/
https://fortune.com/2025/11/16/chicago-resists-ice-immigration-raids-orange-whistle-little-village/
https://www.wbez.org/immigration/2025/10/18/to-stand-up-to-ice-agents-some-chicagoans-are-arming-themselves-with-whistles
https://www.washingtonpost.com/nation/2025/10/23/ice-chicago-resistance-immigrants/
https://southseattleemerald.org/news/2025/11/06/a-fistful-of-loud-seattle-neighbors-build-whistle-kits-to-protect-immigrants-from-ice
https://inthesetimes.com/article/ice-trump-chicago-immigrants-rapid-response
https://www.youtube.com/watch?v=o5imAZgcxV0
https://dailynorthwestern.com/2025/10/20/city/whistlemania-brings-evanston-community-together-to-protect-against-ice/
https://www.chicagotribune.com/2025/11/08/chicago-immigration-ice-resistance/
https://organizingmythoughts.org/how-weve-resisted-ice-street-lessons-from-chicago/
https://apnews.com/article/chicago-immigration-protest-arrests-agent-police-whistles-df72b2ba4e57befc085d692d227363b8
https://ja.crimethinc.com/2026/01/15/rapid-response-networks-in-the-twin-cities-a-guide-to-an-updated-model
https://www.ailantha.com/blog/you-can-help-chicagoans-peacefully-resist-ice-with-whistles
https://www.404media.co/the-latest-defense-against-ice-3d-printed-whistles/
https://www.startribune.com/inside-the-organized-resistance-to-ice-in-minnesota/601551413
https://www.gbnews.com/news/us/minneapolis-protests-hotel-ice-us-news
https://chicago.suntimes.com/immigration/2026/01/21/chicagoans-send-whistles-ice-immigration
https://www.cnn.com/us/live-news/minneapolis-ice-shooting-immigration-crackdown-01-09-26
https://www.mprnews.org/episode/2026/01/15/minneapolis-church-has-delivered-more-than-12000-boxes-of-groceries-to-families-in-hiding


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この記事を書いた人

やたらと長いサイバーセキュリティの記事ばかりを書いていた元ライター。現在はカナダBC州の公立学校の教職員として、小学生と一緒にRaspberry Piで遊んだりしている。共著に「闇ウェブ」 (文春新書) 「犯罪『事前』捜査」(角川新書)などがある。

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