トランプ政権によるテック企業への優遇措置

1.はじめに
今回は、民間NPO「Public Citizen」によるレポート「Deleting Tech Enforcement:Trump 2.0 Is Dropping Lawsuits and Investigations Against the $1 Billion-Spending Technology Sector」を紹介する。本報告では2025年の第2次トランプ政権成立以降、頻繁に確認されるようになった米国テック系企業への優遇措置について調査を行なったものとなっている。その中でも特にテック企業がトランプ陣営に対して行った金銭的支援を与えたこと、それへの見返りとして規制緩和が行われたことが記述され、深刻な癒着構造が存在することを示唆する内容となっている。
2.政権とテック企業の癒着構造
Public Citizenの分析によれば、第2次トランプ政権は成立後の6か月間であらゆる業種にわたる165社に対する執行措置を撤回または停止したとされている。執行停止・撤回措置の恩恵を受けた企業の4分の1はテクノロジー系企業であり、同企業群は2024年の選挙期間中およびその後、政治的影響力獲得に12億ドルを投じていると試算されている。
トランプ政権は2024年大統領選挙運動について、複数の当局による自身の起訴とそれに続く有罪判決が、法執行機関の「武器化」による不当な扱いであると主張し、またテクノロジー分野の企業幹部はこの主張に同調することでトランプ政権に取り入ることを目標としたと推測されている。この結果、消費者、労働者、投資家、公衆を保護する法律違反で告発された有力企業を、「武器化された」執行の被害者とすることに成功したと考えられている。
3.恩恵を受ける企業群
ここでは、記事内で提示されているトランプ政権との癒着が指摘される様々な企業のうち、特に代表的なものを提示する。
・Meta
フェイスブックやインスタグラムを運営するソーシャルメディア大手メタは、消費者金融保護局(CFPB)による連邦調査、ならびに全米労働関係委員会(NLRB)および連邦取引委員会(FTC)による訴訟に直面していた。その状況の中トランプ政権はCFPBの執行・規制監督を停止し、NLRB委員および同委員会の最高弁護士を解任したため、執行決定を確定する能力が麻痺した。メタはトランプ大統領就任基金に100万ドルを寄付し、ザッカーバーグは就任式でトランプ氏の後ろの壇上に立つビッグテック寡頭経営者たちの中にいた。トランプがホワイトハウス「AI・暗号通貨担当官」に任命したデイビッド・サックスは、Craft Venturesのウェブサイトによれば同社に「注目すべき投資」を行ったとされている。
・PayPal
多国籍金融技術・決済処理企業ペイパルは、トランプ政権発足時に消費者金融保護局(CFPB)、連邦取引委員会(FTC)、証券取引委員会(SEC)による調査に直面していたとされている。
「ペイパル・マフィア」を構成する複数の元ペイパル幹部・投資家はトランプ政権で特に影響力を持っており、イーロン・マスク、トランプのAI・暗号通貨担当官デイビッド・サックス、億万長者の大口献金者ピーター・ティールらが含まれる。ペイパルはトランプ氏の就任基金に25万ドルを寄付した。
ペイパルに対するCFPBの調査はおそらく凍結されているとレポートでは報告されている。トランプ氏はCFPB長官ロヒット・チョプラを任期満了前に解任し、スコット・ベッセント財務長官を長官代行に指名した。その後間もなく、トランプ政権の行政管理予算局(OMB)長官ラス・ヴォートがCFPB長官代行に指名され、ヴォートはCFPB事務所を閉鎖し、全職員に「業務遂行を一切禁止」する命令を下した。これによりCFPBの進行中の全案件・調査が事実上停止され、ペイパルの調査も含まれていたと推測される。
・SpaceX
イーロン・マスクのロケット技術企業スペースXは、2023年8月以来、司法省公民権局から提訴されている。同社は雇用決定において亡命許可取得者や難民を差別したとされる。これに対しスペースXは、連邦裁判所に司法省の訴訟の合憲性に異議を唱える訴訟を提起した。テキサス州の連邦裁判所は暫定的な差し止め命令を出し、司法省の訴訟を一時停止した。トランプ政権発足から2日後、司法省は公民権局の全訴訟を凍結するよう指示。スペースX訴訟を含む少なくとも8件の企業訴訟が停止された。2月20日、トランプ政権下の司法省はスペースX差別訴訟の却下を申請した。
スペースXのイーロン・マスクCEOはトランプ当選支援に2億9000万ドル以上を投じたとされている。
・Coinbase
仮想通貨取引プラットフォームのCoinbaseは、2024年の選挙期間中に5200万ドルを支出したとされている。同社は2023年には証券取引委員会(SEC)から、未登録証券取引所としての運営およびその他の証券法違反で告発された。この違法行為により、同社は仮想通貨取引の仲介で数十億ドルを稼いだとされる。トランプ政権発足から1か月後、Coinbaseはトランプ政権下のSECが同社に対する訴訟を取り下げることに合意したと発表した。トランプ大統領は仮想通貨業界の盟友として選挙運動を展開し、仮想通貨企業に対する規制執行を政府による不当な「武器化」と表現した。これはCoinbase CEOブライアン・アームストロングがSECの執行措置を評した表現と一致する。Coinbaseはトランプ氏の就任基金に100万ドルを寄付し、政権への働きかけを強化するため、Coinbaseはトランプ陣営の2024年共同選対本部長であるクリス・ラシヴィータを顧問として採用した。
4.テック系企業に立ちはだかる最後の良心
本報告によれば、トランプ政権は全体として企業規制に後ろ向きな姿勢を取っているが、グーグルやメタに対する独占禁止法の執行は例外的に継続されている。例えば司法省はグーグルの検索や広告分野で、FTCはメタの独占行為を巡って訴訟を提起しているが、これらはトランプ政権下で始まり、バイデン政権下でも継続された政策のうちの一つである。グーグルとメタは政権に多額の献金を行い、影響力を行使しようとしたが、訴訟は継続されている。ザッカーバーグは訴訟回避のため巨額の和解金を提示したが、司法省は「規制ではなく法執行」を強調し、「アメリカ第一の独占禁止法執行」という理念を掲げている。この姿勢は、他の規制当局者や企業関係者の「過剰規制」批判と対立する。しかし、合併審査の緩和が進む一方で、合併承認など独占禁止法の適用は選別的に行われており、トランプ政権の姿勢は一貫性に欠けると指摘されている。
5.結論
トランプ大統領の第2次政権発足から6か月が経過し、政権は企業の違法行為から国民を守るよりも、違法行為を犯した企業関係者の保護を優先していると指摘されている。特にテック企業は、政権への寄付や利益供与を通じて特別な優遇を受けており、執行措置の停止や取り下げが相次いだことが明らかになっている。その結果、企業には違法行為が報われるという誤ったメッセージが送られ、国民の保護体制は弱体化しつつあると本報告は指摘している。テクノロジー分野においては、政権の同情は不正行為の被害者よりも、不正行為で告発された企業の方に向いていることが明らかであり、より深刻な影響が懸念されている。
