認知戦オルタナティブ:ドッペルゲンガーの目的はなにか?

認知戦、デジタル影響工作、偽・誤情報などに関する議論は、さまざまな分野で多様な議論が行われている。領域横断型の問題だから当然だが、問題は領域を超えた議論や協力が必ずしもうまくいってはいないことだ。特に包括的、統合的なアプローチの構築はいまだに不十分だ。
いまだに専門家と呼ばれる人々の間でも言葉の定義がバラバラで、エコシステムから全体を見るようなアプローチは進んでいない。
サイエンス誌に載った偽・誤情報研究のジレンマの爆発
https://note.com/ichi_twnovel/n/n5c0badca518a
「認知戦オルタナティブ」とは筆者の造語で、専門領域に閉じこもりがちな専門家に異なる領域(あるいは研究者)からの視点を提示、紹介する試みである。同時に全体像の見えない議論に遭遇した時に、異なる視座から全体像を紡ぎ出すための道具箱でもある。
2018年以前とそれより後では活動内容やとりまく社会環境が大きく変化しており、その変化を充分に咀嚼できていない専門家の多くにとって、オルタナティブな視点が必要となる。
もうひとつ重要なのは、この分野でもっとも多くの資金を投入してきたアメリカが陰謀論大国になってしまった現実だ。ふつうに考えれば、アメリカのやってきたことになにか問題があるはずだ。
世界でもっとも研究されたロシアのドッペルゲンガー
ご存じの方も多いと思うが、ドッペルゲンガーは世界でもっとも研究されたロシアの作戦である。多数の調査研究レポートが存在する。ドッペルゲンガーは大きく3つの段階を経て「目的不明」の”活動”になっている。
正確に言えば、異なる目的と活動を主張する専門家たちが存在し、意見の一致を見ていない。さらに正確に言えば異なる主張の間の議論すら行われていない。この状況は現在の調査研究を象徴している。
まず、2つの主張をその経緯とともにご紹介する。ふたつ目の主張の説明が長いが、日本ではほとんど紹介されていないため、ていねいに説明したためである。
・ひとつ目の主張
ドッペルゲンガーはロシアが展開しているデジタル影響工作作戦で、大手メディアになりすましたようなWEBなどを通しての情報発信などを特徴としており、その目的はロシアの権益に沿った主張の拡散、浸透と考えられていた。いまでもそのように主張する専門家は多い。
単純でわかりやすい解釈だが、問題はほとんど効果が見られないことが多い点だ。効果がなければふつうは止めるか、やり方を変えるものだが、ドッペルゲンガーは大きな変更もなく、そのまま継続している。
・ふたつ目の主張
ふたつ目の主張はドッペルゲンガーの目的は自分自身で主張を拡散することではなく、メディアや専門家にとりあげさせて広範な拡散を実現し、パーセプション・ハッキングの効果を狙うことだというものだ。パーセプション・ハッキングとは、情報操作などがおこなわれていることが暴露されることで、人々に情報への不信感が増加し、目にする情報を不信の目で見るようになることを指す。悪化すると、情報発信元であるメディアや政府も疑うようになり、民主主義への不満が増大する警戒主義になる。
Metaはこの領域で継続して貴重な情報を四半期毎に開示してきた。しかし、残念なことに2024年第3四半期以降、急速に手抜きになった。最後のちゃんとしたレポートでは、ドッペルゲンガーがパーセプション・ハッキングである可能性を示唆していた。
偽情報、デジタル影響工作、認知戦を知るうえで読むべき定期レポート (1) Metaの四半期脅威レポート
https://inods.co.jp/articles/report-reviews/2414/
Meta2024年Q2の脅威レポートを公開 パーセプション・ハッキングを警告
https://inods.co.jp/topics/3518/
そして、その後、ロシア政府から依頼されドッペルゲンガーを実行していたSocial Design Agencyから莫大な量の情報が漏洩情報を分析した結果が公開された。
ロシアのドッペルゲンガー実施企業Social Design Agencyの2.4GB漏洩文書
https://inods.co.jp/topics/4161/
ドッペルゲンガーは、メディアや専門家、専門機関に取り上げられていた数を評価指標にしていた。つまり、暴露されることを目的にしていたのだ。
この漏洩文書は本物であるとされているので、その内容を信じるとすれば、Metaが示唆したようにパーセプション・ハッキングを狙った可能性などが浮上してくる。

議論すら行われていない不思議さ
2つの主張は大きく食い違っているのだが、なぜか議論すら行われずに、それぞれがそれぞれの主張に沿った調査研究を続けているように見える。単に筆者が寡聞にして存じないだけかもしれないので、ご存じの方がいたら教えていただきたい。
ひとつ確実に言えることは、専門家の間では、ドッペルゲンガーの目的について一致した見解がないということだ。もっとも研究されたドッペルゲンガーで、この状況なのである。オルタナティブな視点の必要性をわかっていただけると思う。
冒頭で2018年より後では状況が大きく変わったことを書いた。ドッペルゲンガーについてのひとつ目の主張は、2018年以前の認識に立っている。ドッペルゲンガーが始まったのは2022年なので、いささか無理があるのかもしれない。
一方、ふたつ目の主張にもとづくと、効果のないドッペルゲンガーをロシアが続けていた理由もわかる。ロシアが行った活動では効果がなかったが、メディアや専門家がとりあげたことで拡散し、広範なパーセプション・ハッキングがあったのかもしれない。