なぜ参政党を選んだのか?〈後編〉ロシア工作疑惑、ファクトチェックの影響

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2025年の参院選は我が国の情報環境を考えるうえで重要である、という認識に立ち、新領域安全保障研究所は参政党への投票行動に影響を与えた要因を調査することにした。すでに発表されているレポートや記事を整理する中で、当研究所で実施予定だったアンケート調査を先行して、複数回実施しているものを発見し、急遽、その実施主体に分析を依頼することとした。それが社会調査支援機構チキラボだった。 同団体は当研究所が想定していた以上の豊富なデータを持ち、分析体制もあり、当初、期待していた以上の報告書をいただくことができた。この場を借りて感謝したい。

今回は同団体の報告を前編・後編に分けてご紹介し、続いてその内容を踏まえて当研究所としての視点で整理を試みる予定である。

後編をお届けする。


INODS UNVEIL 一田和樹

→前編(なぜ参政党を選んだのか?〈前編〉外国人不安、YouTube視聴)はこちら

チキラボが行った2つの調査の概要は、こちらをご覧ください。
チキラボによる2025年参院選パネル調査の概要

分析に使用した変数、外国人不安や政治家の評価基準などの質問項目については、こちらをご覧ください。
チキラボによる2025年参院選パネル調査の分析に使用した変数

目次

ロシア系ボット工作疑惑の影響はほとんど見られず

——選挙期間中、参政党の候補者がロシアメディア「スプートニク」に出演。また、ロシア系Botによる工作疑惑も報じられました。こうした動きは、投票行動に影響を与えたのでしょうか。

ほとんど与えなかったとみられます。そう判断する、いくつかの分析を紹介します。

今回は、選挙期間の3つの時期に調査を行っています。中盤調査を行なった7月11日~14日は、ロシア関連の疑惑が取り上げられる直前の時期でした。この中盤から終盤にかけての遷移をみると、2回目調査時に参政党を投票先として選択した人の74.5%(n=35)が実際に参政党に投票しています。

この2回目から3回目にかけての「支持固め」状況は、他党と比べると実は弱いです。2回目と3回目調査時に投票先として一致していた割合は、自民党では84.9%、公明党では83.3%、立憲民主党では87.8%、国民民主党では81.0%、日本維新の会では84.4%、共産党では86.4%、れいわでは76.7%、日本保守党では81.5%です。

ところが、2回目から3回目にかけて、投票に行かないと回答していた人や、まだ決めていないと回答していた人、他党に投票すると回答した人が参政党に流入した結果、参政党投票者は2回目に投票先として予定していた人の割合を超え、2回目の5.2%から3回目の7.1%に高めています。

ではこの2回目から3回目にかけての離脱グループと、2回目から3回目にかけての参入グループとがともに途中で選択を変えたのは、なんらかの形でロシア関連情報の影響を受けたからであると解釈することはできるのでしょうか。

調査では、様々な政治家への感情温度(好感度)をとっており、この中に、「プーチン大統領」という項目も入れています。プーチンは現在の日本全体で、著しく好感度が低い政治家です。

1回目、2回目、3回目で比例区の投票先として参政党を選んでいたか否かの組み合わせごとに、プーチン大統領への温度感の平均値を示しました。有意差が確認されたのは、「一貫して参政党を選択し続けたグループ」と、「一貫して参政党を選ばなかったグループ」です。図中の「参」は参政党選択を意味し、「X」は他党あるいは投票先を決めていない、投票に行かないのいずれかを選択していたことを示しています。

参政党「岩盤」支持者に関しては、プーチン氏に対する嫌悪感が比較的弱い傾向にあります。ロシア関連の疑惑の指摘を受けたからといって、それが参政党不支持の方向にいくかは別だと言えるでしょう。

また、先の多項ロジスティック回帰分析ではプーチン大統領への感情温度変数も投入していましたが、有意ではありませんでした。他の政党投票者を基準とした場合でも、同様の結果でした。つまり、ロシア関連の情報への接触経験がプーチン大統領への温度感を経由して、参政党への投票につながる可能性も低そうです。

そもそもロシアへの嫌悪感が弱く、ウクライナ支援にも否定的

【都議選参政党投票者グループ】および【都議選東京都全体グループ】では、「ウクライナ支援」の「正しさ」に関する認識を調査しています。

先の都議選で参政党に投票した人たちを対象とした【都議選参政党投票者グループ】では、「ウクライナ支援はやめるべきだ」との考え方を「絶対正しい」とした人は12.6%、「かなり正しい」は15.5%、「すこし正しい」10.1%と、否定する割合より、肯定する割合の方が多くなっています。

なお、東京都の有権者全体からサンプリングした【都議選東京都全体グループ】(このグループで示すデータはすべて速報値です。今後公表する確定値と多少前後する可能性があります。)では、「ウクライナ支援はやめるべきだ」を「絶対正しい」と考える人は4.5%、「かなり正しい」は5.3%、「すこし正しい」6.3%に対し、「絶対間違っている」は17.5%、「かなり間違っている」は12.8%、「少し間違っている」は14.0%で圧倒的に否定派が上回っています。

これを見ると参政党支持者は、ウクライナ支援に消極的であることがわかります。だからこそ、ロシアが本当に情報工作を狙うのであれば、参政党支持者は格好のターゲットに映るかもしれません。

【都議選参政党投票者グループ】では、「都議選で参政党に投票したにも関わらず、参院選では参政党に入れなかった人」を把握できる設計としました。そのうえで、参院選で参政党に投票しなかった離脱層に対し、その離脱理由を調査しています。

離脱層(選挙区では44.6%、比例区では49.6%)の中で、「ロシアの情報機関に候補者のインタビューが掲載されたから」と回答した人は2.6%でした。逆に、参院選でも参政党に投票した人(選挙区、比例区いずれかで投票した人)で、この理由を選んだ人は0.7%でした。

こうしてみると、ロシア関係の言及がもたらす影響は、極めて微弱であったと言えそうです。影響は皆無ではありませんが、親露的と見られるからこそ支持する人、親露的であることを気にしない人なども存在することを考えると、ネガティブな影響が相殺されているように見えます。

ファクトチェック情報は届いているが

——選挙期間中、多くのファクトチェックが行われ、ジャーナリストらによる批判的な言及も多くありました。こうした言及は、効果があったのでしょうか。

効果の程度にもよると思います。絶大な効果があるとは言えないし、不要だとも言えません。

まず前提として、個別の事実(ファクト)は、その人が持つ信念(ビリーフ)を簡単に変えてはくれません。例えば外国人に関する流言が訂正されたとします。その情報が訂正されても、流言を信じた人々の持つ、外国人に対する否定的な感情までは打ち消せません。

【都議選参政党投票者グループ】に着目すると、58.3%がなんらかのファクトチェック関連情報に触れています。【都議選東京都全体グループ】でも、50.8%(速報値※確定値では前後する可能性あり)となっています。 ファクトチェック情報に触れた方に対して、さらにどこでその情報に触れたかを尋ねています。

【都議選参政党投票者グループ】と、【都議選東京都全体グループ】のデータを並べました。どちらのグループも概ね、傾向は似ており、テレビ報道での接触が最も高い選択率となっています。しかし【都議選参政党投票者グループ】では、YouTubeで接触したと回答する割合が高くなっています。

ファクトチェック情報に触れても投票先はほとんど変わらない

——ファクトチェックに触れたことと、参院選での参政党投票行動の関係はどうでしょうか。

【都議選参政党投票者グループ】における、参政党離脱者に対する離脱理由について、「ファクトチェックなどを見て党首である神谷氏や候補者の訴えに疑問を持ったから」という項目の選択率は6.5%でした。離脱理由の中で最も多かったのは「他の政党の方が良かったから」との項目で23.9%です。これに比べれば、ファクトチェックの有効性はそれほど高くないのかもしれません。

また、試しにファクトチェック情報接触について「わからない・おぼえていない」と回答した比率を、参院選で参政党に投票した人と他党に投票した人で比べて見ましたが、ほとんど差はありませんでした。参政党投票者の方がファクトチェックに触れていない人が多い、といったことも言えません。

さらにファクトチェックに触れて事実認識を見直すと考えた人は、【都議選参政党投票者グループ】の方が【都議選東京都全体グループ】と比べ少なくなる傾向もあります。

ファクトチェック関連情報に触れて「(フェイクとされた)元の情報が正しいと思い込んでいたため、自分の考えを改めなければならないと思った」と回答した人は【都議選参政党投票者グループ】では「強くそう思った」3.7%、「ややそう思った」25.9%です。対して、【都議選東京都全体グループ】では「強くそう思った」9.9%、「ややそう思った」25.6% でした。

逆に、【都議選参政党投票者グループ】の「ファクトチェックの内容の方が間違っている」への肯定派(「強くそう思った」と「ややそう思った」の合計)は49.4%、「(フェイクとされた)元の情報の発言者が不当に叩かれていると感じ、むしろ支持しようと思った」への肯定派は38.3%となっています。【都議選東京都全体グループ】では、同項目の肯定派は29.1%と23.7%(確定値は多少前後する可能性があります)。いずれも、【都議選参政党投票者グループ】の方が肯定しやすくなっているといえます。

「ファクトチェックの内容の方が間違っている」を肯定してしまうのは、フェイクが訂正されても、信念がそのまま残る「信念の残響(ビリーフエコー)」とも関わります。そして、「元の情報の発信者が不当に叩かれていると感じ、むしろ支持しようと思った」を肯定するのは、間違いを指摘されることで、かえって意固地になる「バックファイア効果」もあるでしょう。これらの効果が、今回も一定程度、存在していたと見られます。

医療観「発達障害は存在しない」発言では離脱も

——ではファクトチェックは無意味なのでしょうか。

そうとも言えません。

そもそもファクトを確認することは、政策を形作る上で大前提となる営みです。その放置は、討議や合意の妨げにもなります。より確かな情報の共有を役割とするジャーナリズムにとっては、ファクトチェックは「そもそもやらざるを得ないもの」です。効果が弱いからやらないのではなく、やり方を向上させるという命題と向き合わざるを得ない。

その上で、誰もが「信念の残響」や「バックファイヤ効果」を示すわけではありません。フェイクと指摘されて怒り、意固地になる人ばかりではないのです。

周囲が「それはフェイクだ」と反応する度合いが高まれば、気にせずフェイクを拡散する動きにも、ある程度は制御がかかります。誤った情報を拡散することで、「フェイクを流すやつだ」という評判の低下を避けたいという動機も働きます。このように、ファクトチェックによる「訂正効果」にばかりではなく、ファクトがシェアされることによる「防波堤効果」にも注目が必要でしょう。

ファクトチェックは、すでに信じている人には届きにくいが、そうでない人に警戒を促すとも言えます。過度な「ファクトチェック無意味論」は、訂正可能であった人への対話機会を奪いかねない。世の中にはいろんな態度の人がいるので、それぞれへの説得コミュニケーションの深化が求められます。

また、フェイクの訂正は、それ自体が履歴化します。新たに流言が広がりそうになっても、過去の丁寧な訂正記事などを参照することで、検証や説得をある程度は簡略化できる。個別のファクトチェックが個々人の信念を変えるかどうかという観点だけでなく、広く、社会的な前提を再構築する試みだという視点も必要でしょう。

たとえば【都議選参政党投票者グループ】では、外国人に関する流言の訂正の効果は限定的でしたが、医療観を理由に参政党を離れた人は14.8%でした。【都議選東京都全体グループ】では、21.3%の人が、参政党の医療観を理由に投票を避けています。

参政党の出版物には、「発達障害は存在しない」という主張が掲載されていました。この主張について尋ねると、【都議選東京都全体グループ】で67.8%の人が問題視。【都議選参政党投票者グループ】でも55.4%が、この発言を問題視しています。これらは、発達障害や医療、当事者についてのファクトが、かなりの程度、社会で共有されていることの効果ともいえます。

古典的な流言研究では、流言の拡散は、「重要さ」と「曖昧さ」の積算となります。普段から「曖昧さ」を縮減する素地を作ることが、フェイク予防になります。個別的かつ短期的な、デマが流れた時のファクトチェックだけでなく、普段からのファクト共有を組み合わせることが必要でしょう。

最後に。ここまでお話ししてきたのは、全体の傾向の話です。これをもって、「参政党支持者はこういう人物だ」とペルソナ化することはできません。例えば「参政党に投票したのは男性が多い」という傾向があることと、「参政党支持者は男性である」と括ることは別なのです。

人の投票動機はさまざまで、「外国人に関わる政策」一点で、参政党支持者を説明することはできません。ジェンダー平等を重視し、外国の方と接触をしている人でも、参政党に入れたという人はいるわけです。

9月10日正午ウェビナー開催
参院選 参政党への投票行動を探る。約1000名への継続調査の結果 荻上チキ、中村知世

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この記事を書いた人

この記事は、新領域安全保障研究所(INODS)が社会調査支援機構チキラボに委託した調査の分析をもとに、社会調査支援機構チキラボに執筆していただきました。

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